本ページの基となる解説動画
本ページの解説内容は、以下の藤田進太郎弁護士による解説動画「『休職を要する』という診断書のみで休職を認めてはいけない理由」を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。
主治医の「休職を要する」旨の診断書は、療養のために休ませる必要があるとの医学的判断を示すものであり、会社の休職制度の直ちの適用を求める趣旨ではないのが通常です。就業規則上の休職要件は「一定期間の欠勤後に休職を命じることができる」と規定されていることが多く、これを飛ばして直ちに休職を開始すれば、本来認められるべき欠勤期間を本人から奪う結果となります。原則として、年次有給休暇・傷病休暇・欠勤の順に所定期間を経過させた上で、開始日・満了日・満了時の効果を記載した休職命令書を書面で交付して休職を開始するのが、本人の制度上の保護と会社の運用安定性の双方を確保する実務の基本です。
「休職を要する」診断書の実質的意味
主治医から「休職を要する」旨の診断書が提出された際、多くの会社経営者及び人事担当者は、「休職の診断書が出たのであるから、直ちに会社の休職制度を開始させなければならない」と反応されます。しかし、この直感的対応こそが、後日の紛争リスクを高め、本人にも不利益を及ぼす典型的な失敗パターンとなります。主治医が「休職を要する」と記載する際の意図と、会社の休職制度の法的性質とを、正確に区別して理解することが、対応の出発点となります。
主治医が診断書を作成する際の意図
主治医が「休職を要する」と記載する際、頭の中にある判断は、多くの場合、「このまま就労を続けさせると体調が良くならない、あるいは病状が悪化するおそれがあるので、療養のために休ませる必要がある」という医学的判断です。主治医は医学の専門家として、患者の病状と一般的な就労の負荷との関係から、療養の必要性を判断しているに過ぎません。
主治医は、会社の休職制度の具体的内容について詳細な知識を有しているわけではありません。会社ごとに異なる休職要件、休職期間、満了時の効果等を踏まえた上で「休職制度を直ちに開始させるべきである」との診断書を作成しているわけではないのが通常です。「要するに、仕事は休まなければなりませんよ」という療養の必要性を医学的に示すものとして、「休職を要する」という表現が用いられている場合がほとんどです。
「休ませる」ことと「休職制度の適用」の区別
「休ませる」ことと「会社の休職制度を適用する」ことは、法的には別個の事柄として整理する必要があります。就労をさせないという事実状態の実現手段としては、年次有給休暇、傷病休暇、欠勤といった複数の選択肢があり、これらを段階的に使い分けることで、本人を休ませつつ賃金面及び在籍期間上の保護を図ることができます。
他方、会社の休職制度は、就業規則の定めに従い、一定の要件を満たした場合に会社が休職命令を発することで開始する、独立した法的状態です。休職期間中は労務提供義務が免除され、期間満了までに復職できなければ自動退職又は解雇となる運用が一般的であり、通常の欠勤とは異なる重大な法的効果を伴います。
主治医の診断書に「休職を要する」と記載されているからといって、これを会社の休職制度の直ちの適用を求める指示として解釈すべきものではありません。医学的判断としての「休ませる必要がある」旨を踏まえつつ、会社の制度との関係では、年次有給休暇・傷病休暇・欠勤・休職を就業規則に即して段階的に使い分ける対応が相当です。
「休む」ための四つの制度と法的区別
労務提供を免除する制度として、就業規則上、通常四つの制度が別個に規定されています。年次有給休暇、傷病休暇、欠勤、休職です。これらは、それぞれ法的性質、根拠、効果、取扱いが異なります。実務の混乱のほとんどは、この四つを混同することから生じているため、対応の出発点として、各制度の位置づけを正確に押さえる必要があります。
年次有給休暇
年次有給休暇は、労働基準法第39条に基づき労働者に保障された法定の権利です。労働者が時季を指定して取得の意思表示を行うことにより成立し、取得日については賃金が支払われます。取得理由を問わないのが原則であり、病気療養のために取得することも当然に可能です。
