問題社員288 横領・不正受給した社員が自主退職を申し出てきた場合の対応
動画解説
この記事の要点
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「自主退職を受け入れる」vs「懲戒解雇する」の選択は慎重に——どちらが会社にとって本当に有利かを複数の観点から検討する 懲戒解雇が正しいケースもあれば、自主退職を受け入れた方が会社の負担が少ないケースもある。「示しをつけたい」という気持ちだけで判断すると失敗することがある |
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懲戒解雇した場合でも、「在職中に神妙だった人物が退職後に訴えてくる」ことは珍しくない——勝負ありと思ってはいけない 在職中は社長の言うことを聞いていても、退職後は別人のように言うことを聞かなくなる。「準備不足の懲戒解雇→弁護士に相談→解雇無効訴訟」というパターンが実際に起きている |
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自主退職を受け入れるなら退職届または退職合意書を確実に取る——口頭の約束だけでは「やはり撤回したい」という事態が起きる 退職届は会社が承諾を示すまでは撤回できる。退職届提出後に速やかに承諾を明示することが必要 |
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退職承諾は速やかに・記録が残る形で伝える——「承諾した」という事実を相手に明確に伝えることが退職を確定させる 権限のある者(社長・役員等)が、口頭だけでなくメールや書面でも承諾の意思を示すことが重要 |
目次
1. 自主退職の申し出——「勝負あり」と思ってはいけない
会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。
横領・不正受給が発覚した後、本人から「自主退職したい」という申し出があった場合、経営者はどうすればよいでしょうか。「やめると言ってきたんだから、もう話はついた」と思う方もいますが、それは大きな誤りです。
自主退職の申し出があった後も、気を緩めずしっかりした対応を続けることが重要です。その理由を以下で詳しく説明します。
2. 判断すべき第一の論点——「懲戒解雇すべきか」vs「自主退職を受け入れるべきか」
まず自主退職の申し出に対して、会社は「懲戒解雇する(申し出を断る)」か「自主退職を受け入れる」かを判断する必要があります。
「示しがつかないから懲戒解雇でなければならない」という気持ちはよく分かります。事案によっては本当に懲戒解雇をしなければならないケースもあります。しかし、常に懲戒解雇が正解というわけではありません。
判断に必要な複数の観点
| 金銭の回収 | 横領・不正受給したお金をしっかり返してもらうことが重要。どちらの対応が回収しやすいか |
| 示しとけじめ | 周りの社員への示し。ただしやめてもらうこと自体でもある程度の示しになる |
| 解雇の有効性 | 懲戒解雇が有効になる確率はどの程度か。争われた場合の時間・費用・担当者の負担 |
| 裁判を戦う覚悟 | 訴えられた場合に2年・3年かけて戦う覚悟があるか。勝つ確率はどの程度か |
3. 懲戒解雇した場合のリスクを現実的に考える
自主退職の申し出を断って懲戒解雇した場合、結構な確率で裁判で争われます。たとえ最終的に会社が全面勝訴する事案であっても、次のような現実的負担が発生します。
懲戒解雇後に訴訟になった場合の現実的負担
- 解決まで2〜3年かかることもある
- 打ち合わせ・法廷への出頭・証言等に担当者(社長を含む)が時間を取られる
- 弁護士費用等のコストが発生する
- その間ずっと頭の中にあり、経営に集中できない時間が続く
もし懲戒解雇の有効性が微妙な事案(解雇が有効になる確率が6割を切るようなケース)であれば、訴えられた場合に会社が負けて多額のバックペイを支払うリスクもあります。懲戒解雇が有効か否かの判断は弁護士に相談して行ってください。
4. 自主退職を受け入れる選択が合理的なケースとは
一方、自主退職を受け入れることが合理的な選択肢になるケースもあります。
自主退職受入が合理的になりうるケース
- 金額が比較的小さく、お金も返してもらえる見通しがある
- 会社側の管理に問題・不備があった部分がある
- 懲戒解雇の有効性が微妙で、訴訟になった場合のリスクが高い
- 裁判を2〜3年戦う覚悟や余裕がない
- 本人がやめることで周りの社員への示しがつく部分がある
「やめてもらいさえすれば、お金を返してもらえさえすれば手打ち」ということもあります。やめることそのものが責任を取った形に見えることもあるのです。もちろん極めて重大な事案で、どうしても懲戒解雇でなければ示しがつかないというケースもあります。その場合は訴訟リスクを覚悟の上で懲戒解雇する選択をすることになります。
