問題社員248 注意指導するとパワハラだと言い返す。

動画解説

この記事の要点

パワハラと言われても逃げない——まともな注意指導ならひるまず継続する

パワハラだと言われただけで逃げてしまえば職場の秩序が崩壊する。内容を検討した上で問題があれば改め、問題がなければむしろ管理職を守る。会社経営者の役割

パワハラかどうかは客観的に決まる——「相手がそう思ったらパワハラ」は誤り

平均的な労働者の感じ方を基準に客観的に判断される。主観的な受け取り方は考慮要素の一つに過ぎない。厚労省のパワハラ指針にも明記されている

議論の対象はパワハラか否かではなく「事実」——5W1Hを確定させる

「パワハラをやったか」と聞けば水掛け論になる。「何月何日の何時頃、どこで、誰が誰に対して、どのように、何をしたか」を確定すれば、評価は後から付けられる

白黒ではなく点数で考える——42点でギリギリセーフではなく90点を目指す

「パワハラかどうか」の二択で考えるとギリギリ赤点クリアの発想に陥る。「何点の注意指導か」で考え、効果的で適切な指導を目指せば、滅多にパワハラにはならない

こまめに弁護士に相談しながら対応する——オンライン短時間相談を頻繁に活用

本やセミナーで得た一般論を自社の事案に適用するのは難しい。ZoomやTeamsで15〜30分の相談を毎週のように入れて、その都度対処法を磨いていく

1. パワハラと言われても逃げない——まともな注意指導ならひるまず継続する

会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。

「注意指導をするとパワハラだと言い返してくる社員がいて、上司が注意指導しにくくなっている」——このような相談は、私が受ける問題社員相談の中でも非常に多いタイプです。本日は、注意指導するとパワハラだと言い返す問題社員への対処法について、会社経営者が押さえるべき5つのポイントをお話しします。

まず押さえるべき最初のポイントは、パワハラだと言われても逃げないということです。

もちろん、本当に問題のある指導をしているのであれば直ちに改める必要があります。しかし、まともな注意指導を行っているにもかかわらずパワハラだと言われることは、実際の相談事案でもかなり多く見られます。どこが問題なのかも具体的に説明できないのに、とにかくパワハラだと言って上司を威嚇し、注意指導しにくくさせてくる困った社員がいるのです。

パワハラと言われただけで上司が逃げてしまうと、職場の雰囲気は悪化します。「あの上司はちょろい、言うことを聞かなくていい」と思われてしまえば、問題社員は好き勝手を始め、仕事をサボるどころか、自分の気に食わない社員をいじめ始める——こうした事態が実際に起きています。

会社経営者の役割——管理職を守る判断

管理職がパワハラだと言われた場合の会社経営者の対応も重要です。パワハラだと言われた管理職を、それだけの理由でマイナス評価してしまうのは誤りです。

パワハラだと言われている内容が具体的に何なのかをよく調べた上で、確かに問題があるのであれば改めさせる必要があります。しかし、まともな注意指導をしっかり行っている管理職に対してパワハラだと騒いでいる社員が出てきた場面で、その管理職をマイナス評価するのは不当です。

調べた結果、管理職がしっかりとした注意指導をしているという前提であれば、むしろ大事に守ってあげなければなりません。これが会社経営者の役割です。「誰かが断言した」というだけで真に受けて処罰するのではなく、実質を調べてそれに応じた対応をすることが求められます。

2. パワハラかどうかは客観的に決まる——「相手がそう思ったらパワハラ」は誤り

2番目のポイントは、パワハラかどうかは客観的に決まるということです。

世の中には「相手がパワハラだと感じたらパワハラだ」という情報が広く流れていますが、これは完全な誤りです。相手がどう感じたかで決まるものではありません。

パワハラかどうかは客観的に決まるものです。基本的には「同じような立場の労働者がどのように感じるのが普通か」という基準で考えます。相手がどう感じたかは一つの考慮要素にすぎず、それ自体が判断基準ではありません。

もしも「相手がパワハラだと思ったらパワハラ」が本当だとしたら、何もできなくなってしまいます。「私はパワハラだと思いました、だからパワハラです」と言われて、それが通ってしまうのであれば、必要な注意指導は一切できなくなります。そんな世の中ではないのです。

厚生労働省のパワハラ指針にも明記

厚生労働省のパワハラ指針でも、パワハラに該当するかどうかは客観的に判断されることが明記されています。パワハラ指針では、職場におけるパワーハラスメントは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもので、③労働者の就業環境が害されるもの、という3要素をすべて満たすものとされており、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラには該当しないとされています。

