復職判断の正しい手順

 

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復職判断の正しい手順。
「復職可」診断書だけで
復職を認めてはならない理由を解説します。

休職中の社員から「復職可」旨の主治医の診断書が提出されたとしても、これを受けて直ちに復職を認めることは、本人の再休職及び体調悪化を招き、結果的に本人・周囲の社員・会社のいずれにも不利益を生じる対応となり得ます。厚生労働省の手引きにも、主治医の診断は日常生活の回復度に基づくものが多く、業務遂行能力まで回復しているとは限らない旨が明記されています。本ページでは、産業医面談・試し出社・主治医への照会・就労制限付き診断への対応・休職期間満了ギリギリの復職申請への対応まで、会社側専門の弁護士が会社経営者向けに解説いたします。

VIDEO

本ページの基となる解説動画

 

 本ページの解説内容は、以下の藤田進太郎弁護士による解説動画「『復職可』という診断書のみで復職を認めてはいけない理由」を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。

本記事の要点

主治医の「復職可」診断書は、日常生活における病状の回復程度を中心とする医学的判断であり、職場で求められる業務遂行能力まで回復していることを示すものとは限りません。これは厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」にも明記された原則です。復職判断にあたっては、産業医面談、試し出社、主治医への照会、リワーク等を事案に即して組み合わせ、業務遂行能力の回復を客観的に確認した上で判断することが、本人の再休職リスクを低減し、周囲の社員の負担を回避し、会社の安全配慮義務履行にも資する実務の基本となります。

CHAPTER 01

「復職可」診断書の実質的意味

 

 休職中の社員から、主治医の「復職可」旨の診断書が提出されたとき、多くの会社経営者は、「主治医が復職可と診断しているのであるから、そのまま復職させるべきであろう」と反応されます。しかし、主治医の復職可診断書に従って復職させたところ、実際には労務提供ができず、まもなく再休職に至ったという事案は、労働問題を扱う弁護士のもとによく寄せられる類型の相談です。なぜこうした事態が繰り返されるのか、その構造を正確に理解することが、復職判断を組み立てる出発点となります。

主治医が「復職可」と診断する際の判断基準

 主治医は、医学の専門家として、目の前の患者の病状を診断し、治療の方針を立てる立場にあります。復職の可否について判断する際にも、医学的観点からの評価を中心とするのが通常です。具体的には、「日常生活に支障をきたさない程度に病状が回復しているか」「医学的見地から見て、一般的な業務に従事することで病状が悪化するおそれが高いとはいえないか」といった観点からの判断が、「復職可」診断の基礎となります。

 他方、主治医は、患者の職場の業務内容及び負荷を詳細に把握しているわけではないのが通常です。主治医が会社の現場を見に来ることはなく、診療の場において患者から「こういう仕事をしています」という自己申告を聞く程度の情報しか持っていない場合が少なくありません。したがって、主治医の「復職可」診断は、職場における具体的業務遂行能力の回復を証明するものとは限らず、あくまで医学的観点からの一般的評価にとどまるという整理が必要となります。

会社が確認する必要があるのは別の事項

 会社経営者が復職可否の判断にあたって確認する必要があるのは、主治医の評価する事項とは別の事項です。すなわち、「本人の担当業務を、契約で予定された水準で遂行できる状態にあるか」「業務に従事することで本人の病状が悪化しないか」という、職場と業務を踏まえた具体的な就労可能性の評価です。

 この点は、主治医の「復職可」診断とは別次元の評価であり、診断書のみから当然に導かれるものではありません。主治医の診断書を起点としつつも、別途の確認プロセスを経て、職場における業務遂行能力の回復を評価することが、復職可否判断の実質的作業となります。

主治医の立場にも一定の配慮が必要

 主治医は、目の前の患者の主治医として、患者の利益を最優先する立場にあります。「復職できなければ休職期間満了で退職になってしまう。どうしても復職したい」との患者からの切実な訴えに接した場合、医師として心情的に寄り添い、診断書の記載に手心が加えられる可能性が完全に排除されるわけではありません。すべての主治医がそうであるわけではありませんが、構造上、主治医の診断書が会社側の実務判断に直結させる性質のものではないとの整理は、合理的な前提となります。

