問題社員246 教育効果が高く、裁判でもパワハラと評価されないような教育指導の仕方
動画解説
この記事の要点
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注意指導で最も大切なのは「評価ではなく事実を伝える」こと——5W1Hで具体的に 「勤務態度が悪い」「協調性がない」といった評価的な言葉ではなく、「いつ・どこで・誰が・誰に対して・何を・どのようにしたか」という事実を具体的に伝える |
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注意指導の目的は「改善」——証拠作りを主目的にしてはいけない 証拠作りを主な目的にした形だけの注意指導は、本人への教育効果がなく、労働審判や訴訟でも「適切な注意指導があった」と評価されにくい。誠心誠意、改善のために行うことが結果として解決につながる |
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事実を伝える指導はパワハラと評価されにくい——侮辱的・評価的な言葉を避ける パワハラと認定されやすいのは「ダメなやつだ」「向いていない」「転職したら」といった侮辱的・評価的な発言。客観的な事実を冷静に伝える指導は、差別的・侮辱的要素がない限りパワハラにならないのが通常 |
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遠回しに気づかせようとする指導は逆効果——ズバッと事実を伝える 見込みのある社員を伸ばす鍛え方としては有効だが、すでに周囲に迷惑をかけている問題社員には効果が薄い。本人が気づくのを待つほど被害は拡大する |
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普段からの観察と「どう改めてほしいか」のセット提示が行動変容を促す 事実を具体的に指摘するためには普段の観察が不可欠。事実を伝えた上で「どう改めてほしいか」まで明確にすると、本人の行動変容が進みやすい |
目次
1. 注意指導で一番大事なのは「事実を伝えること」
会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。
問題社員対応における注意指導の仕方について、私が「最も重要」と考えていることを一言で申し上げます。それは、評価ではなく、事実を伝えることです。
ここで言う「事実」とは、いわゆる5W1H——いつ・どこで・誰が・何を・どのように・なぜやったのか、というものです。「なぜ」は本人の内心の問題であり客観的事情から推測するしかないケースも多いため、基本的には「いつ・どこで・誰が・何を・どのように」やったのかを押さえれば十分です。
イメージとしては、例えば次のような注意指導の仕方です。
「2月1日の午前10時30分頃、第1会議室で、あなたは〇〇部長に対して、大声で『××』という発言をしました。この発言はこれこれこういう理由で不適切です。今後は〇〇のように対応してください。」
何月何日の何時頃、どこで、あなたが誰に対して、どのようなことをやったのか——これをしっかり伝えるのがポイントです。
2. 注意指導の目的は「改善」——証拠作りではない
なぜ事実を伝えることがこれほど重要なのか。その最大の理由は、注意指導の目的が「問題行動を改善させること」にあるからです。
注意指導は、裁判のアリバイ作りではありません。その人に態度なり仕事ぶりなりの問題行動を改めてもらいたいから行うものです。ここをしっかり押さえておかなければ、どんな書面を積み重ねてもただのパフォーマンスになってしまいます。
証拠作りを主な目的にした形だけの注意指導は、本人への教育効果がまったくありません。そればかりか、「証拠集めだけが目的」と見透かされれば、労働審判や訴訟においても「適切な注意指導があった」と評価してもらえないことが多くなります。
問題社員の態度が悪く改善の意欲が見られないと、注意指導する側もさじを投げたくなります。「もう辞めてもらうための証拠を作ろう」という発想に傾きがちです。しかしそのやり方では、かえって目的の達成が遠のく。誠心誠意、改善させるために注意指導することが、結果として問題の解決につながるのです。
3. 抽象的な評価は教育効果が低く、本人の納得も得られない
抽象的な評価だけを伝える注意指導が、なぜ問題社員の行動を改善させないのか。
たとえば「あなたはいつも勤務態度が悪い」「協調性がない」「反省の色が見られない」——こうした言葉を投げられた本人は、どう受け止めるでしょうか。
多くの場合、「自分の何が悪いのか具体的にわからない」と感じます。そして、具体性のない指摘を受けたとき、人はそれを「単に嫌いだから言っているのでは」「パワハラではないか」と受け取りがちです。これでは改善どころか、対立を深めるだけです。
抽象的な評価が並ぶ注意指導書・事情聴取書の類も、同様の理由で証拠価値が低くなります。「態度が悪い」「職場の秩序を乱す」と書き連ねても、具体的な事実が伴わなければ、第三者(裁判官・労働審判委員)から見て「何があったのか」がわからないからです。