これを踏まえれば、「相手がパワハラだと思ったからパワハラ」という主張は成り立ちません。まずこの基礎を押さえておくことが、パワハラと言い返す社員に振り回されないための出発点になります。

3. 議論の対象は「パワハラか否か」ではなく「事実」——5W1Hを確定させる

3番目のポイントは、議論の対象は「事実」であって、「パワハラか否か」ではないということです。

パワハラの相談を受けると、しばしば不毛な議論がなされている場面に遭遇します。例えば、部下が「パワハラをやられました」と訴えてきたので、上司に「パワハラをやりましたか」と聞いたら、「いえ、私はパワハラなんかやっていません」と答えられる——こうした調査結果になることがよくあります。これでは議論が全くかみ合いません。

事実調査の聞き取りで、「パワハラをやったか」「パワハラをされたか」という言葉を使ってはいけません。結論の部分で少し使う程度ならともかく、議論の中心にしてはダメです。大事なのは事実です——いつ、どこで、誰が、誰に、どのように、何をしたのか、です。

事実を確定すれば評価は後から付けられる

事実調査の場面では、加害者とされる社員に対して、次のように質問してください。

「何月何日の何時頃、どこどこで、あなたから〇〇さんに対して、こういうふうに『××』と言われた、こういうことをされたと〇〇さんが話しているが、事実関係はどうなのか」

このように事実を具体的に特定して問うと、本当なのか嘘なのかの議論が噛み合いやすくなります。ところが、「パワハラをやったかどうか」という問題設定にしてしまうと、「確かに私はあのセリフを言ったが、パワハラだとは思っていません」という話になりかねず、議論が迷走します。

実際に言った言葉、やったこと——そこがはっきりすれば、それがパワハラなのかどうかの評価は後から付けられます。パワハラかどうかを質問するのではなく、やったこと・言ったことを確定させる調査を行ってください。

4. 白黒ではなく点数で考える——42点でギリギリセーフではなく90点を目指す

4番目のポイントは、効果的で適切な注意指導かどうかを、白黒ではなく「点数」で考えるということです。

「先生、これってパワハラでしょうか」「これって問題ありますか」——私が相談で受ける質問には、こういったものが多くあります。これらの質問に共通しているのは、パワハラかどうかが白か黒かで明確に分かれている、というイメージです。アウトかセーフか、という二択で考える発想です。

しかし、この発想は危険です。例えば、ある弁護士に相談して「あなたのやり方は42点だと思うが、パワハラではない、ギリギリセーフだ」と言ってもらえたとします。ところが、少し事実関係が違っていて実は38点だったことが判明すれば、一気に赤点——パワハラだと裁判で評価されてしまう可能性があります。

白か黒かではなく、0点から100点の間の何点かで考えてください。注意指導の出来の良さが42点でギリギリセーフなのか、85点で余裕を持って適切な指導なのか——この差は極めて大きいのです。

目指すべきは「効果的で適切な注意指導」

考えなければならないのは、「一体どれくらいの出来の良さの注意指導なのか」です。

仮に90点のスコアの注意指導をしたつもりが、後で事実関係を精査したら85点だったと判明しても、パワハラだという評価にはまずなりません。余裕があるからです。ところが42点でギリギリクリアしたつもりでも、事実関係に勘違いがあって38点だったと判明すれば、いきなりパワハラ扱いです。

パワハラかどうかという二択の思考でいる限り、「パワハラじゃないと思ったのにパワハラだと裁判官に言われた」という事態から逃れられません。改善もなかなかしません。42点でもパワハラじゃないと弁護士に言ってもらった、と思えば、それ以上上を目指そうとしないからです。

70点、80点、90点を目指してください。効果的で適切な注意指導ができていれば、滅多にパワハラにはなりません。これが本質的な対策です。

5. こまめに弁護士に相談しながら対応する

5番目のポイントは、こまめに弁護士に相談しながら対応するということです。

注意指導したときにパワハラだと言い返す社員への対処は、個別性が非常に強い問題です。一般論として「こういうことに注意してください」と教えられても、実際のその場その場で応用するのは難しいものです。法律の本を読んでも、判例を勉強しても、厚労省のパンフレットでパワハラの類型を学んでも、実際の場面でうまく対応できるとは限りません。

「仮免の路上教習」のような伴走

私が最も役に立つと考えているのは、その都度、弁護士に相談しながら対処するスタイルです。

イメージとしては、自動車の仮免許の路上教習に似ています。自分で運転しながら、隣で教官がアドバイスをくれる——この形が最も学習効果が高いのです。

弁護士に相談して方針を決め、それに沿ってやってみる。相手から反応があれば、再度打ち合わせを入れて次の対応を考える。また実行する。またリアクションがあれば、その対応を弁護士と一緒に検討する——この繰り返しが、個別事案の解決には最も効果的です。

