問題社員134 退職届を提出したのに後になってから退職の撤回を求めてくる。

動画解説

 

1. 退職届提出後の撤回トラブルの典型例

 会社経営者のもとには、従業員から退職届が提出されたにもかかわらず、後日「やはり撤回したい」と申し出がなされるケースが少なくありません。特に、退職勧奨を行った後や、感情的対立があった直後に提出された退職届については、撤回トラブルに発展しやすい傾向があります。

 典型例としては、退職届提出の翌日や数日後に「冷静になって考え直した」「家族に反対された」「本意ではなかった」と主張してくるケースです。また、退職勧奨の場面でのやり取りを録音しており、「強く迫られた」「辞めざるを得ない状況に追い込まれた」と主張する事案も増えています。

 ここで会社経営者が誤りやすいのは、「退職届を受け取ったのだから当然に有効だ」と安易に考えてしまうことです。実務上、退職の法的性質は、単独の辞職なのか、合意退職なのかによって結論が分かれます。

 特に、退職日が将来日に設定されている場合や、会社側が承認を前提とする扱いをしている場合には、退職の法的構造を正確に理解しておかなければ、後に地位確認請求や未払賃金請求へと発展するリスクがあります。

 退職届の撤回問題は、一見単純に見えて、実際には法的評価が分かれる繊細な領域です。初動対応を誤ると、紛争は長期化し、想定外の損害賠償リスクを負うこともあります。

 当事務所では、退職届提出から撤回申出までの経緯を精査し、合意の成立時期や有効性を分析したうえで、最も安全な対応方針をご提案しています。早期対応が、その後の紛争リスクを大きく左右します。

2. 合意退職成立の法的構造とは

 退職届の撤回問題を正しく理解するためには、まず退職の法的構造を整理する必要があります。実務上、多くのケースは**合意退職(合意解約)**として評価されます。

 合意退職とは、従業員の退職申出に対し、会社が承諾することで雇用契約が終了するという構造です。つまり、従業員の退職届は「申込み」であり、会社の承諾によって初めて契約終了という法律効果が生じます。

 この構造を理解せず、「退職届が出た=自動的に終了」と考えてしまうことが、後の紛争を招きます。特に、退職日が将来日に設定されている場合には、会社の承諾が明確でない限り、合意が成立していないと評価される可能性があります。

 一方で、退職届の文言や提出状況によっては、合意を要しない「辞職」と評価されるケースもあります。しかし、実務上は、会社の承認を前提とする運用が多く、その場合には合意退職の枠組みで検討されることが一般的です。

 会社経営者として重要なのは、合意がいつ成立したのかを客観的に説明できる状態にしておくことです。承諾の意思表示の有無や時期が曖昧であれば、「撤回は有効だ」と主張される余地を残してしまいます。

 退職届の撤回可否は、合意成立時点の特定にかかっています。形式的な書面の有無だけでなく、やり取りの経過全体を踏まえて判断されます。

 当事務所では、退職届提出から承諾までのプロセスを精査し、合意成立の有無と時期を法的に整理したうえで、紛争予防型の対応策をご提案しています。構造理解が、防御の第一歩です。

3. 退職日の一致が持つ決定的意味

 退職届の撤回可否を判断するうえで、実務上とりわけ重要なのが、退職日について会社と従業員の意思が一致しているかどうかです。

 例えば、従業員が「○月○日をもって退職します」と明記した退職届を提出し、会社がその日付を前提として承諾した場合には、その時点で合意が成立している可能性が高くなります。この場合、その後に撤回を申し出られても、法的には認められないと評価される余地が大きくなります。

 一方で、退職日は記載されているものの、会社が明確な承諾をしていない場合や、「検討します」「後日回答します」といった曖昧な対応にとどまっている場合には、合意成立時期が争点になります。このような状況では、撤回が有効と主張されるリスクが生じます。

 会社経営者として重要なのは、退職日を含めた条件について、明確に承諾した事実を客観的に残しておくことです。口頭だけのやり取りでは後日の立証が困難になる場合があります。

 また、退職日が将来日である場合、合意が成立していたとしても、その間に錯誤や強迫の主張が持ち出されることもあります。したがって、合意成立の形式だけでなく、合意形成過程の適正さも問われます。

 退職日の一致は単なる日付の問題ではありません。合意の有無を左右する核心部分です。

 当事務所では、退職届の文言、承諾方法、やり取りの経過を精査し、合意成立の時点と有効性を法的に整理します。後日の紛争を防ぐためにも、退職日の扱いは慎重に管理する必要があります。

4. 同意前なら撤回が可能となる原則

 合意退職の構造を前提とすると、原則として、会社の承諾前であれば、従業員は退職の申込みを撤回できると考えられています。

 退職届が「申込み」にすぎない以上、会社がこれを承諾するまでは契約終了の効果は生じていません。したがって、承諾前に撤回の意思表示が到達すれば、合意は成立せず、雇用契約は継続することになります。

