問題社員131 ケアレスミスが多い。

動画解説

 

1. ケアレスミスが会社経営に与える法的・経営的リスク

 ケアレスミスが多い社員の問題は、単なる「注意不足」では済まされません。会社経営者にとっては、経営リスク・法的リスク・組織崩壊リスクが複合的に発生する重大な問題です。

 まず最も分かりやすいのは、業務品質の低下です。入力ミス、確認漏れ、発注間違い、契約書の誤記などが積み重なると、やり直しコストが増大します。直接的な金銭的損害だけでなく、顧客からの信用低下という無形損害も生じます。特にBtoB取引では「ミスの多い会社」という評価は致命的です。

 次に、法的リスクです。例えば、契約内容の入力ミスや重要事項の記載漏れが原因で紛争が発生した場合、会社の使用者責任が問題になります。社員個人のミスであっても、対外的には会社が責任を負うのが原則です。損害賠償、契約解除、取引停止といった事態に発展する可能性も否定できません。

 さらに深刻なのは、組織内部への悪影響です。ケアレスミスが多い社員のフォローを周囲が担う構造になると、優秀な社員の負担が増加します。結果として、不公平感やストレスが蓄積し、モチベーション低下や離職につながることがあります。

 ここで会社経営者が見落としがちなのは、「問題社員を守ること」よりも「組織全体を守ること」が優先であるという点です。特定の社員に過度な時間と労力を割き続けることで、組織全体の生産性が下がるのであれば、それは経営判断の問題になります。

 また、教育担当者が疲弊し、感情的になった結果、パワハラ問題に発展するケースもあります。これは二次的な法的リスクです。最初は単なるケアレスミスの問題だったはずが、ハラスメント紛争へと拡大することも少なくありません。

 したがって、ケアレスミスの問題は「本人の努力不足」という精神論で片付けるべきではありません。会社経営者としては、①経営コスト、②法的責任、③組織秩序、④二次的トラブル発生可能性という四つの視点から、冷静にリスク分析を行う必要があります。

 重要なのは、感情ではなく「経営判断」として対処することです。その場しのぎの指導ではなく、構造的な対応を検討しなければ、同じ問題が繰り返されます。

 ケアレスミスの問題は、早期対応であればあるほど選択肢が広がります。放置することが、最も高くつく対応であることを、会社経営者は強く認識すべきです。

2. まず検討すべき教育指導とマニュアル整備のポイント

 ケアレスミスが多い社員に対して、会社経営者が最初に検討すべきは「教育指導による改善可能性」です。いきなり配置転換や退職を検討するのではなく、まずは改善機会を与えることが重要です。これは法的にも実務的にも極めて重要なプロセスです。

 解雇や本採用拒否が争われた場合、「十分な教育指導を行ったかどうか」は必ず問題になります。教育機会を与えずに能力不足を理由とする処分を行えば、不当解雇と判断されるリスクが高まります。

 もっとも、ここでいう教育指導とは、単に「気をつけてください」と注意することではありません。抽象的な精神論では改善は期待できません。会社経営者として考えるべきは、「ミスが起きにくい仕組みを作ったかどうか」です。

 具体的には、まず業務のマニュアル化です。

  • 手順を明文化する
  • 確認項目をチェックリスト化する
  • ダブルチェックのルールを設ける
  • 作業完了時の報告フローを固定する

 こうした形式知化は、個人の注意力に依存する体制からの脱却を意味します。ミスを「個人の問題」にせず、「仕組みの問題」として整理する視点が重要です。

 次に重要なのは、確認作業の制度化です。ケアレスミスの多くは「確認不足」に起因します。したがって、「確認を義務化する」ことが不可欠です。例えば、重要書類は必ず第三者確認を経る、一定金額以上の契約は経営者決裁前にチェックを通す、といったルールを明確にします。

