問題社員176 特定の上司としか良好なコミュニケーションを保てない。

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この記事の要点

「原因分析」と「属人化の解消」を軸に、適性・配置・指導を組み合わせた実務対応が不可欠です。

 特定の上司としか円滑にコミュニケーションが取れない社員は、人間関係の問題ではなく、コミュニケーション能力や対人対応の特性に起因するケースが多いのが実態です。この問題を放置すると、職場の雰囲気悪化や生産性低下、さらには属人化による組織リスクへと発展します。

原因分析の徹底:特定の上司だけうまくいく理由を把握する

 まず重要なのは、「なぜ特定の上司とはコミュニケーションが成立しているのか」を把握することです。多くの場合、その上司の対応スキルや接し方に要因があり、再現可能な対応方法を抽出することが改善の出発点となります。


属人化の解消:再現可能な対応へ転換する

 特定の上司に依存した状態を放置すると、その上司の異動・退職時に業務が機能不全に陥るリスクがあります。したがって、対応方法を言語化し、他の社員でも対応可能な形に落とし込むことが、組織運営上不可欠です。


実務対応の最適化:適性・配置・配慮のバランス

 再現が困難な場合には、業務配分の見直しや配置転換など、現実的な対応が求められます。ただし、周囲に過度な負担を課すことは許されず、合理的な範囲での配慮と組織全体の効率のバランスを取ることが重要です。

目次

1. 特定の上司としかコミュニケーションが取れない社員の問題点

なぜ職場でコミュニケーション不全が起きるのか

 特定の上司としか円滑なコミュニケーションが取れない社員が存在する場合、その原因を単純に「人間関係の問題」と捉えるのは適切ではありません。多くのケースでは、特定の人物との関係性の問題ではなく、本人のコミュニケーション能力や対人対応の特性に起因する構造的な問題であることが少なくありません。

 本人としては適切に受け答えしているつもりであっても、結果として無愛想・攻撃的・不誠実と受け取られる言動になってしまうことがあります。このような場合、意図的に関係を悪化させているわけではなく、適切なコミュニケーションの取り方が分からないまま業務を行っている状態にあると考えられます。

「無視・不機嫌」に見える態度が与える組織への影響

 こうした社員の言動は、周囲の社員から「無視されている」「感じが悪い」と受け取られやすく、職場の人間関係に悪影響を及ぼします。たとえ本人に悪意がなかったとしても、受け手の印象としてはネガティブに蓄積されていくため、職場全体の雰囲気が徐々に悪化していくリスクがあります。

 特に、チームでの連携が求められる業務においては、コミュニケーションの断絶が業務効率の低下を招くだけでなく、情報共有の不備やミスの発生にもつながります。その結果、一人の問題が組織全体の生産性低下へと波及する構造が生まれてしまいます。

放置した場合に生じる経営リスク

 このような状況を「本人の性格の問題」として放置することは、会社経営上のリスクを拡大させる要因となります。周囲の社員の不満が蓄積すれば、職場の士気低下や離職リスクの増大につながり、組織の安定性を損なう結果となります。

 また、特定の上司に依存したコミュニケーション構造が固定化すると、その上司が異動・退職した場合に、一気に業務が回らなくなるという属人化リスクも顕在化します。これは単なる個人の問題ではなく、組織設計上の重大な欠陥へと発展しかねません。

 したがって、会社経営者としては、こうした問題を早期に認識し、組織全体への影響を踏まえた対応を講じることが不可欠です。

2. 原因分析:なぜ特定の上司とだけはうまくいくのか

人間関係ではなく「コミュニケーション能力の問題」であるケース

 特定の上司としか良好なコミュニケーションが取れない社員について、「その上司との相性が良い」「他の社員との人間関係が悪い」といった観点で捉えてしまうことがあります。しかし実務上は、そのような単純な人間関係の問題ではなく、本人のコミュニケーション能力や対人対応の特性に起因するケースが多いのが実態です。

 例えば、本人に悪意がなくても、受け答えがぶっきらぼうであったり、必要な説明が不足していたりすることで、周囲からは「感じが悪い」「協調性がない」と受け取られてしまうことがあります。この場合、本人は通常どおり対応しているつもりであり、自らの言動が他者にどのような印象を与えているかを十分に認識できていないことが少なくありません。