5. 「在職中に神妙だった人物が退職後に訴えてくる」という現実
自主退職の申し出があった際に、「断って懲戒解雇する」という判断をした場合の重要な注意点があります。
在職中はバレた状態にあり、社長の言うことを聞かなければならない状況にあります。だから多くの人が神妙に受け答えします。しかし退職後は全く別の状況です。会社に対する利害関係がなくなり、冷静になって「本当にあれは懲戒解雇されるほどのことだったのか」と考え始めます。弁護士に相談に行くと「それは争えます」と言われて訴訟になる——これが実際に起きているパターンです。
「在職中あんなに反省していたのに、まさか訴えてくるとは」と驚く経営者は多いです。しかし在職中の神妙な態度は会社に雇われている状況から来るものであって、退職後の行動を予測するものではありません。しっかり準備した上で懲戒解雇する場合であれば問題ありませんが、準備不足のまま見切り発車で懲戒解雇すると、大きな代償を払うことがあります。
6. 自主退職を受け入れる場合——退職届・退職合意書を確実に取る
自主退職を受け入れることに決めた場合、必ず退職届または退職合意書を取り交わしてください。口頭でのやり取りだけでは不十分です。
退職届が出てきても、会社が承諾を示す前であれば本人は退職を撤回することができます。「やっぱりなかったことにします」という申し出があっても会社が対処できるように、速やかに退職承諾を明示することが必要です。
退職の書面化のポイント
| 退職届 | 何月何日付で退職するという日付を明記させる。横領等が明らかで解雇も有効になる確率が高い場合は退職届で十分なことが多い |
| 退職合意書 | 退職日・退職条件(清算条項・返還金の扱い等)を書面化する。解雇の有効性が微妙な事案や条件交渉が必要な場合に有効 |
特に横領等の不正行為をするような方はそもそも信用できません。退職届が出た後も油断せず、確実に退職を完了させる手続きを取ることが重要です。
7. 退職承諾を確実に伝える——速やかに・記録が残る形で
退職届が提出されたら、速やかに・権限のある者が・記録が残る形で承諾を伝えることが必要です。
退職承諾の伝え方の例
- 社長から本人への口頭での承諾通知(小規模な会社であれば効果的)+メールでも通知する
- 「○月○日付の退職届を受理しました。○月○日付をもってご退職いただきます」という内容の書面を交付・送付する
- 退職の案内(退職手続きの案内・返還物の指示等)を通知する形で、退職承諾を示す
退職承諾は権限のある者(社長・役員など)が行う必要があります。「誰かが口頭で伝えた」だけでは不十分な場合がありますので、権限のある方が承諾したことが相手に明確に伝わるようにしてください。
また、承諾したという事実も何らかの記録(メール・書面等)に残しておいてください。後から「まだ承諾は受けていない」と言われた場合の証拠になります。
8. まとめ
- 自主退職の申し出があっても「勝負あり」と思ってはいけない——気を緩めず対応を続ける
- 「懲戒解雇すべきか・自主退職を受け入れるべきか」を複数の観点で判断する——感情だけでなく、解雇の有効性・訴訟リスク・回収の見通し等を考慮する
- 懲戒解雇を選ぶ場合は訴訟リスクと弁護士費用・担当者の負担を覚悟する
- 自主退職受入が合理的なケースもある——金額が小さい・管理不備がある・解雇の有効性が微妙な場合等
- 在職中の神妙な態度は退職後の行動を保証しない——冷静になって弁護士に相談して訴えてくる人が実際にいる
- 退職届または退職合意書を確実に取る——口頭の約束だけでは退職撤回問題が起きる
- 退職承諾は速やかに・権限のある者が・記録が残る形で伝える
横領・不正受給した社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 退職届を受け取りましたが、まだ承諾していません。今から懲戒解雇に切り替えることはできますか。
A. 退職届の承諾前であれば、懲戒解雇に切り替えることが可能な場合があります。ただし、退職届の提出後に相当の時間が経過している場合や、具体的な状況によっては承諾が擬制される場合もあります。具体的な状況を弁護士に相談してから判断してください。
Q2. 退職合意書に盛り込むべき重要な内容は何ですか。
A. 横領・不正受給のケースでは、退職日・返還金の金額と返還スケジュール・清算条項(「本合意書に定める以外に互いに何ら請求を行わない」という条項)・守秘義務条項などを盛り込むことが一般的です。特に清算条項は、後から追加の請求を防ぐために重要です。退職合意書の作成については弁護士に依頼することをお勧めします。
最終更新日:2026年4月30日