問題社員182 仕事量が変わらないのに残業時間が増えている。
動画解説
目次
まず原因を把握し、原因に応じた対応を取ることが、残業問題を解決する唯一の道筋です。
仕事量が変わらないのに残業時間だけが増えている社員がいる場合、経営者としてまず取り組むべきことは原因の把握です。「残業代稼ぎではないか」と感じながらも切り出せずに放置されているケースは多くありますが、原因が何であれ、確認しないまま不信感を抱き続けることは組織にとって不健全な状態です。礼儀正しく、しかし率直に本人から話を聞くことが、すべての対応の出発点となります。
■ まず会議室で原因を把握する:礼儀正しく、しかし率直に
残業が増えている理由は、マンパワー不足・業務の非効率・無駄な残業(残業代稼ぎを含む)など、さまざまです。正しい対応を取るためには、まず原因を確認することが不可欠です。確認を避けることは問題解決を遠ざけるだけであり、会議室でしっかりと話を聞くことが経営者の責任です。
■ 原因がマンパワー不足であれば:人員配置と仕組みの整備
原因がマンパワー不足にある場合、注意するだけでは解決しません。必要な部署に必要な人員を配置する、あるいはAIやシステムの活用によって業務処理能力を高めるといった、構造的な対応が必要です。人の頑張りだけに依存した対応は、一時的なものにとどまります。
■ 無駄な残業であれば:注意ではなくマネジメントで解決する
無駄な残業が確認された場合に求められるのは、注意指導だけではなく、進捗管理・就業時間内での業務完結を促す実効的なマネジメントです。声をかけて終わりではなく、実際に行動が変わるまで継続的に関与することが、経営者・管理職に求められる役割です。
1. なぜ原因の把握が最初のステップなのか
放置が招く不健全な状況
仕事量が変わらないにもかかわらず残業時間が増えている社員がいる場合、多くの経営者は「もしかすると残業代稼ぎではないか」と感じながらも、切り出せずにいます。「信頼していないと思われるのではないか」「気まずくなったらどうしよう」という懸念から、確認を先送りにしてしまうのです。
しかし、コミュニケーションが取れないまま不信感だけが積み重なっていく状態は、組織にとって非常に不健全です。話してみれば正当な理由による残業だったということも十分にあり得ます。逆に問題のある行動が行われていたとしても、早い段階で気づいて対処するか、放置して被害を拡大させるかでは、会社にとっての結果が大きく変わります。「なんとなくおかしい」と感じた段階で動けるかどうかが、問題の深刻化を防ぐ上で重要な分岐点となります。
原因によって対応がまったく異なる
残業が増えている理由としては、主に次のようなものが考えられます。
①実際に仕事量が増えている場合:経営者が把握していないところで業務量が増加していることがあります。部署内の人員構成の変化(同僚や部下の家庭事情による残業制限など)により、特定の社員が業務を抱え込まざるを得なくなっているケースもあります。
②当該社員または周囲の処理能力が低下している場合:本人の能力が何らかの理由で低下しており、同じ業務量をこなすのに以前より時間がかかるようになっているケースです。あるいは、周囲の社員の処理能力が落ち、その分をカバーしている場合もあります。
③無駄な残業・残業代稼ぎが行われている場合:業務上の必要性がないにもかかわらず、意図的に残業時間を延ばしているケースです。就業時間内に終わらせることができる業務を意図的に延ばしている状態は、問題のある行動として対処が必要です。
これらの原因によって、取るべき対応はまったく異なります。原因を確認しないまま対処しようとすることは、的外れな対応につながります。まず話を聞くことが、すべての出発点です。
2. 会議室での面談:礼儀正しく、しかし率直に聞く
なぜ会議室での面談が有効か
原因の把握に向けた最初のアクションとして、会議室を確保した上で本人に説明を求めることが最も有効です。立ち話やデスク越しの会話ではなく、改まった場を設けることで、本人も「きちんと向き合わなければならない場面だ」という意識を持ちやすくなります。
また、やましい理由がある場合には、面談そのものが抑止効果を発揮します。「会社がしっかり把握しようとしている」という事実を示すことで、問題のある行動を自ら控えようという動機づけが生まれます。面談の内容は記録として残しておくことが、その後の対応の根拠となります。
礼儀正しく、率直に聞くことの両立
面談で確認を行う際に経営者が意識すべきは、「礼儀正しく、かつ率直に」という二つの要素を同時に満たすことです。この両立が、実務上の難しさでもあります。
気遣いばかりで核心を避けた質問では、正確な情報を得ることができません。一方、立場の上下を盾に一方的に追及するような聞き方は、本人の反発を招き、その後の関係を損ないます。「なぜ最近残業が増えているのか、状況を教えてください」と、率直に聞きたいことを聞きながら、言葉遣いや態度において相手への敬意と気遣いを示すことが重要です。
礼儀正しいマネジメントを行うことに対して不満を示す社員がいるとすれば、そちらの方が問題です。会社経営者や管理職には部下の状況を把握し、適切に管理する責任があります。その責任を果たすための確認行為は、信頼関係を損なうものではなく、むしろ健全な組織運営の基本です。
難しいと感じたら言葉の選び方から相談を
「どのように聞けばよいか分からない」「実際にどんな言葉を使えばよいか」という段階から迷いが生じることがあります。法律や判例の知識よりも、実際のコミュニケーションの取り方でつまずく経営者は少なくありません。こうした場合には、具体的な声かけの方法や言葉の選び方についても、弁護士への相談を活用することをお勧めします。
