健康・介護・賃金減額・退職勧奨後の人事異動の注意点

 

FOR COMPANY OWNERS

健康・介護・賃金減額・退職勧奨後の
人事異動の注意点。
特殊事情を伴う人事異動のリスクと対処法を
会社側専門の弁護士が解説します。

 社員の健康・家族の介護事情がある場合の転勤対応、退職勧奨を断られた直後の人事異動、賃金の大幅減額を伴う人事異動は、通常の配置転換よりも法的リスクが高まる特殊な場面です。それぞれについて、どのような点に注意し、どのように進めればよいかを会社側専門の弁護士が解説します。

VIDEO

弁護士藤田進太郎による解説動画

 

 本ページは、当事務所代表弁護士藤田進太郎による解説動画「転勤させようと考えている社員本人が健康上の問題を抱えている場合や、社員の家族の介護が必要な状況にある場合の対応」ほかを素材として文章化したものです。

本ページの要点

 特殊事情を伴う人事異動には、それぞれ固有のリスクがあります。健康・介護事情がある社員への転勤命令は、育児介護休業法26条の配慮義務との関係に注意が必要で、まず具体的な事情をよく聞くことが最も重要です。退職勧奨を断られた直後の人事異動は、社長に悪気がなくても「不当な動機目的あり」と客観的に評価されるリスクがあり、退職勧奨の場で人事異動の選択肢もあわせて提案するやり方が有効です。賃金の大幅減額を伴う人事異動は、就業規則・雇用契約で役職と賃金の関係を明確に定めておくことと、過去からの同様の取り扱いの有無が、有効性判断の鍵となります。

CHAPTER 01

社員の健康・介護事情を踏まえた転勤対応

 

育児介護休業法26条の配慮義務

 転勤を命じようとしている社員が健康上の問題を抱えていたり、家族に介護が必要な方がいたりする場合は、通常の転勤命令より慎重な対応が必要です。育児介護休業法26条には、労働者の配置の変更で就業の場所が変わる場合において、その就業の場所の変更により就業しつつ、子の養育または家族の介護を行うことが困難とならないよう、当該労働者の状況に配慮しなければならない、という規定があります。

 この配慮義務があるにもかかわらず、聞きもしないで転勤命令を出したということになると、権限の乱用だと言われるリスクが以前よりも高まっています。

まず具体的な事情をよく聞く

 健康・介護事情がある場合の対応として最も大事なのは、具体的な事情をよく聞くことです。本人が「体調が悪いので転勤できません」「介護が必要な家族がいます」と言ってきたら、どういう状況にあるのかをしっかり聞かせてもらいましょう。聞く姿勢を見せることが、事情を丁寧に把握するためにとても大事です。

 「体調が悪い」ということであれば、どういうことなのか、診断書などの資料を出してもらえるか、といったことを確認します。「家族の介護が必要」ということであれば、具体的にどのような状況にあるのかを聞かせてもらいましょう。プライバシーに関わりそうな情報かもしれませんが、聞いてはいけないというものではありませんし、ここで聞いておくことが後の判断の根拠になります。

聞いた上で判断する:大きな失敗はしにくい

 具体的な事情を聞いた上で判断すれば、大きな失敗はしにくくなります。一方、聞きもしないで判断すると、後でトラブルになることが多いのです。「聞いた上でどうするか決めていきます」という姿勢でやっていけば大体うまくいきます。また、「健康・介護の事情があると言われたから転勤させられない」と即断するのも安易です。具体的な事情を把握した上で、本当に転勤が難しい状況なのかどうかを個別に判断することが求められます。

無理に転勤させようとした場合のリスク

 本当に転勤できない状況にある社員に対して無理に転勤命令を出した場合のリスクは大きいです。転勤命令が無効とされた場合、転勤先で働いてもらえないのに給料を払い続けなければならないということになってしまいます。また、会社の名誉・信用にも大きなマイナスとなりかねませんし、優秀な人材が流出してしまうという損失も伴います。個別具体的な事情を踏まえた判断が難しいと感じた場合は、弁護士に相談しながら対応していくことをお勧めします。

CHAPTER 02

退職勧奨を断られた後に人事異動を行う場合の注意点

 

トラブルが多い場面:退職勧奨→断られる→人事異動

 退職勧奨を断られた後に人事異動を行うことは、非常にトラブルが多い場面です。例えば、特定の支店がなくなったので他で働きたいとは思わないだろうと考えて辞めてもらう話をした場合。あるいは、この仕事に向いていないから転職した方がいい人生を送れるのではないかと考えて辞めてもらう話をした場合。周りとトラブルを起こすので人間関係がめちゃくちゃになってしまい、ここにいても周りと協調してやっていけないから辞めてもらった方が本人のためにもなると考えた場合。

