問題社員148 矛盾した発言を繰り返す。
目次
動画解説
1. 矛盾した発言を繰り返す社員に会社経営者が感じる違和感の正体
「さっき言っていたことと違う」「10分前と説明が変わっている」――このような場面に直面すると、会社経営者としては強い違和感を覚えるはずです。場合によっては、嘘をついているのではないか、あるいは責任逃れをしているのではないかという疑念すら生じます。
会社経営者が感じる不快感の本質は、「一貫性の欠如」にあります。経営判断は事実に基づいて行われるべきものであり、報告内容が揺らげば、判断そのものが不安定になります。これは単なる感情論ではなく、経営リスクに直結する問題です。
さらに、「なぜ自分で確認せずにこちらに問い返すのか」「なぜ整理してから報告しないのか」という苛立ちも生まれます。会社経営者は限られた時間の中で意思決定を行っています。その時間を曖昧な報告で奪われること自体が、大きなストレスになります。
しかし重要なのは、この違和感が必ずしも「悪意」や「虚偽」と直結するわけではないという点です。違和感の正体を見誤ると、対応を誤ります。まずは、会社経営者が何に対して強く反応しているのかを整理することが出発点になります。
矛盾発言の問題は、単に「言い方がおかしい」というレベルの話ではありません。信頼・判断・責任の所在という経営の根幹に関わる問題であるからこそ、冷静な分析が必要なのです。
2. 本当に嘘をついているのか ― 多くのケースの実態
矛盾した発言が続くと、会社経営者としては「意図的に嘘をついているのではないか」と疑いたくなるものです。しかし実務上、多くのケースでは明確な悪意や虚偽の意思があるわけではありません。
実際には、「深く考えずに話し始めている」というケースが非常に多いのです。頭に浮かんだことをそのまま口にし、対話の中で情報を整理し、思い出し、修正していく。その結果、最初の発言と後の発言が食い違って見えるだけ、という構造です。
本人の中では「事実確認をしながら話している」感覚であり、「結論が後から固まった」だけにすぎません。そのため、矛盾しているという自覚も、嘘をついているという認識もないことがほとんどです。
例えば、書類の添付漏れを指摘された際に「ついていませんでしたか」と問い返す発言も、責任逃れのつもりではなく、単に記憶が曖昧な中で確認しているだけ、という場合があります。ところが会社経営者から見れば、それは責任の所在をぼかしているように映ります。
ここで重要なのは、「嘘をつく人物だ」と早期に断定しないことです。もちろん、意図的な虚偽報告であれば問題は重大です。しかし多くの場合は、思考の整理方法と報告スタイルの問題であり、性質を見誤ると不必要な対立を生みます。
まずは「虚偽か」「思考の未整理か」を冷静に見極めることが、会社経営者に求められる第一段階の判断です。
3. 「考えながら話す」タイプの思考パターンとは
矛盾発言を繰り返す社員の多くは、いわゆる**「考えながら話す」タイプ**です。結論を整理してから発言するのではなく、発言そのものを思考のプロセスとして使っています。
このタイプは、まず頭に浮かんだ断片的な情報を口に出し、相手とのやり取りの中で記憶を呼び起こし、情報を整理し、最終的な結論にたどり着きます。つまり、会話が“思考の場”になっているのです。
本人にとっては、最初の発言は「確定的な報告」ではありません。あくまで仮の情報、途中段階の情報です。しかし会社経営者の側は、それを「正式な報告」と受け取ります。この認識のズレが、強い違和感を生みます。
特に経営判断に関わる報告では、「整理された結論」から聞きたいのが会社経営者の本音です。一方で、当人は「まず話してみることで整理する」という発想で動いています。ここに根本的な思考様式の違いがあります。
このタイプの特徴として、次のような傾向が見られます。発言時点では情報が曖昧であることを自覚していない、問い返しによって記憶を刺激する、後から出てきた情報の方を“より正確”と考える、といった点です。その結果、先の発言と後の発言が食い違っても、本人は矛盾だと感じていません。
会社経営者として重要なのは、「能力が低い」「誠実でない」と即断するのではなく、思考のプロセスが自分と異なるだけかもしれないと一度立ち止まることです。原因を誤認すれば、対策も的外れになります。
4. なぜ会社経営者は振り回される感覚になるのか
矛盾した発言を繰り返されると、会社経営者は強いストレスを感じます。その理由は単純で、経営判断の前提となる事実が揺らぐからです。
会社経営者は、限られた時間の中で意思決定を行います。報告内容が変われば、判断も変わり、対応も変わります。そのたびに思考をやり直さなければならないため、「振り回されている」という感覚が生まれます。
さらに問題なのは、責任の所在が曖昧になることです。最初の発言と後の発言が異なる場合、「どの発言を前提に判断すればよいのか」が分からなくなります。これは単なるコミュニケーションの不快感ではなく、組織統制上の重大な不安要素です。
また、会社経営者の多くは「整理してから報告するのが当然」という価値観を持っています。そのため、整理されていない情報をそのまま差し出されると、「なぜその程度の準備もできないのか」という評価につながります。この価値観の差が、感情的摩擦を生みます。
