問題社員226 問題社員の解雇でトラブルを避けるには

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この記事の要点

【失敗①】追い詰められていきなり解雇——注意指導・懲戒処分なしでは裁判で負けやすく、高額賠償につながる

問題が大きくなってから慌てて解雇しても、普段の指導実績がなければ「客観的に合理的な理由」を証明できない

【失敗②】「30日前に予告すれば解雇できる」は誤解——解雇予告制度は手続きの一部に過ぎない

労基法20条の解雇予告は必要条件だが十分条件ではない。別途「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要

【失敗③】「試用期間14日以内なら解雇できる」も誤解——解雇予告不要なだけで合理的理由は別途必要

入社14日以内は解雇予告義務が免除されるだけ。解雇権乱用法理(客観的合理的理由・社会通念上の相当性)は依然適用される

【失敗④】「労基署に相談して解雇したから大丈夫」も誤解——労基署は労基法違反を取り締まる機関であり、解雇の有効無効は裁判所が判断する

労基署の指示通りに動いても裁判で負けることは十分ありえる。解雇の有効性についての相談は弁護士に行う

1. 失敗① 追い詰められていきなり解雇——注意指導・懲戒処分なしでは裁判で負ける

問題社員の解雇でトラブルになる最も多いパターンが「追い詰められていきなり解雇」です。普段は問題を見て見ぬふりをしていたところ、周りの社員から「あの人がいるならやめます」と詰め寄られて慌てて解雇——こうして内容証明郵便が届き、労働審判の申立書が裁判所から送られてくる、というケースです。

問題社員として非常にひどい人物であっても、解雇が有効になるためには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です(労働契約法16条)。これは会社が主観的にそう思うだけでは足りず、裁判官が見ても「解雇やむなし」と納得できる事情が必要です。

⚠ 解雇無効になった場合のリスク

解雇が無効と判断されると、社員は退職していない状態になります。働いていない期間も毎月の給与を払い続ける義務が生じます。月給30万円なら1年で360万円、2年で720万円です。小規模な会社にとっては致命的な打撃になりえます。

この失敗を防ぐには、問題が小さい初期段階から「何月何日・どこで・誰が・何をしたことが問題なのか」という具体的な事実ベースで注意指導を行い、改善しなければ懲戒処分を積み重ねることが不可欠です。問題が深刻化してからでは指導の実績が作れず、いきなり解雇しても裁判で勝てません。

2. 失敗② 「30日前予告すれば解雇できる」は誤解——解雇権乱用法理を知らないと痛い目に遭う

小規模な会社の経営者に多い誤解が「30日前に予告すれば(または30日分の平均賃金を払えば)解雇できる」というものです。

確かに労働基準法20条には「解雇予告は30日前に行わなければならない」という規定があります。しかしこれはあくまで解雇する場合の手続きの一つに過ぎません。解雇予告を守っただけでは解雇の有効性は保証されません。

▶ 解雇が有効になるために必要な2つの要件(労働契約法16条)

① 客観的に合理的な理由
「会社がそう思っている」ではなく、外部の第三者(裁判官)が見ても「解雇もやむなし」と判断できる事情が必要。

② 社会通念上の相当性
解雇という手段が社会的に見て妥当であること。たとえ問題行動があっても、より軽い措置(注意指導・懲戒処分)を経ずにいきなり解雇することは「相当性」を欠くと判断されることが多い。

「30日前予告さえすれば大丈夫」という誤解をもって解雇した結果、解雇権乱用で無効とされてしまうケースが後を絶ちません。解雇予告はあくまで最低限の手続きであり、有効な解雇のための十分条件ではないことを必ず覚えておいてください。

3. 失敗③ 「試用期間14日以内なら解雇できる」も誤解——予告不要なだけで理由は別途必要

「試用期間中、入社14日以内であれば解雇できる」という話を聞いたことがある経営者は少なくありません。これも大きな誤解です。

労働基準法21条に「試用期間中で入社14日以内の場合は解雇予告が不要」という規定があります。しかしこれは「解雇予告義務が免除される」というだけであって、解雇権乱用法理(客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性)は依然として適用されます。

つまり「入社14日以内だから理由なしに解雇できる」というのは誤りです。解雇するにはそれなりの合理的な理由が必要であることに変わりはありません。試用期間中は本採用後よりもハードルが低いとはいえますが、「何の理由もなく解雇できる」わけではありません。

4. 失敗④ 「労基署に相談したから大丈夫」も誤解——裁判の勝ち負けは別の話

「労働基準監督署に相談してから解雇したから問題ない」という話も誤解です。

労働基準監督署(労基署)は労働基準法などの法令違反を取り締まる行政機関です。解雇に関して労基署に相談すれば「労基法に違反しない解雇の手続き方法」を教えてもらえます。しかし労基署は「この解雇が有効かどうか」を判断する機関ではありません。解雇の有効無効を判断するのは裁判所です。

⚠ 労基署の指示通りに動いても裁判で負けることがある

労基署の言う通りに手続きを踏めば「労基法違反」にはならないかもしれません。しかし解雇権乱用の問題は労基法とは別の話です。裁判で「客観的に合理的な理由がない」として解雇無効と判断されることは十分あります。解雇の有効性について相談する相手は労基署ではなく、使用者側専門の弁護士です。

5. まとめ

問題社員の解雇でトラブルを避けるために最低限理解しておくべきことを整理します。

① 早い段階から具体的事実で注意指導・懲戒処分を積み重ねる

問題が深刻化する前の初期段階から「いつ・どこで・何をしたことが問題か」を具体的に伝えて指導する。追い詰められてから解雇しても手遅れになることが多い。

② 解雇予告と解雇の有効性は別問題と理解する

30日前の予告・解雇予告手当の支払い・入社14日以内という事情は解雇予告義務に関する話。解雇が有効になるためには「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が別途必要。

③ 解雇の有効性は弁護士に相談する——労基署は別の機関

労基署は労基法違反を取り締まる機関であり、解雇の有効無効を判断しない。解雇を検討する際は使用者側専門の弁護士に相談し、解雇が有効かどうかを確認してから進める。

よくある質問(FAQ)

Q 問題社員を解雇して無効と判断されたら、どうなりますか?
A

解雇無効となると、労働契約は継続しているとみなされます。働いていない期間の給与(バックペイ)を遡って全額支払う義務が生じます。月給30万円なら1年で360万円、2年で720万円です。さらに弁護士費用・裁判費用・社内の混乱なども加わります。解雇前に必ず弁護士に相談してリスクを確認してください。

Q 注意指導や懲戒処分を経ずにいきなり解雇することはできますか?
A

重要な業務命令への正面からの拒否・会社財産の横領など非常に重大な行為があった場合は、注意指導なしでも有効な解雇が認められる場合があります。ただしほとんどのケースでは注意指導・懲戒処分の積み重ねがないと「社会通念上の相当性」を欠くとして解雇無効になります。必ず弁護士に個別の事情を相談してから判断してください。

Q 解雇ではなく退職勧奨を先に試みるべきですか?
A

一般的に退職勧奨(合意退職)を先に試みることが多く、成功すれば解雇リスクなく問題を解決できます。ただし退職勧奨は相手の同意が必要であり、断られた場合に解雇できる状況でなければ行き詰まります。注意指導・懲戒処分の積み重ねがあってこそ「断ったら解雇になるかもしれない」という状況になり、退職勧奨も成立しやすくなります。

問題社員の解雇でお困りの方はご相談ください

解雇の有効性の判断・注意指導・懲戒処分の進め方から解雇通知書の作成まで、会社側の立場に特化した弁護士が具体的にアドバイスします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/16