動画解説
目次
1. 解雇の有効性を決める2つの要件——「客観的」という言葉の意味
問題社員を解雇するタイミングを考える前に、まず「どんな場合に解雇は有効になるのか」を理解することが不可欠です。
解雇が有効になるためには、普通解雇・懲戒解雇の種類を問わず、①客観的に合理的な理由、②社会通念上の相当性の両方が必要です(労働契約法16条)。
ここで重要なのが「客観的」という言葉です。「社長がそう思っている」「会社全体がそう思っている」だけでは足りません。外部の第三者——つまり裁判官——が見ても「解雇やむなし」と判断できる事情が必要です。裁判官が納得するような解雇であれば裁判で勝てます。そのレベルに達しているかどうかが、解雇のタイミングを判断する基準になります。
2. 最重要ポイント——「評価」ではなく「事実」を議論する
解雇の有効性を確保するための最重要ポイントは、「評価的な言葉」ではなく「具体的な事実」を議論することです。
「勤務態度が悪い」「パフォーマンスが低い」「協調性がない」——これらはすべて「評価」であり「事実」ではありません。評価だけを伝えても「社長に嫌われているだけだ」と受け取られ、本人は何が問題なのか分からないため改善もされません。
▶ 事実の伝え方——5W1Hで具体的に
❌ 評価的な伝え方(NG)
「あなたは勤務態度が悪い」「協調性がない」「パフォーマンスが低い」
✓ 事実ベースの伝え方(正しい例)
「○月○日の午前10時頃、第1会議室において、○○部長に対し大声で○○と怒鳴りつけた」
「○月○日、○○の業務をやるよう指示したにもかかわらず、嫌だと正面から拒否した」
事実ベースで話すことには大きなメリットがあります。「言った・言わない」「やった・やっていない」という具体的な議論ができるため、状況を客観的に確定させやすくなります。これが後の証拠にもなります。
3. 解雇しやすい類型・しにくい類型
(1) 解雇しやすい類型——重要な業務命令への正面からの拒否
解雇が認められやすい典型例は「重要な業務命令に対する正面からの拒否」です。雇用契約の本質は「給料を払うから仕事をしてもらう」という契約であり、契約で予定されている仕事を「嫌だ」と面と向かって拒否することは契約の根幹を否定する行為です。
これは比較的短い説得活動を経た後でも解雇が有効になりやすい類型です。全国各地への転勤が当然の会社で転勤命令を正面から拒否した場合なども同様です(ただし転勤のない雇用契約の場合は別途検討が必要)。
(2) 解雇しにくい類型——能力不足・サボり・勤務態度・協調性
一方、解雇が認められにくい類型もあります。特に注意が必要なのは次のケースです。
▶ 解雇が難しい類型と理由
返事はいいがサボる・やろうとしない:わざとかどうかの判断が難しく、故意性の立証が困難な場合が多い
能力不足(特に新卒・若手):「育てる前提で採用した」とみなされ、今の能力不足を理由に解雇することが難しい。仕事の内容が特定されていない場合はさらに困難
勤務態度が悪い・協調性がない:評価的な問題であり、具体的な事実の確定と注意指導の積み重ねが特に重要。これらの問題を早期に事実ベースで話し合い、改善を求めた記録がなければ解雇は難しい
4. 事実ベースの指導はパワハラにならない——むしろ評価的言葉の方が危険
「具体的な事実を指摘したらパワハラだと言われるのでは」と心配する経営者は多いですが、これは逆です。
裁判でパワハラと認定されやすいのは「出来が悪い」「態度が悪い」「仕事できない人間だ」といった評価的・侮辱的な言葉を相手にぶつけることです。一方、仕事に関係のある具体的な事実を礼儀正しく丁寧に伝えることは、パワハラとは認定されにくいです。
「事実を伝えるとパワハラになるかも」と恐れて抽象的な評価を遠回しに伝えようとする方が、かえってパワハラのリスクを高めます。具体的な事実を冷静・丁寧に話すことを徹底してください。
5. 解雇に向けた証拠の残し方——面談報告・厳重注意書・懲戒処分通知書
面談で事実を伝えたら、その内容を記録に残すことが重要です。記録として有効なのは以下のとおりです。
▶ 証拠として有効な記録の例
面談報告書・メール報告:「何月何日に何を話し、相手がどう答えたか」という事実を記録する。評価的な言葉ではなく事実を書くことが重要
厳重注意書:「何月何日・どこで・何をしたことが問題か」を具体的に記載して本人に交付する
懲戒処分通知書:具体的な事実・該当する就業規則の条項・処分の内容を記載して交付する。事実の記載が最重要
これらの書類に「勤務態度が悪い」などの評価的な言葉だけを書いても証拠価値が低下します。常に「具体的な事実」を中心に記載してください。また本人の言い分(弁解)も聞いて記録することで、事実認定の精度が上がります。
6. まとめ
① 解雇の有効性は「裁判官が納得できるか」で決まる
会社の主観的判断ではなく、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要。早い段階から事実ベースで指導・懲戒処分を積み重ねることが解雇への道を開く。
② 「評価」ではなく「事実」——5W1Hで具体的に話す
「態度が悪い」ではなく「何月何日・どこで・誰が・何をしたか」を伝える。事実ベースの指導はパワハラにならず、改善効果も高い。
③ 業務命令拒否は解雇しやすく、能力不足・勤務態度は事実の積み重ねが特に重要
類型によって解雇の難易度が異なる。難しい類型ほど早期から事実ベースで丁寧に対応し、証拠を積み上げることが鍵になる。弁護士と相談しながら進めてください。
よくある質問(FAQ)
問題社員の解雇でお悩みの方はご相談ください
解雇の有効性の判断・具体的な事実の確定・注意指導・懲戒処分の進め方まで、会社側の立場に特化した弁護士が具体的にアドバイスします。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日 2026/04/16