一方で、発言している社員は、会社経営者を振り回している自覚がありません。本人にとっては「一緒に考えている」感覚であり、「対話の中で正確さを高めている」つもりです。この認識ギャップが、双方のストレスを増幅させます。
重要なのは、この問題を人格の問題として処理しないことです。振り回される感覚の正体は、多くの場合「報告様式の不一致」にあります。ここを冷静に分解しなければ、感情的な叱責だけが残り、組織としての改善にはつながりません。
5. 社員が複数いる場合に疑うべき“職場文化”の問題
矛盾した発言をする社員が一人だけであれば、その個人の特性や能力の問題として整理できる可能性があります。しかし、同様の傾向を示す社員が複数いる場合、会社経営者としては別の視点を持つ必要があります。
それは、「個人の問題ではなく、職場文化の問題ではないか」という視点です。
例えば、職場全体が「まず話してみる」「会話の中で答えを探る」というスタイルを当然視している場合、それが無意識のうちに共有ルールになっていることがあります。整理してから報告する文化ではなく、対話の中で思考を進める文化が形成されている可能性があるのです。
このような文化が根付いている場合、本人たちは自分の話し方を問題だと思っていません。「みんなやっている」「これが普通」という感覚で動いています。そのため、個別に注意してもなかなか改善しないという現象が起きます。
会社経営者が強い違和感を持っているにもかかわらず、現場がそれを共有していないとすれば、そこには経営者の価値観と現場文化の乖離があります。これは放置すれば、報告精度の低下、意思決定の遅延、責任の不明確化など、組織運営に深刻な影響を与えます。
したがって、「この社員がおかしい」と考える前に、「この会社のコミュニケーション文化はどうなっているのか」を点検することが重要です。問題が個人なのか、文化なのかで、打つべき手はまったく変わります。
会社経営者がまず行うべきは、感情的評価ではなく、構造的な原因分析です。ここを見誤ると、何度指導しても同じ問題が繰り返されることになります。
6. このコミュニケーションを許容するか、変えるかの経営判断
矛盾発言の問題に直面したとき、会社経営者が最初に行うべきことは、個別指導ではありません。まず問うべきは、このコミュニケーション様式を自社として許容するのか、それとも変えるのかという経営判断です。
「多少発言が揺れても、対話の中で正解にたどり着けばよい」「スピード重視で、まず情報を出させる方が重要だ」という考え方も一つの経営方針です。この場合、矛盾は“途中経過”として扱うことになります。
一方で、「整理された情報のみを報告させる」「経営判断に影響する事項は事実確認後に提出させる」という方針を取るのであれば、現状のままでは不十分です。報告の質そのものを引き上げる必要があります。
ここで曖昧な態度を取ると、現場は混乱します。あるときは許され、あるときは叱責されるという状態は、組織にとって最も不健全です。会社経営者の中で基準が固まっていなければ、改善は進みません。
また重要なのは、「感情的に嫌だから変える」という理由ではなく、自社の経営戦略や組織運営に照らして必要かどうかで判断することです。スピード重視の組織なのか、正確性重視の組織なのかによっても最適解は異なります。
この段階での判断が曖昧なまま個別指導に入ると、単なる小言になり、社員は納得しません。まずは会社経営者自身が、「自社はどのような報告文化を求めるのか」を明確にすること。それがすべての出発点です。
7. 改善させると決めた場合の具体的指導方法
会社経営者として「この報告様式は改める」と判断したのであれば、次に必要なのは具体的な指導です。抽象的に「矛盾が多い」「もっと整理して話せ」と伝えても、ほとんど改善は期待できません。
重要なのは、実際に問題となったやり取りを題材にすることです。「先ほどこの件を尋ねた際、あなたはこう答えました。その後、こう説明しました。この二つはどのように整理されますか」と、具体的事実に基づいて確認することが必要です。
そのうえで、「当社では、まず自分で事実確認を行い、結論を整理してから報告することを求める」と明確に基準を示します。ここで初めて、社員は“何を変えればよいのか”を理解します。
例えば、書類不備を指摘された場合には、「その場で問い返すのではなく、まず確認し、事実を整理し、結論を報告する」という行動手順を具体的に示すことです。行動レベルまで落とし込まなければ、習慣は変わりません。
また、本人の言い分も必ず聞くべきです。なぜそのような話し方をしたのか、どの段階で記憶が曖昧だったのかを確認することで、単なる叱責ではなく、改善指導になります。
ただし忘れてはならないのは、思考様式や習慣は一度の指摘では変わらないという現実です。繰り返し、具体的に、冷静に伝え続ける必要があります。改善を求めると決めた以上、根気強い対応こそが会社経営者の責任となります。
8. 抽象的注意では変わらない理由と具体化の重要性
