問題社員170 在職中に労働審判を申し立てる。

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この記事の要点

会社経営者の「冷静な法的判断」と「適切な現場対応」の両立が、会社の将来を左右します。

 職場で日常的に顔を合わせる社員から労働審判を申し立てられる状況は、会社経営者にとって極めて強いストレスを伴います。申立書に記載された一方的・過激な主張に直面すれば、感情が揺さぶられるのも無理はありません。しかし、そこで感情に基づく初動対応をとってしまうと、本来は回避できたはずの法的リスクを自ら拡大させる結果になりかねません。

報復措置の厳禁:法的な「権利行使」への冷静な対応

 労働審判の申し立ては、法律に基づく正当な権利行使です。これを契機とした解雇や配置転換などの不利益取扱いは、「権利の濫用」と評価され無効となるリスクが極めて高くなります。たとえ会社経営者として強い不信感や怒りを抱いたとしても、それを背景とする対応が「報復」と評価されれば、会社の立場を著しく不利にします。したがって、感情と法的判断を切り分けることが不可欠です。


指導の継続:組織秩序を守るための正当な権限

 一方で、労働審判が係属していることを理由に、問題行動を放置することは許されません。ハラスメントや業務上の不備、規律違反がある場合には、客観的かつ合理的な範囲での注意指導を継続することが必要です。これは単なる対応ではなく、他の社員を守り、組織の秩序を維持するという会社経営者としての本質的な責務にほかなりません。


弁護士による「匙加減」の調整:感情を排した防衛戦略

 報復と評価されない一方で、必要な指導は適切に行う――この両立には、極めて高度な判断が求められます。発言内容、対応のタイミング、指導の方法など、わずかな差異が法的評価を大きく左右するためです。こうした局面では、感情の影響を排した第三者である弁護士を介在させ、実務と法的リスクを両立させた対応方針を設計することが、会社を守る最善の戦略となります。

目次

1. 在職中の労働審判申し立てに直面した経営者の心得

 社員が在職したまま労働審判を申し立ててくる状況は、会社経営者にとって極めて大きな精神的負荷を伴います。日々職場で顔を合わせ、給与を支払っている相手から、会社の対応を一方的に非難する申立書を突きつけられることで、強い違和感や憤り、場合によっては裏切られたという感情を抱くのは当然のことです。

 特に申立書には、「あそこが問題だ」「ここが違法だ」といった形で、会社側の落ち度が強調されて記載されることが多く、実態以上に会社が不当に評価されているように感じる場面も少なくありません。このような状況に直面すると、冷静であるべき会社経営者であっても、感情的な反応を引き起こされやすい環境に置かれることになります。

 しかし、この「感情の揺れ」こそが、後の対応を誤らせる最大の要因です。在職中であるがゆえに日常業務と紛争対応が同時進行となり、心理的な負担はさらに増幅します。だからこそ、この局面ではまず、強いストレス下にあるという自覚を持つこと自体が、適切な判断への第一歩となるのです。

理不尽な主張に直面するストレス

 社員が在職したまま労働審判を申し立ててくる状況は、会社経営者にとって極めて大きな精神的負荷を伴います。日常的に顔を合わせ、給与を支払っている相手から、会社の対応を強く非難する申立書を突きつけられれば、強い憤りや戸惑い、場合によっては裏切られたという感情が生じるのは無理もありません。特に、事実関係が一方的に描かれていると感じる場合、その心理的ストレスは一層増幅します。

「判断力の低下」への警鐘:感情が招く経営判断の誤り

 しかし、ここで最も警戒すべきは、こうした感情が会社経営者の判断に直接影響を及ぼす点です。どれほど冷静に経営判断を行ってきた会社経営者であっても、理不尽な主張に直面して感情が高ぶれば、客観的かつ合理的な判断力は一時的に大きく低下します。

 その結果、怒りに任せた発言や拙速な人事対応といった行動が生じ、それが後の労働審判において会社側に不利な事情として評価されるリスクが高まります。本来であれば重大な問題に発展しなかった事案であっても、感情的な初動対応によって、会社全体に影響を及ぼす紛争へと拡大してしまう危険があるのです。

本記事の指針:法的思考に基づき組織秩序を守る

 このような局面において会社経営者に求められるのは、感情に流されることなく、法的思考(リーガル・マインド)に基づいて対応を選択する姿勢です。在職中の労働審判という特殊な状況では、単に紛争に勝つことだけでなく、職場環境や組織秩序を維持しながら適切に収束させることが重要となります。

 本記事では、会社経営者が感情に左右されることなく、適切な判断を行うための実務的な指針を提示します。報復措置と評価されないための対応の境界線や、問題行動に対する適切な指導の進め方など、現場で迷わないための具体的な考え方を整理して解説していきます。