 一方で、特定の上司とはコミュニケーションが成立している場合、その上司が意図的または無意識に、相手の特性に合わせた関わり方をしている可能性があります。たとえば、指示の出し方を具体化している、感情的な反応を避けている、相手の理解度を前提に会話しているなど、通常よりも高度なコミュニケーション対応が行われているケースが考えられます。

 したがって本件においては、「誰と誰の関係が悪いか」という視点ではなく、どのようなコミュニケーションのズレが生じているのか、そしてそれをどのように補正しているのかという観点で原因を分析することが、会社経営者としての適切な対応につながります。

3. 初期対応:特定の上司を活用した現実的な対処

当面は「その上司を介した対応」で乗り切る

 特定の上司としかコミュニケーションが成立しない社員に対しては、まず現実的な対応として、当面はその上司を介したコミュニケーションで業務を回す体制を構築することが有効です。無理に他の社員との直接的なやり取りを増やそうとすると、かえって摩擦や誤解が増え、現場の混乱を招くおそれがあります。

 したがって、短期的には「その上司をハブとして機能させる」ことで、業務の停滞を防ぎつつ、一定の秩序を維持することが合理的な選択となります。

上司への負担増大というリスク

 一方で、この対応は特定の上司に大きな負担を集中させる構造でもあります。業務上の調整やコミュニケーションの橋渡しを一手に担うことになるため、当該上司の業務負荷が過度に増大するリスクは避けられません。

 この状態が長期化すれば、上司自身のパフォーマンス低下や疲弊、さらには不満の蓄積につながる可能性があります。したがって、この対応はあくまで暫定的な措置であることを明確に認識する必要があります。

一対一依存の限界と組織運営上の問題

 特定の上司との一対一の関係に依存した運用は、組織として極めて不安定です。その上司が異動・休職・退職した場合、コミュニケーションが一気に機能不全に陥るリスクがあります。

 また、チームでの連携が求められる業務においては、一対一の関係性だけでは対応しきれず、業務効率の低下や意思疎通の遅延といった問題も顕在化します。

 したがって、このような属人的な対応に依存し続けるのではなく、会社経営者としては、将来的に組織全体で対応可能な体制へ移行していくことを前提に、初期対応を位置づけることが不可欠です。

4. 再現可能な対応への転換:属人化からの脱却

うまくいっている上司の対応方法を言語化する

 特定の上司とのみコミュニケーションが成立している場合、その関係性を「相性が良い」と片付けてしまうのではなく、どのような対応が行われているのかを具体的に言語化することが重要です。

 例えば、指示の出し方が具体的であるのか、感情的なやり取りを避けているのか、確認の頻度や方法に特徴があるのかなど、実際のやり取りを整理することで、再現可能な要素が見えてきます。こうした分析を行うことで、属人的に見えていた対応も、一定のパターンとして把握することが可能となります。

他の社員でも実践可能な方法の抽出

 次に重要なのは、その対応方法を他の社員でも実行できる形に落とし込むことです。ただし、当該上司と同等のスキルや経験を前提とする方法では、現実的な運用は困難です。

 したがって、過度な負担を伴わず、一定の範囲で再現可能な対応方法のみを抽出することが必要となります。たとえば、指示を簡潔かつ具体的にする、確認のタイミングを明確にするなど、一般的な社員でも対応可能なレベルに調整することが現実的です。

「合理的配慮」としての対応の考え方

 このような対応は、特定の社員を特別扱いするものではなく、業務を円滑に進めるための合理的配慮の一環として位置づけることが重要です。

 一方で、他の社員に過度な負担を強いる対応は許されません。あくまで、組織全体の効率や公平性を損なわない範囲で、合理的な負担の範囲内で実施できる対応に限定することが会社経営者としての適切な判断となります。

 このように、属人的な対応を分析し、再現可能な形へと転換していくことが、組織として安定した運用を実現するための重要なステップとなります。

5. 配慮の限界:どこまで対応すべきかの判断基準

過重な負担を他の社員に負わせてはいけない理由

 特定の社員に対して配慮を行う場合であっても、その結果として他の社員に過度な負担を強いることは許されません。特定の上司や周囲の社員が継続的にフォローや調整を担い続ける状態は、業務の公平性を損ない、組織全体の不満や疲弊を招く要因となります。

