問題社員184 自分の都合の良い方向に解釈する。

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この記事の要点

問題の本質は「モラル」ではなく「思考パターン」です。苦手の程度を見極め、教育指導・業務割当て・業務命令・退職勧奨を状況に応じて組み合わせることが経営者に求められる対応です。

 情報を自分に都合の良い方向に歪めて解釈する社員は、業務指示を正確に実行できず、周囲との行き違いを繰り返し、職場の雰囲気を悪化させます。この問題の本質はモラルや態度の問題ではなく、思考パターン・理解能力の問題です。そのことを正確に理解した上で、苦手の程度に応じた対応を取ることが、経営者としての出発点となります。

教育指導は可能だが、重度の場合は負担と限界を覚悟する

 軽度であれば教育指導によって改善を期待できます。しかし、思考パターンとして癖になっている場合、改善には相当の時間と労力がかかります。指導する側の社員が疲弊し、パワーハラスメントのリスクや精神的不調が生じることも珍しくありません。改善を目指すのであれば、その負担を織り込んだ上での覚悟が必要です。


本人の特性に応じた業務割当てで被害を最小化する

 教育指導と並行して、現状認識のズレが生じても影響が小さい業務に就かせることが有効です。「任せたのに失敗した」という結果を防ぐためには、リスクを見込んだ業務割当てが経営者の責任です。


業務命令違反・退職勧奨・解雇を視野に入れた対応

 自分に都合よく解釈する社員は、業務指示を曲解して従わないケースも多くあります。明確な業務命令を出し、違反があれば懲戒処分・解雇という段階的な対応が求められます。教育指導でも業務割当てでも対処できない場合は、退職勧奨・解雇も選択肢となります。

1. この問題の本質:モラルではなく思考パターンの問題

「悪意がある」わけではないケースが多い

 情報を自分に都合の良い方向に解釈してしまう社員を抱えると、経営者は強い困惑と苛立ちを感じます。業務指示が正確に伝わらず、方針を示しても全く異なるやり方で仕事が進み、周囲との行き違いが繰り返されるためです。

 しかし、この問題を「意図的にサボっている」「会社を馬鹿にしている」というモラルの問題として捉えることは、対応を誤る原因になります。自分に都合よく情報を歪める行動は、多くの場合、思考パターン・理解能力の問題であり、本人自身は悪意を持っているわけではないケースも少なくありません。自動的にそのような反応が起きてしまうという意味で、本人が意識して行っているわけではない場合もあるのです。この本質を理解することが、適切な対応を取るための前提となります。

指示が伝わらない・言ったことをやらない:職場への深刻な悪影響

 自分に都合よく情報を歪める社員が職場に存在すると、さまざまな問題が生じます。業務指示が正確に実行されず、「言ったことをやらない」「指示が伝わらない」という状態が繰り返されます。100人中99人が同じように理解することを、全く異なる方向に解釈して行動するため、周囲との行き違いが頻発し、その都度訂正・修正が必要になります。

 さらに、本人が「自分は正しい」という認識を持っているため、指摘されるたびに反論が生じます。「Aと言った」「いや、BまたはCと聞いた」というやり取りが繰り返され、周囲のストレスが積み重なっていきます。その結果、職場全体の雰囲気が悪化し、真剣に仕事に取り組んでいる社員のモチベーションや精神的健康を損なうリスクが生じます。

⚠ 実務でよく見られるパターン(弁護士対応事例より)

 こうした社員をめぐる弁護士へのご相談でよく聞かれるのは、次のようなパターンです。

・「Aという方法でやるよう指示したのに、Bの方法でやってきた。指示を間違えて伝えたわけでもないのに、本人は『Bと言われた』と主張している」

・「会議で決定した方針を全員で確認したにもかかわらず、一人だけ違う解釈で動いており、後から『そういう意味だと思った』と言い張る」

・「入社直後から『前の会社ではこうだった』『前の上司にはそう言われた』という理由で、明確な業務指示に従わない」

 いずれも本人に悪意があるケースばかりではありませんが、対応を放置すると業務上の損害や職場環境の悪化につながります。

2. 教育指導による改善:負担と限界を正確に理解する

軽度であれば改善が期待できる

 苦手の程度が軽度であれば、教育指導によって改善を期待することができます。思考パターンの問題であっても、繰り返し丁寧に指導することで、少しずつ認識のズレを修正していくことは可能です。粘り強く育成に取り組むことで、問題行動が徐々に改善されるケースは実際に多くあります。

重度の場合は相当の負担と時間を覚悟する

 しかし、思考パターンとして深く根付いている場合、改善には相当の時間と労力が必要であることを覚悟しなければなりません。何ヶ月にわたって指導しても改善が見られないという状況が続くことがあり、指導する側の管理職や先輩社員が精神的に疲弊していきます。

