問題社員129 年次有給休暇取得を頑なに拒む。
目次
動画解説
1. 年休取得を拒む管理職がもたらす経営リスク
年次有給休暇を「自分は取らない」と言って頑なに出勤を続ける管理職がいる場合、会社経営者としては一見、頼もしく感じるかもしれません。しかし、この問題は単なる個人の働き方の問題ではなく、企業全体に波及する経営リスクを内包しています。
まず、法的リスクです。現在、会社には年5日の年次有給休暇を取得させる義務があります。本人が「いりません」「休みません」と言っても、会社が取得させなければ法令違反となり得ます。つまり、管理職本人の意思とは関係なく、会社経営者が責任を問われる構造になっています。
次に、組織文化への影響です。管理職が休暇を取らない姿勢を示すと、部下はどう感じるでしょうか。「上司が取らないのに自分だけ取れない」と考え、結果として年休取得率が全体的に下がる可能性があります。これは長時間労働体質の固定化につながりかねません。
さらに、採用や定着への影響も見逃せません。近年は、求職者が企業を選ぶ際に年休取得率や働き方を重視する傾向が強まっています。管理職が率先して休まない文化は、外部から見れば魅力的とは評価されにくいのが現実です。
また、本人にとってもリスクがあります。長期にわたり休暇を取得しない状態が続けば、心身の不調を招く可能性があります。結果として長期休職や離職につながれば、会社としても大きな損失です。
会社経営者に求められるのは、「本人が望んでいるから問題ない」という発想から脱却することです。年休拒否の問題は、個人の美徳や責任感の問題ではなく、企業統治と法令遵守の問題です。
管理職の年休取得は、単なる福利厚生ではありません。企業リスク管理の一環として位置付けるべき経営課題なのです。
2. 年次有給休暇は「権利」であり「義務」でもある
年次有給休暇は、一般に「労働者の権利」として理解されています。確かにそのとおりであり、一定の要件を満たした労働者が取得を請求すれば、原則として会社は拒むことができません。
しかし、現在の制度はそれだけではありません。
2019年の法改正以降、年10日以上の年休が付与される労働者については、会社に対して「年5日は確実に取得させる義務」が課されています。これは、労働者が自発的に取得しない場合であっても、会社側が時季を指定して取得させなければならないという制度です。
つまり、年休は労働者の自由意思に完全に委ねられている制度ではなくなっています。
管理職が「自分は休まない」と言っても、会社経営者としてはそれを放置することができません。取得させなければ、会社側の義務違反となるからです。
ここで誤解してはならないのは、「本人が同意しているから問題ない」という理屈は通用しないという点です。労働法は、労働者の自己犠牲的な意思表示によって法令違反を正当化することを認めていません。
会社経営者にとって重要なのは、年休取得を“許可するかどうか”ではなく、“確実に取得させる責任を負っている”という構造を理解することです。
この視点を欠いたままでは、「休みたくない」という管理職の意思を尊重したつもりが、結果として法令違反を積み重ねることになりかねません。
年次有給休暇は、権利であると同時に、会社にとっては履行すべき法的義務でもある。この二重構造を正確に理解することが、適切な対応の出発点となります。
3. 年5日取得義務(時季指定義務)の基本構造
年次有給休暇の年5日取得義務は、「労働者が自発的に取らない場合でも、会社が取得させなければならない」という点に特徴があります。
対象となるのは、年10日以上の年休が付与される労働者です。この場合、付与日から1年以内に5日については、確実に取得させる必要があります。労働者が自ら請求して5日以上取得していれば問題はありませんが、取得が進んでいない場合には、会社が時季を指定して休ませなければなりません。
ここで重要なのは、「会社が積極的に関与しなければならない」という点です。
従来は、年休は労働者の請求を待つ制度という側面が強くありました。しかし現在は、一定日数については会社側に取得管理責任が課されています。
管理職が多忙を理由に休まない、あるいは「自分は休みたくない」と言い続ける場合であっても、会社経営者としては放置できません。取得日数を把握し、不足があれば時季を指定する必要があります。
また、この義務は「努力義務」ではありません。違反した場合には罰則の対象となり得る点にも注意が必要です。
会社経営者に求められるのは、単に年休制度を整備しているという形式的対応ではなく、実際に取得状況を管理し、必要に応じて時季指定を行う運用体制を構築することです。
