問題社員319 音信不通社員が入居していた社宅を明け渡してもらう方法
動画解説
この記事の要点
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借り上げ社宅の場合、放置すると家賃負担だけが積み上がる 本人はそこにいないのに会社は貸主へ家賃を払い続ける。給料天引きも、就労がなくなれば原資が消える |
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本人の同意なく荷物を運び出すのは、自力救済にあたるおそれがある 社宅とはいえ本人のプライベートな空間。権利があっても実力で処理することは、原則として法的に認められていない |
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実務では、家族・身元保証人の了解を得て処理する会社が多い 実際上のトラブルは起きにくい一方、法的に問題のないやり方かと問われると、そうとは言い切れない場合が多い |
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万全を期すなら、明け渡し訴訟と強制執行による処理 本人がいなくても公示送達で判決を取り、確定後に強制執行する。手間と時間はかかるが、間違いのない方法 |
目次
1. 連絡が取れない社員の社宅をどうするか
社宅に入居している社員が突然出社しなくなり、連絡も取れなくなってしまった。そんなとき、社宅の処理をどうすればよいのか、頭を悩ませている経営者の方は少なくありません。会社所有の物件であっても、誰も働いていないのに部屋を占有され続けるのはそれなりの負担です。ましてどこかから借り上げてそこに住まわせていた場合には、そのままにしておくと家賃がどんどんかかっていきます。
本記事では、突然出社しなくなり連絡が取れなくなった社員が入居していた社宅を、明け渡してもらう方法について解説します。この問題は、実務上のやりやすさ・効率の良さと、法的に問題のないやり方で万全を期すこととの、せめぎ合いの問題になります。
2. なぜ社宅の明け渡しを急ぐ必要があるのか
とくに借り上げ社宅の場合、会社は物件の貸主(オーナー・管理会社)との関係では賃借人の立場にあります。社員が出社しなくなっても、会社と貸主との賃貸借契約が終わらない限り、会社は貸主に対して家賃を払い続けなければなりません。本人はそこにいない、働いてもいない、それなのに会社の負担だけが重くなっていく、という状態が生じてしまいます。
社宅の家賃を給料から天引きしていた場合であっても、出社しなくなればまもなく給料は支払われなくなります。つまり、天引きの元となる給料そのものがなくなってしまうわけです。そうすると、会社は本人から家賃を回収できないまま、貸主への支払いだけを一方的に続けることになります。どこかのタイミングで社宅の利用契約を終了させ、実際に明け渡してもらいたい、と考えるのは当然のことです。
ところが、何しろ本人がそこにいないため、話をすることができません。他の社員をそこに住まわせるわけにもいきません。行方が分からない社員に割り当てられた部屋である以上、勝手に別の人を住まわせることはできないからです。となると、一旦明け渡してもらわざるを得ないわけですが、相手と連絡が取れないという点で、特別な配慮が必要になってきます。
3. 荷物を勝手に運び出してよいか(自力救済の禁止)
一番手っ取り早そうに見えるのは、会社の人がその部屋に入って荷物を運び出してしまうことです。これで明け渡しは完了しそうに見えます。しかし、これは簡単にやってはいけません。そこにあるのは本人の私物です。社宅とはいえ、本人のプライベートな空間です。本人の同意なしに家具や私物を持ち出して外に運ぶことについてまで、本人が同意しているとは、なかなか言えないからです。
「自力救済の禁止」という基本原則
法律の世界では、たとえ自分に権利があるとしても、裁判所などの法的手続によらずに、実力で権利を実現すること(自力救済)は、原則として認められていません。会社が物件を所有・賃借していて、社宅利用契約を終了させる正当な理由があるとしても、本人の意思に反して勝手に立ち入り、荷物を運び出すことは、この自力救済にあたるおそれがあります。無断で立ち入れば住居侵入の問題が、私物を壊したり処分したりすれば器物損壊や横領の問題が、理論上は生じかねません。だからこそ、本人の同意が取れない場面での処理には、慎重さが求められるのです。
4. 実務で多い「家族の了解を得る方法」とその限界
本来は本人の同意を得てから進めたいのですが、多くの会社、とくに小規模な会社では、本人の同意を得るのが難しい状況になってしまいます。そこで実務上は、身元保証人や家族の方と連絡を取り、その了解をもらってから処理する会社が多いのが実情です。家族の了解を得て、私物を家族のところへ送り出す。部屋に入るときも家族の方に立ち会ってもらう。こうした形で処理している会社は、かなりの数に上ると思われます。
本人がそもそも長期間連絡が取れないという落ち度がある上、ご両親などが、仲が悪いわけでもないのに来てくださり、しっかり立ち会って処理したということであれば、実際上、トラブルになるリスクはそれほど高くありません。そのため、様々な事情からこの方法を選ぶ会社が多いのは、理解できるところです。
実際上のトラブルの少なさと、法的な正しさは別
