1 高年齢者雇用確保措置の概要

 高年法9条1項は、65歳未満の定年の定めをしている事業主に対し、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、
 ① 定年の引上げ
 ② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入
 ③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないと規定しています。

2 高年齢者雇用確保措置の内容

 厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が取りまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」によると、平成22(2021)年において、雇用確保措置を導入している企業の割合は、全企業の96.6%であり、その内訳は以下のとおりです。
 ① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
 ② 継続雇用制度を導入した企業の割合   → 83.3%
 ③ 定年の定めを廃止した企業の割合    → 2.8%

3 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準

 改正前の高年法9条2項は、過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により、②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定していました。
 平成25年4月1日施行の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが、平成25年4月1日の改正法施行の際、既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については、平成37年3月31日までの間は、段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの、なお効力を有するとされています。
 平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
 平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
 平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
 平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は具体的で客観的なものである必要があり、トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは、公共職業安定所において、必要な報告徴収が行われるとともに、助言・指導、勧告の対象となる可能性があり、勧告を受けた者がこれに従わない場合は企業名が公表される可能性もあります(高年法10条)。
 健康状態、出勤率、懲戒処分歴の有無、勤務成績等の客観的基準を定めるべきです。
 「JILPT「高齢者の雇用・採用に関する調査」(2008)」によると、実際の継続雇用制度の基準の内容としては、以下のようなものが多くなっています。
 ① 健康上支障がないこと(91.1%)
 ② 働く意思・意欲があること(90.2%)
 ③ 出勤率、勤務態度(66.5%)
 ④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
 ⑤ 一定の業績評価(50.4%)
 常時10人以上の労働者を使用する使用者が、継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には、就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため、労基法89条に定めるところにより、労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め、就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

4 高年法9条の私法的効力

 高年法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが、就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり、私法上の効力が生じることになります。
 したがって、就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は、高年齢者は、就業規則に基づき、継続雇用を請求できることになります。
 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合、会社は損害賠償義務を負う可能性があることに争いはありませんが、裁判例の中には、解雇権濫用法理の類推などにより、継続雇用自体が認められるとするものもあります。
 津田電気計器事件最高裁第一小法廷平成24年11月29日判決は、定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し、東芝柳町工場事件最高裁判決、日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して、「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから、被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方、上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって、本件の前記事実関係等の下においては、前記の法の趣旨等に鑑み、上告人と被上告人との間に、嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。
 この最高裁判決は、定年退職後の嘱託社員を継続雇用しなかった事案に関するものであり、正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案に関するものではありませんが、正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案についても同様の判断がなされる可能性もあり、十分な検討が必要です。

5 希望者全員を継続雇用するという選択肢

 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくることに対する対策としては、
 ① 改正法施行前から継続雇用制度を採用していた会社で「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を維持する
 ② 再雇用自体は認めた上で、トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや、賃金の額を低く抑えること等により不都合が生じないようにすること等が考えられます。
 継続雇用制度を維持した上で、「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定める方法によりトラブルの多い社員の継続雇用を阻止することができればそれに越したことはありませんが、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みは原則として廃止されています。
 改正法施行の際、既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については、平成37年3月31日までの間は、段階的に基準の対象となる年齢が引き上げられながらもなお効力を有するとされていますが、例外的制度であるという位置づけは否めません。
 また、基準を適用することによる継続雇用拒否は、紛争を誘発しがちです。
 高年齢者雇用確保措置が義務付けられた主な趣旨が年金支給開始年齢引き上げに合わせた雇用対策であること、継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止される方向に向かっていることからすれば、原則どおり、希望者全員を継続雇用するという選択肢もあり得るのではないでしょうか。
 統計上も、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準制度により離職した者が定年到達者全体に占める割合は、わずか2.0%に過ぎないとされています(「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」)。
 トラブルが多い点については、トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや、賃金の額を低く抑えること等により対処することも考えられます。
 改正法では、継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大についても規定されていますので、そういった規定を活用することも考えられるところです。

6 継続雇用後の労働条件による調整

 高年法上、継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく、年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的、最低賃金法等の強行法規、公序良俗に反しない限り、就業規則、個別労働契約等において自由に定めることができます。
 もっとも、就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合、それが労働条件となりますから、再雇用後の労働条件を、就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。
 高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が、年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策、年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上、継続雇用後の賃金額に在職老齢年金、高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が、従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり、「時給1000円、1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。
 高年法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても、高年法違反となるものではありません。
 したがって、トラブルの多い社員との間で、再雇用後の労働条件について折り合いがつかず、結果として継続雇用に至らなかったとしても、それが直ちに問題となるわけではありません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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