 これは主治医の判断を軽視する趣旨ではなく、あくまで主治医と会社との役割及び立場の違いを踏まえた整理です。医学的判断として最も重要な情報源は主治医の診断であるものの、会社としての復職判断に結論を直結させる判断材料としては、別途の確認を要するというのが実務の基本姿勢となります。

CHAPTER 02

厚生労働省の手引きが明示する原則

 

 「主治医の復職可診断のみでは復職判断として不十分である」という整理は、一弁護士の独自見解ではなく、厚生労働省の公式ガイドラインに明記された原則です。本章では、当該ガイドラインの該当部分を確認した上で、会社経営者として本原則を踏まえた運用を行うことの実務的意義を整理いたします。

「職場復帰支援の手引き」の該当記載

 厚生労働省が公表する「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」には、次のとおり明記されています。

「主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らない」

 この記載は、実務の実態を正確に表現したものです。主治医の「復職可」診断と、職場における業務遂行能力の回復とは、概念上別個のものとして整理されており、両者が常に一致することを保証するものではありません。会社として、後者について別途の確認を行うことが、厚生労働省のガイドライン上も要請される運用であるといえます。

ガイドラインに基づく説明責任の履行

 この厚生労働省の記載を知っているかどうかで、経営者が自信を持って復職判断を設計できるかが変わります。本人から「主治医が復職可と言っているにもかかわらず、会社が復職を認めないのはおかしいのではないか」との異議を示された場合、「厚生労働省の職場復帰支援の手引きにも、主治医の診断だけでは業務遂行能力まで確認できるものではない旨が明記されております。したがって、会社として追加の確認をさせていただく必要がございます」と説明することが可能となります。

 感覚的な判断や会社独自の運用ではなく、公式ガイドラインに基づく手続であることを示すことができれば、本人との無用な摩擦を避けることができます。本人にとっても、会社の判断の根拠が明確になることで、理解が得られやすくなる効果が期待できます。

ガイドラインが紛争場面で持つ意味

 復職を認めないとの判断を行った結果、休職期間満了による退職・解雇となり、本人が争う姿勢を示した場合にも、厚生労働省のガイドラインに即した確認プロセスを経ていたという事実は、会社側の判断の合理性を基礎づける重要な事情となります。産業医面談、試し出社、主治医照会等の確認手段を組み合わせた上での判断であれば、「会社は主治医の判断を無視したのではなく、公式ガイドラインに沿った確認を行った上で判断している」旨の立証が可能となります。

CHAPTER 03

主治医と産業医の立場の違い

 

 復職判断において決定的な意味を持つのが、主治医と産業医の立場の違いを正確に理解することです。両者は共に医師ですが、労働者との関係及び職場との関係が大きく異なり、それぞれの診断が持つ意味も異なります。

主治医の立場

 主治医は、患者である本人の治療を担当する医師です。患者の利益を最優先する立場にあり、病気の診断、治療方針の決定、処方、経過観察といった医療行為を通じて、患者の健康回復を目的とした関与を行います。

 主治医の特徴は、本人の病状及び治療経過について最も詳しい情報を有している点にあります。他方、職場の業務内容、職場環境、業務負荷といった情報については、本人からの自己申告以上のものを有していないのが通常です。復職可否の判断においても、職場における具体的な業務遂行能力ではなく、日常生活レベルでの回復度合いが判断の中心となりがちです。

産業医の立場

 産業医は、労働安全衛生法に基づき会社に選任され、職場における労働者の健康管理を担当する医師です。常時50人以上の労働者を使用する事業場では選任が義務付けられており、50人未満の事業場でもスポット契約や嘱託契約による関与が可能です。

 産業医の特徴は、職場に定期的に来所し、職場の実際の業務内容及び環境を把握している点にあります。医学の専門家としての医療知識と、職場に関する具体的情報との両方を有していることから、「この病状及び回復程度で、この業務を遂行することが可能か」「この業務を遂行することで病状が悪化するおそれはないか」という、職場と業務を踏まえた具体的な医学的判断が可能となります。