 問題は、「いつ承諾があったと評価されるか」です。明確な書面による承諾がある場合は比較的明らかですが、口頭での了承や、退職手続を進める実務対応が承諾と評価されるかどうかが争点となることがあります。

 例えば、退職届受領後に離職票の準備を進めていた場合や、社内で退職処理を開始していた場合に、それが承諾の意思表示とみなされるかどうかは、個別事情によって判断が分かれます。

 会社経営者として重要なのは、承諾の有無とその時期を明確に管理することです。承諾前であれば撤回が可能である以上、曖昧な対応は紛争の火種になります。

 特に、退職勧奨の流れの中で提出された退職届については、後日「本意ではなかった」と主張されることも少なくありません。その場合、承諾時期の特定が決定的な意味を持ちます。

 当事務所では、承諾の成立時点を客観的に裏付ける証拠の整備方法や、撤回申出があった場合の適切な対応文案まで含めて具体的に助言しています。初動の一言が、その後の紛争の帰趨を左右します。

5. 速やかな承認がリスクを封じる理由

 退職届の撤回リスクを最小化するうえで、実務上極めて重要なのが、退職届受領後の迅速かつ明確な承諾です。

 退職届が提出されたにもかかわらず、会社側が承諾を留保し、「検討する」「追って連絡する」といった曖昧な対応を取っている間は、法的には合意が未成立の状態が続きます。この間に撤回の意思表示がなされれば、原則として有効と評価される可能性が高くなります。

 一方で、退職日や条件について双方の意思が一致し、会社が明確に承諾した事実を客観的に残していれば、その後の撤回主張は大きく制限されます。

 会社経営者として注意すべきなのは、退職届の受領を「事務処理」と軽視しないことです。退職届を受け取った時点で、法的には重要な局面に入っています。

 特に、退職勧奨の流れで提出された退職届の場合、後日「強い圧力があった」「自由な意思ではなかった」と主張されることもあります。そのような場合であっても、承諾の時期と内容が明確であれば、防御の基盤は強固になります。

 承諾を明確にしないまま時間が経過すること自体がリスクです。撤回申出が来てから対応を考えるのではなく、提出直後の対応が勝負を分けます。

 当事務所では、退職届受領時の承諾方法、通知文面、証拠化の手法まで具体的にアドバイスしています。退職をめぐる紛争は初動でほぼ決まります。不安がある場合には、問題が顕在化する前にご相談ください。

6. 心裡留保を主張されるケースへの備え

 退職届の撤回トラブルでは、従業員側から「本心ではなかった」「本当は辞めるつもりはなかった」といった主張がなされることがあります。これは法的には、いわゆる心裡留保の主張として位置付けられる可能性があります。

 もっとも、心裡留保が直ちに認められるわけではありません。原則として、表示された意思が相手方に到達し、その表示を相手方が信頼した場合には、その効力は否定されません。会社側が従業員の真意を知っていた、あるいは容易に知り得たといえる事情がない限り、退職の意思表示は有効と評価されるのが通常です。

 問題は、退職勧奨の場面などで、従業員が心理的に強く動揺していた場合や、「とりあえず出しただけだ」といった事情があったと主張されるケースです。そのような主張がなされると、合意形成過程の適正さが争点になります。

 会社経営者として重要なのは、退職届提出時の状況を客観的に説明できる状態にしておくことです。落ち着いた環境で説明がなされたか、退職以外の選択肢を示したか、即断を迫っていないかなどが、後日の判断材料となります。

 録音やメールのやり取りが証拠として提出される時代です。形式的に退職届が存在するだけでは十分とはいえません。合意形成過程の透明性が問われます。

 当事務所では、退職勧奨の進め方、面談記録の残し方、文書化の方法まで含め、後日の心裡留保主張に耐え得る実務設計をご提案しています。紛争予防の観点から、事前の体制整備が極めて重要です。

7. 退職勧奨と錯誤・強迫リスク

 退職届の撤回が争われる事案では、従業員側から錯誤や強迫の主張がなされることがあります。特に、退職勧奨を経て退職届が提出された場合、この論点は避けて通れません。

 錯誤とは、重要な事実について誤解したまま意思表示を行った場合に、その効力が否定され得るという問題です。例えば、「退職しなければ即時解雇される」「退職すれば有利な扱いが保証される」といった誤った前提で退職届を提出したと主張されるケースです。

 また、強迫が問題となるのは、心理的圧力が社会通念上許容範囲を超えていた場合です。執拗な退職勧奨、長時間の面談、威圧的発言などがあったと評価されれば、退職の意思表示が無効と判断される可能性も否定できません。

 会社経営者として最も重要なのは、退職勧奨はあくまで「選択肢の提示」であり、決定は本人の自由意思に委ねられているという構造を明確に保つことです。

 近年は、面談内容を録音しているケースも珍しくありません。発言の一部が切り取られて提出されることもあります。感情的な発言や不用意な表現は、後日の紛争で重大な不利材料となります。

