問題社員261 能力不足の社員の対処法

動画解説

この記事の要点

能力不足とは「絶対的な能力の低さ」ではなく「雇用契約で予定された能力とのギャップ」——同じ能力でも契約内容次第で評価が変わる

月給100万円で採用した部長候補が同じ能力を発揮しても能力不足になるが、時給1,100円のアルバイトがその水準の仕事をすれば能力不足にはならない

能力不足に採用前から気づいていたのに採用してしまうケースが多い——「もしかしたらできるかも」という期待で採用すると後で困る

人手不足でも能力に疑問を感じたら不採用にする勇気が必要。採用段階で気づいていたなら最初から覚悟するか、適正な賃金水準で採用することが現実的な対策

能力が低い社員への教育指導は「具体的に」「目の前でやって見せる」——抽象的な指示は通じない

「報連相しなさい」という抽象的な指示では通じない。「この場合にはこうやって報告する」というように、できるだけ具体的に・実際に見せながら指導することが必要

やめてもらうなら試用期間満了までが勝負——試用期間を過ぎてからの本採用拒否は要件が厳しくなる

業種・仕事内容によって判断に必要な期間が異なる。3ヶ月で足りない会社は試用期間を6ヶ月に設定することを検討する

1. 能力不足の正しい意味 「契約で予定された能力とのギャップ」

会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。

「能力が極端に低い社員」への対処法を考える前に、まず「能力不足」という概念を正確に理解していただく必要があります。

能力不足とは、絶対的に能力が高いか低いかではありません。雇用契約で予定されている能力と実際の能力のギャップを指します。

契約内容によって「能力不足」の評価は変わる

採用条件 能力不足になるケース
月給100万円で部長候補として採用 高い能力が期待されるため、同レベルでも能力不足と評価される可能性がある
大学卒立ての若手を適切な給与で採用 すぐに高い能力は求められない。教育しながら育てることが予定されている
時給1,100円〜1,200円のアルバイト その時給に見合った仕事ができていれば、能力不足にはならない

「あの人は能力が低い」と感じたとしても、その評価が法的に有効な能力不足として認められるかどうかは、雇用契約で予定されている能力水準との比較によります。この点を見誤ると、後の対応方針が変わってきますので、まず正確に理解してください。

2. 採用段階で能力不足に気づいていたのに採用してしまうケース

相談を受けていると、能力が低い社員で困っているケースの多くが、採用の時点から能力不足にある程度気づいていたにも関わらず、採用してしまったというケースです。

面談の時点でコミュニケーションに違和感があったのに、人手不足のため採用するしかなかった、もしかしたらやってみたらできるようになるかもしれないと期待して採用した——こういった状況です。

採用段階で「この人、能力が足りないかも」と気づいたにも関わらず採用した場合は、覚悟してください。もし能力不足で困ることを最小限にしたいのであれば、その時点で不採用にする勇気が必要です。採用が大変なのは分かります。それでも、能力に疑問を感じた段階で不採用にすることが、後のトラブルを防ぐ最善策です。

「採用してみたら思ったより能力が高かった」というラッキーなケースがゼロではありません。しかし、採用段階で気づいていたなら、基本的には覚悟した上で採用するという姿勢が必要です。困るのは「できると思って採用したのにダメだった」という場合だけにとどめるべきです。

3. 適正な賃金水準での採用 後から給料を下げることはできない

能力の問題で最もよく聞く相談の一つが、「月給30万円で採用したが、どう見ても高すぎる。月給20万円なら納得できるのでは」というものです。

この問題の核心は、後から賃金を下げることが極めて難しいという点にあります。

なぜ後から賃金を下げることが難しいのか

  • 採用時の賃金は雇用契約上の労働条件であり、一方的な変更は「不利益変更」として問題になる
  • 本人の同意なしに下げることは、原則として違法になる
  • 「30万もらえると思ったから就職した。後から20万にしろと言われるなら他社に行った」というのが本人の当然の感覚

ですから、採用段階で能力が微妙だと思ったら、最初からその能力に見合った賃金水準で採用することが重要です。もし能力の判断がつかないなら、少し低めの賃金水準で採用し、実際にパフォーマンスが高いと分かったら増額するという契約にしておく方が安全です。

初めから高い給料で採用すると、後から下げることが非常に難しく、かつ相手の抵抗も強くなります。適正な賃金水準での採用ができていれば、ある程度能力が低い人でも、長く付き合える関係になることがあります。