 退職勧奨を断られた後に「では別の支店に移ってください」「別の仕事をやってください」と言うと、労働者の立場からすれば「辞めてくれという提案を断ったら、嫌がらせで他に移されたんだ」「やりたくもない仕事をやらされたんだ」と受け止められることが本当に多いのです。

社長に悪気がなくても不当な動機目的と客観的に評価される

 経営者の立場からすれば、悪気も何もありません。本人が辞めたくないと言うから、今のままここに置いておくわけにはいかないので、別の場所で働いてもらうか別の仕事をやってもらうしかない。ただそれだけの話だったりするわけです。

 ところが労働者の立場になってみると、辞めてくださいという提案を断ったら、通勤時間の遠い場所で働いてくれだとか、馴染みのない自分のキャリアとは関係ない仕事をやらされて、この会社にいてもしょうがないなと思わせて辞めさせようとしているのだ、と受け止める方が本当に多いのです。社長に悪気がなくても、この評価がなされてしまうということです。従って、トラブルになりやすく、裁判を起こされた場合に「不当な動機目的による配転だ」と主張されて苦戦することが多いです。

対策:退職勧奨の場で人事異動の選択肢もあわせてパッケージで提案する

 この問題への対策として有効なのは、退職勧奨の場で、もし残るなら別の仕事・別の場所もありますよ、という形で人事異動の選択肢もあわせてパッケージで提案するやり方です。「退職という選択肢と、こういう条件で残るという選択肢がありますが、どうしますか」という形で提案しておくのです。こうすることで、後から人事異動を行う場合でも、退職勧奨の際に既に選択肢として提示していたものですという説明ができ、リスクが大幅に下がります。

丁寧に話す:お客様に接するのと同じ心構えで

 退職勧奨の場では、相手の立場に立って丁寧に話すことが大事です。相手はこう思っているに決まっているということを念頭に置いて、神経を使ってください。お客様に対して契約を取るために話す言葉と同じぐらいの心構えで臨んでいただくのが良いと思います。具体的にどうしてそのような提案をするのかを具体的に説明し、相手が尊重された気持ちになるような話し方をしていく。こういった作業をきちんと行うと、うまくいくことが多いです。弁護士に相談しながら、どんな言葉を使ってどんな提案をするのかを事前に整理した上で臨むことをお勧めします。

CHAPTER 03

賃金の大幅減額を伴う人事異動の注意点

 

賃金減額を伴う人事異動はトラブルが多い

 賃金の大幅減額を伴う人事異動は、とにかくトラブルが多いです。経営者の立場からすれば、やる仕事が変わったのだから賃金が下がるのは当然と考えますよね。仕事の中身が変わったり責任が軽くなったりしているのだから、それに見合った給料にするのが当然でフェアだと考えるのが普通です。

 ところが働く側からすると、そもそも給料が減ると生活に困る方が多いのです。生活自体は何とかやっていけたとしても、前より給料が下がった状態で気持ちが穏やかでいられる人はあまりいません。一定のお金をもらえると思うからそれを当てにしてこの会社に勤めているわけです。給料が変わらないのであれば部署が変わろうが担当業務が変わろうがある程度は我慢しますよという人はまだまだ結構いらっしゃいますが、給料が下がるとなるとトラブルが多くなりやすいのです。

就業規則・雇用契約で役職と賃金の関係を明確に定めておく

 賃金の大幅減額を伴う人事異動を適法に行うための重要なポイントは、就業規則や雇用契約において、役職と賃金の関係をあらかじめ明確に定めておくことです。しっかりルールを定めて、それが過去から普通に運用されてきて、その前提で入社している人ばかりだという会社であれば、「そんなのうちの会社では普通ですよ。仕事が変われば給料が上がったり下がったりするのは普通ですよ」とみんなに納得してもらえます。

 逆に、役職と賃金の関係が就業規則等に明確に定められていない場合は、「役職が変わったのだから給料も変えていい」という説明が通りにくくなります。給料が下がるケースがあまり多くないという会社では、当てが外れる形になり、「なんかこれおかしいんじゃないか」と弁護士や合同労組に相談に行く方が普通にいらっしゃいます。

過去から同様の扱いを続けてきた会社は認められやすい

 ずっと過去から同じような賃金減額を伴う人事異動を繰り返し行ってきた実態がある会社であれば、それが会社の通常の扱いとして認められやすくなります。一方、これまでそういった扱いをほとんどしたことがない会社が、いきなり賃金の大幅減額を伴う人事異動を行おうとすると、ハードルが高くなります。普段から、役職に応じた賃金体系を就業規則で定め、その運用実績を積み重ねておくことが中長期的な人事管理の観点からも重要です。