 復職判断において、職場と医学の両方を踏まえた意見を述べることができる唯一の専門家が産業医であるといっても過言ではありません。

両者の意見が一致しない場合

 主治医が「復職可」、産業医が「復職不可」と意見が分かれる場合も、実務上珍しくありません。この場合、どちらか一方を機械的に優先するのではなく、確認作業を継続して、どちらの信用性が高いかを慎重に検討するのが実務の基本です。

 具体的には、主治医への照会による判断根拠の明確化、産業医による追加の面談及び観察、試し出社による実際の就労可能性の確認といった、追加的な確認手段を組み合わせて総合判断に進みます。両者の意見が分かれたまま会社が独自に判断を下すのではなく、確認作業の積み重ねにより判断の精度を高める運用が、後日の紛争予防にも資します。

CHAPTER 04

産業医面談の活用

 

 復職判断における最も重要な確認手段が、産業医面談です。主治医の「復職可」診断書を受けたら、まず産業医面談を設定することが、実務上の基本手順となります。

産業医面談における確認事項

 産業医面談では、本人の現在の病状及び回復度合いに加え、職場の具体的業務との関係での就労可能性を確認します。会社側からは、本人の担当業務の具体的内容、業務負荷、想定される就労環境について事前に産業医に情報提供を行い、面談の場で産業医が本人の状態と業務内容を突き合わせて評価できる準備を整えます。

 産業医からは、「現在の病状からすると、この業務は遂行可能であると考える」「出張及び残業については当面避けることが相当である」「短時間勤務から段階的に業務量を戻すことが望ましい」といった、職場と業務を踏まえた具体的な医学的意見を求めます。これが復職可否判断の中核的な判断材料となります。

良い産業医の条件と避けるべき対応

 産業医の個々の対応の質には差があり、会社としてどの産業医に関与してもらうかは重要な選択となります。良い産業医は、目の前の事実をしっかり観察し、医学的知見に基づく独自の意見を述べる産業医です。本人の様子を丁寧に観察し、業務内容と医学的評価を結び付けて、自分の言葉で意見を述べることができる医師が、実務上有益な産業医といえます。

 他方、避けるべきは、「主治医の先生がそう仰るのならそうでしょう」と、事実確認と医学的判断を放棄するタイプの産業医です。この対応では、産業医を置く意味が薄れ、会社は独自の医学的判断を得ることができません。産業医を選定又は見直す際には、事前の面談を通じて、事実観察と医学的意見の両面で適切な判断を示す医師かを確認することをお勧めいたします。

専門外の病気でも一次判断は可能

 産業医が本人の不調領域を専門としていないケースもあります。メンタル系疾患については「私は専門外である」と述べる産業医も存在します。そのような場合でも、プロの医師として、「これは何らかの病気の影響があると疑われる」「専門医の診察を受けるのが相当である」といった一次判断は可能です。この一次判断に基づき、産業医から専門医への紹介状を取得し、専門医の意見を追加で得るというルートを確立できれば、医学的連携体制として十分機能します。

 産業医が専門外であることを理由に判断を放棄するのではなく、専門外でも可能な範囲での一次判断を求め、必要に応じて専門医へのリレーを活用する運用が、実務上の基本となります。

産業医のいない会社における代替手段

 常時50人未満の事業場では産業医の選任義務はなく、産業医を有していない会社も少なくありません。このような会社では、以下のような代替手段を検討します。スポット契約や嘱託契約による産業医の関与依頼、地域産業保健センターの活用、本人同意を得た上での主治医への会社からの照会等です。いずれの手段についても、医学的意見を得るルートを確保することが復職判断の出発点となりますので、当事務所では、案件ごとに適切な医療職との連携方法をご提案することも可能です。

CHAPTER 05

試し出社の設計と観察ポイント

 

 書面上の診断書や面談のみでは確認しきれない就労可能性を、実際の行動で確認する手段が試し出社です。正式な復職の前段階として、通勤、在席、簡易業務の遂行等を段階的に試行させることにより、客観的な就労可能性を評価します。