体調不良により休む必要が生じた場合、本人に年次有給休暇の残日数がある限りは、これを消化する運用が、本人にとって賃金が支払われる点で有利であり、合理的です。もっとも、年次有給休暇は労働者の権利行使であり、会社から一方的に「年休を取得しなさい」と強制することはできません。本人の意向を確認した上で、取得を促す形が原則となります。
傷病休暇
傷病休暇(病気休暇)は、会社が就業規則で任意に設ける独自制度です。法律上の義務ではなく、設けるかどうか、有給扱いか無給扱いか、日数上限、取得要件等は会社の判断に委ねられています。規定がある会社では、年次有給休暇とは別個の休暇制度として運用されます。
傷病休暇制度を有する会社では、年次有給休暇と傷病休暇の取得順位、両制度の併用の可否といった論点を、就業規則上整理しておく必要があります。運用上の順位が明確でない場合、後日本人からの取得申出の際に混乱を生じる原因となります。
欠勤
欠勤は、労働義務があるにもかかわらず労働者が労務提供を行わない状態をいいます。正当な理由のない欠勤は契約上の義務違反となりますが、傷病等の正当な理由がある場合の欠勤は、会社が承認する運用により、雇用関係を維持したまま一時的な労務免除を行うことが可能です。ただし、欠勤期間中はノーワーク・ノーペイの原則により、賃金支払義務は生じないのが通常です。
欠勤は、多くの会社の就業規則において、休職制度の開始要件に位置づけられています。すなわち、一定期間の欠勤が継続した場合に、会社が休職を命じることができるという建付けとなっています。この関係から、欠勤は休職の前置手続として機能する期間となります。
休職
休職は、一定の要件を満たした場合に会社が労働者に対し命じる、雇用関係を維持したままの労務免除状態です。法律上の義務ではなく、就業規則に定めを設けることによって運用される任意制度です。休職期間は勤続年数に応じて3ヶ月・6ヶ月・1年・2年等と規定されていることが多く、期間満了までに復職できなければ自動退職又は解雇となる運用が一般的です。
この「満了時の効果」が、欠勤との決定的な違いです。欠勤は、どれだけ長期化しても、これ自体が当然には雇用契約終了の効果を生じるものではありません。これに対し、休職は、期間満了という時的限界を伴い、期間内に復職できない場合には雇用契約が終了する仕組みとなっています。したがって、休職を開始させることは、本人にとって時限爆弾のタイマーが作動することを意味し、会社にとっても重大な法的効果を伴う判断となります。
呼称の混同がトラブルの火種となる
実務上、現場で頻繁に見られるのが、欠勤期間を「休職」と呼んでしまう呼称の混同です。主治医の「休職を要する」診断書が提出された後の休みを、全て「休職」として扱っているケース、また本人の「休職申請書」の受理をもって、実際の就業規則上の休職要件充足を確認しないまま、休職が開始したことにしてしまうケース等が散見されます。
しかし、就業規則を確認すれば、欠勤、休職、年次有給休暇、傷病休暇はそれぞれ別個の制度として明確に区別して規定されています。現場の呼称が揺れると、本人への説明も曖昧となり、後日「そのような制度であるとは聞いていなかった」「休職の開始日は別の日付であったはずだ」といった主張を招く原因となります。現状が就業規則上のいずれの扱いに該当するかを常に明確化した上で運用することが、紛争予防の基本となります。
休職制度を設けていない会社における対応
休職制度は、法律上の義務ではなく、会社が就業規則で任意に設ける独自制度です。したがって、休職制度自体を設けていない会社も存在します。中小企業においては、就業規則を整備しているものの、休職に関する規定を置いていない会社も少なくありません。このような会社において主治医の「休職を要する」診断書が提出された場合、どのように対応すべきかが問題となります。
「欠勤」として取り扱うのが素直
休職制度を設けていない会社においては、「休職にします」という対応は、根拠規定のない扱いであり、法的意味が不明瞭となります。このような場合は、「欠勤」として取り扱うのが素直です。年次有給休暇が残存している場合にはまずこれを消化してもらい、その後は欠勤として扱うという手順が、実務上の原則となります。
欠勤期間が長期化した場合にどの時点で雇用契約の終了を検討するかは、個別事情に応じた慎重な判断を要する論点となります。休職制度がない以上、自動的に退職となる制度的仕組みが存在しないため、一定期間経過後に退職勧奨又は解雇を検討することとなりますが、いずれの対応も安全配慮義務及び解雇権濫用法理との関係から、慎重な対応が必要です。この局面については、弁護士との相談を経た上で判断することをお勧めいたします。
