問題社員135 月経前症候群(PMS)で定期的に休む。
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動画解説
1. PMS(月経前症候群)とは何か―会社経営者が知っておくべき基礎知識
PMS(月経前症候群)とは、月経開始の3日~10日前頃から心身にさまざまな不調が生じ、月経が始まると軽快または消失する症状をいいます。身体症状だけでなく、イライラや抑うつなどの精神症状が強く出る場合もあり、重症型はPMDDと呼ばれることもあります。
会社経営者としてまず押さえるべきなのは、本人の努力や気合いだけで改善できるものではない場合があるという点です。勤務態度の問題と即断するのではなく、一定の医学的背景があることを理解することが出発点になります。
もっとも、理解と無制限の容認は別問題です。経営の現場では、業務への影響、他の社員への負担、組織全体の生産性なども考慮しなければなりません。したがって、PMSを「個人の問題」として片付けるのでも、「全て受け入れるべき問題」とするのでもなく、法的整理と経営判断を分けて考える視点が重要です。
2. 生理休暇との違い―労基法上の義務とPMSの位置づけ
生理休暇は、労働基準法68条に基づく制度です。条文上、「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、使用者はその者を就業させてはならない」と定められています。これは法律上認められた権利であり、会社は原則として拒否できません。
ここで重要なのは、「生理日」と明記されている点です。PMSはあくまで月経“前”の症状であり、条文上の生理日には該当しません。したがって、PMSについては労基法68条の直接適用はないというのが法的整理です。
この違いを曖昧にすると、「生理休暇と同様に必ず認めなければならないのではないか」という誤解が生じます。法的義務の有無を明確に区別することは、会社経営者として極めて重要です。
もっとも、法的義務がないからといって、常に一律に欠勤扱いとすべきかどうかは別問題です。法的最低限と、経営として望ましい対応は異なる場合があります。制度設計や運用を誤ると、後に不満や紛争の火種となる可能性もありますので、就業規則との整合性も含め、慎重な検討が必要です。
3. PMSによる欠勤は認める義務があるのか
PMSによる体調不良で休みたいと申し出があった場合、会社に当然の法的義務があるかというと、原則としてそのような明文規定はありません。前項で述べたとおり、生理休暇とは異なり、PMSそれ自体に基づく法定の休暇請求権は存在しないからです。
したがって、年次有給休暇を取得するのであれば認める必要がありますが、それ以外は通常の欠勤と同様に取り扱うことが可能です。無断欠勤であれば就業規則に基づく対応も検討対象となります。ここまでは法的な原則論です。
もっとも、ここで注意すべきは、画一的な「欠勤扱い」によって職場の不満や対立が激化する可能性です。法的に可能な対応が、経営として最善とは限らないという視点を持つことが、会社経営者には求められます。
また、症状の程度や頻度によっては、医師の診断書が提出される場合もあります。その場合の評価や対応を誤ると、後に不当な取扱いを主張されるリスクも否定できません。
4. 有給・無給の扱いと制度設計の考え方
PMSによる休みを有給とするか無給とするかは、法的には会社の判断に委ねられています。労働基準法上の義務はありませんので、年次有給休暇を充当するのか、欠勤控除とするのか、あるいは独自の特別休暇制度を設けるのかは、会社経営者の裁量の範囲です。
しかし、ここで重要なのは「前例」と「公平感」です。一度、特別な扱いを認めれば、それは実質的な社内ルールとなり、他の社員との均衡が問題となる可能性があります。場当たり的な温情対応は、後に制度的拘束へと変わるリスクがあることを意識しなければなりません。
一方で、一定の範囲で柔軟な制度を設けることが、結果的に離職防止や生産性向上につながる場合もあります。会社経営者としては、短期的な人件費負担だけでなく、中長期的な組織安定という視点から判断することが重要です。