朝の定時出勤が最も重要な観察ポイント

 試し出社における観察ポイントは複数ありますが、最も重要なのが始業時刻に合わせた定時出勤が安定的に可能かという点です。特にメンタル不調から回復途上の社員にとっては、朝の時間帯が最も負担の大きい場面であり、朝の定時出勤の安定性は回復度合いを客観的に示す重要な指標となります。

 「昼以降であれば出社できる」「何時からでも良いのであれば通勤可能」というレベルでは、実務の業務遂行に耐えられない可能性があります。始業時刻に合わせた生活リズムが整い、かつ継続的に維持できる状態かどうかが、復職可否を左右する一つの基準となります。朝の定時出勤ができるレベルにまで回復していれば、回復がかなり進んでいると評価できる場面が多くなります。

段階的な試し出社の設計

 試し出社は、いきなり本格的な業務を課すのではなく、段階的に設計することが相当です。典型的には、以下のような段階を踏みます。

 第一段階として、朝の定時出勤と在席の確認を数日間実施します。職場に定時に到着し、一定時間在席できるかを観察します。第二段階として、軽易な業務への従事を試行します。書類整理、資料読み込み、メール確認等の、集中力を要しすぎない業務を担当させ、業務遂行の様子を観察します。第三段階として、本格業務への段階的移行を試行します。担当業務の一部を実際に担当させ、業務遂行能力の回復度合いを確認します。

 各段階で、出勤の安定性、在席時間の維持、集中力、対人コミュニケーション、業務内容の理解力、業務量のこなし方等を観察します。単に「休まず来られるか」だけでなく、業務に従事する上での各要素が整っているかを多角的に確認することが、試し出社の意義です。

試し出社期間の法的性質と賃金の取扱い

 試し出社は、復職前のリハビリ出社として位置づけられる場合が多くありますが、試し出社期間が労働時間として扱われるか、賃金支払義務が発生するかについては、注意を要する論点です。業務の内容、会社の関与度合い、本人の裁量の有無等によって、労働時間性の判断が分かれます。

 完全にリハビリ目的であり、業務指示を出さず、本人の裁量で試行する形であれば無給扱いが可能な場合もありますが、実態として業務をさせていると評価される場合には賃金支払義務が生じます。運用実態と書面上の位置づけが食い違うと、後日のトラブルの原因となるため、試し出社の制度設計は就業規則又は運用ルールで明確化しておくことが相当です。導入にあたっては、弁護士と相談して設計することをお勧めいたします。

CHAPTER 06

主治医への照会とリワークの活用

 

 産業医面談及び試し出社と並ぶ復職判断の確認手段として、主治医への照会及びリワークプログラムの活用があります。事案の性質に応じて、これらを組み合わせることで、判断の精度を一層高めることができます。

主治医への書面照会

 本人の同意を得た上で、産業医を通じて、又は会社から直接、主治医に対し書面による照会を行う手段があります。照会にあたっては、漠然と「復職可能かどうか」を問うのではなく、会社の業務内容を具体的に示した上で、当該業務との関係での就労可能性を問うことが重要です。

 例として、「当社における本人の担当業務は、午前9時から午後6時までの勤務で、取引先との電話対応、月5日程度の出張、月20時間程度の残業を含むものです。現在の病状で、これらの業務を遂行することは可能でしょうか」といった具体性で照会します。プロの医師として、業務内容を具体的に示された場合には、当該業務との関係で病状を評価した回答が返ってくることが多いものです。「復職可」という漠然とした診断書とは異なり、業務内容を踏まえた具体的な医学的意見を得ることができます。

本人の同意を得た主治医面談

 さらに踏み込んだ確認手段として、本人の同意を得た上で、会社の担当者が主治医と直接面談する手段もあります。診察時に同席する、別途面談の機会を得る等の形式があります。

 本人がこの面談に同意を拒絶する場合、同意拒絶の事実自体が復職判断における一つの考慮要素となります。やましいことがなければ、主治医も本人も面談に応じるのが通常であり、拒絶の合理的理由が示されない場合には、復職判断にあたって慎重な姿勢が相当であると評価できる場合があります。

リワークプログラムの活用

 メンタル不調からの回復途上にある社員に対しては、リワークプログラムの活用も有効な選択肢です。地域障害者職業センター、医療機関等が提供する職場復帰支援プログラムであり、本格的な復職の前に、職場復帰に向けた生活リズムや業務遂行力を段階的に整える場を提供しています。

