問題社員187 成果をあげられない営業社員。
動画解説
目次
営業成績が上がらない本当の原因を見極め、教育指導・配置転換・退職勧奨・営業手法の見直しを状況に応じて組み合わせることが、経営者に求められる対応です。
営業成績が上がらない社員を抱える経営者は、まず教育指導で何とかなるかを試みます。しかし、改善が進まない場合の多くは「やる気の問題」ではなく「適性の問題」です。適性がない状態で厳しく指導し続けることは、会社にとっても本人にとっても得策ではありません。問題の本質を見極め、状況に応じた対応を取ることが経営者として求められます。
■ 教育指導が機能しない場合の多くは「適性の問題」
同行指導・ロールプレイング・マイクロマネジメントを尽くしても改善しない場合、それは本人の努力不足ではなく、営業という業務への適性が低いことが主因である可能性が高いといえます。適性のない業務で成果を求め続けることは、本人のメンタルヘルスを損ない、安全配慮義務の観点からも問題が生じ得ます。
■ 適性に応じた配置転換か、退職勧奨・解雇の検討へ
営業に適性がないと判断された場合、社内に別の適性ある業務があれば配置転換を検討します。社内に適切な業務がない場合は、退職勧奨・合意退職という方向も選択肢となります。退職に関する交渉はトラブルになりやすいため、弁護士への相談が重要です。
■ 人手不足が続く場合は「営業手法そのものの見直し」も必要
個別の社員対応を繰り返しても人材が揃わない場合、営業に求める能力・適性のハードルを下げた仕組みを作ることが、経営者として取るべき根本的な対応となり得ます。
1. 営業成績が上がらない社員への初期対応:教育指導の基本
まず行うべき教育指導の内容
営業成績が上がらない社員が出てきた場合、経営者や管理職がまず取る対応は、営業の進め方についての指導です。言葉での説明に加え、成果を上げている先輩社員の営業スタイルや手法を参考に伝え、アドバイスを行うことが一般的です。
それでも改善が見られない場合には、より踏み込んだ関与が必要になります。上司や経験豊富な先輩が実際に同行し、本人のやり方を現場で観察した上でフィードバックを行う「同行指導」は、言葉だけの指導よりも実践的な効果が期待できます。場合によっては、経営者や管理職が自分の営業を目の前で見せる「手本を示す」アプローチも有効です。
マイクロマネジメント的指導の活用と限界
こうした密着型・マイクロマネジメント的な指導によって、少しずつ改善の兆しが見られるようであれば、粘り強く育成を続けることが有効です。営業スキルは経験とフィードバックの積み重ねによって磨かれる部分が大きく、適切な指導体制のもとで確実に成長していく社員もいます。
しかし、こうした指導を尽くしても一向に改善しない社員が存在することもまた現実です。何度指導しても同じミスを繰り返す、顧客との関係構築がどうしてもうまくいかない、数字が一向に動かないという状況が続く場合、その原因を正確に見極めることが次のステップとして重要になります。
⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)
営業成績不振をめぐる経営者からのご相談でよく聞かれるのは、次のようなパターンです。
・「先輩に同行させ、ロールプレイングも繰り返したが、半年以上たっても一件も受注できない」
・「本人は真面目に取り組んでいるようだが、顧客との会話がかみ合わず、商談が全く前に進まない」
・「やる気はあるのに成果が出ず、本人が精神的に追い詰められて体調を崩し始めている」
こうした状況は、指導の方法の問題ではなく適性の問題である可能性が高く、対応の方向性を切り替えるタイミングを見極めることが重要です。
2. 改善しない本当の理由:「やる気の問題」ではなく「適性の問題」
営業成績が上がらない根本原因
教育指導を繰り返しても成果が出ない社員の多くは、やる気がないわけでも、努力をしていないわけでもありません。営業という業務そのものへの適性が低いことが、改善が進まない根本的な原因である場合が多いのです。
適性の低さとは、生まれ持った性格や特性が、営業という業務で求められる資質と合っていない状態を指します。初対面の人との関係構築、断られ続けても前向きに行動し続けるメンタルの強さ、顧客のニーズを読み取る感度、数字へのこだわりなど、営業で成果を出すために必要な資質は人によって大きく異なります。こうした適性は、指導や経験でいくらか補うことはできますが、根本的な部分はなかなか変わらないという現実があります。
