問題社員320 無駄な残業をする。

動画解説

この記事の要点

無駄な残業は、残業代の不公平と健康被害の両面から止める必要がある

時間内に終わらせて帰る人より、だらだら残る人の方が給料が多いのはおかしい。長時間労働は安全配慮義務の問題でもある

命じていない残業でも、知りながら放置すれば残業代を払うことになりやすい

黙示の残業命令があったと評価される。勝手にやったのだから払わなくてよい、という発想は危険

まず進捗を把握し、本人に必要性を説明させ、対話で見極める

丸投げで自主性に任せておきながら無駄な残業を嘆くのは筋が通らない。任せてはいけない人に任せていないか

優しい言葉だけでは足りない。はっきり「帰りなさい」と伝える

それでも帰らない例外的な社員には、残業禁止命令を書面で。最後は社長の決意が一番大事

1. 無駄な残業をする社員という悩み

本当に残業が必要なのかどうかよく分からないけれども残業をしていて、残業代を払っている。そんなケースは、多くの会社で見られます。中には、外から見れば残業の必要などないのに、無駄に残って残業代を稼いでいるのではないか、と疑われるような社員が、稀にいることもあります。本記事では、本当に必要なのか疑わしいという程度の話から、これは絶対に残業はいらないだろうという事案までを含めて、無駄な残業をする社員への対応の基本を解説します。

2. なぜ無駄な残業を止めなければならないのか

まず、そもそもなぜ無駄な残業を止めなければならないのか、という点を整理します。法定労働時間を超えて残業させるには、いわゆる三六協定(労働基準法36条に基づく労使協定)が必要であり、コンプライアンス上の問題もありますが、それ以上に実質的な問題がいくつかあります。

① 残業代の不公平と、やる気への影響

払うべき残業代はしっかり払うべきです。しかし、必要もなくだらだら残って残業代を払うのは、会社のあり方としておかしいところがあります。所定時間内にきっちり仕事を終わらせて帰った人よりも、長くだらだら残業している人の方が、月々の給料が多くなるというのは、不公平な感じがします。むしろ時間内に集中して終わらせる人の方が、実際のパフォーマンスは高いのではないでしょうか。これを放置すると、時間内に集中して仕事をするよりも、所定時間はほどほどに流して残業時間に片付けた方が得だ、ということになりかねません。

② 安全配慮義務と健康の問題

雇い主は、働く社員が健康を害さないようにする義務(安全配慮義務)を負っています。長時間労働は体を壊しやすく、労災にもなりやすいことが知られています。となると、本人がやりたいかどうかという話だけではなく、体を壊さないように、長時間の残業は経営者として止めてあげなければならないのです。本人の自由だとは言っていられません。どうしても長時間働きたいのであれば自分の事業としてやってもらえばよいわけで、雇っている社員である以上、健康を害するような働き方には限度を設ける必要があります。

3. 命じていない残業でも残業代を払うことになる理由

ここで、残業しろと言っていないのに勝手に残業した場合まで、残業代を払わなければならないのか、と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、基本的には払わなければならないことが多いのです。

「黙示の残業命令」があったと評価される

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれた時間をいうと理解されています。残業を命令していないと言っても、残業しているのを知りながら放置していると、黙示の残業命令があった、つまり明確な言葉こそないが指揮命令下にあると評価され、その時間は労働時間だから残業代を払いなさい、と言われてしまうのです。好きでやっているのだから払わなくてよいだろう、と思っていると、後でまとまった金額を請求されて驚く、ということが起こります。とくに退職後、会社に気を使わなくてよくなった元社員からの請求は少なくありません。

4. 必要な残業か、無駄な残業かを見極める

では、どうすれば無駄な残業を切り上げて帰ってもらえるのか。第一に、必要な残業なのか、無駄な残業なのかを見極める必要があります。その仕事を把握していて、進行状況も分かっている経営者であれば、判断は比較的容易です。他方、この人は本当に必要のない残業をやっているのではないか、と疑っている相手については、しっかり進捗状況を把握しなければなりません。

本人に必要性を説明させ、対話する

進捗を把握するとともに、本人にその残業の必要性を説明させてみるとよいでしょう。どうしてそれが必要なのかを説明してもらい、説得力があるかどうかをよく考えてみてください。同じ仕事を他の人は所定時間内で終えているのに、その人だけ3時間も4時間も残っているなら、その点も聞いてみてよいところです。単に処理能力が低いだけかもしれませんが、働く側はそれを認めたくないので、もっともらしい理由を言ってくることが多いものです。しっかり対話しなければ答えは出ません。その仕事が翌日に回してよいものか、今日やってしまわないとまずいものかを見極め、残業させるかどうかを決めてください。

こうした対話をしっかりやっていれば、案外、言うことを聞く人は多く、無駄な残業は減るものです。無駄な残業が多いケースは、残念ながら、経営者がしっかり見ていない・対話していないことが多いのです。丸投げして本人の自主性に任せておきながら、無駄な残業が多くて困る、というのは筋が通りません。少なくとも残業に関しては、自主性に任せてはいけない人に、任せる指示をしていないかを確認する必要があります。社長が無駄ではないかと懸念するような相手は、たいてい自主性に任せてはいけない人なのです。