 ここで注意すべきは、過度な管理体制にならないようバランスを取ることです。一人のミスのために全体が非効率化することは本末転倒です。あくまで合理的な範囲での整備が必要です。

 また、教育記録を残すことも重要です。

  • いつ
  • 誰が
  • どのような指導を行ったのか
  • 本人の反応はどうだったか

 これらを簡潔に記録しておくことで、後に法的紛争となった場合の重要な証拠になります。会社経営者としては、「改善機会を与えた」という事実を客観化しておくことが不可欠です。

 軽度のケアレスミスであれば、この段階で改善するケースも少なくありません。実務上、マニュアル整備と具体的指導だけで平均レベルまで到達する例は多数あります。

 しかし、一定期間合理的な指導を行っても改善が見られない場合には、次の段階を検討する必要があります。教育指導は万能ではありません。

 重要なのは、「まずは教育指導を尽くした」と言える状態を作ることです。これは感情論ではなく、法的防御と経営判断の土台となるプロセスなのです。

3. 「知識」ではなく「アウトプット」を改善させる具体策

 ケアレスミスが多い社員に対して、会社経営者が誤りがちなのは「知識を与えれば改善する」と考えてしまう点です。しかし、ケアレスミスの本質は知識不足ではなく、「実行段階での精度」にあります。

 つまり問題はインプットではなく、アウトプットです。

 例えば、手順を理解しているにもかかわらずミスを繰り返す場合、それは「分かっていない」のではなく、「できていない」のです。ここを取り違えると、何度も同じ説明を繰り返すことになり、結果として指導する側が疲弊します。

 したがって、会社経営者として検討すべきは「実際にできる状態にするための訓練」です。

 具体策としては、次のような方法が有効です。

 第一に、実演型指導です。

 単に口頭で説明するのではなく、実際にその場で作業をやらせる。そしてその場で修正点を具体的に指摘する。抽象論ではなく、「ここで確認を入れる」「ここで声に出して読む」など、動作レベルまで落とし込むことが重要です。

 第二に、反復トレーニングです。

 一度できたから終わりではありません。一定期間、同じ基準で確認を続けることで、行動を習慣化させます。ケアレスミスは「癖」であることが多いため、習慣レベルの修正が必要です。

 第三に、観察とフィードバックです。

 何をどの順序でやっているのかを観察し、ミスの発生ポイントを特定する。例えば「焦って最後の確認を飛ばしている」「数字を視覚的に処理できていない」など、原因を具体化します。原因が特定できなければ、対策は立てられません。

 ここで重要なのは、曖昧な叱責をしないことです。「どうしてこんなミスをするんだ」という感情的な指摘は、改善にはつながりませんし、ハラスメント問題にも発展しかねません。

 あくまで行動レベルで修正点を提示する。

 「気をつけろ」ではなく、

 「提出前にチェックリストを声に出して確認する」

 といった具体策を示すことが必要です。

 もっとも、このようなアウトプット重視の指導は時間を要します。会社経営者としては、その投下時間に見合う改善可能性があるのかを冷静に見極めなければなりません。

 一定期間、具体的なトレーニングを実施しても改善が見られない場合、それは能力適性の問題である可能性が高くなります。この段階で初めて、教育以外の選択肢を現実的に検討することになります。

 重要なのは、「指導不足」と「適性不足」を峻別することです。アウトプット改善の機会を与えたかどうかは、後の法的評価にも直結します。

 会社経営者としては、感情ではなく、記録と事実に基づき、「どこまで改善機会を与えたのか」を整理しておくことが極めて重要です。

4. 教育指導の限界とパワハラリスクへの注意

 会社経営者として冷静に認識すべきことは、教育指導には限界があるという現実です。どれだけ具体的な指導やアウトプット重視の訓練を行っても、改善が限定的なケースは確実に存在します。

 問題は、その「限界」を認めずに教育を続けた場合に発生する二次的リスクです。

 まず、指導担当者の疲弊です。一定期間真摯に指導を続けても改善が見られない場合、指導側のストレスは蓄積します。「自分の業務もあるのに、なぜここまでやらなければならないのか」という不満が生じやすくなります。