呼称を明確化する必要性
休職制度がないにもかかわらず、本人への説明の場面で「休職にしますね」等の言葉を用いると、本人に「自社には休職制度があり、一定期間後に退職扱いとなる仕組みが存在する」旨の誤解を与えるおそれがあります。後日、雇用契約終了の場面で、「会社は休職制度に基づく自動退職であると説明していた」との主張を招きかねません。
制度がないのであれば、はっきりと「欠勤として取り扱います」「当社には休職制度がないため、欠勤として処理することになります」と本人に説明し、記録を残すことが実務上相当です。本人にとっても、雇用契約終了に至る可能性がある期間がどの程度なのか、どの段階でどのような判断が行われるのかについて、明確な見通しを持つことができます。
休職制度の新設を検討する選択肢
現在休職制度を有していない会社であっても、将来の同種事案への対応を見据えて、就業規則改訂により休職制度を新設する選択肢があります。休職制度を有することには、一定期間経過後の雇用契約終了のルールを明確化できるという運用上の利点があります。
新設にあたっては、休職開始要件、勤続年数別の休職期間、再休職の通算規定、休職期間満了時の効果、復職判断の手続といった論点を網羅的に整理する必要があります。制度設計を誤ると、会社にとっても本人にとっても予測可能性を欠く結果となるため、制度新設は弁護士と協議しながら進めることが相当です。
休職制度がある会社における開始要件
一定以上の規模の会社では、休職制度を就業規則に規定している場合が多く見られます。本章では、典型的な休職規定の建付けを整理し、休職を開始するための要件について解説いたします。
典型的な休職規定の建付け
休職規定の建付けは会社により様々ですが、最も一般的な規定構造は以下のとおりです。「傷病により欠勤が引き続き1ヶ月に達したとき、会社は休職を命ずることができる。休職期間は、勤続年数に応じて次のとおりとする。勤続1年未満3ヶ月、勤続1年以上3年未満6ヶ月、勤続3年以上10年未満1年、勤続10年以上2年。休職期間満了時までに復職できない場合は自動退職とする(又は解雇する)」といった形です。
この規定構造は、①欠勤前置(一定期間の欠勤継続を休職開始の要件とする)、②勤続年数連動(勤続年数に応じて休職期間が異なる)、③満了時の効果(自動退職又は解雇)という三つの要素から構成されています。これらの要素のそれぞれが、休職制度の機能と本人の保護に重要な意味を持っています。
自社の就業規則の確認
休職命令を検討する際の出発点は、自社の就業規則上の休職規定を正確に確認することです。自社の規定が、「引き続き1ヶ月の欠勤」を要件としているのか「通算3ヶ月」なのか「医師の証明する診断」を要件とするのか、要件の文言を逐語的に確認します。
同様に、休職期間の長さ、満了時の効果(自動退職か解雇か、差異による手続の違い)、復職判断の手続、延長規定の有無といった各要素を、条文に即して確認します。抽象的な運用イメージではなく、条文の文言に即した運用を行うことが、後日の紛争における会社側立証の基礎となります。
暦日か所定労働日か
「引き続き欠勤〇日」の要件について、暦日で計算するのか所定労働日で計算するのかが解釈上の論点となる場合があります。土日祝日を含めて計算するのか、含めずに計算するのか、祝日の扱いをどうするのか等について、就業規則の文言から一義的に明らかとは限りません。
実務上は、就業規則の文言、会社の慣行、過去の運用実績、業界の一般的運用等を総合的に考慮して解釈することとなります。自社規定の文言が曖昧であると判断される場合には、弁護士に相談の上、解釈を確定させた運用を行うとともに、将来的には条項改訂による明確化を検討することが相当です。
実務上の留意点 就業規則の条文が曖昧な状態で運用を開始すると、後日の紛争において解釈を争われる余地を残すこととなります。休職規定の見直しは、事案発生後ではなく、平時に計画的に進めることをお勧めいたします。
欠勤前置の意味と本人の在籍可能期間