「もっとしっかり報告しろ」「矛盾のない説明をしろ」といった抽象的な注意は、一見もっともらしく聞こえます。しかし実務上、抽象的な叱責だけで行動が変わることはほとんどありません。
なぜなら、当人はそもそも「矛盾している」という自覚を持っていないことが多いからです。本人の中では、会話の中で情報が追加され、より正確になっただけという認識です。そのため、「矛盾するな」と言われても、「自分は矛盾していない」と内心で反発していることすらあります。
また、「整理してから話せ」と言われても、何をどの順番で、どの程度まで確認すれば“整理された状態”なのかが分からなければ、改善しようがありません。ここが曖昧なままでは、結局元の話し方に戻ります。
したがって、会社経営者が行うべきは、望ましい報告の型を明示することです。事実確認の手順、報告の順序、結論の提示方法などを具体的に示すことで、初めて改善の土台ができます。
さらに重要なのは、一度伝えて終わりにしないことです。実際のやり取りの中で再度問題が生じた場合、その場で「今の受け答えは、どの点が基準と違うか」を確認し、修正していく必要があります。
抽象論は感情を発散させる効果はあっても、行動変容にはつながりません。具体化こそが改善の唯一の入口であり、そこを怠れば、問題は繰り返されます。
9. それでも改善しない場合の対応と見極め
具体的に指導し、基準も示し、繰り返し修正を促してもなお改善が見られない場合、会社経営者としては次の段階を検討する必要があります。
まず確認すべきは、能力の問題なのか、姿勢の問題なのかという点です。思考整理が極端に苦手なタイプであれば、業務内容そのものが適合していない可能性があります。その場合は、報告精度が強く求められない業務への配置転換なども選択肢になります。
一方で、基準を理解しているにもかかわらず改善しようとしない場合は、勤務態度の問題として評価せざるを得ません。この段階では、単なる指導ではなく、人事評価や懲戒の枠組みとの関係も視野に入ります。ただし、直ちに処分という短絡的な判断は避け、記録を残しながら段階的に対応することが重要です。
また、職場文化が根強く影響している場合、個人だけを是正しても限界があります。その場合は、会議の進め方、報告様式、文書化ルールなど、組織全体の仕組みを見直す必要が出てきます。
重要なのは、「何度言っても直らない」という感情的評価で終わらせないことです。改善しない背景には、能力・習慣・評価制度・文化など、複数の要因が絡んでいることがあります。それを切り分けていくことが、会社経営者の冷静な判断です。
最終的に求められるのは、当該社員を残すのか、役割を変えるのか、それともより厳しい対応を取るのかという経営判断です。感情ではなく、組織全体への影響という視点で見極めることが不可欠です。
10. 会社経営者一人で抱え込まないための専門家活用
矛盾した発言を繰り返す社員への対応は、単なるコミュニケーション指導にとどまりません。評価制度、配置、懲戒、企業文化の問題まで発展する可能性があり、放置すれば組織全体の統制力に影響します。
しかし実際には、会社経営者が一人で悩み続けているケースが少なくありません。「嘘なのか能力不足なのか分からない」「強く言い過ぎればパワハラと言われないか不安だ」「どこまで指導すれば法的に問題ないのか判断できない」――こうした迷いが積み重なり、対応が後手に回ることがあります。
この種の問題は、感情論で処理すると悪化します。第三者の視点から、発言内容・指導経過・評価記録を整理し、法的リスクと経営判断のバランスを可視化することが重要です。
とりわけ、改善指導が長期化している場合や、処分を検討せざるを得ない局面では、対応手順を誤ると後に紛争化する可能性があります。記録の残し方、指導文書の作成方法、評価との連動など、実務上のポイントは少なくありません。
会社経営者が目指す組織の在り方を明確にしたうえで、それを実現するための現実的な対応策を設計することが必要です。当事務所では、問題社員対応について、会社側の立場から実践的な助言を行っています。対応に迷われた際は、早い段階で専門家を活用することをお勧めします。
矛盾発言の問題は、単なる言葉遣いの問題ではなく、組織統治の問題です。会社経営者として冷静に構造を見極め、適切な手を打っていきましょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q:なぜ社員の発言がコロコロ変わるのですか?嘘をついているのでは? A:多くは悪意ではなく、話しがら頭を整理する「思考の癖」が原因です。本人は正確さを高めているつもりでも、経営判断を揺るがすリスクがあることを理解させる必要があります。
Q:「もっとしっかり報告しろ」と言っても改善しません。 A:抽象的な言葉では伝わりません。「この件については、まず資料を確認し、結論から述べる」といった具体的な行動手順を指示し、その場で修正させる指導が有効です。
Q:複数の社員が同じように矛盾した報告をしてきます。 A:個人の能力だけでなく、職場の「当たり前」が緩んでいる可能性があります。報告の基準やルールを会社として再定義するタイミングかもしれません。
最終更新日2026/3/7

