問題社員122 ハラスメントの申告事実を後から追加してくる。
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懲戒処分は被害者の感情を満たすための制度ではなく企業秩序を維持するための統治行為であり、抗議の強弱によって処分の重さを左右すべきではない 抗議に迎合して客観的合理性を欠く処分を行うと、懲戒権の濫用として無効と評価されるリスクがあります。 |
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追加事実の再調査要否は、既存事実との関連性を踏まえ、一括処理か分割処理かを合理的に判断する必要がある 対象事実を具体的に特定しておくことが、後の二重処罰との評価を避けるための鍵になります。 |
目次
ハラスメントの申告があり、事実調査を実施して懲戒処分の内容を決定し、その説明まで終えた段階で、「実は他にも事実があります」と新たな内容が追加で申告されることがあります。しかもその多くは、「処分が軽すぎるのではないか」という不満とともに示されます。
本記事では、ハラスメント処分後に新事実を申告された場合の対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。
01ハラスメント処分後の「事実追加」申告と、被害者の意向の位置づけ
すでに調査を尽くし、処分の重さも検討して意思決定を終えているにもかかわらず、その前提が揺らぐ可能性が生じるこの問題は、単なる事実認定の話にとどまりません。懲戒処分の確定性をどこまで重視するのか、追加事実をどの範囲で扱うのか、会社としての統治判断をどのように安定させるのかという、経営そのものに関わる問題です。形式的に「もう終わった話だ」と一切取り合わない対応も適切ではなく、後出し申告は実務上起こり得る現象であると認識したうえで、対応の原則を持っておくことが重要です。
ハラスメント事案において、被害者が「もっと重い処分にしてほしい」と求めてくることは珍しくありません。処罰感情を抱くこと自体は自然なことであり、会社としてもその意向を無視してよいわけではありませんが、懲戒処分はあくまで企業秩序を維持し再発を防止するための統治行為であり、被害者の感情を満たすための制度ではありません。処分の重さは、行為の内容や悪質性、被害の程度、継続性、加害社員の反省状況、過去事例との均衡などを総合的に考慮し、会社が自らの責任で決定するものです。「被害者の意向は十分に考慮したうえで、総合判断としてこの処分が相当であると判断した」と説明できる状態を整えておくことが重要になります。
02不当に重い処分が招く懲戒権濫用リスク
懲戒処分は会社に認められた重要な統治権限ですが、その行使は無制限ではありません。客観的合理性を欠き、社会通念上相当とはいえない処分は、懲戒権の濫用として無効と判断される可能性があります。特に問題となるのは、被害者の強い処罰感情や社内の空気に押され、本来相当と考えていた水準を超えて処分を重くしてしまう場合です。その場を収めるために加重する判断は、一見合理的に見えても、後の法的紛争では脆弱な根拠にとどまります。
裁判になれば、処分時点でどのような事実を基礎に、どのような比較衡量を行い、どの処分が相当と判断したのかが検証されます。過去事例との均衡、行為の悪質性、被害の具体的程度、手続の適正などが総合的に評価され、重すぎると判断されれば処分は無効となります。処分が無効とされれば会社の統治力は損なわれ、加害社員側からの反発が強まり、労働審判や訴訟に発展する可能性も高まります。感情や圧力に流された処分を避け、合理的範囲を超えないという一線を守ることが、結果として企業を守る判断になります。
03新事実の再調査要否|一括処理と分割処理の考え方
処分手続をいったん止めて再調査を行うべきか、既に決定した処分をそのまま維持すべきかという判断に、一般論としての唯一の正解はありません。追加された事実の内容や重大性、既存の懲戒理由との関連性、手続の進行状況によって適切な対応は異なります。既存の懲戒理由と密接に関連し実質的に一体として評価すべき事情であれば、全体をまとめて再評価する方が合理的な場合もあれば、性質や時期が明確に異なる事情であれば、既存の処分は維持し新たな事実は別件として扱うという整理も考えられます。「とりあえず全部やり直す」姿勢と「今さら受け付けない」姿勢のいずれも安易に選択すべきではなく、なぜその処理方法を選んだのかを合理的に説明できる状態を整えることが重要です。