休職規定が「一定期間の欠勤継続を休職開始の要件とする」建付けとなっていることには、単なる形式的な要件設定ではない実質的意味があります。欠勤前置は、労働者に対し、休職期間とは別個に、在籍可能な期間を付与する機能を果たしています。
具体例で整理する在籍可能期間
具体例で整理してみます。ある会社の就業規則が「傷病により欠勤が引き続き1ヶ月に達したとき、会社は休職を命ずることができる。勤続3年未満の場合、休職期間は3ヶ月とする。休職期間満了時までに復職できない場合は自動退職とする」という内容であったとします。
勤続2年の社員が傷病により就労不能となった場合、この規定の下では、「欠勤1ヶ月+休職3ヶ月=合計4ヶ月」、雇用契約を維持したまま療養できる期間として保証されています。欠勤期間の1ヶ月は、本人にとって、回復の可能性を見極めるとともに、会社の休職制度が適用される前の準備期間として機能しています。
いきなり休職とすると本人の在籍期間が短縮される
ところが、主治医の「休職を要する」診断書を受けて、欠勤期間を飛ばして直ちに休職を開始してしまうと、本人の在籍可能期間は3ヶ月強にしかならず、1ヶ月近く短縮される結果となります。本来認められるべき欠勤期間の1ヶ月を、会社の運用上の誤りにより本人から奪う形となります。
これは、労働者にとって客観的に不利益な取扱いであり、制度設計の本来の趣旨にも反します。本人が制度上享受すべき療養期間を、会社の操作により短縮する運用は、労働条件の不利益変更に類する評価を受ける可能性も否定できません。後日、雇用契約終了の場面で、「本来であれば1ヶ月長く在籍できたはずである」との主張を受けた場合、会社として説得的な反論を行うことは困難となります。
原則的手順としての段階的運用
したがって、主治医の「休職を要する」診断書が提出された場合であっても、原則として、次の段階的手順を踏むことが相当です。
第一に、年次有給休暇の取得を本人に提案します。本人に残日数があり、取得を希望する場合には、これを消化します。第二に、傷病休暇がある会社では、これを消化します。第三に、年次有給休暇及び傷病休暇を消化後、又は本人が取得を希望しない場合には、欠勤として取り扱います。第四に、就業規則所定の欠勤期間(例えば1ヶ月)を経過した時点で、会社として休職要件の充足を確認し、休職命令書を書面で交付して休職を開始します。
この段階的手順を踏むことにより、本人の制度上の保護が確保され、会社の運用の適法性及び説得力も確保されます。運用上の負担を感じる場面もありますが、休職制度を厳格に運用する会社であればあるほど、この手順の遵守が後日の紛争予防に決定的な意味を持ちます。
包括条項を根拠とする早期休職の危険性
休職規定には、典型的な「欠勤〇日継続」の要件とは別に、「その他前各号に準ずる事由がある時」といった包括条項が置かれている場合があります。この包括条項を根拠として、欠勤要件を満たさない段階から休職を開始することが形式上可能ではないかとの発想を持たれる経営者の方もいらっしゃいます。しかし、この対応には実務上の重大な危険が伴います。
包括条項の裁判上の解釈
包括条項を根拠として休職を命じた場合、後日裁判等において、包括条項の適用範囲が厳格に解釈される可能性があります。典型的には、「30日又は1ヶ月欠勤して初めて休職という制度を定めている以上、それと同程度に深刻な状況にあるときでないと、この包括条項は使えない」という解釈が示されるリスクがあります。
この解釈の下では、短期間の欠勤段階における包括条項適用は、「通常の休職要件を満たしていないにもかかわらず、包括条項を濫用して先回りした」との評価を受けかねません。結果として、休職命令そのものの有効性が否定され、休職期間満了による退職の効力も遡って覆される可能性があります。
「お医者さんが休職を要すると書いている」ことだけでは足りない
主治医が「休職を要する」と診断しているのであるから、包括条項を使っても問題はないのではないか、との発想を持たれるかもしれません。しかし、既に述べたとおり、主治医の「休職を要する」は療養の必要性を示す医学的判断であり、会社の休職制度の即時適用を求める趣旨ではありません。
主治医の意思と、会社の休職制度の包括条項の解釈とは、別次元の問題です。主治医が「休職を要する」と記載していても、会社として、就業規則上の原則的要件(欠勤継続期間)を飛ばす積極的根拠にはなりません。主治医の意思に忠実であろうとすれば、むしろ原則的な欠勤期間を経過させる運用の方が、主治医の「療養が必要」との判断と整合します。