4. 能力が低い社員への教育指導は「具体的に・目の前で見せる」

採用が決まり、実際に働かせた結果として能力が不足していると判断した場合——今後育てていくつもりであれば、できるだけ具体的に、目の前でやって見せる形で教育指導を行うことが必要です。

能力が高い社員であれば、抽象的な指示でも理解して考えて行動してくれます。しかし能力が低い場合は、抽象的な指示では意味が伝わりません。

❌ 能力が低い社員には通じない抽象的指導

「しっかり報連相しなさい」「チームワークを大切に」「もっと積極的に動いて」

✓ 具体的・実演を伴う教育指導

「この仕事が終わったら、私にこのような内容でLINEで報告してください。例えばこういう文章です」と実際のやり方・文例まで見せて説明する

能力が低い人を育てようとするなら、このような具体的な教育指導と、長い目で時間をかけて育てるという覚悟が当然必要になります。いちいち細かく説明し、目の前でやって見せる必要があるため、指導する側も相当な労力がかかります。

周りの社員が消耗してクタクタになってしまうことがありますので、経営者としてそうならないよう配慮することも大切です。

5. やめてもらうなら試用期間満了までが勝負 適切な試用期間の長さとは

育成よりも「やめてもらう」という方向で検討する場合、試用期間満了までに話をつけることが最も重要です。

なぜ試用期間が重要なのでしょうか。試用期間中の本採用拒否(雇用関係の終了)は、本採用後の解雇よりも要件が緩やかとされています。また、「試用期間が終わってやめてもらうのは、採用した会社が判断した結果だ」という形になるため、相手にも一定の納得感が生まれやすいのです。

試用期間の長さの目安

3ヶ月で足りる 業種・仕事内容によっては3ヶ月もあれば「雇い続けるかやめてもらうか」の判断ができる
6ヶ月が必要 3ヶ月では判断がつかなかったという経験がある会社は、試用期間を6ヶ月に設定することを検討する
業種・仕事による 契約で予定されている能力があるかどうか判断するのに適切な期間は、仕事の中身・契約内容によって変わる

試用期間満了での対応を実行する際のポイントは、試用期間中に「雇い続けるかやめてもらうか」の判断ができるかどうかです。「なんとなく怪しいと思っていたが判断できないまま試用期間が終わった」という会社では、試用期間を6ヶ月に変更することをお勧めします。

なお、試用期間中といえども一定の要件(採用後14日超の場合は解雇予告の必要など)がありますので、具体的な手続きについては弁護士に相談してください。また、一定の上乗せ金を支払うことで円満にまとめる場合もあります。

6. まとめ

  1. 能力不足は「契約で予定された能力とのギャップ」——絶対的な能力評価ではなく、契約内容との対比で判断する
  2. 採用段階で気づいていたなら覚悟するか不採用にする——「もしかしたらできるかも」という期待だけで採用すると後で困る
  3. 適正な賃金水準での採用が重要——後から下げることは原則として困難。最初から能力に見合った水準で採用する
  4. 教育指導は具体的に・目の前でやって見せる——抽象的な指示は通じない。長い目で育てる覚悟も必要
  5. やめてもらうなら試用期間満了までが勝負——業種に合った試用期間(3〜6ヶ月)を設定し、判断を試用期間内に行う

能力不足の社員への対応でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 能力不足を理由に解雇することはできますか。

A. 可能な場合はありますが、「契約で予定された能力水準に達していないこと」を客観的に証明できる必要があります。そのためには、①雇用契約・求人票等で期待していた能力水準を明確にしておくこと、②能力不足の具体的事実を記録しておくこと、③教育指導を行ったが改善しなかったことの証拠が必要です。能力不足を理由にした解雇は厳しい判断が多いため、まず退職勧奨を検討し、弁護士に相談することをお勧めします。

Q2. 試用期間中に能力不足で本採用しない場合、どのような手続きが必要ですか。

A. 試用期間中であっても採用後14日を超えた場合は、30日前の解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要です。また、本採用拒否(雇用関係の終了)については、「試用期間中に明らかになった能力不足」として客観的な理由が必要とされています。具体的な手続きについては弁護士に相談してください。

Q3. 採用時の給与が高すぎましたが、同意なしに下げることはできますか。

A. 原則として、本人の同意なしに賃金を下げることはできません(労働条件の不利益変更)。人事評価制度による評価連動型の賃金制度(就業規則で定めてある場合)や、降格に伴う賃金改定など、一定の要件がある場合は下げることができる場合もありますが、個別の事情によって判断が異なります。弁護士に相談してください。

最終更新日:2026年4月30日


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