3. 原因がマンパワー不足の場合:人員配置と仕組みの整備
短期的な対応と中長期的な構造改善
面談の結果、残業増加の原因がマンパワー不足にあると判明した場合、注意指導だけでは問題の解決になりません。必要な業務量に対して、必要な人員が適切な部署に配置されていないという構造的な問題があるためです。
ある程度の期間、残業によって対応することは現実的な選択肢の一つです。しかし、それが長期間にわたったり、残業時間が過大な水準に達している場合には、恒常的な対応としては限界があります。人員配置の見直しを検討し、必要であれば採用や配置転換によって適切な人員体制を整えることが経営者の責務です。
人の頑張りに頼らない仕組みの構築
人員の増員が難しい場合には、AIの活用や業務システムの導入・改善によって、同じ人数でより多くの業務を処理できる環境を整えることも検討に値します。個々の社員の頑張りだけで業務量をカバーし続けようとすることは、一時的な解決にはなっても、長期的には持続不可能です。
「頑張ればなんとかなる」という発想から脱し、仕組みとして業務を回せる状態を作ることが、会社経営者に求められる視点です。
4. 無駄な残業が確認された場合:注意ではなくマネジメントで解決する
注意だけでは不十分な理由
無駄な残業が行われていることが確認された場合、多くの経営者が最初に取る行動は「注意する」ことです。しかし、注意するだけで終わっている場合、実際の行動が変わらないことが多くあります。
声をかけた、注意をしたという事実は、マネジメントの一部に過ぎません。実際に行動が変わるところまで関与することが、会社経営者や管理職の役割です。「言ったのに聞かない」という状況に対して、言うだけで放置することは、管理責任を果たしていないことになります。
実効的なマネジメントとは何か
無駄な残業をなくすためのマネジメントとして、まず重要なのは日常的な進捗管理です。業務がどの程度進んでいるか、期限までに終わる見込みがあるかを普段から確認し、就業時間内で業務を完結させることを意識させる関わりを継続します。
さらに踏み込んだ対応としては、残業している社員に対して実際に退社を促し、物理的に仕事をする場から離れさせる働きかけも有効です。「早く帰れ」と優しく声をかけるだけでなく、実際に退社するところまでをマネジメントの一部として捉えることが重要です。
反発が生じた場合の対応
無駄な残業を削減しようとすると、反発が生じるケースもあります。「残業代を稼ぎたい」という動機が背景にある場合もあれば、「この仕事量で残業なしに終わらせることができるのか」という正当な疑問を持っている場合もあります。後者の場合は、残業が本当に不要なのかどうかを客観的に分析した上で判断することが必要です。
本人の言い分に正当性があるにもかかわらず、一方的に残業を削減しようとすれば、かえって信頼関係を損ない、業務の質の低下にもつながります。反発が生じた場合には、その内容を丁寧に把握し、状況に応じた対応を検討することが求められます。対応の仕方や言葉の選び方に迷いが生じた場合には、弁護士への相談が有効です。
5. 属人化の防止:問題が深刻化する前の地ならし
属人化が経営者の手を縛る
残業問題への対応をしやすくする上で、日頃から取り組んでおくべき重要な課題として、業務の属人化防止があります。「その人しかその仕事ができない」という状態は、経営者にとって非常に対応が難しい状況を作り出します。
属人化が進んでいると、当該社員が理不尽な要求をしてきた場合でも、代わりの人がいないという事情から、その要求を受け入れざるを得ないという状況が生まれがちです。また、業務の内容や進行状況を経営者や管理職が把握できていないため、マネジメント自体が困難になります。
代わりの人物を育てる努力を継続する
属人化を防ぐためには、日頃から複数の社員が同じ業務を担える体制を整えておくことが重要です。代わりの人物がいる状態を保つことで、残業管理の問題に限らず、当該社員が年次有給休暇を取得したい場合や、育児・介護のために勤務時間の調整が必要になった場合など、さまざまな場面での対応がしやすくなります。
属人化の防止は、会社のためだけでなく、当該社員自身のためにもなります。「その人がいなければ回らない」という状況は、当該社員が休暇を取ることを難しくし、長期的には本人の負担と疲弊につながります。属人化を防いでおくことは、会社経営者の責任として日頃から取り組むべき課題です。
6. まとめ:経営者が取るべき対応の全体像
まず原因を確認し、原因に応じた対応を取る
仕事量が変わらないのに残業時間が増えている場合の対応は、まず会議室での面談で原因を礼儀正しく率直に確認するところから始まります。原因がマンパワー不足であれば人員配置や仕組みの整備へ、無駄な残業であれば実効的なマネジメントへと、原因に応じた具体的な対応につなげていきます。
注意して終わりではなく、実際に行動が変わるところまで関与し続けることが、会社経営者・管理職に求められる姿勢です。日頃からの属人化防止の取り組みが、こうした問題への対応をしやすくする地ならしとなります。
個別の状況に応じた対応が必要な局面では弁護士へ
「どのように声をかければよいか」という言葉の選び方の段階から、反発が生じた場合の対処、業務命令の発令、さらに懲戒処分の検討まで、個別の状況によって取るべき対応は異なります。対応に迷いが生じた場合や、社員との関係がトラブルの様相を帯びてきた場合には、早い段階で会社側の労働問題に精通した弁護士にご相談ください。具体的な状況に対応した実務的なサポートを提供することができます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日 2026/03/27