原則的な手順の遵守が最も安全
包括条項は、原則的要件の典型パターンに収まらない特殊事案に対応するための予備的規定として位置づけるのが相当です。主治医の「休職を要する」診断書が提出されたという事実は、特殊事案とは評価されないのが通常であり、原則的手順(欠勤前置を経た休職開始)を踏むべき場面に属します。
リスク管理の観点から、まずは所定の欠勤期間を経過させた上で、原則的な休職要件を満たしてから休職をスタートさせる運用が、最も安全な選択となります。どうしても欠勤要件充足前に休職を命じる必要がある特殊事情がある場合には、当該特殊事情を具体的に整理し、弁護士と協議の上で包括条項の適用可否を検討することが不可欠です。自社判断での包括条項適用は避けるべき局面です。
休職命令書の書面化と記載事項
所定の欠勤期間を経過し、就業規則上の休職要件を満たした段階で、会社は休職命令を発することとなります。この休職命令は、必ず書面により行い、本人に交付する必要があります。口頭のみの運用や、本人の「休職申請書」の受理をもって休職が開始したものとする運用は、後日の紛争における深刻なリスク要因となります。
休職命令書に記載すべき事項
休職命令書には、少なくとも以下の事項を明記する必要があります。
①休職の根拠規定。就業規則第何条第何号に基づくものかを特定します。②休職開始日。「何年何月何日から休職を命ずる」と明記します。③休職期間。勤続年数に応じた休職期間を明示します。④休職期間満了日。「何年何月何日まで」と日付を特定します。⑤満了時の効果。「期間満了までに復職できない場合は、自動退職とする(又は解雇する)」旨を明記します。⑥復職の申出方法。何日前までに、どの窓口に、どのような書類を提出して復職を申し出るかの手続を明示します。
特に重要なのが、開始日と満了日が日付として特定されていることです。「開始から3ヶ月」「当分の間」といった曖昧な記載では、後日「満了がいつであるか明確でなかった」との主張を招く原因となります。日付の特定は、本人にとっても、回復計画を立てる上での基準点として重要な情報となります。
バックデートを避ける
実務上見られる問題として、本人の「休職申請書」の日付に合わせて休職命令をバックデートする運用があります。「本人から何月何日付で申請書が出ているから、同日から休職扱いにしておこう」という対応は、会社の意思決定の実際のタイミングと書面上の日付が食い違い、後日争点となる余地を残します。
休職命令は、会社として要件充足を確認し、命令を発した日から効力を生じさせるのが本筋です。命令書の発行日と休職開始日を整合させ、バックデートを行わない運用を徹底してください。本人に対しても、「本日付で休職を命じます」と明示して交付する運用が、紛争予防に資します。
交付方法と受領確認
休職命令書は、本人への確実な交付が必要です。手渡しの場合は、本人の署名押印による受領確認を得る運用が実務上の標準です。本人が既に欠勤で出社していない場合や、受領を拒絶する場合には、配達証明付き郵便又は内容証明郵便により送付し、到達の事実を立証できる形を確保します。
受領確認を得ていない場合、後日「休職命令書を受領していない」「当該条件を説明されていない」との主張を招く可能性があります。交付の事実を立証できる形を整えることが、紛争予防の基本となります。
本人からの休職申請への対応
実務上頻発するもう一つの論点が、本人からの「休職申請書」の提出に対する会社の対応です。主治医の診断書とともに本人から休職を希望する旨の申請が出された場合、会社として、これをどのように取り扱うべきかが問題となります。
本人の申請だけでは休職は開始しない
休職は、就業規則の規定に基づいて会社が命じるものであり、本人の申請のみによって当然に成立するものではありません。本人から休職申請書が提出された場合でも、会社として、就業規則上の休職要件(欠勤継続期間等)が満たされているかを独自に確認する必要があります。
実務では、本人の申請書受理をもって「休職が開始した」と扱ってしまうケースが少なからず見られます。しかし、この運用は、要件充足の会社側確認という本来必要な手続を省略することとなり、後日の紛争において会社側の立証を困難とします。休職開始は、会社が要件充足を確認した上で、会社の意思決定として発する命令によるものであるとの整理を、厳格に守る必要があります。
