問題社員221 解雇するよう要求する。
動画解説
目次
1. 「解雇するよう要求する社員」は実在する——トラブルの実態
「解雇してくれと言ってきた社員なんているのか」と疑問に思う経営者もいるかもしれません。しかし労働問題の相談を日常的に受けている弁護士のもとには、このパターンのトラブルが思いのほか多く持ち込まれます。
典型的なケースはこうです。「社員から解雇してほしいと言われたので、解雇してあげた。ところが後になって不当解雇だと主張されて、内容証明郵便や労働審判の申立書が届いた」というものです。
⚠ 解雇が無効になった場合のコスト
解雇が客観的に合理的な理由を欠く場合、解雇権の乱用として無効になります。そうなると社員は退職していないという法律状態になり、働いていない間も毎月の給与を払い続けなければなりません。月給30万円なら1年で360万円、2年で720万円です。小規模な会社にとっては致命的な損失になりえます。
2. 解雇要求の4つの意図と基本的対応
(1) 退職勧奨への反論として「解雇したら」と言っているケース
退職勧奨を行った際に「そんなにやめさせたいなら解雇したらどうですか」と反論してくるケースです。これは労働者として極めて合理的な回答であり、退職や解雇への同意を示すものではありません。
「解雇してくれと言ったから退職には同意しているはず」という解釈は間違いです。このようなセリフを言ってくる社員に対して、合意退職を目指すのであれば次の2つを丁寧に行ってください。
▶ 合意退職のために行うべき2つのこと
① やめなければならない理由を具体的な事実で説明する
「態度が悪い」「業績が落ちた」という抽象的な説明では反発を招くだけです。「何月何日にこういうことがあった」という具体的な事実を丁寧に説明することで、相手の納得感が生まれます。
② 退職条件(解決金)を提示する
経験のある社員ほど「上乗せ条件をもらうのが当然」と思っている場合があります。どれぐらいの金額を提示するかを弁護士と相談した上で検討してください。
(2) 会社都合退職にしたいケース
失業給付の受給条件をよくしたいという意図があるケースです。特定受給資格者(いわゆる会社都合退職)に該当するよう離職票に記載してほしいという要求です。
解雇以外にも特定受給資格者に該当する項目が離職票には存在します。会社としても特定受給資格者に該当すると考えているなら認めればよく、そう考えていない場合は再検討した上で判断してください。解決金の上乗せで対応することも選択肢の一つです。
(3) 解雇予告手当が欲しいケース
解雇されれば平均賃金30日分以上の解雇予告手当を受け取れるとわかっており、それを目当てにしているケースです。
この場合、1ヶ月分の賃金相当額を支払う形で合意退職にまとめることが現実的です。労働基準法20条では30日前に予告するか30日分の平均賃金を支払えばよいとされており(予告日数と賃金日数の合計が30日以上)、この金額で話がつくなら会社としてもメリットがあります。
(4) 働かずに賃金を取りたいケース——最も注意が必要
最も注意が必要なケースです。解雇が無効になれば働かなくても毎月の給与が支払われることを知っており、意図的に経営者を解雇に誘導しようとするタイプの社員です。
このタイプの社員には共通の特徴があります。解雇させようと執拗に働きかけてくる割に、解雇しなければならない理由を問うとまともに回答できません。また、スマートフォンで無断録音していることが多く、「首だ」「もう来なくていい」といった発言を引き出そうとします。
⚠ このタイプへの基本対応
「なぜ解雇しなければならないのですか」と冷静に問い返してください。まともな回答ができないはずです。解雇する気がないのであれば明確にその旨を伝え、退職するつもりがないなら職場に戻って働けばよいだけだということを伝えます。録音されていても問題のない言葉を選ぶことが最大の防御策です。
このタイプはお金が目的なので、条件次第では合意退職が成立することもあります。雇い続けた場合の管理コスト・職場への悪影響などを総合的に考えると、解決金を払って手切れ金的に退職させる選択肢が合理的なケースも少なくありません。
3. 無断録音を前提に言葉を選ぶ——「首だ」「来るな」は絶対NGワード
退職や解雇の話し合いをする場面では、常に無断録音されている前提で臨んでください。
民事裁判では無断録音であっても証拠として認められるケースがほとんどです。「首だ」「もう会社に来るな」「クビにする」といった発言は、たとえ本当に解雇するつもりがなくても、解雇と評価される可能性があります。
▶ 経営者に必要な実践トレーニング
「解雇と評価される言葉を使ってはいけない」という知識だけでは実際の場面で使いこなせません。弁護士との模擬練習(ロールプレイ)で挑発への対応を事前に練習することで、本番で冷静に適切な言葉を選べるようになります。知識と実践力は別物です。
4. まとめ
① 「解雇したら」は同意ではない——絶対に解雇しない
解雇要求に乗って解雇すると、後で無効主張されて多額の賃金支払い義務が生じます。解雇するつもりがないのであれば解雇しないことが鉄則です。
② 意図を見極めて個別に対応する
4つの意図(退職勧奨への反論・会社都合退職・解雇予告手当・無効解雇を狙った賃金取得)を見極め、それぞれに合った対応をとります。
③ 常に録音されている前提で言葉を選ぶ
「首だ」「来るな」などの発言は録音証拠として使われます。退職の話し合いは事前に弁護士と言葉の準備をしてから臨むことをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日 2026/04/16