1 基本的発想

 部下に残業させて残業代(割増賃金)を支払うのか、残業させずに帰すのかを決めるのは上司の責任であり、上司の管理能力が問われる問題です。その日のうちに終わらせる必要がないような仕事については、翌日以降の所定労働時間内にさせるといった対応が必要となります。

2 不必要な残業を止めて帰宅するよう口頭で注意しても社員が帰宅しない場合の対応

 不必要な残業を止めて帰宅するよう口頭で注意しても社員が帰宅しない場合は、社内の仕事をするスペースから現実に外に出すようにして下さい。終業時刻後も社員が社内の仕事をするスペースに残っている場合、事実上、使用者の指揮命令下に置かれているものと推定され、有効な反証ができない限り、残業していると評価される可能性が高いところです。近時の裁判例の中にも、「一般論としては、労働者が事業場にいる時間は、特段の事情がない限り、労働に従事していたと推認すべきである。」とするものがあります(ヒロセ電機事件東京地裁平成25年5月22日判決)。
 最低限、タイムカードを打刻させるとか、現実に働いていた時間を自己申告させるとかする必要がありますが、普段仕事をしている部屋にいつまでも残っているのを放置していると、タイムカード打刻後も残業させられていたとか、実際の残業時間よりも短い残業時間の自己申告を強制された等と主張されて、残業代請求を受けるリスクが生じます。

3 仕事の合間に食事したり喫煙したりおしゃべりしたり居眠りしたりしている時間

 仕事の合間に、食事したり、喫煙したり、おしゃべりしたり、居眠りしたり、仕事とは関係のない本を読んだりしていた場合であっても、まとまった時間、仕事から離脱したような場合でない限り、所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらえないのが通常です。居眠り等が目に余る場合は、その都度、上司が注意指導して仕事をさせるのが本筋です。上司が部下の注意指導を怠っていたのでは、無駄な残業はなくなりません。

4 本人の能力が低いことや所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことが残業の原因の場合

 本人の能力が低いことや所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことが残業の原因の場合であっても、現実に残業している場合は、残業時間として残業代の支払義務が生じます。本人の能力が低いことや、所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことは、注意、指導、教育等で改善させるとともに、人事考課で考慮すべき問題であって、残業時間に対し残業代(割増賃金)を支払わなくてもよくなるわけではありません。

5 明示の残業命令を出していないものの部下が残業していることを上司が知りながら放置していた場合

 明示の残業命令を出していなくても、部下が残業していることを上司が知りながら放置していた場合は、残業していることが想定することができる時間帯については、黙示の残業命令があったと認定されるのが通常です。具体的に何時まで残業していたのかは分からなくても、残業していること自体は上司が認識しつつ放置していることが多い印象です。部下が残業していることに気付いたら、上司は、残業を止めさせて帰宅させるか、残業代(割増賃金)の支払を覚悟の上で仕事を続けさせるか、どちらかを選択する必要があります。

6 残業の事前許可制

 残業の事前許可制は、残業する場合には上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定めるだけでなく、実際に残業の事前許可なく残業することを許さない運用がなされているのであれば、不必要な残業の抑制や想定外の残業代(割増賃金)請求対策になります。
 しかし、就業規則に残業の事前許可制を定めて周知させたとしても、実際には事前許可なく残業しているのを上司が知りつつ放置しているような職場の場合は、不必要な残業時間の抑制になりませんし、黙示の残業命令により残業させたと認定され、残業代(割増賃金)の支払を余儀なくされることになります。
 残業の事前許可なく残業している社員を見つけたら、直ちに残業を止めさせて帰らせるか、許可申請するよう促すようにして下さい。就業規則を整備しても、実態が伴わなければ、不必要な残業時間の抑制にも想定外の残業代(割増賃金)請求対策にもなりません。

7 タイムカードの打刻時間が実際の労働時間の始期や終期と食い違っている場合

 タイムカードにより労働時間又は勤怠を管理している場合、タイムカードに打刻された出社時刻と退社時刻との間の時間から休憩時間を差し引いた時間が、その日の実労働時間と認定されることが多いところです。タイムカードの打刻時間が実際の労働時間の始期や終期と食い違っている場合は、それを敢えて容認してタイムカードに基づいて残業代を支払うか、働き始める直前、働き終わった直後にタイムカードを打刻させるようにするかを選択する必要があります。

8 自己申告制と労働時間

 自己申告された労働時間が実際の労働時間と合致しているのであれば、自己申告された労働時間をチェックすることで不必要な残業時間の抑制につなげることができますし、自己申告された労働時間に基づいて残業代(割増賃金)を支払えば、想定外の残業代(割増賃金)請求対策になります。
 しかし、自己申告された労働時間が実際の労働時間に満たない場合は、自己申告された労働時間をチェックしても不必要な残業時間の抑制につなげることができませんし、自己申告された労働時間に基づいて残業代(割増賃金)を支払っても想定外の残業代(割増賃金)請求がなされる可能性があります。
 自己申告制を採用する場合は、パソコンのオンオフのログで在社時間をチェックし、自己申告の労働時間と在社時間の齟齬が大きい場合には当該社員から事情説明を求める等の工夫をして、自己申告された労働時間が実際の労働時間と合致するようにする必要があります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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