本人の早期申請が本人の不利益を招く構造
「本人が早く休職したいと言っているのだから、早く開始させてあげた方が本人のためになるのではないか」との発想を持たれるかもしれません。しかし、既に述べたとおり、欠勤前置を飛ばして休職を開始すると、本人の在籍可能期間が短縮される結果となります。本人の早期申請に応じて早期に休職を開始することは、本人が自覚しないまま、制度上保障された保護期間を放棄することを意味します。
会社として、本人の申請に即座に応じるのではなく、「就業規則上の要件を踏まえると、まずは所定の欠勤期間を経てから休職を開始するのが相当である。その間の年次有給休暇・傷病休暇の活用について整理しましょう」と説明する運用が、本人の利益にも適う対応となります。
辞めさせる意図のない会社であっても手順は重要
「当社は本人を辞めさせる意図はなく、本人が望めばいつまでも在籍してもらうつもりである。それなら、厳格な手順を踏まずとも問題ないのではないか」と考える経営者もいらっしゃいます。現時点で辞めさせる意図がない運用であれば、確かに大きな問題は生じないのが通常です。
しかし、将来、会社の方針が変わる可能性、本人が争う姿勢を示す可能性、あるいは後日他の社員について同様の事案が生じた際に運用の一貫性が問われる可能性等を考えると、手順の厳格な遵守は平時から徹底しておくことが相当です。休職期間満了で復職できなければ退職してもらうという運用を徹底する会社においては、曖昧な運用は決定的なリスク要因となります。
当事務所のサポート体制
弁護士法人四谷麹町法律事務所は、会社側(使用者側)の労働問題に特化した法律事務所です。休職開始の判断については、就業規則の休職規定のレビューから、欠勤管理の助言、休職命令書の文案作成、満了時の対応まで、一貫してサポートいたします。
当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。Zoom等のオンライン会議を用いた30分単位の打合せを、欠勤が開始した段階から休職命令の発令、その後の経過観察まで、継続的に実施いたします。「弁護士に依頼する」というより「弁護士と並走する」イメージで、経営者が判断を孤立して抱え込むことがない体制を整えております。
具体的な支援内容
第一に、就業規則の休職規定のレビュー及び改訂提案です。自社の休職規定が実務運用に耐える内容となっているかを点検し、必要に応じて改訂案を提示いたします。
第二に、休職命令書の文案作成・レビューです。根拠規定、開始日、期間、満了日、満了時の効果が適切に盛り込まれた命令書を、事案に即して作成いたします。
第三に、本人への説明内容の事前設計です。休職を命じる旨を伝える際の言葉選び、想定される反応への応答、文書交付の方法等を、事前に整理いたします。
第四に、満了時・紛争化時の対応です。復職判断、期間延長の可否、満了による退職・解雇、労働審判・訴訟対応まで、同じ弁護士チームが一貫して対応いたします。
関連ページ 体調不良・メンタル不調対応の全体像については「体調不良・メンタル不調の社員対応」(柱ページ)、復職判断の詳細については「復職判断の正しい手順」、出社しなくなった社員への対応については「出社しなくなり連絡が取れない社員への対応」もあわせてご参照ください。
よくあるご質問
Q.主治医が「休職を要する」と記載した診断書が提出されました。すぐに休職にしない場合、会社の対応として問題が生じませんか。
A.主治医の「休職を要する」は療養のために休ませる必要があるとの医学的判断であり、会社の休職制度の直ちの適用を求める趣旨ではないのが通常です。休ませる手段としては、年次有給休暇・傷病休暇・欠勤が存在し、これらを段階的に活用することで、本人を休ませつつ制度上の保護を確保することができます。就業規則上の休職要件(例:欠勤1ヶ月継続)を満たしてから休職を開始することが、本人の制度上の保護を守る観点からも、会社の運用の適法性を確保する観点からも、実務上の相当な手順です。
Q.本人から「休職申請書」が提出された場合、そのまま休職扱いにしてよろしいでしょうか。