 最初は丁寧に接していた担当者が、繰り返しの行き違いに耐えきれず、感情的な言動をとってしまうことも起こり得ます。その結果、パワーハラスメントの問題が生じたり、指導する側の社員が精神的不調をきたすという、二次的な問題が発生するリスクがあります。

指導される側も深刻なストレスを抱える

 また、指導を受ける本人もストレスを抱えています。周囲全員が「Aが正しい」と言っているのに、自分だけが「Bだ」「Cだ」と感じている状況は、本人にとって強い心理的な負荷をもたらします。「直せ、直せ」と繰り返し言われることで精神的に追い詰められ、適応障害などの診断が出るケースも珍しくありません。

 指導が功を奏さないまま本人が精神的に追い詰められれば、「パワーハラスメントを受けた」という主張につながることもあります。教育指導を選択する場合は、こうしたリスクを十分に認識した上で、適切な方法と頻度で取り組むことが求められます。

3. 採用・試用期間における対応:問題の早期発見と迅速な対処

採用選考の段階での見極めが最重要

 理想的には、採用選考の段階でこうした思考パターンの傾向を見極め、自社に適合しない人物の採用を回避することが最善の対応です。どのような教育指導や業務割当ての工夫も、採用の段階での適切な見極めに勝るものはありません。しかし、採用が難しい状況の中で、十分な見極めができないまま採用に至ることは現実としてあります。その場合に重要となるのが、試用期間中の対応です。

試用期間中に気づいたことを打ち消さない

 試用期間中に「この人、何かおかしい」「情報の受け取り方がずれている」と感じた場合、その直感を打ち消さないことが重要です。採用難の状況や、「もう少し様子を見れば良くなるかもしれない」という期待から、問題に気づいていながら見過ごしてしまうことが、後のトラブルを大きくする原因になります。

 問題が軽微であれば教育指導と業務割当ての工夫によって対応できますが、試用期間中の段階で教育指導や業務配置での対処が困難なレベルだと感じた場合には、試用期間中に対処の方針を固めることを検討すべきです。

試用期間中の合意退職・本採用拒否の活用

 試用期間中は、本採用後と比べて合意退職が成立しやすい場面でもあります。本採用を経た後であれば「合格点をもらった」という意識が生まれますが、試用期間中であれば「試用期間中だからしょうがない」と本人が受け入れやすい側面があります。

 本採用拒否(試用期間中の解雇)については、通常の解雇と比べてハードルが低いものの、合理的な理由と適正な手続が必要であることに変わりはありません。「試用期間中なら自由に解雇できる」という誤解は禁物ですが、問題が客観的に明らかであり、その証拠を示すことができる状況であれば、本採用拒否が認められるケースは一定数あります。試用期間中の対応は、早い段階から弁護士に相談しながら進めることで、スムーズに解決できる可能性が高まります。

✕ よくある経営者の誤解

「試用期間中なら自由に解雇できる」→ 誤りです。
 試用期間中であっても、解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。ただし、本採用後と比べてハードルが相対的に低くなることは事実です。

「問題行動があれば即座に本採用拒否できる」→ 誤りです。
 問題の事実を客観的な証拠で示せること、および適正な手続を経ていることが必要です。証拠の整備や手続の進め方については、早い段階から弁護士に相談することをお勧めします。

 試用期間中の対応に迷いが生じた段階でのご相談をお勧めします。問題が深刻化する前の早い段階からのサポートが可能です。→ 経営労働相談はこちら

4. 本人の特性に応じた業務割当て:経営者のリスク管理の責任

「任せたのに失敗した」は経営者の責任回避である

 教育指導と並行して、あるいはそれ以上に重要な対応が、本人の特性を踏まえた業務割当てです。自分に都合よく情報を歪める傾向があることが分かっている以上、その特性があっても影響が小さい業務に就かせることが、経営者として取るべき判断です。

 「本人がやりたいと言ったから任せた」「信じていたのに失敗した」という発想は、現実を直視していない経営者の姿勢といえます。情報を歪める傾向があることは事前に分かっていたのですから、その前提に立った業務割当てをすることが、経営者・管理職の責任です。

どのような業務割当てが適切か

 具体的には、認識のズレが生じても損害が最小化される業務や、仮に失敗しても容認できる範囲の影響にとどまる業務を割り当てることが基本です。重要な管理職業務や、正確な現状認識が不可欠な業務、大きな損害につながりかねない業務については、担当させることを避けるべきです。

 やむを得ず重要度の高い業務に就かせる場合には、必ずフォロー体制を構築しておくことが必要です。上司や先輩社員が進捗を細かく確認し、問題が生じた場合にすぐに対処できる体制を整えた上で臨むことが求められます。

損害リスクを覚悟した上で割り当てる場合

 フォロー体制を整えることが難しく、それでも業務を割り当てざるを得ない場合には、失敗や損害が生じるリスクを経営者として覚悟した上で判断することになります。この場合、リスクを認識しながら判断を下したという事実が重要であり、後から「まさか失敗するとは思わなかった」という言い訳は通用しません。

