問題社員195 発達障害の診断書を提出した社員の人事評価。
動画解説
目次
1. 原則:人事評価は会社のルール通りに行う
指示が理解できない、ルールを勝手に解釈して守らないなどのトラブルが多い社員から、「発達障害の可能性が高い」と記載された診断書が提出された場合、人事評価をどうすればよいのでしょうか。
まず前提として、人事評価は会社の制度に沿ってルール通りに行うことが原則です。会社によって人事評価制度は異なりますが、どのような制度であれ、その制度に従った評価を行うことが基本です。結果から逆算して評価を操作することは、絶対に避けなければなりません。
⚠ やってはいけない評価の操作
「このまま評価したら問題になりそうだから数字を変えてしまおう」「低くつけると文句を言われそうだから高くつけておこう」——こうした評価の操作は絶対にしてはいけません。評価制度の基準が不明確で説明ができないことが、こうした操作の背景にあることが多いですが、それは制度側の問題です。
評価を操作するのではなく、どういった事実に基づいてその評価になったのかを説明できる状態にしておくことが、正しい対応です。
2. 評価の根拠は「事実ベース」で説明できることが必須
(1) 絶対にやってはいけない評価の仕方
まず明確にしておかなければならないことがあります。「発達障害だから評価を低くした」という理由は絶対にNGです。障害を理由に評価を低くすることは、法的にも問題が生じる可能性があります。
正しい評価の根拠は、あくまでも具体的な事実です。
▶ 事実ベースの説明とは
・何月何日の何時頃、どのような指示を出したか
・その指示に対して、何をした(しなかった)か
・その結果、どのような問題が生じたか
・同様の指導を何回繰り返しても改善がなかったか
こうした具体的な事実を踏まえた上で評価を説明できるようにしておけば、本人から抗議・苦情が入った場合でも「この事実からすれば、こういった評価が妥当です」と対応することができます。
逆に、「みんながダメだと言っている」「上司の目から見て明らかにできていない」という主観的な説明では、「偏見で評価しているのではないか」と受け取られるリスクがあります。
(2) 給与・賞与への反映と説明責任
人事評価が給与・賞与などの処遇に影響しない場合は、主観的な評価でも大きな問題になりにくいかもしれません。しかし処遇・給与に直結する評価については、事実を根拠とした説明責任が特に重要になります。
「人事評価を給料に反映させるべきか」という場面では、以下の判断基準で考えてください。
▶ 給与への反映に関する判断基準
| 事実ベースで説明できる場合 | 評価通りに給与へ反映させてよい。抗議があった際も事実で説明できる |
| 事実ベースで説明できない場合 | 給与への反映は見送ることを検討する。評価制度自体の見直しも必要 |
なお、人事評価制度の基準が曖昧で事実ベースの説明ができないケースは、制度自体に問題があることが多いです。上司の主観だけが評価基準になっていないか、この機会に制度を見直すことも重要です。
3. 発達障害がある社員への「合理的配慮」
診断書が提出された場合、人事評価の問題と並行して必ず考えなければならないのが合理的配慮の問題です。
障害者雇用促進法により、民間企業も障害のある社員に対して合理的配慮を提供する義務があります。合理的配慮とは、会社の負担が過重にならない範囲で、本人が能力を発揮できるよう環境・業務・コミュニケーション方法などを調整することです。
▶ 発達障害のある社員への合理的配慮の例
・指示を口頭だけでなく書面・メモでも伝える
・業務の優先順位や手順を具体的に明示する
・一度に複数の指示を出すのではなく、一つずつ伝える
・業務マニュアルや手順書を整備する
・定期的なフィードバック面談を設ける
こうした配慮を行った上でもパフォーマンスが改善しない場合には、評価に反映させることの正当性が高まります。逆に、合理的配慮を何も行わないまま「指示を理解できないから評価が低い」とするのは、配慮義務の観点から問題となる可能性があります。
なお、「合理的配慮」が義務とはいえ、会社の業務体制に照らして過重な負担となる場合まで求められるわけではありません。何が合理的配慮として必要か・可能かについては、個別の状況に応じた判断が必要ですので、早めに弁護士や社会保険労務士に相談されることをお勧めします。
4. 障害を「できない」ではなく「適所で活かす」視点へ
発達障害があると聞くと「何もできない」というイメージを持ちがちですが、実際はそうではありません。発達障害は特定の仕事において不利な面がある一方で、別の仕事では障害の影響をほとんど受けない、あるいは特定の分野において卓越した才能を発揮できるというケースも多くあります。
例えば、口頭での複雑な指示の理解が苦手でも、決まった手順を正確に繰り返す作業は得意だったり、対人コミュニケーションに困難があっても、データ分析や細かい作業への集中力が際立って高かったりすることがあります。
▶ 発達障害のある社員の適所配置を考えるヒント
・今の業務で困難な部分は具体的に何か
・その困難の原因となっている特性が影響しにくい業務は何か
・本人が得意と感じている作業・業務は何か
・本人の意向を確認した上で、配置転換・業務分担の変更を検討できるか
こうした視点で考えると、「今の仕事が合っていないから評価が低い」という状況から、「本人に合った仕事に配置することで活躍してもらえる」という状況への転換が可能になる場合があります。
5. 経営者に求められる視点——福祉ではなく経営戦略として
障害者雇用の話になると、「どこまでが義務ですか」「やってあげている」「社会貢献」といった捉え方をする経営者が少なくありません。しかし藤田弁護士はこの点について、より前向きな視点を提示しています。
障害の影響を受けない仕事・才能が活きる仕事に配置することができれば、それは社会貢献にとどまらず、会社の業績向上に直結します。「やってあげる」という発想では、本当のマネジメントにはなりません。
⚠ 「みんなと同じ仕事をさせる」という発想の限界
「障害があっても受け入れてあげましょう」という後ろ向きな発想ではなく、「その人の才能・適性が活きる仕事に配置しよう」という前向きな発想が求められています。向いていない仕事に就かせ続けることは、本人にとってもストレスであり、会社にとっても生産性の低下を招きます。
経営者の仕事は、法律やルールを守るだけでは足りません。雇った人が才能を発揮して活躍できる場を提供すること——これが今の時代に経営者に求められる姿勢です。
発達障害のある社員については、評価・処遇をどうするかという問題と並行して、その人の適性に応じた業務・配置を真剣に探してみてください。それがうまくいけば、本人にとっても会社にとっても良い結果につながります。
6. まとめ
発達障害の診断書が提出された社員の人事評価・給与反映については、以下の3点を押さえてください。
① 評価は事実ベースで・「障害だから低くした」はNG
人事評価はあくまで具体的な事実(いつ・何を・どのようにしたか)を根拠に行います。発達障害であることを理由に評価を操作することは絶対に避けてください。給与への反映は事実ベースで説明できる場合のみ行います。
② 合理的配慮を忘れずに
診断書が提出された時点で、合理的配慮の提供義務が生じます。会社の負担が過重にならない範囲で、指示の出し方・業務の進め方を調整してください。配慮を行った上でのパフォーマンス評価が正当性を持ちます。
③ 適材適所で活躍の場を探す
発達障害は「全部できない」ではありません。障害の影響を受けにくい業務・才能が活きる業務への配置転換を検討することが、本人のためにも会社のためにもなります。「やってあげる」ではなく「活躍してもらう」という経営戦略の視点で考えてください。
よくある質問(FAQ)

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/14