A.本人の申請のみによって休職が当然に成立するわけではなく、会社として就業規則上の休職要件が満たされているかを独自に確認した上で、休職命令を発するのが本筋です。本人の早期申請に応じて欠勤前置を飛ばすと、本来認められるべき欠勤期間が短縮され、本人の在籍可能期間が不利益に短縮される結果となります。会社として要件充足を確認の上、休職命令書を発行して休職を開始する手順をお勧めいたします。
Q.当社には休職制度がありません。どのように対応すべきでしょうか。
A.休職制度を設けるかどうかは、法律上の義務ではなく会社の判断に委ねられております。制度がない会社においては、「欠勤」として取り扱うのが素直です。年次有給休暇が残存している場合にはまずこれを消化してもらい、その後は欠勤として管理します。欠勤が長期化した場合の雇用契約終了については、個別事案ごとに慎重な判断が必要となりますので、弁護士に相談の上、対応することをお勧めいたします。将来の同種事案への備えとして、休職制度の新設を検討する選択肢もあります。
Q.欠勤日数は、土日祝日を含めて計算するのでしょうか。
A.就業規則の文言に依ります。「引き続き欠勤〇日」の要件が暦日を指すのか所定労働日を指すのかは、規定の文言、会社の慣行、過去の運用実績等を総合的に考慮して解釈されることとなります。自社の就業規則の文言が曖昧である場合には、弁護士に相談の上、解釈を確定させた運用を行うとともに、将来的には条項改訂による明確化を検討することが相当です。
Q.これまで休職命令書を書面で作成したことがありません。口頭の伝達でも問題ないでしょうか。
A.口頭のみの対応は強く推奨されません。書面化を欠くと、「いつから休職が開始したのか」「いつ満了となるのか」が後日不明確となり、休職期間満了による退職の効力が争われるリスクが高まります。本人にとっても、復職までの期限が明確でなければ回復計画を立てることが困難となります。当事務所では、事案に応じた休職命令書の文案作成をサポートしておりますので、ぜひご相談ください。
Q.就業規則の包括条項(「その他前各号に準ずる事由がある時」)を使って、欠勤要件を満たす前に休職命令を出すことは可能でしょうか。
A.形式上は可能ですが、実務上のリスクが高い対応です。後日裁判等において、「30日又は1ヶ月の欠勤と同程度に深刻な状況にあるときでないと包括条項は使えない」との厳格な解釈が示される可能性があります。原則としては、所定の欠勤期間を経過させた上で、原則的な休職要件の下で休職を開始するのが安全です。どうしても欠勤要件充足前の休職を検討する必要がある事案では、特殊事情を整理の上、必ず弁護士と協議してから実行してください。
Q.就業規則の休職規定を見直したいと考えています。どのような点に留意すべきでしょうか。
A.実務で機能する休職規定に必要な要素は、以下のとおりです。①休職開始要件の明確な日数規定(暦日か所定労働日かの明示を含む)、②勤続年数別の休職期間の設計、③休職期間中の再発・再休職の通算規定、④休職期間満了時の効果(自動退職か解雇か)、⑤復職判断の手続規定(産業医面談・試し出社等)。自社規定の点検をご希望の場合は、当事務所で個別にレビューいたします。
Q.当社では本人を辞めさせる意図はありません。それでも厳格な手順を踏む必要があるのでしょうか。
A.現時点で辞めさせる意図がない運用であれば、曖昧な運用でも大きな問題は生じないのが通常です。しかし、将来の会社方針の変更可能性、本人が争う姿勢を示す可能性、他の社員についての同様事案への一貫性の要請等を考えると、手順の厳格な遵守は平時から徹底しておくことが相当です。後日運用を厳格化しようとした際、過去の運用との整合性が問われる場面が生じ得ることにも留意が必要です。
さらに詳しく知りたい方はこちら
- >体調不良・メンタル不調の社員対応【柱ページ】
- >復職判断の正しい手順(「復職可」診断書の落とし穴)
- >出社しなくなり連絡が取れない社員への対応
- >問題社員の退職勧奨【柱ページ】
- >能力不足の社員は解雇できるか【柱ページ】
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
休職開始のタイミングと手順は、
制度運用の安定性を決める重要局面です。
就業規則の確認、欠勤管理の助言、休職命令書の文案作成、満了時対応まで、会社側専門の弁護士が一貫してサポートいたします。オンライン打合せでの継続的な伴走支援も可能です。
最終更新日 2026/04/20