適性のない業務で成果を求め続けることのリスク
向いていない営業業務を続けさせることは、会社と本人の双方にとってリスクをもたらします。会社側から見れば、営業成績が改善しないまま人件費と指導コストが積み重なり続けることになります。また、成果が出ない本人のやる気が次第に失われ、営業活動自体をサボるようになるという悪循環も生じます。
本人側から見れば、向いていない仕事で毎日成果が出ない状況は、深刻なストレスの原因となります。適応障害や体調不良(頭痛・腹痛・睡眠障害など)として現れるケースも実務上少なくありません。会社には安全配慮義務がありますので、そうした状況になっているにもかかわらず就労を継続させることは、法的な観点からも問題が生じる可能性があります。
「向いていない仕事を厳しく指導して何とかさせよう」という姿勢は、ある意味では残酷であり、会社のためにも本人のためにもならないということは、弁護士として多くの相談を受ける中で実感していることです。
✕ よくある経営者の誤解
「もっと厳しく追い込めばいつか成果が出るはず」→ 適性の問題がある場合、プレッシャーをかけるほど本人のメンタルが悪化し、適応障害・休職というリスクが高まります。安全配慮義務の観点から会社責任が問われる可能性もあります。
「やる気さえあれば営業はできる」→ 営業成績は気合や根性だけでは決まりません。適性という要素は無視できず、これを見誤ると指導コストと時間だけが消費されます。
3. 適性に応じた対応①:社内での配置転換を検討する
「営業に向かない」イコール「会社に貢献できない」ではない
営業成績が上がらない社員が、他の業務では十分な力を発揮できる可能性は十分にあります。人には向き不向きがあり、ある場面では全く力を発揮できなかった社員が、別の業務では驚くほどの成果を上げるということは、実際の職場でも見られます。
そのため、営業での成果が出ないという理由だけで即座に退職の方向を検討するのではなく、まずは社内に適性のある別の業務があるかどうかを検討することが重要です。別タイプの営業(ルート営業・インサイドセールスなど)に変えてみることで成果が出るケースもあります。
配置転換・業務変更の実務上の注意点
配置転換を行う場合、就業規則や雇用契約の内容を確認することが必要です。営業職として採用された社員を他の業務に異動させる場合、契約内容によっては本人の同意が必要になることもあります。また、配置転換後の業務でも成果が出ない場合の対応や、異動先での指導体制についても事前に検討しておくことが重要です。
「とりあえず別の部署に移した」という対応では、問題が先送りになるだけです。当該社員の特性をよく把握した上で、最も活躍できる可能性がある業務に就かせるという積極的な発想で取り組むことが求められます。
配置転換の手続や雇用契約上の注意点について迷いが生じた場合は、早めにご相談ください。契約の確認から異動手続のサポートまで、実務に即したアドバイスが可能です。→ 経営労働相談はこちら
4. 適性に応じた対応②:退職勧奨・合意退職・解雇の検討
社内に適した業務がない場合は退職の方向を検討する
配置転換を試みても社内に適性のある業務がない場合、あるいは最初から営業職として採用されており他の業務に移すことが想定されていない場合は、退職という方向を検討せざるを得ません。
「辞めさせることはひどいのではないか」と感じる経営者もいますが、実はそうではありません。向いていない営業業務を強いられ続けることは、本人にとっても苦痛であり続けます。適性のある仕事を別の場所で見つけ、才能を発揮できる環境に移ることは、本人のためにもなるという視点を持つことが重要です。
退職勧奨・合意退職の進め方
退職の方向を検討する場合、まず基本となるのは退職勧奨による合意退職です。なぜ営業での継続が難しいのかを、具体的な事実に基づいて丁寧に説明した上で、本人と話し合いを行い、退職条件についても合意した上で退職していただく、というのが基本的な流れです。
ただし、退職に関する話し合いは、進め方を誤るとトラブルに発展するリスクが高い場面です。特に成績不振を理由とした退職勧奨は、不当解雇・強迫などの主張をされるケースもあります。どのような言葉で、どのような順序で話を進めるかという点から、弁護士のサポートを活用することが重要です。
