問題社員343 セクハラ加害者から「逆ハラスメント」と抗議された。
動画解説
この記事の要点
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被害者側への配慮を求めること自体は問題ない。ただし伝え方に注意する 感情的な言葉はそのまま伝えず、客観的な表現に言い換える |
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「同席した」の中身を丁寧に事実確認してから、踏み込みの程度を決める つきまといなのか、たまたま居合わせただけなのかで対応は大きく変わる |
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当初のセクハラの重さと、会社の対応(注意の程度・懲戒処分)を整合させておく ちぐはぐだと、その後の対応も本人に納得してもらいにくくなる |
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他に配置できる職場がなくても、できる範囲でやりくりを尽くす 解雇できるほど重大でなくても、放置してよい問題ではない |
目次
1. 「逆ハラスメント」と抗議されたという場面
セクハラをした男性に上長から注意したうえで、被害者の女性と担当業務を切り離した。しかし、他に職場がないこともあり、同じ場に居合わせることがある。セクハラから半年ほど経ったころ、被害者の女性から「その男性と一緒にいるだけで気持ち悪くなるので、できるだけ近づかないようにしてほしい」との訴えがあったので、加害者の男性に伝えたところ、「逆ハラスメントだ」と抗議された。どう対応すればよいか。こうしたご相談は、対応の難しいケースの一つです。本記事では、セクハラ加害者から「逆ハラスメント」と抗議された場合の対処法を、会社側の視点から解説します。
2. 当面の対応(配慮を求めること自体は問題ない)
まず当面の対応ですが、セクハラがあったという経緯からすれば、被害者とされる女性に対して配慮するよう伝えること自体は、問題ないと思います。何らかの形で、その男性に配慮を求める面談などを行うこと自体は、行っていただいてよいケースがほとんどです。会社には、職場環境を良好に保つ配慮義務(男女雇用機会均等法11条)がありますので、被害者から訴えがあった以上、対応すること自体は当然のことといえます。ただ、言い方やり方には気をつけなければならない点があります。
3. 伝え方の工夫(感情的な言葉を客観的な表現に)
この女性の言葉を借りれば、「その男性と一緒にいるだけで気持ち悪くなる」と訴えてきたわけですが、これをそのまま伝えるのはよくありません。感情の入った言葉だったとしても、「一緒にいるだけで辛い」「一緒にいるだけでストレスがかかっている」といった具合に、少し言葉を言い換え、穏やかな表現で加害者の男性に伝えるのがよいでしょう。「気持ち悪い」という表現は、相手を強く傷つけ、いたずらに態度を硬化させ、話し合いをかえって難しくしてしまうおそれがあるからです。
4. 「時間の隔たり」も踏まえて言葉を選ぶ
セクハラ事件から半年ほど経ってからのことですよね。女性からすれば、しばらく我慢していたけれど、やはり辛くて辛くてしょうがないから社長に訴えてきた、なんとかしてほしいと頼んできた、ということなのだと思います。しかし、加害者の側からすれば、もう半年も前の話で、一段落した、これで一旦は解決したはずだ、というつもりでいるのが普通です。
最近起きたことではなく、半年前のことを話そうとしていると意識する
ですから、最近起きたことではなく、半年も前のことを話そうとしているのだ、ということもしっかり考慮したうえで、言葉を選んだり話し方をしたりする必要があります。半年前のセクハラは、もしかしたら重い問題だったのかもしれませんが、改めて「今」やったことといえば、別にセクハラをやっているわけではなく、まさに一つの職場、同じ事業所しかない職場で、何かのきっかけで同席した、というだけなのです。一緒に顔を合わせただけなのか、それがつきまといのようなものなのかで、対応は変わってきます。
5. 「同席した」の中身を事実確認する