説明を丁寧かつ具体的に行う

 賃金が下がる人事異動を行う際は、抽象的な説明で終わらせてはいけません。なぜ今回の人事異動が必要なのか、賃金がどのような制度のもとでどう変わるのかを具体的に説明する必要があります。就業規則の規定を示しながら、こういう制度になっていますという説明をきちんと行い、口頭だけでなく書面でも渡すのが良いでしょう。

 給料減額さえしなければなんとかなるケースはまだまだたくさんあります。しかし給料を減額した場合はトラブルが多いと認識して、ガードを固めて対応していく必要があります。本当に危ないなと思ったら弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。

弁護士 藤田 進太郎

監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、人事異動・配置転換トラブル、問題社員対応、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。特殊事情を伴う人事異動でお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

特殊事情を伴う人事異動でお悩みの会社経営者の皆様へ

健康・介護・賃金減額・退職勧奨後の人事異動の具体的な対応について、会社側専門の弁護士がアドバイスします。

経営労働相談のお問い合わせ

FAQ

よくあるご質問

 

Q. 転勤を命じようとしたら、社員に「家族の介護があるので行けない」と言われました。どうすればよいですか。

 まず具体的な事情をよく聞いてください。どのような介護の状況にあるのかを確認し、必要であれば資料の提出を求めることも構いません。聞く姿勢を見せることが重要です。育児介護休業法26条には転勤に際して育児・介護が困難とならないよう配慮する義務がありますが、だからといって転勤命令が常に不可能になるわけではありません。具体的な事情を把握した上で、転勤命令を出すかどうかを個別に判断してください。聞きもしないで命令すると後でトラブルになります。

Q. 社員の健康上の問題を理由に転勤を断られた場合、強行できますか。

 本当に健康上の問題がある状態で無理に転勤させた場合、転勤命令が権限の乱用として無効とされるリスクがあります。命令が無効とされると、転勤先で働いてもらえないのに給料を払い続けなければならないという状況になりかねません。具体的な状況を把握した上で、判断が難しい場合は弁護士に相談することをお勧めします。

Q. 退職勧奨を断った社員に人事異動を命じることはできますか。

 法的には可能な場合でも、退職勧奨を断られた直後に人事異動を行うと「報復・嫌がらせとして追い込もうとした」と客観的に評価されるリスクがあります。社長に悪気がなくても、外から見てそう評価されてしまいます。有効な対策は、退職勧奨の場で「退職するか、こういう条件で残るか」という形で人事異動の選択肢もあわせてパッケージで提案することです。

Q. 部長から課長に降格させ、給料を下げることはできますか。

 就業規則・雇用契約で役職と賃金の関係が明確に定められており、過去から同様の取り扱いを行ってきた実績がある場合は、認められやすくなります。しかし、役職と賃金の対応関係が就業規則等に明確でない場合や、これまでそのような取り扱いの実績がほとんどない場合は、ハードルが高くなります。賃金の大幅減額を伴う人事異動を行う際は、事前に弁護士に相談することをお勧めします。

Q. 賃金が下がる人事異動を行う際の説明はどうすればよいですか。

 抽象的な説明で終わらせてはいけません。なぜ今回の人事異動が必要なのか、賃金がどのような制度のもとでどう変わるのかを具体的に説明してください。就業規則の規定を示しながら制度の説明をし、口頭だけでなく書面でも渡すことが望ましいです。丁寧かつ具体的な説明が、後のトラブルを防ぐ上で重要です。

Q. 遠方の会社ですが、相談できますか。

 対応しております。事務所会議室での対面相談のほか、ZoomやTeamsによるオンライン相談を実施しており、日本全国各地の会社経営者からのご相談を承っています。特殊事情を伴う人事異動は個別の判断が特に重要で、早めにご相談いただくことをお勧めします。

RELATED

関連ページ

 
人事異動・配置転換トラブル対応の総合解説 命令の有効性・前例のない人事異動・東亜ペイント事件の3要素まで 転勤・配置転換を拒否する社員への対処法 配転命令の有効要件・解雇の注意点まで詳しく解説
能力不足社員・問題社員の配置転換 受入先がない場合・高圧的な社員への対処まで 問題社員(モンスター社員)対応の総合解説 注意指導から懲戒処分・解雇までの実務対応の全体像


Return to Top ▲Return to Top ▲