 退職勧奨は、法的には適法な手段ですが、その運用を誤れば重大な紛争に発展します。

 当事務所では、退職勧奨の進め方、発言内容の留意点、面談記録の整備方法まで具体的にアドバイスしています。紛争発生後の対応だけでなく、事前予防こそが企業防衛の鍵です。

8. 録音時代の退職勧奨対応の注意点

 現在の労務紛争において、会社経営者が強く意識すべきなのが、「録音されている可能性を前提に対応する」という視点です。

 スマートフォンの普及により、退職勧奨の面談が録音されているケースは珍しくありません。しかも、録音の存在は後日初めて明らかになることが多く、発言の一部が切り取られて証拠として提出されることもあります。

 そのため、「その場の流れで」「感情的になって」「つい強い言葉を使ってしまった」という対応は極めて危険です。退職勧奨はあくまで選択肢の提示であり、最終判断は従業員本人に委ねられているという構造を一貫して維持する必要があります。

 例えば、「辞めないなら解雇するしかない」といった断定的表現や、「会社にいづらくなる」といった心理的圧力と受け取られ得る発言は、後日の強迫主張を補強する材料となりかねません。

 会社経営者として重要なのは、常に第三者が録音を聞いても問題がない説明内容かどうかを意識することです。退職理由、選択肢、検討期間の付与などを明確に伝え、即断を迫らない姿勢を示すことが、防御力を高めます。

 また、面談記録を会社側でも適切に残しておくことが有効です。録音が提出された場合でも、全体の文脈を示す証拠があれば、評価は大きく変わります。

 当事務所では、録音を前提とした退職勧奨の進め方や想定問答の整理まで具体的に助言しています。トラブル発生後の対応だけでなく、事前設計こそが最大のリスク対策です。

9. 損害賠償請求リスクと予防策

 退職届の撤回問題がこじれた場合、単なる地位確認請求にとどまらず、損害賠償請求へと発展するリスクがあります。

 典型的には、「違法な退職強要により精神的苦痛を受けた」として慰謝料請求がなされるケースです。また、退職が無効と判断された場合には、退職日以降の未払賃金や社会保険料相当額の請求が生じることもあります。

 会社経営者として認識すべきなのは、退職をめぐる紛争は金銭的影響が予想以上に大きくなり得るという点です。単に一人の退職問題と軽視すると、想定外の支払義務やレピュテーションリスクを抱えることになります。

 特に、退職勧奨の方法に問題があったと評価された場合には、会社の対応姿勢そのものが問われます。録音やメールが証拠化される現在、発言一つが損害賠償責任の根拠とされることもあります。

 予防策として最も重要なのは、退職勧奨から退職合意成立までのプロセスを可視化し、適正な手続を踏んでいることを説明できる体制を整えることです。面談記録の作成、文書での確認、検討期間の付与など、基本的な対応が後日の防御力を左右します。

 また、撤回申出があった場合には、感情的に対応せず、法的評価を踏まえた慎重な対応が必要です。その一通の回答文書が、紛争の帰趨を決めることもあります。

 当事務所では、退職勧奨の段階から紛争予防型の助言を行い、万一紛争化した場合にも一貫して対応しています。損害賠償リスクを最小化するためにも、問題が顕在化する前の段階でのご相談を強くお勧めします。

10. まとめ|弁護士と二人三脚で会社を守る

 退職届の撤回問題は、一見単純に見えて、合意成立時期、承諾の有無、退職勧奨の適法性、錯誤・強迫の有無など、複数の法的論点が交錯する極めて繊細な問題です。

 会社経営者として押さえるべき核心は、退職は「書面があるかどうか」ではなく、「適法な合意が成立しているかどうか」で決まるという点です。承諾の時期が曖昧であれば撤回が認められる可能性がありますし、退職勧奨の過程に問題があれば、無効や損害賠償請求へと発展することもあります。

 また、録音やメールの保存が当たり前の時代においては、発言や対応の一つひとつが後日の証拠になります。感情的な対応や場当たり的な処理は、企業に大きなリスクをもたらします。

 退職トラブルは、問題が表面化してから対応するのではなく、提出直後の初動対応でほぼ勝負が決まるといっても過言ではありません。

 当事務所では、退職勧奨の設計段階から、退職届受領時の承諾方法、撤回申出への対応文案作成、紛争化した場合の防御戦略まで、一貫した企業防衛型サポートを行っています。

 「撤回を求められているがどう対応すべきか分からない」「このまま処理して問題がないか不安だ」と感じられた段階が、まさに相談の適切なタイミングです。早期にご相談いただくことで、法的リスクを最小限に抑える選択肢をご提示できます。

 退職をめぐる紛争は、経営リスクそのものです。後手に回らないためにも、専門的視点を踏まえた対応を強くお勧めします。

 

最終更新日2026/2/20


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