 リワーク修了の可否、プログラム中の観察内容、専門機関による所見は、復職可否の客観的判断材料として重要な意味を持ちます。会社側の独自観察のみに依拠するのではなく、第三者専門機関の評価を得られる点で、判断の説得力が増します。特に長期のメンタル不調からの復職事案では、リワーク活用を積極的に検討することが実務上相当です。

CHAPTER 07

就労制限付き「復職可」診断への対応

 

 主治医の診断書には、「復職可」の記載とともに就労制限が付されている場合があります。「出張は避けることが望ましい」「残業は禁止すべきである」「当面は短時間勤務とすること」といった条件付きの復職可診断です。この類型の診断書への対応は、復職判断における微妙な論点の一つとなります。

就労制限の内容が社会通念上相当か

 就労制限付きの「復職可」診断への対応の基本判断軸は、制限の内容が社会通念上相当な範囲に収まっているかです。本人の担当業務、雇用契約で予定された労務内容、事業の運営上の必要性等に照らして、制限内容が合理的範囲に収まっているかを検討します。

 合理的範囲の制限であれば、会社として受け入れた上で復職を認める運用が相当です。他方、制限が過大で、雇用契約で予定された労務提供が実質的に行えない状態と評価される場合には、復職を認めないとの判断もあり得ます。個別事案ごとに、制限の内容と業務の性質を照らし合わせた慎重な検討が必要となります。

短時間勤務の期間と程度

 短時間勤務の就労制限が付されている場合、期間と程度がどの範囲まで許容可能かが検討ポイントとなります。実務感覚としては、3ヶ月程度のリハビリ期間としての短時間勤務であれば、受け入れる余地があります。1日2時間程度短い就労時間も、短期であればやむを得ない場合があります。

 他方、1年、2年と継続する短時間勤務は、雇用契約で予定された労務提供が継続的にできない状態として、受け入れが困難となる場面が多くなります。期間と程度の両面から、制限が回復途上の一時的なものか、恒常的なものかを見極めた上で判断します。

出張及び残業の制限への対応

 出張又は残業の就労制限については、本人の業務内容における出張・残業の位置づけを踏まえた判断となります。出張がほとんどない業務であれば、出張不可の制限は実質的な支障を生じません。他方、出張又は残業が業務の中核を占める職種において「一切不可」との制限が付された場合には、復職を認めることが困難となる場面が出てきます。

 同様に、残業についても、通常の業務遂行上ほぼ発生しない会社であれば残業不可の制限は問題となりませんが、業務の性質上残業が不可避となる職種では、制限の受入可能性が異なります。業務の具体的内容と制限内容を照らし合わせた個別判断が不可欠です。

就労制限が過大な場合の復職判断

 制限内容が過大で、雇用契約で予定された労務提供が実質的に不可能な状態にある場合、復職を認めないとの判断もあり得ます。この場合、本人に対しては「主治医の診断書に付された就労制限内容が、当社で本人にお願いしている業務との関係で過大であり、現時点では復職を認めることが困難です」との説明を丁寧に行い、必要に応じて休職期間の延長や、段階的な業務復帰の可能性を検討します。

 この局面は、後日の紛争リスクが高い局面の一つです。判断に至る経緯を書面で整理し、弁護士と並走しての判断を行うことを強くお勧めいたします。

CHAPTER 08

休職期間満了ギリギリの復職申請への対応

 

 復職判断の局面でとりわけ慎重な対応が求められるのが、休職期間満了直前に本人から「復職可」診断書が提出される事案です。休職期間満了までに復職できなければ自動退職又は解雇となる運用がほとんどであるため、本人として満了直前の復職申請に出るのは、ある意味で合理的な行動でもあります。

ギリギリの申請ほど慎重な確認が必要

 この局面で注意すべき実務上のポイントは、「復職可」診断書が提出されたからといって、直ちに復職を認めてはならないことです。通常の復職判断に必要な確認プロセス(産業医面談、試し出社、主治医への照会等)を経ずに復職を認めれば、実際には回復していない本人を職場に戻す結果となり、本人・周囲・会社のいずれにも不利益が生じます。

