問題社員196 退職勧奨を断られた後に人事異動を行う場合の注意点

動画解説

この記事の要点

退職勧奨を断られた後の人事異動は、「嫌がらせ目的の配転」と受け取られやすく、不当な動機目的による人事権の乱用と主張されるリスクがある

社長に悪気がなくても、「退職を断ったら移された」という客観的な事実関係から不当目的と推認されてしまうことがある

退職勧奨で断られた後は言葉を慎重に選び、具体的な事実に基づいて丁寧に説得する。お客様に話すくらいの心構えで臨む

「こちらは悪気がない」ではなく、客観的に見て適切な発言かどうかが問われる。録音前提で話す

根本的な解決策は「最初から退職勧奨だけでなく、配置転換・担当業務変更・退職などの選択肢をまとめて提案する」こと

最初から複数の選択肢をパッケージで提案すると、本人の納得感が高まり、後からの配転が「嫌がらせ」と見られにくくなる

1. なぜ退職勧奨を断られた後の人事異動はトラブルになりやすいのか

退職勧奨を行ったが断られた。そこで「断るなら、別の拠点に移ってもらうしかない」「今の仕事は縮小されるから別の業務を担当してもらう」という形で人事異動・配置転換を持ちかけるケースがあります。

経営者の立場からすれば、断られた以上、別の場所・別の業務で仕事を続けてもらうのは当然の判断です。しかし労働者の側から見ると全く違って見えます。「やめてくれと言われて断ったら、遠い拠点に飛ばされた」「やりたくもない仕事をやらされた」——これが「嫌がらせでやめさせようとしている」と受け取られる典型的な構図です。

社長に悪気がなくても、この受け止め方は非常によくある反応です。そしてそこから内容証明・裁判へと発展することが実際に多く起きています。

2. 裁判ではどう争われるか——「不当な動機目的による人事権の乱用」

裁判になった場合、最もよく問題になるのが「不当な動機目的による人事権(配転権限)の乱用」という主張です。

人事異動・配置転換の権限は就業規則に定められていることが多く、権限自体はあることがほとんどです。しかし権限があったとしても、「不当な動機目的でなされた配置転換は人事権の乱用で無効」と判断されることがあります。

⚠ 「悪気がない」は関係ない——客観的事実から推認される

「不当な動機目的があったかどうか」は、社長の内心の話ではなく、客観的な事実関係から推認されます。「退職を提案した→断られた→その直後に配転した」という事実の流れが存在すると、裁判官・外部の人間が見た時に「嫌がらせだったのではないか」と評価されやすくなります。社長が嫌がらせをするつもりが全くなくても、です。

これは勝てないと言っているのではなく、苦戦しやすいということです。外部の第三者(裁判官)の目から見てどう映るかを、常に意識する必要があります。

3. 断られた後に話し合いを続ける場合のコツ

すでに退職勧奨で断られてしまった後に話し合いを続ける場合、相手はすでに会社に対して不信感を持っています。その状態で話す際のコツをお伝えします。

▶ 断られた後の話し合いのポイント

① 言葉をお客様相手と同じレベルで慎重に選ぶ
録音されている前提で、裁判官に聞かれても問題のない言葉で話してください。

② 具体的な事実に基づいて丁寧に説明する
「断ったから移すのは当然だろう」という感覚で話すのではなく、なぜその配転・業務変更が必要なのかを具体的な事実・理由で説明してください。

③ 相手の話をきちんと受け止め、「あなたはどうしたいか」を聞く
一方的に押しつけるのではなく、「あなたはどこで働きたいか」「どんな仕事ならできると思うか」を聞いてみることで、双方の対話が生まれます。相手が答えなくても、聞こうとした事実は残ります。

4. 根本的な解決策——最初から複数の選択肢をパッケージで提案する

最も根本的な解決策は、最初から「退職」だけでなく「配置転換」「業務変更」「転勤」「退職(解決金あり)」などの選択肢をまとめて提案することです。

「退職を断られてから配転を持ちかける」のではなく、最初から「いくつかの選択肢がある、どれにするか考えてほしい」という形で提案すると、本人が一人の人間として尊重された感覚を持ちやすくなります。どれかを選ぶという体験自体が、本人の納得感につながるのです。

▶ 最初から提案すべき選択肢のイメージ

・別の拠点への異動(条件・理由を具体的に説明)
・担当業務の変更(なぜ変更が必要かを具体的に説明)
・退職(解決金の提案・会社都合退職など条件の提示)

こうして最初から複数の選択肢をパッケージで提示することには、もう一つの重要なメリットがあります。後から配転を行う場合でも「退職を断られたから嫌がらせで移した」という見方をされにくくなることです。「最初から選択肢の一つとして提案していた」という事実が残るからです。

退職勧奨の場でいきなり退職だけを持ちかけるのではなく、複数の選択肢を事前に整理してから話し合いに臨んでください。この一手が、後のトラブルを大幅に防ぐことになります。

5. まとめ

① 断られた後の人事異動はトラブルになりやすい——弁護士と相談しながら進める

社長に悪気がなくても、「退職を断ったら移された」という客観的な事実から不当目的と推認されるリスクがあります。難易度の高い案件は必ず弁護士と相談しながら進めてください。

② 断られた後の話し合いは言葉を慎重に・具体的事実で丁寧に

録音前提・お客様相手レベルの言葉選びで。具体的な事実に基づいて理由を丁寧に説明し、相手の話も受け止めてください。

③ 最初から複数の選択肢をパッケージで提案する

退職だけでなく配転・業務変更・退職(解決金あり)などを最初からまとめて提案することが、本人の納得感を高め、後からの配転が「嫌がらせ」と見られにくくなる根本的な対策です。

よくある質問(FAQ)

Q
退職勧奨を断られました。別の拠点へ異動させることはできますか?
A

就業規則に配転権限があれば、一般的には実施できます。ただし、退職を断られた直後の配転は「不当な動機目的による人事権の乱用」と主張されるリスクが高く、裁判になると苦戦しやすいです。必ず弁護士と相談した上で、配転の必要性・理由を具体的に説明できる状態で進めてください。

Q
退職勧奨と同時に配置転換の話を持ちかけることはできますか?
A

むしろ推奨されます。最初から「退職(解決金あり)」「配置転換」「業務変更」などの選択肢をまとめて提案することで、本人の納得感が高まります。また後から配転を実施した場合でも「最初から選択肢として提案していた」という事実が残るため、「嫌がらせ目的」と見られにくくなります。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14