 その結果、指導が感情的になりやすくなります。

  • 強い口調になる
  • 人格を否定するような発言をしてしまう
  • 皆の前で叱責する
  • 必要以上に監視する

 このような行為は、改善指導の範囲を超えれば、パワーハラスメントと評価される可能性があります。

 ここで重要なのは、最初の問題は「ケアレスミス」であったはずなのに、いつの間にか「ハラスメント問題」に転化してしまうことです。そうなれば、会社は被害申告対応、調査、再発防止措置、場合によっては損害賠償請求への対応まで迫られます。

 つまり、問題社員への過度な教育継続は、新たな法的リスクを生み出す危険があるのです。

 さらに、組織全体の空気も悪化します。

 「またあの人のフォローか」

 「結局何も変わらない」

 という不満が広がると、優秀な社員から順に離職していく可能性もあります。

 会社経営者が守るべきは、特定の社員ではなく、組織全体です。

 したがって、合理的期間教育を行っても改善が見られない場合には、「教育継続」以外の選択肢を検討する決断が必要です。教育を続けることが善ではありません。経営判断として、損切りを考える局面もあります。

 重要なのは、「どの程度の期間」「どの程度の内容の指導」を行ったのかを整理し、客観的に評価することです。漫然と続けるのではなく、期限と基準を定めるべきです。

5. 適性の見極めと配置転換という選択肢

 教育指導を合理的期間行っても改善が見られない場合、会社経営者が次に検討すべきは「適性の問題」です。ここで重要なのは、能力不足と努力不足を混同しないことです。

 一生懸命取り組んでいるにもかかわらず改善が乏しい場合、それは努力の問題ではなく「業務との適合性」の問題である可能性が高いのです。

 適性のある業務に就いている場合、初期段階で未熟さはあっても、比較的早いスピードで成長します。ミスの回数も徐々に減少します。反対に、適性がない業務の場合、スタートラインが極端に低く、成長曲線も緩やかです。いくら指導しても改善幅が小さいのが特徴です。

 このような場合、会社経営者として検討すべき選択肢が「配置転換」です。

 配置転換は、解雇よりも法的ハードルが低く、組織内で解決を図る方法として有効です。ただし、無制限に行えるわけではありません。

  • 就業規則上の根拠
  • 業務上の必要性
  • 本人の不利益の程度

 これらを総合的に考慮する必要があります。

 とはいえ、ケアレスミスが業務に重大な支障を与えている場合、業務上の必要性は比較的認められやすい傾向にあります。

 重要なのは、「向いていない業務に固執させない」という発想です。無理に同じ業務を続けさせることは、本人にとっても会社にとっても不幸な結果を招きます。場合によっては、精神的負荷が高まり、適応障害などの診断が出ることもあります。そうなれば、労務管理はさらに複雑化します。

 もし社内に別の業務が存在するのであれば、試験的に担当させることを検討すべきです。

  • 対人業務が苦手なら定型事務へ
  • 細かい数値処理が苦手なら対外調整業務へ

など、業務特性との適合性を見極めます。

 もちろん、すべてのケースで成功するわけではありません。しかし、配置転換によりミスが減少する事例は実務上少なくありません。

 一方で、中小企業などで業務の幅が限られている場合、配置転換の余地がないこともあります。その場合は、より厳しい判断を迫られることになります。

 会社経営者として重要なのは、「教育を尽くした」「配置転換も検討した」というプロセスを踏んだ上で判断することです。この積み重ねが、後の法的評価を大きく左右します。

 適性の見極めは、感情ではなく事実に基づいて行うべきです。改善傾向があるのか、横ばいなのか、悪化しているのか。客観的に整理し、経営判断として結論を出す必要があります。

