問題社員203 極端に能力が不足していて仕事ができない社員を本採用してしまった後の解雇。

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この記事の要点

本採用後の解雇は試用期間中と比べてハードルが格段に上がる。「ずっといられると思っていたのに」という本人の感情が最大の壁

試用期間経過後は法的ハードルも上がるが、それ以上に本人の納得感が大幅に低下する。本採用後の能力不足解雇はよほどの事情がないと難しい

「本採用後に能力が大幅低下した」という事情があれば解雇の根拠になりやすい。「元々できなかった」では通用しない

以前は許容範囲だったのに今は違う、という変化を示せるかどうかが鍵。元から低かった能力を後から問題にしても納得感が生まれない

「能力不足以外の解雇理由がないか」を探ることが実務上の重要な視点。遅刻・欠勤・命令違反・無断欠勤なども解雇理由になりうる

能力が低い社員は他の問題行動も起こしやすい。職場の秩序を乱す言動・業務命令違反・長期無断欠勤などを見落とさない

向いていない仕事を続けさせることは本人を不幸にする。体調悪化による長期欠勤→休職満了退職という流れもある

解雇にこだわらず、体調悪化や他の問題行動なども含めて総合的に対応を検討することが現実的

1. 本採用後の解雇はなぜ難しいのか

試用期間を終えて本採用になった後に能力不足を理由として解雇することは、試用期間中と比べてハードルが格段に上がります。法的なハードルが上がることもありますが、それ以上に大きいのは本人の納得感が大幅に低下することです。

試用期間中であれば「試しに雇ってもらっている段階」という認識があり、やめることに一定の納得感が生まれやすいです。しかし試用期間を過ぎた後は、本人に「この会社でずっと働けると思っていた」という安心感が生まれています。そこで突然「能力不足だからやめてくれ」と言われても、「話が違う」「なぜ試用期間中に言ってくれなかったのか」という感情が生じるのは当然です。

⚠ 「元々できなかった」を後から持ち出すのは難しい

「2年前も3年前も同じくらいの出来でした」という反論は、本採用後の能力不足解雇に対して非常に強い説得力を持ちます。以前のパフォーマンスが許容されていたのに今さら能力不足を持ち出すことは、「嫌がらせ」「口実」と受け取られやすく、裁判でも認められにくくなります。

2. 「能力が大幅に低下した」場合は解雇の根拠になりやすい

本採用後の能力不足解雇が認められやすいケースとして、採用後に何らかの事情で能力が大幅に低下したという場合があります。病気・怪我・加齢などにより以前は問題なくできていた仕事ができなくなった、というケースです。

「以前は許容できる水準だったが、今はできなくなった」という変化が示せるかどうかが、解雇の根拠として重要な意味を持ちます。また「時代の変化に伴い、以前は許容された能力水準でも今は求められる水準を満たさなくなった」という説明も、個別事情に応じて検討の余地があります。

いずれも個別の事案ごとに詳細な検討が必要であり、「能力が下がった」と主張できるかどうかを弁護士と事前に確認することが不可欠です。

3. 能力不足以外の解雇理由を探る

本採用後に能力不足のみを理由とした解雇が難しい場合、実務では能力不足以外の解雇理由・問題行動がないかを確認することが重要な視点になります。能力が低い社員は、能力以外の問題も起こしやすい傾向があります。

(1) 遅刻・欠勤・無断欠勤

能力が低い社員の中には、遅刻や欠勤が多い、だらしなくて時間通りに出社できないというケースがあります。ちょっとした遅刻だけで解雇することはできませんが、注意指導を重ねた上で改善がなく、突然長期間無断欠勤・連絡不能になるケースも中にはあります。そうした状況が続けば、それを理由とした解雇が認められることがあります。

(2) 業務命令違反

「能力が低い」とは別に、「やろうとしない」というケースも実は多くあります。普通の仕事を指示しても「嫌です」と断る、業務命令を平然と無視するという行動は業務命令違反となります。