5. 実際に止める方法

止める方法は、まず本人に話して、仕事をするスペースから外に出てもらうことです。とくにオフィスで働いている場合、そこまで持っていけば、残業代の問題も、仕事のせいで体を壊す問題も生じにくくなります。

優しい言葉だけでは「踏み込み不足」

多くの社長は、何もしていないわけではなく、「無理すんなよ」「早く帰るんだぞ」といった、穏やかで優しい言葉はかけています。それ自体は非難される言葉ではありませんが、それで帰ってくれる人ばかりではありません。相手からすると、社長が気づかってくれるのだな、と思うだけで、無理にでも帰ってほしいのだ、という真意は伝わりません。「お気遣いありがとうございます、でも頑張ります」で終わってしまうのです。本当に帰ってほしいのであれば、はっきり「帰りなさい」と伝えてください。自主性に任せてうまくいかないのですから、しっかり伝えないと変わりません。それでかなりの問題は解決します。

それでも解決しない相手には、帰るまで、仕事をするスペースから外に出るまで、その場に立って付き添う、という方法もあります。社長が自分の席のそばに立って「帰ってください」と言えば、まず間違いなく帰ります。強い言葉は必要ありません。「帰ってください」と言った後、黙ってその場に立っているだけでも十分に効果があります

6. それでも帰らない場合(残業禁止命令)

言い返してきて、どうしても帰らないという相手は、極めて稀ですが存在します。そうした場合には、残業禁止命令を出します。紙に書いて渡すなどして、業務命令としてしっかり従ってもらいます。実際の説得活動とあわせて残業禁止命令を出せば、ほとんどのケースで、仕事らしきものをしていても残業代を払わなくてよい状況になります。残業を禁止しているのですから、その時間は指揮命令下の労働時間とは言えなくなるからです。

残業禁止命令を出しても払うことになる例外

残業禁止命令を出しても残業代を払うことになるのは、たいてい不当労働行為の事案です。労働組合の関係者だけに差別的に残業禁止命令を出した、と労働委員会や裁判所から評価されると、命令を出していても不当労働行為だから払いなさい、と言われることがあります。組合関係者でなければおおむね問題ありませんし、組合関係者でも正しいやり方で行えば問題ありません。そうした場面では、弁護士と相談しながら対応してください。

7. まとめ

  1. 無駄な残業は、残業代の不公平と健康被害の両面から止める。安全配慮義務の問題でもある
  2. 命じていない残業でも、知りながら放置すれば黙示の残業命令として残業代を払うことになりやすい
  3. まず進捗を把握し、本人に必要性を説明させ、対話で見極める。翌日に回せる仕事かどうかを判断する
  4. 自主性に任せてはいけない人に、任せる指示をしていないかを確認する
  5. 優しい言葉だけでは踏み込み不足。はっきり「帰りなさい」と伝える。付き添うのも有効
  6. どうしても帰らない例外的な社員には、残業禁止命令を書面で出す。不当労働行為には注意

一番大事なのは、無駄な残業をさせないという社長の決意です。これさえしっかり固めていただければ、その手段はおのずと見つかります。長年解決しない問題は、たいてい踏ん切りがつかないことが原因です。無駄な残業をさせて無駄な残業代を払ったり、本人が体を壊して労災になったりするのは、本人のためにもなりません。困った社員であっても健康を守ってあげるのが、会社経営者のあるべき姿です。無駄な残業でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 残業しろと命じていないのに、勝手にやった残業代を払わなければいけませんか。

A. 払わなければならないことが多いのが実情です。労働時間は使用者の指揮命令下に置かれた時間をいい、明確に残業を命じていなくても、残業しているのを知りながら放置していると、黙示の残業命令があったと評価されるからです。勝手にやったのだから払わなくてよい、という発想は危険で、後から多額の請求を受けることがあります。無駄な残業だと考えるのであれば、放置せず、必要性を確認した上ではっきり帰るよう伝え、必要に応じて残業禁止命令を出すという対応が大切です。

Q2. 本人が「自分のペースでやりたい」と言って残業をやめません。どうすればよいですか。

A. まず、その残業が本当に必要か、進捗を把握し、本人に必要性を説明させて対話で見極めてください。翌日に回せる仕事であれば、はっきり帰るよう伝えます。優しい言葉だけでは真意が伝わらないことが多いので、必要なら仕事のスペースから出るまで付き添うのも有効です。それでも従わない例外的な相手には、残業禁止命令を書面で出すことを検討します。本人の自由と言っていられないのは、長時間労働が健康を害し、会社の安全配慮義務の問題にもなるからです。

Q3. 残業を減らすために、事前許可制を導入するのは有効ですか。

A. 無駄な残業や無駄な在社時間を減らす手段として、残業の事前許可制は有効な選択肢です。ただし、制度を作るだけでは足りず、許可なく残業しているのを放置すると、かえって黙示の残業命令があったと評価され、残業代の支払義務が生じることがあります。導入するのであれば、許可なき残業を見つけたら止める、記録を確認するといった運用をしっかり行う必要があります。運用まで手が回らない職場には向かないこともありますので、詳しくは事前許可制に関する記事もご覧ください。

最終更新日:2026年7月18日


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