 配置転換は逃げではありません。組織を守るための合理的選択肢の一つなのです。

6. 試用期間中に判断すべき法的ポイント

 ケアレスミスが多い社員への対応において、会社経営者が最も重視すべきタイミングは「試用期間中」です。実務上、この期間をどう扱うかで、その後の選択肢の幅が大きく変わります。

 まず前提として、試用期間は「様子を見るための期間」です。能力・適性・勤務態度を総合的に判断し、本採用に値するかどうかを見極めるための制度です。

 ここで重要なのは、「試用期間だから自由に辞めてもらえる」という誤解を持たないことです。試用期間中であっても、解約権濫用法理の適用はあります。つまり、客観的合理性と社会的相当性が求められます。

 もっとも、本採用後の解雇と比べれば、試用期間中の本採用拒否の方が法的ハードルは相対的に低いのは事実です。だからこそ、この期間に真剣に見極めを行う必要があります。

 具体的には、次の点を整理してください。

  • どのような業務を担当させたのか
  • どの程度の教育指導を行ったのか
  • ミスの内容と頻度はどうか
  • 改善傾向は見られるか

 これらを記録化しておくことが極めて重要です。後に紛争となった場合、「主観的な印象」では通用しません。客観的資料が勝負になります。

 また、試用期間を形式的な3か月で終わらせていないかも検討すべきです。業務内容によっては3か月では適性判断が困難な場合もあります。その場合、就業規則で6か月の試用期間を定めるなど、制度設計を見直すことも経営判断の一つです。

 ここで会社経営者が避けるべきなのは、「とりあえず様子見で本採用にしてしまう」ことです。本採用後に「やはり向いていない」と判断しても、「なぜ試用期間中に判断しなかったのか」という反論を受けやすくなります。

 試用期間を経過させるということは、「少なくとも本採用拒否するほどの問題はない」と評価したことになります。この点の自覚が必要です。

 もちろん、試用期間経過後であっても、合意退職や普通解雇の可能性はあります。しかし、立証責任の重さや本人の納得感の問題から、紛争化リスクは格段に上がります。

7. 本採用後に対応する場合の解雇・合意退職の留意点

 試用期間を経過し本採用となった後に、ケアレスミスの多さが改善しない場合、会社経営者はより慎重な対応を求められます。本採用後は、法的ハードルが明確に上がるからです。

 まず理解すべきは、能力不足を理由とする普通解雇は可能ではあるものの、容易ではないという点です。裁判例上、単に「ミスが多い」というだけでは足りず、①企業秩序に重大な支障を生じさせていること、②教育指導や配置転換を尽くしていること、③改善見込みが乏しいこと、が求められます。

 つまり、会社経営者としては「やれることはやった」と言える状態を作っておく必要があります。

 ここで重要なのは、解雇を急がないことです。いきなり解雇通知を出せば、高い確率で紛争化します。解雇は最終手段であるという位置付けを明確にしなければなりません。

 実務上、まず検討すべきは合意退職です。

 合意退職は、双方が合意して労働契約を終了させる方法です。法的リスクを抑えやすく、紛争化の可能性も比較的低くなります。ただし、注意点があります。

  • 強要と評価されないこと
  • 十分な説明を行うこと
  • 検討期間を与えること
  • 録音・記録を想定した対応をすること

 特に「退職しないなら解雇する」といった威圧的発言は危険です。退職強要と評価される可能性があります。

 また、能力不足を理由とする解雇を検討する場合には、次の点を整理してください。

  • 具体的なミス事例の一覧化
  • 指導履歴の記録
  • 配置転換の検討経緯
  • 業務への実害の程度

 抽象的評価では不十分です。数値化・具体化が重要です。

 さらに、本採用後の解雇では「比例原則」も問題になります。ミスの程度に比して処分が重すぎないかが問われます。例えば、軽微な入力ミスが散発しているだけであれば、解雇は過重と判断される可能性があります。