年休取得は個人の判断に任せる時代ではありません。企業側が主体的に管理する制度へと転換していることを前提に、実務を組み立てる必要があります。
4. 管理監督者にも適用される点の注意
年次有給休暇の年5日取得義務について、会社経営者が誤解しやすいのが「管理監督者には適用されないのではないか」という点です。
確かに、管理監督者については労働時間や休憩、休日の規制が適用されない特例があります。そのため、「残業規制がかからないのだから、年休の取得義務も関係ないのではないか」と考えてしまうことがあります。
しかし、年次有給休暇の制度は別です。
管理監督者であっても、年次有給休暇の付与対象であることに変わりはありません。そして、年10日以上付与される場合には、年5日の取得義務も同様に適用されます。
つまり、部長や役員待遇の管理職であっても、「本人が忙しいから」「責任が重い立場だから」という理由で取得させなくてよいという整理にはなりません。
むしろ問題なのは、管理職こそ年休を取りにくい立場にあるという現実です。責任感が強く、業務が属人化している場合ほど、「自分が休むと現場が回らない」と考えがちです。
しかし、その状態自体が組織上のリスクでもあります。
特定の管理職が休めないほど業務が集中しているのであれば、それは人員配置や業務分担の問題です。年休を取得させる過程で、業務の可視化や属人化の是正が進むという側面もあります。
会社経営者としては、「管理職だから特別」という発想を捨て、法令上は同様に扱われることを前提に体制を整える必要があります。
管理監督者の年休取得は、単なる形式的対応ではなく、組織の健全性を測る指標でもあります。ここを曖昧にすれば、法的リスクと組織リスクの双方を抱えることになります。
5. 時季指定に応じない場合の実務対応
年5日の取得義務がある以上、会社が時季を指定して年休を取得させることになりますが、問題は「それでも出勤してしまう管理職」がいる場合です。
実務上、「休みを指定されても、結局出社して仕事をしてしまう」というケースは少なくありません。責任感や業務過多を理由に、「自分は休めない」と考える管理職もいます。
しかし、ここで会社経営者が曖昧な対応をすると、制度そのものが形骸化します。
まず重要なのは、時季指定は単なる“提案”ではなく、会社としての正式な指定であることを明確にすることです。取得日を具体的に特定し、その日は業務から離れることを明確に伝えます。
それでも出勤してしまう場合には、上司や経営層から直接、「今日は年休取得日であるため勤務しないように」と明確に指示する必要があります。
出勤を黙認してしまうと、「実質的には働いていた」と評価され、年休を取得させたことにならない可能性もあります。単に勤怠上“年休扱い”にするだけでは足りません。
会社経営者としては、時季指定日には業務連絡を控えさせる、社内システムへのアクセスを制限するなど、実質的に休める環境を整えることも検討すべきです。
年休取得は本人の善意に委ねる問題ではありません。会社が制度として機能させる責任を負っています。
強制的に休ませることに抵抗を感じる経営者もいますが、ここで曖昧にすれば、法令違反のリスクだけでなく、「休まないことが評価される文化」を助長する結果になります。
時季指定に応じない場合こそ、会社としての統治姿勢が問われます。毅然と、しかし冷静に、制度を運用することが必要です。
6. 出勤強行への対処と企業秩序の維持
時季指定を行ったにもかかわらず、管理職が出勤を強行する場合、会社経営者としてはより踏み込んだ対応を検討する必要があります。
まず整理すべきなのは、時季指定された年休は会社の正式な決定であるという点です。それに反して出勤する行為は、単なる「熱心さ」ではなく、会社の統治方針に反する行動とも評価され得ます。
年休取得を制度として機能させるためには、指定日に業務を行わないことを徹底しなければなりません。出勤を認めてしまえば、「休んだことにするが実際は働く」という実態が生まれ、制度が形骸化します。
さらに問題なのは、部下への影響です。管理職が指定日にも出勤していれば、「休まなくてもよい」「休むのは気まずい」という空気が組織に広がります。結果として、会社全体の年休取得率が下がり、法令遵守の体制そのものが揺らぎます。
会社経営者としては、出勤強行を黙認しない姿勢を明確に示す必要があります。例えば、年休取得日に業務を行わないことを再度通知し、必要であれば当日の業務割当を外す、アクセス権を制限するなどの措置も検討対象となります。
これは懲戒を目的とするものではなく、制度を守るための統治措置です。
もちろん、背景に業務過多や属人化がある場合には、その構造的問題を是正することが前提です。しかし、それと年休制度の履行は別問題です。