5. 業務命令違反への対応:言ったことをやらない・曲解・不服従には明確に対処する

自分に都合よく解釈する社員は業務命令にも従わないことがある

 自分に都合の良い方向に情報を歪める社員は、業務命令についても曲解するケースが多くあります。「その仕事はやらなくていいと言われた」「そのような指示は受けていない」という形で、実際には存在しない根拠を持ち出して業務命令に従わないことが起こります。

 業務命令への不服従は、労働契約の本質的な義務である「仕事をする」という義務の拒絶に等しく、懲戒処分や解雇の正当な理由になり得る重大な問題です。能力不足による成果の低さと異なり、明確な業務命令への違反は、法的にも対処しやすい側面があります。

業務命令は書面で明確に出す

 業務命令への不服従が生じた場合、まずは口頭で明確に指示を出した上で、それでも従わない場合には書面による業務命令を発令することが重要です。書面による業務命令は、指示の内容・日時・伝達方法を記録として残すことができ、後の懲戒処分や解雇の有効性を支える根拠となります。

 業務命令書の内容は、法的な観点から見て合理性が認められる内容である必要があります。曖昧な表現や不合理な内容が含まれていると、業務命令の正当性が否定されるリスクが生じます。業務命令書の作成については、弁護士のサポートを得ながら進めることで、後のトラブルを防ぐことができます。

業務命令違反には段階的に対処する

 合理的な業務命令に従わない場合、厳重注意・懲戒処分・解雇という段階的な対処を進めることが基本です。ただし、各段階での手続の適正さと記録の整備が、処分の有効性を左右します。「業務命令を出した」「従わなかった」「注意した」「改善しなかった」という事実の積み重ねを、記録として残していくことが重要です。

 業務命令書の作成や懲戒処分の手続について、具体的な内容のご相談はお気軽にどうぞ。書面の文言から手続の進め方まで、実務に即したサポートが可能です。→ 経営労働相談はこちら

6. 教育指導・業務割当てで対処できない場合:退職勧奨・解雇の検討

辞めていただくことが本人・周囲双方のためになる場合がある

 教育指導でも業務割当ての工夫でも対処できない場合、退職勧奨や解雇を検討することが必要になります。この判断は「問題社員を排除する」という発想からではなく、周囲の社員を守るための経営判断として捉えることが重要です。

 自分に都合よく情報を歪める社員のフォローを長期間続けることは、周囲の社員に継続的な負担をかけ続けることを意味します。周囲の社員の精神的健康が損なわれ、優秀な社員が職場を去っていく原因にもなります。また、本人にとっても、現在の職場で活躍できない状況が続くことは、精神的な消耗と将来のキャリアへの悪影響につながります。自社ではその人の才能が活かせる場を提供できないのであれば、他の会社やフリーランスとしての活動を通じて活躍できる可能性に向けて方向転換を促すことが、本人のためにもなるという視点を持つことが大切です。

退職勧奨・解雇には早めの弁護士相談を

 退職に関する話し合いや解雇は、進め方を誤ると深刻なトラブルに発展するリスクがあります。特に、「自分は正しい」という認識を持ちやすい傾向のある社員との交渉は、複雑な展開になることが多いといえます。

 退職勧奨や解雇の検討段階に入る前に、会社側の労働問題に精通した弁護士に相談することをお勧めします。各事案の状況に応じたオーダーメイドの対応方針を設計し、退職合意書や解雇通知書の作成まで、一貫したサポートを受けることで、トラブルを最小化しながら解決に向けて進むことができます。

7. まとめ:経営者が取るべき対応の全体像

苦手の程度と自社の状況を冷静に見極める

 自分に都合の良い方向に解釈する社員への対応は、その程度と自社の状況を冷静に見極めることから始まります。軽度であれば教育指導を中心に対処し、業務割当ての工夫を組み合わせながら改善を目指します。重度であれば教育指導の限界を早めに認識し、業務割当ての見直し・業務命令の発令・退職勧奨・解雇という段階的な対応を検討します。

業務割当ては経営者の責任として行う

 どの段階においても、業務割当ては経営者の責任として行うという意識を持つことが重要です。本人の傾向が分かっていながら、リスクの高い業務を割り当てて「まさか失敗するとは思わなかった」という対応は、経営者としての責任を果たしていないことになります。現状を的確に把握し、本人の傾向に応じた業務を割り振って対応することが、会社経営者の仕事です。

対応に迷ったら早めに弁護士へ

 自分に都合よく解釈する社員への対応は、教育指導・業務割当て・業務命令・退職勧奨・解雇と、複数の手段を状況に応じて組み合わせながら進めていく必要があります。「少しおかしいかも」と感じた早い段階から弁護士に相談することで、問題が深刻化する前に方針を整理し、スムーズな解決につなげることができます。ぜひ一度ご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/03/27


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