 一方で、重大な損害を複数回発生させている場合や、是正指導にも従わない場合は、解雇の合理性が認められやすくなります。

 会社経営者として重要なのは、感情的に判断しないことです。「もう限界だ」という感覚だけで進めると、後に高いコストを払うことになります。

 本採用後の対応は、法的整理を前提とした戦略的判断が必要です。

 少しでも紛争化の可能性がある場合は、専門家と事前に整理した上で進めることを強く推奨します。

8. 採用段階でケアレスミスを見抜く方法

 本来、会社経営者にとって最も重要なのは、「入社後に悩まないこと」です。すなわち、問題が顕在化してから対処するのではなく、採用段階で適性を見極めることこそが、最も合理的なリスク回避策となります。

 ケアレスミスが多い社員への対応には、教育指導、配置転換、退職対応など、多大な時間と労力、そして精神的コストがかかります。場合によっては法的紛争に発展することもあります。そうであるならば、入口である採用段階の精度を可能な限り高めることが、経営として合理的です。

 まず強調すべきは、書類選考と面接だけでは十分とは言えないという点です。面接での受け答えが良好であっても、実務処理能力まで正確に把握できるとは限りません。

 ケアレスミスの問題は、性格や印象の問題ではなく、実務作業の精度の問題です。であれば、実際に作業をさせて確認することが最も合理的な方法です。数値入力業務が中心であれば模擬入力テストを実施する、文章作成業務であれば制限時間内で課題を作成させる、チェック業務が中心であれば誤りを含んだ資料を見抜かせるなど、実務に近い形式で能力を測定するべきです。

 このような実務テストを行うことで、注意力、正確性、作業スピードといった要素を客観的に評価できます。印象ではなく、事実に基づいた判断が可能になります。

 「そこまで厳しくすると応募者が減るのではないか」と懸念する会社経営者もいらっしゃいます。しかし、選別を緩めれば、当然ながら精度の低い人材も入社します。入社後の教育コスト、組織混乱、退職対応リスクを考えれば、採用段階での厳格さはむしろ長期的なコスト削減につながります。

 適性検査の活用も有効な手段の一つです。注意持続力や作業正確性、ストレス耐性などを測定する検査は数多く存在します。万能ではありませんが、面接のみの場合と比較すれば、判断材料は確実に増えます。

 さらに重要なのは、「どの業務でミスが発生すると致命的なのか」を整理することです。すべての業務に同じ精度が求められるわけではありません。どのポジションにどのレベルの正確性が必要なのかを明確にし、それに応じた採用基準を設定することが不可欠です。

 「人手が足りないからとりあえず採用する」という判断は、短期的には安心感をもたらしますが、長期的にはより大きなコストを招きます。

 会社経営者として持つべき視点は、「採用は投資である」という認識です。誤った投資は、解雇リスク、組織混乱、教育コスト増大という形で必ず跳ね返ってきます。

 入社後に苦労しないためにも、採用段階での実務テストと適性確認を制度として組み込むことを強く推奨します。それが、将来の労務リスクを最小限に抑える最も合理的な経営判断です。

9. 人手不足時代の現実的対応策―仕組み化と機械化の検討

 会社経営者の中には、「理想論は理解できるが、そもそも人が採れない」という厳しい現実に直面している方も多いでしょう。慢性的な人手不足の状況では、採用段階で厳格に選別すること自体が困難な場合もあります。

 しかし、選別基準を緩めれば、能力にばらつきのある人材が入社するのは当然の帰結です。その前提に立ったとき、会社経営者が次に考えるべきなのは、「能力が高くなくても安定的に回る仕組み」を構築することです。

 これは発想の転換です。

 「ミスをしない人を採用する」のが難しいのであれば、「ミスが致命傷にならない構造を作る」という経営判断に切り替える必要があります。

 例えば、注文ミスが頻発するのであれば券売機やセルフオーダーシステムを導入する、入力ミスが多いのであれば自動入力やチェック機能付きのシステムを導入する、確認漏れが問題となっているのであれば次工程へ進む際に必ずチェックを通過しなければならない設計にする、といった方法が考えられます。

