問題社員216 管理能力がない管理職の降格 

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この記事の要点

「懲戒処分としての降格」と「人事異動としての降格」を明確に分けて考える

不祥事・ルール違反に対するバツとしての降格は懲戒処分。管理能力不足に対する適切な人員配置としての降格は人事異動。法的な根拠と手続きが異なる

管理職から外す(役職を下げる)こと自体は、就業規則に人事権が定められていれば大体できる

管理職限定採用でない場合、人事異動として管理職から外すことは多くの場合認められる。問題になるのは給与をいかに下げるかという点

給与を下げる場合は就業規則に根拠が必要。役職手当の設計が最もシンプルで有効な方法

「役職についたら手当支給、外れたら手当なし」という設計なら根拠が明確で紛争になりにくい。基本給の減額は根拠がなければ権限の問題・乱用問題が生じる

管理職から外すことが本人のためになる場合もある。プレイヤーとして戻った方が生き生きと働けることも

管理職の仕事が向いていない人にとっては、降格によってプレイヤーとして活躍できる場が戻る。本人にとっても良い選択になることがある

1. 降格の2種類を理解する——懲戒処分 vs 人事異動

管理能力がない管理職の降格を検討する際、まず明確に区別すべきことがあります。それは「懲戒処分としての降格」と「人事異動としての降格」は別物だという点です。

▶ 2種類の降格の違い

懲戒処分としての降格 ハラスメント・不祥事・ルール違反などの問題行動に対する制裁。バツとして管理職から外す。就業規則の懲戒規定に根拠が必要
人事異動としての降格 管理能力の不足・適性の問題から、適切な人員配置として管理職から外す。制裁ではなく経営上の判断。人事権の行使として行われる

管理能力がない場合は、多くのケースで「人事異動としての降格」の問題になります。この2つを混同すると、手続きを誤るリスクがあります。まずどちらの降格を行うかを明確にした上で対応を進めてください。

2. 管理職から外すこと(役職降格)の法的な考え方

人事異動として管理職から外すことについては、就業規則に人事権(配置転換権限・役職変更権限)が定められていれば、多くの場合、実行することは可能です。

ただし、以下の場合は別の話になります。

⚠ 管理職限定で採用した場合は別問題

最初から「部長職として採用する」という管理職限定採用の場合、管理職から外すことは事実上の解雇・退職の問題になります。この場合は降格ではなく、退職勧奨・解雇の対応を検討する必要があります。

管理職限定採用でない通常のケース(平社員から昇進して管理職になった場合など)では、人事権の行使として管理職から外すことは認められることが多いです。

問題になりうる点は主に「嫌がらせ目的・不当な動機による降格(権利の乱用)かどうか」という点です。管理能力の問題・不祥事の発生など、合理的な理由に基づく降格であれば、権利の乱用とは認められにくいでしょう。

3. 給与を下げる場合の根拠——役職手当の設計が最もシンプル

(1) 役職手当による設計(推奨)

降格に伴う給与減額については、役職手当として設計しておくことが最もシンプルで有効です。

▶ 役職手当設計の例

・部長職に就いている間は「部長手当〇万円」を支給
・課長職に就いている間は「課長手当〇万円」を支給
・役職から外れた場合はその手当が支給されない

このように就業規則に定めておけば、管理職から外れることで手当がなくなるのは当然の帰結であり、給与減額の根拠が明確です。「役職についたら手当が出て、外れたら手当がなくなる」という設計は、紛争になりにくく、小規模の事業主にも実行しやすい方法です。

(2) 基本給の減額は根拠が必要

「管理職から外したのだから基本給も下げる」という対応には、就業規則に明確な根拠が必要です。根拠がなければ権限がないと判断されたり、権限があったとしても乱用と見なされたりするリスクがあります。その場合、差額の賃金請求が認められることもあります。

⚠ 「地位が下がったから当然下がる」という感覚は危険

就業規則に「どの職位ならいくら」という具体的な定めがなく、「部長から課長に下がったから給与が下がる」という感覚で減額すると、法的に問題になることがあります。基本給の減額を行いたい場合は、就業規則の整備を含めて弁護士・社会保険労務士に相談してください。

4. 降格は本人のためにもなる場合がある

管理職から外すことを「かわいそうなこと」と捉える必要はありません。プレイヤーとして優秀でも管理職の仕事が向いていない人は存在します。こうした方にとって、管理職から外れてプレイヤーに戻ることは、むしろ喜ばしいことである場合があります。

管理職の仕事は、通常業務とは全く異なる能力——人のマネジメント・組織運営・意思決定——が求められます。個人としての仕事は得意でも、これらが苦手という人は珍しくありません。

「管理職を外れた方がいい仕事をするようになった」というケースは実際にあります。管理職から外すことが本人のキャリアにとっても良い選択になりうる、という視点を持った上で、率直に話し合うことが大切です。

5. まとめ

管理能力がない管理職の降格について、実務上の対応ポイントを整理します。

① 懲戒処分か人事異動かを明確にする

管理能力不足の場合は「人事異動としての降格」です。不祥事・ルール違反の場合は「懲戒処分としての降格」です。混同しないよう、まずどちらかを明確にしてください。

② 役職手当として給与設計しておく

降格に伴う給与減額は、役職手当として就業規則に定めておくことが最もシンプルで確実です。基本給の減額は根拠がなければ法的に問題になるため、就業規則の整備が先決です。

③ 本人のためにもなる視点で率直に話す

管理職の仕事が向いていない人にとって、プレイヤーに戻ることは良い選択かもしれません。「会社のため」だけでなく「本人のためにも」という視点を持って話し合いましょう。

よくある質問(FAQ)

Q 管理能力がない管理職を降格させたいです。就業規則に定めがあれば一方的にできますか?
A

就業規則に人事権(役職変更権限)が定められていれば、人事異動としての降格(役職を外すこと)は多くの場合認められます。ただし「嫌がらせ目的」「不当な動機」がある場合は権利の乱用と判断されることがあります。

また、管理職限定で採用した場合は別の問題になります。個別事情に応じて弁護士に相談することをお勧めします。

Q 就業規則に役職手当の定めがありません。降格に伴って給与を下げることはできますか?
A

就業規則に根拠がなければ給与減額に法的な権限がないと判断されるリスクがあります。また根拠があっても「乱用」と見なされれば差額の賃金請求が認められる場合があります。まず就業規則に役職手当の定めを設けることが先決です。就業規則の整備については弁護士・社会保険労務士に相談してください。

Q 部長として採用した社員が管理能力不足です。降格できますか?
A

管理職限定(部長職限定)での採用の場合、降格は事実上の雇用終了・退職の問題になります。退職勧奨や解雇を検討することになりますが、高給中途採用の場合は能力不足の主張もしやすい面があります。個別の事情を踏まえて弁護士に相談してください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14