 満了ギリギリのタイミングで「復職可」診断書が提出されたという事実は、むしろ本当に業務遂行能力まで回復しているかを慎重に確認する必要性を高める要素として評価されます。「満了までに復職しなければ退職になる」という時的プレッシャーの下で主治医に復職可診断を求めている可能性も否定できないため、通常の復職事案以上に、追加の確認プロセスを経る運用が相当です。

休職期間の延長も選択肢

 満了までに復職可否の判断が間に合わない場合、休職期間の延長も選択肢として検討されます。就業規則に延長規定がある会社では、一定期間の延長を命じて、その間に産業医面談・試し出社等の確認を進める運用が可能です。

 就業規則に延長規定がない場合であっても、本人との個別合意により休職期間を延長することが可能な場合があります。延長の可否及び方法は、自社の就業規則の文言、事案の具体的状況、本人との合意形成の可能性等を踏まえて、弁護士と協議の上で判断することが相当です。

復職を認めないとの判断に至った場合

 確認作業の結果、業務遂行能力が十分に回復していないとの判断に至った場合、休職期間満了による自動退職又は解雇の手続に進みます。この局面は、本人が争う姿勢を示す可能性が最も高い局面の一つであり、慎重な手続と書面化が不可欠です。

 「なぜ復職を認めなかったのか」について、産業医の意見書、試し出社の観察記録、主治医への照会結果、厚労省手引きに即した判断プロセスの整理等、判断の根拠となる資料を整備しておきます。労働審判又は訴訟が提起された場合に、会社側の判断の合理性を立証する基礎となります。この局面は、事案発生時から弁護士と並走して対応することが、実務上のリスク管理として不可欠です。

実務上の留意点 休職期間満了直前の復職申請は、紛争化リスクが最も高い局面の一つです。満了時期が近づく前の早い段階から、復職可否判断の確認プロセスを計画的に進める運用が望ましいといえます。

CHAPTER 09

当事務所のサポート体制

 

 弁護士法人四谷麹町法律事務所は、会社側(使用者側)の労働問題に特化した法律事務所です。復職判断の局面では、産業医面談の設計、主治医への照会文面作成、試し出社の制度設計、休職期間満了時の退職手続、紛争化した場合の労働審判・訴訟対応まで、一貫してサポートいたします。

 当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的伴走支援を多く採用しております。復職申請が出された段階から、復職可否の最終判断、満了時の対応まで、Zoom等を用いた30分単位の打合せを随時実施し、局面ごとに具体的助言を重ねていきます。「弁護士に依頼する」というより「弁護士と並走する」イメージで、経営者が判断を孤立して抱え込むことがない体制を整えております。

具体的な支援内容

 第一に、復職可否判断の支援です。主治医の診断書、産業医の意見、試し出社の結果、就労制限の内容等を総合して、復職を認めるべきか、休職期間を延長すべきか、満了退職とすべきかの判断を、事案に即して助言いたします。

 第二に、主治医照会文書の作成・レビューです。本人の業務内容を踏まえた適切な問いかけを設計し、実効性のある主治医照会を行うための文面を作成いたします。

 第三に、試し出社の制度設計です。期間、業務内容、賃金の取扱い、観察項目、終了基準等を整理し、就業規則又は運用ルールとして整備いたします。

 第四に、休職期間満了時の手続支援と紛争対応です。退職通知書の文案、労働審判・訴訟対応まで、事案発生当初から対応してきた同じ弁護士チームが一貫して対応いたします。

関連ページ 体調不良・メンタル不調対応の全体像については「体調不良・メンタル不調の社員対応」(柱ページ)、休職開始時の判断手順については「休職開始の判断」、出社しなくなった社員への対応については「出社しなくなり連絡が取れない社員への対応」もあわせてご参照ください。

Q & A

よくあるご質問

 