この判断は、大きく「一括処理」と「分割処理」に分けられます。一括処理は、既存の懲戒理由と追加事実をまとめて再評価し最終的な処分を一度で確定させる方法で、紛争を一回的に解決できる可能性が高まる一方、処分決定が遅れ手続が長期化する側面や、意思決定が不安定になるという課題もあります。分割処理は、既に決定した処分はそのまま確定させ新たな事実は別件として独立に扱う方法で、処分の確定性を維持できる点に統治上の安定性がありますが、実質的に一体と評価され得る内容であるにもかかわらず分割処理を行うと、後に紛争を招く可能性もあります。関連性、重大性、手続の進行状況、将来紛争になった場合の説明可能性を総合的に検討し、一貫した姿勢を示すことが求められます。
04二重処罰との関係と、申告の小出しを防ぐ実務対応
後から追加された事実に基づいて再度懲戒処分を行う場合、実質的に同じ事実について二度処分しているのではないかと評価されれば、処分の合理性が厳しく問われます。最初の処分で「一連の行為」として包括的に評価していたにもかかわらず、その構成要素となる具体的行為を後から個別に取り上げて再度処分するような場合には、既に評価済みの事実ではないかと争われる可能性があります。問題は形式ではなく実質であり、処分通知書の書き方や事実の特定の仕方によっては、会社としては別の事実と考えていても外形上は重複評価と受け取られることがあります。懲戒処分を行う際には、対象となる事実を具体的に特定し、どの範囲を評価対象としているのかを明確にしておくことが重要です。
後出し申告が繰り返される場合には、その都度個別対応を重ねるのではなく、申告の取り扱いについて一定の整理方針を明確にすることが有効です。例えば、調査にあたって「過去のハラスメント事実については今回すべて申告してください」と伝え、「今回申告されなかった過去の事実については、原則として今後の対象とはしない」という整理を行う方法が考えられます。もっとも、将来新たに発生した事実まで排除することはできず、心理的な事情により申告が遅れた可能性にも配慮が必要です。形式的に「もう受け付けない」と突き放すのではなく、今回の調査で可能な限り出し切ってほしいという趣旨を丁寧に説明し、その経緯を記録に残しておくことが重要です。
05会社方針を踏まえた最終判断と、会社経営者の責任
後から追加されるハラスメント申告への対応には、唯一の正解と断言できる一般論はなく、事実関係の内容や関連性、申告のタイミング、社内の状況によって適切な対応は変わります。だからこそ重要なのは、会社としての基本方針です。規律を重視し明確な線引きを行う統治スタイルであれば処分の確定性を重視して追加事実は原則別件として扱う整理が合理的な場合もあれば、紛争の一回的解決を優先する企業文化であれば一定範囲で一括処理を選択することにも合理性があります。その場しのぎの対応は次の事案でも同様の対応を求められる前例となり、判断の軸がぶれれば社内の統治は不安定になっていきます。
懲戒処分の最終的な判断責任は会社経営者にあります。社内担当者や外部専門家が助言を行うことはあっても、決定権と責任は会社経営者から離れることはありません。処分の重さ、追加事実の再調査の要否、一括処理か分割処理か、申告の小出しをどう整理するかは、いずれも企業統治に直結する判断であり、判断が難しい事案ほど早期に弁護士へ相談することをお勧めします。ただし弁護士に決めてもらうのではなく、リスクや選択肢を整理してもらったうえで、会社経営者として決断するという姿勢が不可欠です。最終的に問われるのは結果ではなく、その時点で合理的な判断を尽くしていたかという判断過程の合理性です。
06よくある質問(FAQ)
Q. ハラスメントの懲戒処分を決定した後に被害者から「新事実」が申告された場合、再調査は必須ですか。
一概に必須ではなく、事実の内容や重大性によります。既存事実と密接に関連し一体評価すべきであれば一括処理のための再調査が合理的ですが、性質が異なるものであれば既存処分を確定させ、新事実は別件として扱う「分割処理」も選択肢となります。
Q. 被害者が「処分が軽すぎる」と強く抗議してきた場合、内容を見直すべきでしょうか。
抗議のみを理由に加重することは避けるべきです。懲戒処分は被害者の感情を満たすためのものではなく、企業秩序維持のための統治行為です。抗議に迎合して客観的合理性を欠く重い処分を下すと、加害者側から懲戒権濫用として訴えられるリスクが生じます。
Q. 後から追加された事実で再度処分を出す際、二重処罰にならないための注意点はありますか。
最初の処分で「一連の行為」として包括的に評価してしまっていないかを確認することが極めて重要です。処分通知書で対象事実を具体的に特定し、未評価の事実であることを明確に整理しなければ、実質的な二重処罰として処分が無効とされるおそれがあります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。ハラスメント対応・懲戒処分の判断でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日:2026年7月9日