 重要なのは、人の注意力や記憶力に依存しすぎない構造に変えることです。人間の能力には必ず限界があり、個人差もあります。そこに過度に依存する組織設計は、不安定にならざるを得ません。

 近年では、AIや各種自動化ツールの導入コストも大きく下がっています。仮に100万円から200万円程度の設備投資であれば、フルタイム社員数か月分の人件費に相当します。長期的に見れば、人的ミスによる損失や教育コストを考慮すると、むしろ合理的な投資となる場合も少なくありません。

 また、設備投資だけでなく、業務フローそのものを再設計することも有効です。業務を細分化して単純作業化する、責任の所在を明確にする、ダブルチェック体制を制度化するなど、構造面の整備によって、能力差があっても安定的に回る組織を作ることが可能です。

 「良い人材が来ないから仕方がない」と嘆くのではなく、「良い人材が来なくても回る仕組みを作る」という発想こそが、会社経営者に求められる視点です。

 もちろん、設備投資や業務改革には慎重な検討が必要です。しかし、人件費、教育コスト、離職リスク、紛争対応コストなどを総合的に考慮すれば、仕組み化は十分に合理的な選択肢となります。

 人手不足は短期的に解消される問題ではありません。だからこそ、これを属人的経営から脱却する好機と捉えるべきです。

 問題社員対策を個人の資質の問題で終わらせるのではなく、組織設計の問題として再構築する視点こそが、これからの会社経営に不可欠なのです。

10. 会社経営者が最終的に守るべきものとは

 ケアレスミスが多い社員への対応は、単なる個別の人事問題ではありません。最終的に会社経営者に問われるのは、「誰を守るのか」という経営判断そのものです。

 守るべきは、特定の社員の雇用維持それ自体ではありません。守るべき対象は、会社全体の生産性、組織秩序、そして日々誠実に働いている多数の社員です。

 ケアレスミスが常態化し、それを周囲が継続的にカバーする構造が固定化すると、優秀な社員ほど疲弊していきます。「なぜ自分ばかり負担が重いのか」という不公平感は、やがて組織の信頼関係を蝕みます。これは組織崩壊の入り口になり得ます。

 会社経営者の役割は、弱い立場の人を無条件に守ることではなく、組織全体として最も合理的な選択を行うことです。

 教育指導で改善するのであれば、それが最も望ましい解決です。配置転換によって能力を発揮できるのであれば、それも前向きな選択です。しかし、どうしても適性が合わない場合には、退職という結論が、結果として双方にとって合理的となる場合もあります。

 適性のない業務を無理に続けさせることは、本人にとっても不幸です。努力しても成果が出ない環境は、自信を削り、やがて精神的不調につながる可能性もあります。会社だけでなく、本人の人生にも影響を与える問題です。

 会社経営者として最も重要なのは、「感情」と「経営判断」を切り分けることです。

  • 十分な教育機会を与えたか
  • 配置転換の可能性を検討したか
  • 試用期間中に適性を見極めたか
  • 指導内容や経緯を記録しているか

 これらを冷静に整理した上で、それでも改善が見込めないのであれば、結論を出すべきです。

 問題を先送りすることこそが、最も高コストな対応です。曖昧な状態を長引かせれば長引かせるほど、組織全体のエネルギーは消耗します。

 会社経営者は常に全体最適を考えなければなりません。教育、配置転換、合意退職、解雇、さらには仕組み化や機械化といった選択肢まで、視野を広く持ち、法的リスクを踏まえながら判断する必要があります。

 ケアレスミスの問題は、避けて通れない経営課題です。しかし、適切なプロセスを踏み、合理的な判断を積み重ねれば、過度に恐れる必要はありません。

 

最終更新日2026/2/20


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