Q.主治医が「復職可」と診断しているにもかかわらず、復職を認めないことは違法となるのでしょうか。

A.主治医の「復職可」診断書があっても、会社として追加的な確認を行うこと自体が違法となるものではありません。厚生労働省の職場復帰支援の手引きにも、主治医の診断は日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らない旨が明記されております。産業医面談、試し出社、主治医への照会等を組み合わせて復職可否を慎重に判断することは、むしろ本人の再休職リスクを低減する相当な対応として評価されます。

Q.当社には産業医がおりません。どのように対応すべきでしょうか。

A.常時50人未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、スポット契約や嘱託契約による産業医の関与、地域産業保健センターによる医師面談の活用等の選択肢があります。また、本人の同意を得た上で主治医に対し会社の業務内容を具体的に示した書面照会を行い、業務遂行能力について意見を求める方法もあります。当事務所では、案件ごとに適切な医療職との連携方法をご提案することも可能です。

Q.試し出社期間中の賃金はどのように取り扱えばよろしいでしょうか。

A.試し出社の賃金の取扱いは、業務の内容及び会社の関与度合いに応じて異なります。完全にリハビリ目的であり業務指示を出さない場合には無給扱いが可能な場合もありますが、実態として業務をさせていると評価される場合には賃金支払義務が発生します。運用実態と書面上の位置づけが食い違うと後日のトラブルの原因となるため、試し出社の制度設計は就業規則又は運用ルールで明確化しておくことが相当です。

Q.主治医が「残業禁止」「出張禁止」と記載している場合、必ず守らなければならないのでしょうか。

A.主治医の記載は医学的判断として尊重すべきですが、就労制限の内容が社会通念上相当か、本人の業務遂行と両立するかが実務上の判断軸となります。合理的範囲の制限であれば受け入れて復職を認めるのが相当ですが、制限が過大で労働契約で予定された労務提供が実質的に不可能と評価される場合には、復職を認めないとの判断もあり得ます。業務の具体的内容と制限内容を照らし合わせた個別事案ごとの慎重な検討が必要です。

Q.復職後すぐに再度休みがちとなった場合、どのように対応すべきでしょうか。

A.復職後間もない再休職事案は実務では珍しくありません。この場合、まず就業規則の「再休職の通算規定」の有無を確認します。通算規定があれば、復職前の休職期間と通算した休職期間満了までの対応となります。通算規定がない場合、新たな休職期間として扱うか否かの解釈が分かれますので、弁護士と協議の上での対応が必要です。また、そもそも復職判断に問題がなかったかを振り返り、次の復職申請時にはより慎重な確認プロセスを組むことが相当です。

Q.休職期間満了の直前に復職申請が出されました。時間が足りません。

A.就業規則に休職期間延長の規定がある場合には、延長を命じて確認プロセスの時間を確保することを検討します。延長規定がない場合でも、本人との個別合意により期間延長することが可能な場合があります。いずれにせよ、満了ギリギリで「復職可」診断書が提出されたという事実は、本当に回復しているかをより慎重に確認する必要性を高める要素です。直ちに復職を認めるのではなく、確認プロセスを優先してください。

Q.本人が主治医面談への同意を拒絶しました。どのように取り扱えばよろしいでしょうか。

A.主治医面談は本人の同意がなければ実施できません。ただし、本人が拒絶したという事実自体が、復職判断における一つの考慮要素となります。やましいことがなければ主治医も本人も面談に応じるのが自然であり、拒絶の合理的理由が示されない場合には、復職判断にあたって慎重な姿勢をとることが相当です。拒絶の理由を丁寧に聴取した上で、産業医面談、試し出社、書面による主治医照会等の他の確認手段を組み合わせて、判断を進めることとなります。

Q.復職を認めないとの判断を行った場合、本人から争われる可能性はどの程度ですか。

A.休職期間満了による退職又は解雇を争う労働審判・訴訟は、一定の確率で発生します。ただし、産業医面談・試し出社・主治医照会等の確認プロセスを経て、業務遂行能力が回復していないことを合理的に示せる事案であれば、会社側の判断が認められる可能性は十分にあります。重要なのは、判断根拠を書面で整理しておくことです。判断プロセスの各段階で弁護士と並走しておけば、仮に紛争化しても同じチームで一貫した対応が可能となります。

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SUPERVISOR 弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 
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最終更新日 2026/04/20