もしそれがつきまといのようなものであれば、踏み込んで注意指導し、懲戒処分などを行っていくこともできると思います。他方で、そんなつきまといではなく、それほど強いやり方でない場合には、あまり強く言うことはできません。注意したのに、なおつきまとうようなことをしたなら別ですが。
全員が集まる席でたまたま一緒になっただけか、話しかけたのか
一体何を言ったりやったりしたのか、「同席した」といっても、本当にどんな対応で、つきまとうようなものだったのか、そもそも全員が集められた席でたまたま一緒になっただけなのか、あるいは話しかけたのか、話しかけなかったのか、話しかけた場合はどんな言葉の中身だったのか、といったことも含めて、聞き取りをしっかり行ったうえで、実際に言ったりやったりした事実を踏まえて、どこまで踏み込んで話すかを決めていくことになります。さじ加減が分からないときは、弁護士とオンライン打ち合わせなどをして、「それであればこうですね」と話を決めていけばよいと思います。やり方としては、女性の方はそれなりに悩んでいるでしょうから、立ち話的に簡単に話すのではなく、会議室などで面談をしっかり行って話されるのがよいでしょう。
当面の対応としては、まずこれを行っていただき、相手のリアクションを見ながら対応していけばよいと思います。「逆ハラスメントだ」と言うのであれば、どうしてそれが逆ハラスメントなのかを説明してもらえばよいでしょう。その説明内容を踏まえて、こちらも受け答えしていくことになります。
6. 本当は何が必要だったのか(当初の処分との整合性)
では、どうすればよかったのかも考えてみましょう。ハラスメントが起きた当時、どのようにしておけば、今こういった訴えがあったときにうまく対応できるのか、少し振り返ってみましょう。
後の訴えに説得力を持たせるため、加害者にも自覚してもらう必要がある
後からこうした女性の訴えに説得力を持たせるためには、それなりの重さのハラスメントをしたのだ、ということを、加害者側にも自覚していただく必要があります。本件では「上長から注意した」とありますが、その注意はどの程度のものだったのでしょうか。口頭で簡単に注意して終わりだったのか、書面でしっかり伝えたのか、厳重注意書を交付したのか、といったことを考えなければなりません。本当に問題の程度が大きいセクハラだったのであれば、それに見合って厳重注意書を交付し、さらに重ければ懲戒処分をしなければならなかったかもしれません。会社が問題の大きいセクハラだと判断しているのであれば、それに見合った厳重注意書の交付や懲戒処分をしっかり行うことが大事です。そうすれば、本人も「そういう重大なことをやったのだ、会社もそう評価しているのだ」と認識しますから、「悪気はなかったけれど、もっと配慮しなければいけないかな」と考えてもらいやすくなります。
実際の行為と会社の対応をきっちりリンクさせておく
逆に、そのセクハラが実際には非常に軽いもので、厳重注意書を交付するにも値しないくらいのもの、「不快だ」と抗議されたくらいのもので、口頭で注意しただけで会社もそれで正しいと考えている、という客観的な状況であれば、女性からの訴えがあったとしても、実際に起きたことはそれほど重くなかったという前提で対応することになります。つきまとって色々やってきたというのであれば強く注意指導や懲戒処分をしてよいと思いますが、何かで同席したというくらいまでは、それ以上本人に伝えつつも「そこまでですよ」というくらいの対応しかできないのも、やむを得ないかもしれません。このように、実際やったことと、会社の対応(口頭注意にとどめるのか、厳重注意書を交付するのか、懲戒処分の重さはどれくらいか)が、きっちり対応している状態にしておくことが、とても大事です。実際やったことと会社の対応がしっかりリンクしていれば、それに合わせたその後の対応もできるはずです。実際のセクハラが本当にひどいものであれば、女性の訴えに対する配慮の踏み込みの程度は大きくなりますし、実際やったことが軽めのものであれば、こちらの対応もそれに応じた軽さの対応をすべき、ということにもなります。