営業成績不振を理由とした解雇の注意点
合意退職の話し合いが成立しない場合、解雇を検討することもあります。ただし、営業成績が振るわないことを理由とした解雇は、それだけでは解雇の正当性を認めてもらうことが難しいケースが多くあります。
解雇が正当と認められるためには、①十分な教育指導を行ったこと、②改善の機会を与えたこと、③改善が見られなかったことを記録として示せること、④解雇に至るまでの手続の適正さ、などの要件を満たす必要があります。これらの要件を満たさない解雇は、後に無効と判断されるリスクがあります。解雇の検討段階に入った場合には、必ず事前に弁護士に相談することをお勧めします。
退職勧奨・解雇の手順や言葉の選び方に迷いが生じた段階でのご相談をお勧めします。合意書の作成から交渉の進め方まで、一貫したサポートが可能です。→ 経営労働相談はこちら
5. 人手不足が続く場合の根本対応:営業手法そのものを見直す
個別対応だけでは解決しない場合
教育指導・配置転換・退職勧奨・解雇という個別の対応を繰り返しても、「成果を上げられる営業人材が十分に揃わない」という状況が続く場合があります。採用しても定着しない、そもそも営業適性の高い人材が集まらないという問題を抱えている会社では、個々の社員の対処だけでは根本的な解決にはなりません。こうした場合、俯瞰的に会社の営業体制全体を見直すという、より大きな視点の対応が必要になります。
「営業のハードルを下げる」という発想の転換
現在の営業手法が、高い能力・高い適性を持つ人材でなければこなせないものになっている場合、そのハードル自体を見直すことを検討する必要があります。具体的には、現在の営業で求められる細やかな配慮・高度なコミュニケーション・複雑な提案能力といった要素を、マニュアル化・仕組み化・ツール化することで、適性がそれほど高くない社員でもある程度の成果が出せるような営業体制を構築するというアプローチです。
もちろん、従来の質の高い営業との比較で成果が下がる可能性はあります。しかし、適性の高い人材が十分に確保できない現実がある中で、現在の高いハードルを維持したまま人材を求め続けることが、果たして経営上の最善策かどうかを問い直すことが重要です。
採用できる人材水準に合わせた営業体制の構築
人手不足が進む現状において、採用できる人材の水準に合わせた営業体制を作ることは、会社を持続的に経営するための重要な経営課題といえます。「どうすれば採用できる水準の人材でも成果が出せるか」という問いを起点に、営業プロセスの見直し・ツールの整備・チームでの営業体制への移行・非対面営業の活用など、さまざまなアプローチを検討することが、経営者として取り組むべき課題です。これは個別の社員対応ではなく、会社全体の仕組みとして取り組む必要があります。
6. まとめ:経営者が取るべき対応の全体像
「適性の問題」と正確に見極めることが出発点
成果を上げられない営業社員への対応の出発点は、問題の原因を正確に見極めることです。やる気・心構えの問題であれば注意指導で対応できますが、適性の問題であれば、教育指導だけで改善を求めることは現実的ではありません。この見極めを早く行うことが、会社にとっても本人にとっても重要です。
対応の選択肢を状況に応じて組み合わせる
適性の問題と判断した場合、教育指導の継続・社内配置転換・退職勧奨・解雇・営業手法そのものの見直しという複数の選択肢を、会社の状況に応じて組み合わせながら対応を進めることが求められます。いずれの選択も、「本人を追い詰めることなく、会社と本人の双方にとって最善の着地点を探る」という姿勢で臨むことが重要です。
退職・解雇の局面では早めに弁護士へ
退職勧奨・解雇の検討、配置転換の手続、業務命令書の作成など、法的な判断が必要な場面では、会社側の労働問題に精通した弁護士への早期相談をお勧めします。「改善が見られないな」と感じた早い段階での相談が、最終的なトラブルの回避につながります。成果を上げられない営業社員の対応についてお困りの会社経営者の方は、ぜひ一度ご相談ください。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/04/05