また、「次に遅刻したらいかなる処分を受けても異存ありません」といった反省の気持ちを表明させる記録ばかりでも、肝心の問題行動の具体的事情が明らかになっておらず、証拠として弱いものになってしまいます。
4. 事実をはっきり伝えれば議論の対象が明確になる
事実を具体的に伝えることには、もう一つ大きな利点があります。それは、議論の対象が明確になるということです。
「2月1日10時30分頃、第1会議室で、〇〇部長に対して××と発言した」——この事実が示されれば、本人にも逃げ場がありません。
- その事実自体は認める/認めない
- 事実は認めるが、理由はこうだった
- その発言のどこが問題なのか理解できていなかった
どの立場であっても、議論の出発点が定まるため、そこから建設的な話が始まります。事実が示されずに「勤務態度が悪い」と言われても、本人は何を認めればよいのか、何を反論すればよいのかすら分かりません。
事実を示した上で「この行動はこういう理由で不適切だから、今後はこう改めてほしい」と伝える。これが、教育効果が高く、かつ紛争予防にもつながる注意指導の形です。
5. 裁判で役に立つのも、やはり事実
改善を主目的とした事実ベースの注意指導は、結果として裁判でも強い証拠になります。
労働審判・訴訟において、「会社が適切に注意指導してきたかどうか」は、懲戒処分・解雇の有効性を判断する上で重要な要素です。このとき、
- 「勤務態度が悪いと何度も注意してきた」という抽象的な主張
- 「何月何日何時頃、〇〇という事実について注意書を交付し、本人も受領した」という具体的な事実の積み上げ
——どちらが証拠として強いかは明らかです。
つまり、事実ベースの注意指導は「教育効果」と「証拠価値」の両方を満たします。改善を主目的にして丁寧に事実を伝える積み重ねが、結果として最も強い証拠にもなるのです。
「証拠作りのため」という発想で形だけの指導をしても効果が薄く、証拠としても弱い。「改善のため」に事実を伝える指導のほうが、教育効果も高く、証拠としても強い——これが実務の逆説的な真実です。
6. 事実を伝える注意指導はパワハラ認定されにくい
「注意指導をするとパワハラと言われないか心配で、何も言えなくなる」——このような相談を受けることがよくあります。しかし、客観的な事実を冷静に伝える注意指導が、パワハラと認定されるケースは滅多にありません。
パワハラと認定されやすい発言の例
パワハラと認定されやすいのは、事実を伝える指導ではなく、以下のような侮辱的・評価的な言動です。
- 「ダメなやつだ」「使えない」といった人格否定
- 「向いていない」「転職したらどうだ」といった退職を促す発言
- 大声で怒鳴る、机を叩くなどの威圧的態度
- 他の社員の前での見せしめ的な叱責
- 差別的・侮辱的な言葉
これらは事実の指摘ではなく、本人を貶める方向の言動です。一方、「何月何日の何時頃、どこで、あなたは〇〇という行動をしましたね。この行動は△△の理由で不適切です」という事実ベースの指導は、業務上必要かつ相当な範囲内の行為として、通常はパワハラに該当しません。
「パワハラと感じたらパワハラ」は誤り
「相手がパワハラだと感じたらパワハラだ」という情報が世の中に流れていますが、これは誤りです。パワハラかどうかは客観的な基準で判断され、平均的な労働者が同じ状況でどう感じるかが考慮されます。相手の主観は判断材料の一つに過ぎません。
厚生労働省のガイドラインでも、パワハラは客観的に判断される旨が明記されています。冷静に事実を伝える指導を躊躇する必要はありません。
7. 遠回しな指導は逆効果——ズバッと事実を伝える
近年、「本人に気づかせるのが大事」「はっきり言ったらパワハラになるかも」という懸念から、遠回しな言い方で問題をほのめかすだけの指導をする上司が増えています。
しかし、これは問題社員対応としてはほとんど機能しません。
遠回しな指導で本人が自分で気づいてくれるのを1年待っていても、問題行動は改善しません。その間に周囲の社員は被害を受け続け、会社の秩序は乱れ、本人の立場も悪化していきます。
遠回しな指導が有効な場面は限定的
遠回しな指導が有効なのは、見込みのある社員をさらに優秀にするための鍛え方としての場面です。自分で気づく力のある社員に、あえてヒントを与えて成長を促すという使い方は意味があります。
しかし、すでに周囲に迷惑をかけている問題社員の行動を改善させるためには、ズバッと事実を伝えた上で、どう改善すべきかを議論するほうがはるかに早く解決します。本人の尊厳を守りながら、率直に事実を示してください。
「はっきり言わない優しさ」が、結果として本人・周囲・会社すべてを傷つけることがあります。誠実さとは、事実から目をそらさず、冷静に伝える姿勢のことです。
8. 事実を伝える練習で経営者としての立派さも増す
事実を具体的に伝えるためには、普段からその社員の言動をよく観察することが不可欠です。
普段から見ていないと、「いつ・どこで・何を」という事実が出てきません。結果として抽象的な評価しか言えず、指導が効かない。悪循環です。
