1年単位の変形労働時間制を導入するための要件を教えてください。
目次
1年単位の変形労働時間制とは何か
1年単位の変形労働時間制とは、1か月を超え1年以内の一定期間を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間以内になるように労働時間を配分する制度です。繁忙期と閑散期がはっきりしている業種では、労働時間を柔軟に設計できる制度として活用されています。
もっとも、この制度は自由に導入できるものではなく、法令で定められた要件を満たさなければ無効となるリスクがあります。会社経営者としては、制度のメリットだけでなく、導入要件と実務上の注意点を正確に理解しておく必要があります。
1年単位の変形労働時間制を導入するための基本要件
労使協定の締結が必須となる
1年単位の変形労働時間制を導入するためには、必ず労使協定を締結しなければなりません。就業規則に記載するだけでは足りず、過半数労働組合、または過半数代表者との書面による協定が必要です。
この労使協定では、次に挙げる事項を具体的に定める必要があります。
労使協定で定めるべき主な事項
対象となる労働者の範囲
まず、1年単位の変形労働時間制を適用する労働者の範囲を明確にする必要があります。全社員を対象にすることも、特定の部署や職種に限定することも可能ですが、曖昧な定め方は認められません。
対象期間と起算日
次に、制度を適用する対象期間を定めます。対象期間は「1か月を超え1年以内」でなければならず、あわせて起算日も明確にする必要があります。
労働日および労働日ごとの労働時間
対象期間内の労働日数と、各労働日ごとの労働時間を定めることも必須です。どの日に何時間働くのかが、あらかじめ特定されていなければなりません。
特定期間を設ける場合の定め
繁忙期にあたる期間を「特定期間」として設ける場合には、その期間も協定で明示する必要があります。特定期間を設けることで、連続勤務日数の上限に関する例外が認められます。
対象期間の平均が法定労働時間以内であること
1年単位の変形労働時間制では、対象期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以内でなければなりません。この点を満たしていない場合、制度自体が無効と判断される可能性があります。
労使協定の有効期間
労使協定には、有効期間も定める必要があります。有効期間が切れたまま運用を続けると、違法な労働時間管理と評価されるおそれがあります。
労使協定の届出が必要になる
労使協定を締結した後は、所轄の労働基準監督署長への届出が必要です。届出をしなくても直ちに制度が無効になるわけではありませんが、届出義務違反として是正指導や罰則の対象となる可能性があります。
会社経営者としては、「協定を結んで終わり」ではなく、届出まで含めて制度導入であることを意識する必要があります。
就業規則への記載も欠かせない
1年単位の変形労働時間制を導入する場合、就業規則にもその旨を記載しておくことが重要です。どの制度に基づいて労働時間を管理しているのかを明確にしておかないと、後に労務トラブルが生じるリスクが高まります。
特に、通常の労働時間制と併用している場合には、どの労働者にどの制度を適用するのかを明確に区別する必要があります。
会社経営者が注意すべき実務上のポイント
制度導入だけで「残業代が不要」になるわけではない
1年単位の変形労働時間制を導入しても、一定の時間を超えた労働については、時間外労働や割増賃金が発生します。制度を導入すれば残業代が不要になる、という理解は誤りです。
形式だけ整えても実態が伴わなければリスクになる
労使協定や就業規則の形式を整えていても、実際の勤務実態が協定内容と異なっていれば、制度は無効と判断される可能性があります。運用と書面が一致しているかは、常に確認すべきポイントです。
まとめ|1年単位の変形労働時間制は「設計」と「運用」が重要
1年単位の変形労働時間制は、繁閑の差がある事業にとって有効な制度ですが、導入要件や運用ルールを誤ると、かえって大きな労務リスクを抱えることになります。
会社経営者としては、
・労使協定の内容が適切か
・届出や就業規則整備ができているか
・実態が協定どおりに運用されているか
これらを定期的に確認し、制度を経営管理の一部として正しく運用する視点が不可欠です。