▶ 業務命令違反を解雇理由とする手順

① 口頭での業務指示だけでなく、書面(業務命令書)を交付する
② それでも従わない場合、段階的に戒告→減給→降格などの懲戒処分を経る
③ それでもなお改善がない場合に懲戒解雇・普通解雇を検討する

「能力が低いのに加えて、言われたことをやろうとしない」という社員については、純粋な能力不足より業務命令違反という方向で対応できることがあります。

(3) 体調悪化による長期欠勤→休職満了退職

向いていない仕事を続けることは本人にとって大きなストレスです。「早く時間が過ぎないか」と思いながら働き、体調を崩してしまうケースがあります。体調不良が続いて長期欠勤になり、会社に休職制度があれば休職に入り、休職期間が満了しても復職できなければ退職——という流れになることがあります。

これは解雇そのものではありませんが、長期欠勤や休職満了退職という形で雇用関係が終了するケースは実際に多くあります。この場合も弁護士と相談しながら適切な手続きを踏んで進めることが重要です。

4. 向いていない仕事を続けさせることは本人のためにもならない

解雇を検討する際に忘れてはならない視点があります。それは、本人のためにも考えるということです。

向いていない仕事を続けることは本人にとっても苦痛です。一生懸命頑張っても結果が出ない、周囲の目が冷たくなる、体調まで崩してしまう——こうした状態に置き続けることは、会社側から見て「解放してあげる」という視点で捉えることもできます。

他の会社・他の仕事では才能を発揮して生き生きと働ける可能性があります。解雇や退職勧奨を「悪いこと」と捉えるだけでなく、「本人のキャリアにとっても良い選択かもしれない」という視点を持つことが、誠実な経営者の姿勢です。

5. まとめ

本採用後の能力不足解雇について、実務上の対応ポイントを整理します。

① 「能力が大幅に低下した」事情がないか確認する

病気・怪我・その他の事情で採用後に能力が著しく低下した場合は、解雇の根拠になりやすいです。元々低かった能力を後から問題にするのは困難です。

② 能力不足以外の問題行動がないか確認する

遅刻・欠勤・無断欠勤・業務命令違反・職場秩序を乱す言動など、能力以外の問題行動がないか幅広く確認してください。こちらの方が解雇理由として明確になることがあります。

③ 解雇にこだわらず総合的に対応を検討する

退職勧奨・配置転換・体調悪化への対応(休職→休職満了退職)など、解雇以外の選択肢も含めて総合的に対応を検討してください。早めに弁護士に相談することをお勧めします。

よくある質問(FAQ)

Q 本採用後の社員が全く仕事ができません。解雇できますか?
A

本採用後の能力不足解雇は難易度が高く、元々低かった能力を後から理由にすることは特に困難です。「採用後に能力が大幅に低下した」「他の仕事もすべて適性がない」「業務命令違反がある」など、別の角度から検討することが現実的です。

まずは弁護士に個別の状況を相談し、取りうる対応策を整理してください。

Q 能力が低い社員が「やりたくない」と業務命令を拒否します。どう対応すればよいですか?
A

まず書面(業務命令書)を交付して正式に命令した上で、それでも拒否する場合は段階的に懲戒処分(戒告・減給・降格など)を行います。それでも改善がない場合に懲戒解雇・普通解雇を検討します。口頭での指示だけでなく書面化することが証拠としても重要です。弁護士のサポートを受けながら進めてください。

Q 能力不足の社員が体調を崩して長期欠勤しています。解雇できますか?
A

休職制度がある場合は休職に入れた上で、休職期間満了時に復職できなければ退職という流れが一般的です。解雇する場合も手順・時期・理由について慎重な判断が必要です。また、業務に起因する体調不良(労災)かどうかの確認も必要になります。早めに弁護士に相談してください。

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本採用後の解雇・退職勧奨・懲戒処分など、会社側の立場に特化した弁護士が具体的にアドバイスします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14