Zoom・Teamsのオンライン相談の活用

かつては、気軽に相談しようと思っても、電話かメール、あるいは事務所まで出向いての面談しかありませんでした。片道30分かけて法律事務所に出向き、打ち合わせをして、また片道30分かけて会社に戻る——これでは移動時間だけでも相当なものになり、気軽に打ち合わせを入れるのが難しくなります。

しかし、新型コロナの流行以降、ZoomやTeamsといったオンライン相談が一般化しました。移動時間がなくなれば、短時間の打ち合わせを頻繁に入れることが可能になります。

1か月に1回2時間の打ち合わせを入れるよりも、毎週のように30分・30分・30分と短時間の相談を入れるほうが、問題社員対応のように状況が刻々と変化する事案には向いています。「先週の打ち合わせ通りに言ってみたら、こんなふうに言い返されました。どうしましょう」——このタイプの打ち合わせを重ねていくと、対応スキルが実践の中で磨かれていきます。

問題社員対応を中心業務としている弁護士に、オンラインで30分程度の相談をこまめに入れながら対応することを、強くお勧めします。

6. まとめ

注意指導するとパワハラだと言い返す問題社員への対処法として、5つのポイントを整理します。

  1. パワハラと言われても逃げない。まともな注意指導ならひるまず継続し、管理職を守ることも会社経営者の役割
  2. パワハラかどうかは客観的に決まる。「相手がそう思ったらパワハラ」は誤りで、厚労省パワハラ指針でも客観基準が明記されている
  3. 議論の対象は「パワハラか否か」ではなく「事実」。5W1Hを確定させれば、評価は後から付けられる
  4. 白黒ではなく点数で考える。42点のギリギリセーフではなく、90点の効果的で適切な指導を目指す
  5. オンラインでの短時間相談を活用して、こまめに弁護士に相談しながら対応する

問題社員対応は非常に個別性が強い領域です。判断に迷う場面では、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 部下から「それってパワハラですよ」と言われた場合、まず何をすればよいですか。

A. パワハラと言われたからといって、ひるんで注意指導をやめてはいけません。ただし、その内容が具体的に何を指しているのか、丁寧に確認する作業は必要です。「どの発言のどの部分がパワハラだと感じたのか」を本人に聞き、会社として客観的に検討した上で、問題があれば改め、問題がなければむしろ継続してください。曖昧なまま「パワハラ」という言葉に威嚇されて指導を止めると、職場の秩序が崩れます。

Q2. 「相手がパワハラだと思ったらパワハラ」というのは本当ですか。

A. 誤りです。パワハラかどうかは客観的に判断されるものであり、平均的な労働者がどう感じるかが基準になります。相手の主観的な受け取り方は一つの考慮要素にすぎず、それ自体が判断基準ではありません。厚生労働省のパワハラ指針にも、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラには該当しないと明記されています。

Q3. 事実調査のとき、「パワハラをやりましたか」と聞いてはいけないのはなぜですか。

A. 「パワハラ」は評価であり、事実ではないからです。「パワハラをやりましたか」と聞けば「やっていません」と答えられて議論が止まってしまいます。具体的に「何月何日の何時頃、どこで、あなたが〇〇さんに対して、どのような言動をしたのか」を特定して質問すれば、本当なのか嘘なのかの議論が噛み合います。評価の部分は事実が確定してから後で付ければ十分です。

Q4. パワハラと言い返してくる部下に対して、管理職をマイナス評価するのは適切ですか。

A. 調査を尽くさずに、言い返された事実だけを根拠にマイナス評価するのは不適切です。パワハラという言葉で威嚇されて指導をやめてしまう管理職が増えれば、職場全体の指導力が弱まります。調査の結果、まともな指導だったと確認できれば、むしろ管理職を守るのが会社経営者の役割です。調査は、本人・訴えた側・周囲の社員からの聞き取りと、5W1Hの事実確認を中心に進めてください。

Q5. パワハラにならないギリギリを狙うという発想は正しいですか。

A. 危険な発想です。「ギリギリセーフ」のつもりでいても、事実関係の認定が少し変われば一気に赤点になり得ます。目指すべきは80〜90点の「効果的で適切な注意指導」です。事実を明確に伝え、どう改めるかをセットで示す指導は、滅多にパワハラと評価されません。「パワハラにならないか」ではなく「効果的で適切か」を基準に考えてください。

最終更新日:2026年4月17日


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