よく観察している上司からの注意は、相手にも響きます。「この人は自分のことをちゃんと見てくれている」という前提があると、指導の言葉の重みが変わります。
ロールプレイで指導スキルを磨く
事実を伝える指導は、知識として知っているだけでは上手くできません。実際の場面では、本人が言い訳したり反論してきたりするため、冷静に対応するスキルが必要です。
スポーツや楽器と同じで、コツを聞いただけでいきなりできるものではありません。社内で仲間に問題社員役を演じてもらってロールプレイを行う、あるいは弁護士にコーチ役を依頼して実際のやり取りを想定した練習を行う——こうした準備が、本番の成否を大きく左右します。
オンラインでのこまめな弁護士相談を活用する
注意指導は、注意したら言い返される、書面を出したら反論される、の繰り返しになりがちです。その都度「どう返せばよいか」を一緒に考えてくれる相談相手がいると、対応が格段に楽になります。
かつては弁護士への相談は事務所まで出向くものでしたが、現在はZoomやTeamsでのオンライン相談が一般的になりました。15〜30分の短時間相談を頻繁に入れるスタイルが、日々動く問題社員対応に最も向いています。
事実を伝える注意指導を重ねることは、経営者・管理職としての実力を高めます。冷静に事実を示し、改善を促す姿は、周囲の社員から見ても信頼に値するものです。本人を追い詰めるための指導ではなく、組織全体を守るための誠実な指導として、スキルを磨いていってください。
9. まとめ
教育効果が高く、裁判でもパワハラと評価されない注意指導のポイントを整理します。
- 注意指導で最も大切なのは「評価ではなく事実を伝える」こと。5W1Hで具体的に示す
- 注意指導の目的は「改善」。証拠作りを主目的にした形だけの指導は教育効果も証拠価値も低い
- 抽象的な評価は本人の納得を得られず改善にもつながらない。事実を示せば議論の対象が明確になる
- 事実ベースの指導はパワハラと認定されにくい。侮辱的・評価的な言動だけ避ければよい
- 遠回しな指導は問題社員には逆効果。ズバッと事実を伝え、どう改めてほしいかまでセットで示す
事実を伝える指導は、一朝一夕には身につきません。普段からの観察、ロールプレイ、弁護士とのこまめな相談を通じて、実践的なスキルとして磨いていってください。判断に迷う場面では、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 問題社員への注意指導で最も大切なことは何ですか。
A. 評価ではなく事実を伝えることです。「いつも態度が悪い」「協調性がない」といった抽象的な評価ではなく、「何月何日の何時頃、どこで、あなたは誰に対してどのような言動をしましたよね」と5W1Hで事実を特定して伝えることで、教育効果が高まり、本人の納得も得られます。
Q2. 客観的な事実を伝える注意指導はパワハラと評価されますか。
A. ほとんどのケースではパワハラと評価されません。パワハラと認定されやすいのは「ダメなやつだ」「向いていない」「転職したらどうだ」といった評価的・侮辱的な発言や、大声での威圧・他の社員の前での見せしめ的叱責など、言い方が極端に不適切な場合です。客観的に正しい事実を冷静に伝える注意指導が、差別的要素や侮辱的要素を含まない限り、パワハラになるケースは滅多にありません。
Q3. 本人に気づかせようとして遠回しに指導するのは効果的ですか。
A. 効果は極めて低いです。見込みのある社員をさらに優秀にする鍛え方としては有効ですが、すでに周囲に迷惑をかけている問題社員の行動を改善させる方法としては不十分です。本人が気づくのを1年待っていても改善せず、その間に被害は拡大します。事実をズバッと伝えた上で、どう改善すべきかを議論するほうがはるかに早く解決します。
Q4. 注意書・事情聴取書はどのように書けばよいですか。
A. 5W1Hを意識して客観的な事実を記載してください。「反省の色が見られない」「態度が悪い」といった評価的な表現ではなく、「2月1日10時30分頃、第1会議室で、本人は〇〇部長に対して××と発言した」というように、日時・場所・行為を具体的に書きます。評価が混入しないこと、本人の言い分も正確に記載することがポイントです。
Q5. メールや書面だけで注意指導してもよいですか。
A. メールや書面での注意指導は、必ず口頭でのやり取りとセットで行ってください。書面のみでは誤解が生じやすく、教育効果も上がりません。また「証拠作りをしているだけ」と見られるリスクも高まります。直接会えない状況でも、電話やテレビ電話を使って対話することをお勧めします。
Q6. 注意指導の練習はどのように行えばよいですか。
A. 社内の仲間に問題社員役を演じてもらい、ロールプレイで受け答えを練習する方法が効果的です。5〜10分の練習でも本番のやり取りに大きな差が出ます。問題社員対応を専門とする弁護士にコーチ役を依頼することも選択肢で、想定される反論とそれへの対応を事前に擦り合わせておくことで、本番で冷静に対応できるようになります。
最終更新日:2026年4月17日