 また、一部の社員だけが過度な負担を背負う構造が固定化すれば、モチベーションの低下や離職リスクの増大にもつながります。会社経営者としては、個別対応の必要性を認めつつも、組織全体への影響を無視した対応は取るべきではありません

許容される「合理的な負担」の範囲

 では、どこまでの対応が許容されるのかという点ですが、判断基準は「合理的な範囲にとどまっているか」にあります。すなわち、通常業務の延長線上で対応可能であり、特定の社員に過度な追加負担を強いないレベルであれば、実務上許容される配慮といえます。

 例えば、指示の出し方を工夫する、確認の頻度を調整するなど、比較的軽微な対応であれば実施可能です。一方で、常に特定の社員が間に入らなければ業務が成立しないような状態や、著しく工数が増加する対応については、合理的な範囲を超えていると評価すべきです。

組織全体最適の視点での判断

 最終的な判断において重要なのは、個別最適ではなく、組織全体として最も合理的な選択かどうかという視点です。一人の社員への配慮によって、他の複数の社員に継続的な負担が生じるのであれば、その対応は長期的に見て適切とはいえません。

 会社経営者には、個別事情に配慮しつつも、組織全体の生産性や公平性を維持する責任があります。そのため、対応の可否を判断する際には、「誰にどれだけの負担が生じるのか」「それが継続可能か」という観点から冷静に検討することが不可欠です。

6. 実務対応①:適性に応じた業務配分

コミュニケーション負荷の低い業務への配置

 特定の上司としか円滑なコミュニケーションが取れない社員に対しては、まず業務内容そのものを見直すことが現実的な対応となります。すなわち、多数の関係者との調整や頻繁なやり取りを必要としない、比較的コミュニケーション負荷の低い業務へ配置することが有効です。

 例えば、個人で完結する作業や、定型化された業務などであれば、対人関係による摩擦を最小限に抑えつつ、一定の成果を期待することが可能となります。これは単なる配慮ではなく、業務効率を維持するための合理的な配置判断といえます。

チームワーク前提業務との相性問題

 一方で、チームでの連携や密なコミュニケーションが不可欠な業務については、適性との不一致が顕在化しやすくなります。情報共有や意思疎通に支障が生じれば、業務の遅延やミスの発生につながり、結果として組織全体に影響が及びます。

 したがって、会社経営者としては、当該社員の特性と業務の性質が適合しているかを冷静に見極める必要があります。適合しない業務に無理に配置し続けることは、本人にとっても組織にとっても不利益となります。

成果を出すための現実的な役割設計

 重要なのは、「理想的な人材像に合わせる」のではなく、現実の特性を前提に成果を出せる役割を設計することです。コミュニケーションに制約があるという前提を踏まえたうえで、どのような業務であればパフォーマンスを発揮できるのかを検討する必要があります。

 このように、適性に応じた業務配分を行うことは、単なる妥協ではなく、組織全体の生産性を最大化するための戦略的判断です。会社経営者としては、個々の能力と業務要件のバランスを取りながら、最適な配置を模索していくことが求められます。

7. 実務対応②:配置転換・部署設計の工夫

対応可能な上司がいる部署への配置

 特定の上司としか円滑なコミュニケーションが取れない社員については、対応可能な上司が存在する部署へ配置することが現実的な選択肢となります。実際にコミュニケーションが成立している実績がある以上、そのような上司のもとで業務を行わせることで、業務の安定性を一定程度確保することが可能です。

 特に、短期的に業務の混乱を回避する必要がある場合には、このような配置は有効に機能します。会社経営者としては、個々の特性を踏まえたうえで、組織として機能する配置を優先する判断が求められます。

配置転換時に考慮すべきポイント

 一方で、単に「対応できる上司がいる」という理由だけで配置転換を行うのではなく、いくつかの重要な観点を踏まえる必要があります。まず、当該部署の業務内容が本人の適性と合致しているか、そして既存メンバーへの影響が過度にならないかを検討することが不可欠です。