会社経営者に求められるのは、「働きすぎを美徳としない」という明確なメッセージです。
年休取得を徹底することは、単なるコンプライアンス対応ではありません。組織の持続性を確保するための経営判断です。出勤強行を放置しない姿勢こそが、企業秩序を維持する鍵となります。
7. 計画的付与制度(計画年休)の活用方法
8. 労使協定締結と就業規則整備のポイント
計画的付与制度を活用する場合、会社経営者としては形式面の整備を軽視してはなりません。制度は、適切な労使協定と就業規則の整備があって初めて有効に機能します。
まず、計画年休を導入するには、労働者代表との間で書面による労使協定を締結する必要があります。単に社内で「今年から計画的に休ませます」と宣言するだけでは足りません。
この協定では、対象者の範囲、付与方法、具体的な取得方法などを明確に定めます。曖昧な内容では、後に「合意が成立していない」と争われる可能性があります。
さらに、就業規則との整合性も重要です。年次有給休暇に関する規定が古いまま放置されていると、運用と規程が一致せず、紛争の原因になります。
会社経営者としては、「制度はあるが、規程が追いついていない」という状態を避けなければなりません。
また、労働者代表の選出手続が適切であることも確認が必要です。形式的に指名しただけでは無効と評価されるリスクがあります。
年休制度は、実務だけでなく書面整備も含めた“総合的なコンプライアンス”の問題です。
制度を整えたつもりでも、手続に瑕疵があれば、その正当性は揺らぎます。会社経営者としては、運用と法的根拠の双方を固める姿勢が求められます。
年休問題は日常的なテーマですが、法令違反が明らかになった場合の影響は決して小さくありません。制度導入の段階で、確実な法的基盤を築くことが、企業リスクを最小化する鍵となります。
9. 年休取得率が採用・定着に与える影響
年次有給休暇の問題は、単なる法令遵守の話にとどまりません。会社経営者として見落としてはならないのは、年休取得率が企業の対外評価に直結する時代になっているという点です。
近年、求職者は企業を選ぶ際に「働きやすさ」を強く意識します。その中で、年休取得率は分かりやすい指標の一つです。管理職が休まず、取得率が低迷している企業は、外部から見ると長時間労働体質の会社と評価されかねません。
特に若年層や専門職人材は、給与水準だけでなく、ワークライフバランスや休暇取得実績を重視します。採用市場が厳しい状況下では、年休取得率の低さは明確な競争劣位となります。
また、既存社員の定着にも影響します。上司が休まない文化の中では、部下も休みにくくなります。その結果、慢性的な疲労が蓄積し、離職につながることもあります。
会社経営者としては、「休まない管理職=熱心」という旧来的な評価軸を見直す必要があります。
むしろ、計画的に休暇を取得し、業務を分担し、属人化を防ぎながら組織を回せる管理職こそが、現代的な意味で優れたマネジメントを行っているといえます。
年休取得率は、内部の労務問題であると同時に、外部へのメッセージでもあります。
企業の持続的成長を考えるのであれば、管理職の年休取得を含めた働き方の設計は、採用戦略・人材戦略の一環として捉えるべき経営課題です。
10. 会社経営者として取るべき最終的な方針
管理職が年次有給休暇を取得しないという問題は、本人の価値観や責任感の問題に見えがちですが、本質は会社経営者の統治姿勢にあります。
まず明確にすべきは、「年休は確実に取得させる」という会社としての方針です。これは法令遵守の問題であると同時に、組織の持続性を守るための経営判断でもあります。
管理職が休まない文化を放置すれば、部下も休めなくなり、長時間労働体質が固定化します。その結果、採用競争力の低下、離職率の上昇、健康リスクの増大といった問題が連鎖的に生じます。
会社経営者に求められるのは、「本人が望んでいるから尊重する」という姿勢ではなく、「会社として守るべき基準を守る」という姿勢です。
そのためには、取得状況の定期的な把握、時季指定の徹底、計画年休の活用、業務の属人化の是正など、制度と運用の両面から体制を整える必要があります。
また、管理職に対しては、「休むことも責任の一部である」というメッセージを明確に伝えることが重要です。休暇取得を通じて業務を共有化し、組織として機能させることが、本来のマネジメントです。
年休問題は、単なる労務管理ではありません。企業文化と統治の問題です。
会社経営者として、法令遵守・人材戦略・組織設計の三つの観点から、年休取得を前提とした経営を構築すること。それが最終的に企業価値を守る最も確実な道です。
最終更新日2026/2/17