制度化する場合には、就業規則の整備が不可欠です。曖昧な運用は紛争の火種になります。「理念」と「法的安定性」を両立させた制度設計が求められます。具体的な条文設計や運用ルールについては、専門的検討が必要となりますので、慎重に進めることをお勧めいたします。
5. 「責任ある仕事を任せにくい」と言われたときの法的視点
PMSによる定期的な欠勤がある社員について、現場から「責任のある仕事を任せにくい」という声が上がることがあります。会社経営者としては、この言葉の真意を慎重に分析する必要があります。
多くの場合、その意味は「能力が足りない」ということではなく、その人がいなければ業務が回らない仕事を任せにくいという、業務設計上の問題を指しています。つまり、問題の本質は当該社員ではなく、業務の属人性にあるケースが少なくありません。
ここで感情的に評価を下げたり、不利益な取扱いを行ったりすると、後に「不当な差別的取扱い」と主張されるリスクも生じます。特に人事評価や昇進に影響を与える場合は、客観的合理性と説明可能性が強く求められます。
会社経営者として重要なのは、「任せにくい」という声をそのまま受け入れるのではなく、なぜ任せにくいのかを構造的に検討することです。業務の引継ぎ体制が整っていないのか、情報共有が不足しているのか、権限委譲が進んでいないのか。
PMS対応は、単なる個別対応ではなく、組織の設計を見直す契機にもなります。評価や処遇に直結する判断を行う前に、法的リスクの有無を慎重に検討すべきです。
6. 属人性の高い職場が抱える経営リスク
PMSによる定期的な欠勤への対応を考える際、会社経営者が本質的に向き合うべき問題は、当該社員個人ではなく、業務の属人性です。特定の社員でなければ回らない体制は、いかなる事情であれ、重大な経営リスクを内包しています。
仮にPMSではなく、突然の退職、長期病欠、育児・介護、あるいは他社からの好条件による引き抜きがあった場合、会社は同様の混乱に直面します。属人性が強い状態は、いわば「一人に依存した脆弱な組織構造」です。
さらに深刻なのは、特定の社員が交渉上優位に立つ可能性です。「待遇を大幅に改善しなければ辞める」という局面で、代替が効かない状態であれば、会社経営者は極めて不利な立場に置かれます。これはPMS問題とは無関係に、経営のコントロール権を弱める要因となります。
PMS対応をきっかけに業務の標準化、マニュアル化、情報共有の徹底を進めることは、単なる配慮ではなく、組織強化そのものです。短期的には負担が生じても、中長期的には「誰かが休んでも回る会社」へと進化させる契機となります。
7. 定期的に休むことを前提とした実務マネジメント
PMSの特徴は、一定の周期性があることです。突発的な事故や急病と異なり、ある程度の予測が可能である点は、会社経営者にとってむしろ対策を講じやすい側面でもあります。
毎月1日から2日程度の休みが想定されるのであれば、その前提で業務を設計するという発想が重要です。「休まないこと」を前提とするのではなく、「休むことを織り込んで回る組織」を作るという視点に立つべきです。
例えば、進行管理の前倒し、情報共有の徹底、サブ担当の設定など、大掛かりな制度変更を伴わなくてもできる工夫は少なくありません。これらはPMS対応に限らず、他の社員が年次有給休暇を取得する場合や、急な家庭事情に対応する場合にも有効です。
逆に、「あの人が休むと困る」という状況を放置すれば、他の社員も休みにくくなり、結果として職場全体の生産性やエンゲージメントを下げることになります。休めない組織は、強い組織ではありません。
会社経営者が方針として「計画的なカバー体制を作る」と決断すれば、現場は動きます。属人的な運用を見直し、仕組みで回る体制へ移行することが、長期的な競争力の源泉となります。
8. 配置転換はどこまで可能か―適法な運用のポイント
PMSによる定期的な欠勤が業務に一定の影響を与えている場合、会社経営者として検討に上がるのが配置転換です。休んだ場合の影響が比較的軽い業務へ担当を変更することは、実務上、有効な選択肢となり得ます。
もっとも、配置転換は無制限に許されるわけではありません。業務上の必要性があり、かつ社会通念上相当といえる範囲であることが求められます。単に「休まれると困るから外す」という発想だけでは、合理性が弱く、後に紛争となるリスクがあります。