 また、特定の上司への依存がさらに強まる構造にならないかという点も重要です。配置によって一時的に問題が解消したとしても、属人化が固定化するだけであれば、根本的な解決には至らないためです。

 したがって、配置転換はあくまで全体最適の観点から、業務適性・人員バランス・将来の運用可能性を総合的に判断した上で行うべき対応といえます。

人員配置とマネジメントの関係

 人員配置は単なる人事上の手続ではなく、組織マネジメントそのものです。どの部署にどのような人材を配置するかによって、業務効率や職場環境、さらには組織文化まで大きく影響を受けます。

 特に本件のようなケースでは、個別対応にとどまらず、組織全体としてどのようにマネジメントしていくかという視点が不可欠です。会社経営者としては、短期的な問題解決と中長期的な組織運営の両立を図りながら、最適な配置を検討していく必要があります。

8. 対応困難な場合の考え方とリスク管理

対応できる人材がいない場合の前提整理

 社内に当該社員と円滑にコミュニケーションを取れる人材が存在しない場合、まず重要なのは、その前提を正しく認識することです。「何とかなるはずだ」と楽観的に考えるのではなく、現時点では組織として十分な対応力がないという現実を受け入れる必要があります。

 この前提を曖昧にしたまま運用を続けると、現場任せの対応となり、問題が顕在化した際に混乱が拡大するおそれがあります。会社経営者としては、対応困難な状況であることを前提に、どのように運用するかをあらかじめ設計しておくことが不可欠です。

問題発生を織り込んだマネジメント

 社内に当該社員と円滑にコミュニケーションを取れる人材が存在しない場合、まず重要なのは、その前提を正しく認識することです。「何とかなるはずだ」と楽観的に考えるのではなく、現時点では組織として十分な対応力がないという現実を受け入れる必要があります。

 この前提を曖昧にしたまま運用を続けると、現場任せの対応となり、問題が顕在化した際に混乱が拡大するおそれがあります。会社経営者としては、対応困難な状況であることを前提に、どのように運用するかをあらかじめ設計しておくことが不可欠です。

経営判断としての受容と対処

 本件のようなケースでは、すべてを理想的に解決することが難しい場合も少なくありません。そのため会社経営者には、「一定の不具合や非効率を許容するか」「どこまで対応コストをかけるか」といった、経営判断としての選択が求められます。

 重要なのは、個別の問題に振り回されるのではなく、組織全体への影響を踏まえたうえで、最も合理的な落としどころを見極めることです。完全な解決にこだわるのではなく、リスクとコストのバランスを踏まえた現実的な対処を行うことが、会社経営者としての適切な判断となります。

9. まとめ:会社経営者に求められる判断と対応戦略

属人化に依存しない組織づくりの重要性

 特定の上司としかコミュニケーションが成立しない状態を放置することは、組織運営上の大きなリスクとなります。その上司が異動・退職した場合、業務が一気に停滞する可能性があるためです。

 したがって会社経営者としては、特定の個人に依存する体制を前提とするのではなく、誰が対応しても一定水準で業務が回る仕組みを構築することが重要です。属人化を前提としない体制こそが、安定した組織運営の基盤となります。

適性・配置・指導のバランス設計

 本件対応においては、単一の解決策で完結するものではなく、指導・業務配分・配置転換といった複数の手段を組み合わせて検討する必要があります。重要なのは、理想論に固執するのではなく、現実の特性を踏まえて最適なバランスを設計することです。

 無理に全員と円滑なコミュニケーションを求めるのではなく、適性に応じた役割を与えつつ、組織全体として機能する形を構築することが、結果として最も合理的な対応となります。

判断に迷った場合の専門家活用

 問題社員への対応は、現場対応だけでなく、労働契約や法的リスクも踏まえた判断が求められる場面が少なくありません。対応の妥当性に迷いが生じた場合には、早期に専門家の助言を得ることが重要です。

 弁護士を活用することで、実務対応と法的リスクを両立させた判断が可能となり、会社経営者の意思決定の精度が高まります。その結果、不要な紛争を回避しつつ、安心して組織運営に専念できる体制を整えることができます。

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

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最終更新日 2026/03/25


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