他方で、これが本当に適法なのかと問われると、微妙なところがあります。本人が1人で住んでいた社宅のものを、たとえ両親が了解していたからといって勝手に持ち出すことに、法的にきっちり問題がないと言い切れるかというと、そうとは言えないケースが多いのです。家族だからといって、本人の私物の処分権限が当然にあるわけではありません。特殊な事情があればまた別ですが、そうしたものがない限り、実際上のゴタゴタが少ないという話はできても、法的に正しいやり方だとまでは言えない可能性が高い、というのが率直なところです。
5. 法的に万全な方法(明け渡し訴訟・強制執行)
仮に、当社はコンプライアンス第一であり、コストパフォーマンスは一切考えなくてよいので、後ろ指を指されることのないやり方でやりたい、という方針の会社であれば、どうするか。その場合は、本人に対して建物明け渡しの訴訟を提起することになります。
本人がいなくても手続を進める方法
本人がそこにいない以上、訴状などを通常の方法で届けること(送達)ができません。その場合、最終的には公示送達という方法で、本人に送達したものとして扱ってもらい、勝訴判決を取ります。そして、判決が確定した後に、その判決を使って明け渡しの強制執行を行い、処理することになります。これが、万が一にも間違いを起こしたくないという会社にとって、一番間違いのないやり方です。
ただし、この方法は、基本的に弁護士に依頼することになりますし、手間もかかり、ある程度の時間もかかります。その覚悟の上で選んでいただく、ということになります。
6. どちらを選ぶかは、経営判断
この問題は、実務上のやりやすさ・効率の良さと、法的に問題のないやり方で万全を期すこととの、攻め合いの問題です。弁護士がアドバイスを求められた場合、こうした処理をしている会社が多いという効率のよいやり方を事例として紹介することはできても、では法的に問題のない正しいやり方はどうなのかと問われれば、訴訟などの裁判所の手続を使ったやり方をご紹介することになります。
どちらの手段を取るのかは、会社経営者の皆様が、自社の方針や会社の置かれた状況などを踏まえて判断していくべき問題です。非常に悩ましい問題ではありますが、しっかり判断して、よい方向に解決していきましょう。判断に迷われる場合は、会社側・使用者側専門の弁護士にご相談ください。
7. まとめ
- 借り上げ社宅は、放置すると会社の家賃負担だけが積み上がる。給料天引きも就労がなくなれば原資が消える
- 他の社員を住まわせることもできず、一旦明け渡してもらうしかないが、本人と連絡が取れない点で特別な配慮が必要
- 本人の同意なく荷物を運び出すのは、自力救済にあたるおそれがある。社宅でも本人のプライベートな空間である
- 実務では家族・身元保証人の了解を得て処理する会社が多い。実際上のトラブルは少ないが、法的に正しいとは言い切れない場合が多い
- 万全を期すなら、公示送達を使った明け渡し訴訟と強制執行。手間と時間はかかるが、間違いのない方法
- どちらを選ぶかは、自社の方針を踏まえた経営判断。微妙なところは弁護士に相談しながら進める
この問題に唯一の正解はありません。だからこそ、自社がどこまでのリスクを許容するのか、どこにコストをかけるのかを、経営者ご自身が意識的に選び取ることが大切です。連絡が取れなくなった社員の社宅の処理でお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 家族の了解を得て荷物を運び出せば、法的に問題ないと考えてよいですか。
A. 実際上のトラブルは起きにくくなりますが、法的に問題がないと言い切れるかというと、そうとは限りません。社宅は本人のプライベートな空間であり、家族だからといって本人の私物の処分権限が当然にあるわけではないからです。本人が長期間連絡を絶っているという落ち度があり、家族が立ち会って処理したという事情があれば、リスクは相当程度下がります。もっとも、万全を期すのであれば、裁判所の手続を使った処理を検討することになります。どこまでのリスクを許容するかは経営判断ですので、迷われる場合は弁護士にご相談ください。
Q2. 本人と連絡が取れないのに、明け渡し訴訟を起こせるのですか。
A. 起こせます。本人の所在が分からず、訴状などを通常の方法で届けられない場合には、公示送達という方法によって、本人に送達したものとして扱ってもらうことができます。その上で勝訴判決を取り、判決の確定後に明け渡しの強制執行を行うことになります。手間と時間、費用はかかりますが、後から効力を争われるリスクを最小限にした、最も確実な方法です。実際の手続は弁護士に依頼して進めるのが通常です。
Q3. 社宅の家賃を、これまで給料から天引きしていました。滞納分はどうなりますか。
A. 給料からの天引き(賃金控除)は、就労がなくなり給料の支払いがなくなれば、天引きの原資自体がなくなります。滞納分は本人に対する債権として残りますが、行方が分からない相手からの回収は現実には難しいのが実情です。まずは家賃負担が積み上がらないよう、社宅利用契約の終了と明け渡しを早期に進めることを優先し、滞納分の扱いや残置物の処理とあわせて、弁護士と整理していくのがよいでしょう。なお、賃金からの控除には労使協定など労働基準法上のルールがありますので、天引きの運用自体も一度確認しておくことをおすすめします。
最終更新日:2026年7月18日