特に注意すべきは、実質的な降格や賃金減額を伴うケースです。この場合、不利益変更と評価される可能性があり、慎重な検討が不可欠です。あくまで業務上の調整としての位置づけを明確にし、必要性・相当性を説明できる状態にしておくことが重要です。
9. 欠勤が長期化・頻発する場合の対応(私傷病休職等)
PMSによる欠勤が月1~2日程度であれば、業務設計の工夫により十分対応可能なケースが多いでしょう。しかし、月の半分近くを欠勤する、あるいは業務遂行が著しく困難な状態が継続する場合には、対応の次元が変わります。
このような場合、まず検討対象となるのが私傷病休職制度の適用です。就業規則に基づき、一定期間の療養機会を与えることは、直ちに退職や解雇を選択するよりも法的安定性が高い対応といえます。
もっとも、休職制度の適用要件、期間、復職判断の基準が曖昧であれば、かえって紛争の火種になります。特に復職可否の判断は慎重を要し、医学的資料の検討や業務遂行能力の評価を適切に行う必要があります。
ここで最も避けるべきは、安易な退職勧奨や解雇です。「休みが多いから辞めてもらう」という短絡的対応は極めて危険です。客観的合理性と社会的相当性を欠く解雇は無効となる可能性が高く、企業にとって大きなダメージとなります。
欠勤が長期化・頻発しているケースは、一般論で処理できる問題ではありません。個別事情、就業規則の内容、これまでの対応経緯を踏まえた精密な法的検討が不可欠です。
10. 強い組織を作るために会社経営者が決断すべきこと
PMSで定期的に休む社員への対応は、単なる個別労務管理の問題ではありません。これは、どのような会社を目指すのかという経営判断そのものです。
法的には、生理休暇とは異なり、PMSについて当然に休暇を付与する義務はありません。しかし、義務がないから何もしない、という選択が最適とは限りません。短期的な効率だけを重視するのか、それとも中長期的に強い組織を構築するのか。その方向性を決めるのは会社経営者です。
属人性を排除し、誰かが休んでも回る体制を構築することは、PMS対応にとどまらず、突然の退職、育児・介護、病気、さらには人材流出リスクへの備えにもなります。仕組みで回る会社は、交渉にも強く、変化にも強い会社です。
一方で、制度設計や配置転換、評価の見直しを誤れば、思わぬ法的紛争に発展する可能性もあります。経営判断と法的リスク管理は常に表裏一体です。
「どこまで配慮すべきか」「どのような制度を設けるべきか」「配置転換は適法か」「休職制度をどう運用するか」――これらはすべて、会社の将来像に直結する問題です。
判断に迷われる場合や、具体的な社員対応でお悩みの場合は、ぜひ当事務所の弁護士にご相談ください。会社経営者の立場に立ち、経営を守りながら強い組織を構築するための実務的・法的サポートを行ってまいります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日2026/3/8
よくある質問(FAQ)
Q1. PMSによる欠勤に対しても、生理休暇と同様に有給扱いにする義務はありますか?
A1. いいえ、ありません。そもそも労働基準法上の生理休暇であっても、有給とするか無給とするかは会社の自由です。PMSについては法律上の休暇義務自体がありませんので、無給(欠勤控除)としても法的には問題ありません。
Q2. 毎月休む社員に対し、業務上の理由で配置転換を命じることはパワハラになりますか?
A2. 業務上の必要性があり、人選に合理性がある配置転換であればパワハラにはあたりません。「特定の社員が休むと業務が止まる」というリスクを回避するための措置は正当な経営判断となり得ます。ただし、嫌がらせ目的や著しい賃金低下を伴う場合はリスクが生じます。
Q3. 医師の診断書がある場合、欠勤を制限することはできないのでしょうか?
A3. 診断書は病状の証明にはなりますが、会社が「業務を免除しなければならない」という直接的な義務を生じさせるものではありません。しかし、安全配慮義務の観点から、過度な負担を強いることは避け、休職制度の適用などを検討すべき局面といえます。