もし女性の言っていることが正当で、実際やったセクハラも本当にひどいものだったとしたら、懲戒処分などをしっかり当時やっておくべきだった、ということになります。そうすれば、加害者とされている側も、「そういう認識ならしょうがないですね」と、本人が納得していなかったとしても、会社がそういう認識であればそこは整合性が取れていますね、と納得してもらいやすくなります。ここの整合性が取れておらず、実際やったことと会社の処分対応がちぐはぐだと、うまくいかないことが多くなりますので、気をつけてください。
7. 他に職場がない場合の現実的な対応
今回の相談は、他に職場がない、他に事業所がないケースなので、引き離すといっても、担当業務の関連性を薄めるくらいしかできない、というケースでした。対応は難しいですが、そういった会社を経営している社長であれば、それでもなんとかやりくりしていくしかありません。
解雇できるほど重大でなくても、放置できる問題ではない
解雇できるくらいひどいハラスメントであれば、それは解雇すべきだったのかもしれませんが、実際の案件としては、解雇するほどではないけれども放置できない、というケースが本当に多いものです。単純に解雇や退職勧奨で辞めてもらえばよい、という話になるケースはごく一部で、担当業務を切り離したりしながら、なんとか対応をやりくりしていくのが、社長の仕事です。難しいかもしれませんが、細やかな配慮が大変であっても、自分のできる範囲でベストを尽くしていただければと思います。
8. まとめ
- 被害者側への配慮を求めること自体は問題ない。会社には職場環境配慮義務がある(均等法11条)
- 感情的な言葉はそのまま伝えず、客観的で穏やかな表現に言い換える
- 時間の隔たりも意識する。被害者にとっては重い出来事でも、加害者にとっては解決済みの認識であることが多い
- 「同席した」の中身を丁寧に事実確認してから、踏み込みの程度を決める
- 当初のセクハラの重さと、会社の対応(注意の程度・懲戒処分)を整合させておく。ちぐはぐだと後の対応がうまくいかない
- 他に配置できる職場がなくても、できる範囲でやりくりを尽くす。解雇できるほどでなくても放置はできない
セクハラ加害者から「逆ハラスメントだ」と抗議されるケースは、被害者への配慮と、加害者への公平な対応の両立が問われる難しい問題です。感情的な言葉をそのまま伝えず、事実を丁寧に確認し、当初の処分の重さと事後対応を整合させておくことが、こじれを防ぐ鍵になります。他に配置できる職場がない場合でも、できる範囲での配慮を尽くすことが、経営者の役割です。こうしたケースにお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 被害者への配慮を求めたら「逆ハラスメントだ」と言われました。伝え方が悪かったのでしょうか。
A. 配慮を求めること自体は、セクハラの経緯からすれば問題ありません。会社には職場環境を良好に保つ配慮義務があるからです。ただし、伝え方には注意が必要です。「気持ち悪い」といった感情的な言葉をそのまま伝えると、相手を強く傷つけ、話し合いをかえって難しくすることがあります。「一緒にいるだけで辛い」といった、客観的で穏やかな表現に言い換えて伝えることをおすすめします。また、会議室などで丁寧に面談することも大切です。
加害者に対して、どこまで強く注意してよいのですか。
A. 「同席した」の中身次第です。全員が集まる席でたまたま一緒になっただけなのか、話しかけたのか、つきまといのようなものだったのかによって、対応は大きく変わります。つきまといに近いものであれば、踏み込んで注意指導や懲戒処分を行ってよいでしょう。しかし、単に同じ職場で顔を合わせただけであれば、強く言うことは難しいのが実情です。まずは、いつ・どこで・何があったのかを丁寧に聞き取り、事実を踏まえて踏み込みの程度を決めてください。
当時の懲戒処分が軽かったかもしれません。今からできることはありますか。
A. 当時のセクハラの重さと、会社が行った対応(口頭注意にとどめたのか、厳重注意書を交付したのか、懲戒処分をしたのか)が整合していることが、後の対応をスムーズにする鍵になります。当時の対応が実際の重さに見合っていなかったと考えられる場合には、今後同様の事案が起きないよう、社内のルールや対応方針を見直すことも検討してください。今回の件については、実際の言動の重さに応じた範囲で、できる限りの配慮を尽くすことになります。
最終更新日:2026年7月19日