2. 決してやってはいけない「報復措置」のリスク

権利行使としての理解:申し立て自体を理由にした対応は許されない

 労働審判の申し立ては、法律に基づいて認められた正当な権利行使です。そのため、会社経営者としては、たとえ内心で強い違和感や不満を抱いたとしても、申し立てという行為そのものを理由に不利益な扱いをすることは許されません。ここを誤ると、その後のすべての対応が法的に不利に評価されるおそれがあります。

「けしからん」から始まる不利益取扱いの重大リスク

 実務上最も問題となるのは、「労働審判を申し立てるとはけしからん」という感情を契機として、解雇や配置転換などの措置をとってしまうケースです。このような対応は、たとえ形式上は別の理由を掲げていたとしても、実質的に“報復措置”と評価されるリスクが極めて高くなります。

 その結果、当該処分は「権利の濫用」として無効と判断されるだけでなく、慰謝料請求などの追加的な法的責任を負う可能性も生じます。つまり、一時の感情に基づく対応が、会社にとって二重三重の不利益をもたらすことになりかねません。

弁護士の視点:感情と判断を切り分けるための実務対応

 このようなリスクを回避するために最も重要なのは、感情と経営判断を明確に切り分けることです。怒りや不信感が生じた場面こそ、一度立ち止まり、即断即決を避ける必要があります。

 もっとも、当事者である会社経営者が完全に感情を排して判断することは容易ではありません。そこで重要になるのが、弁護士という第三者の関与です。弁護士を介在させることで、対応の法的妥当性を客観的に検証し、「報復」と評価されない形で必要な対応を設計することが可能になります。

 結果として、この初動対応の適否が、その後の労働審判における会社の立場、ひいては紛争全体の帰趨を大きく左右することになります。

3. 労働審判中でも「毅然とした指導」は必要不可欠

労働審判は「免罪符」ではない:問題行動は放置できない

 労働審判が係属しているからといって、当該社員の行動がすべて許容されるわけではありません。労働審判はあくまで紛争解決の手続であり、問題行動を正当化するものではありません。したがって、業務上の不備や規律違反、ハラスメントなどが認められる場合には、会社経営者としてこれを看過することは許されません。

 むしろ、「労働審判を申し立てているから対応しづらい」として放置することは、結果的に社内秩序の崩壊を招くリスクすらあります。

他の社員を守るという経営責任

 問題行動を見過ごすことの影響は、当該社員との関係にとどまりません。ハラスメントや不適切な言動を放置すれば、周囲の社員の安心・安全な職場環境が損なわれ、真面目に勤務している社員の信頼を失う結果につながります。

 会社経営者には、特定の社員への配慮だけでなく、組織全体を守る責任があります。その意味で、必要な指導を行うことは単なる選択ではなく、組織運営上の不可欠な義務といえます。

客観的・合理的な措置の継続:慎重かつ適切な対応が鍵

 もっとも、労働審判中の対応には高度な慎重さが求められます。重要なのは、感情を排し、客観的事実と合理的根拠に基づいて対応を行うことです。注意指導の内容や方法、タイミングに至るまで、後に「報復」と評価されないよう配慮する必要があります。

 そのためには、指導内容を具体的かつ明確にし、穏当な方法で改善を促すなど、適切なプロセスを踏むことが不可欠です。必要な対応を躊躇せず行いつつも、その進め方には最大限の注意を払うことが、会社を守る実務対応の要点となります。

4. 実務的な「匙加減」:注意指導と懲戒の法的正当性

ハラスメントやトラブルの抑制:毅然とした対応は不可欠

 労働審判が係属している状況であっても、当該社員によるハラスメントや周囲への迷惑行為を放置することは許されません。むしろ、このような行為を看過すれば、職場環境は急速に悪化し、他の社員の安全や信頼を損なう重大な結果を招きます。

 したがって、問題行動が確認された場合には、会社経営者として明確に「許されない行為である」と示し、適切な場所・方法で注意指導を行うことが必要です。ただし、その際の言動や対応方法が感情的にならないよう、冷静さを維持することが重要です。

業務パフォーマンスへの教育:指導を「正当化」する技術

 業務上の能力不足や成果の問題についても、労働審判中であることを理由に指導を控えるべきではありません。しかし、こうした指導は一歩誤ると「嫌がらせ」や「報復」と受け取られるリスクがあります。

 そのため、指導にあたっては客観的な事実に基づき、具体的かつ冷静に問題点を指摘し、改善方法を提示することが不可欠です。感情的な評価や抽象的な批判ではなく、あくまで業務上の必要性に基づく指導であることを明確にすることが、法的リスクを回避する鍵となります。

重大な不正(横領等)への対処:懲戒は躊躇してはならない

 さらに、横領や重大な規律違反といった明白な懲戒事由が存在する場合には、労働審判が係属していることを理由に対応を先送りすることは適切ではありません。労働審判が「処分を免れるための手段」として利用されることを許してしまえば、組織統制そのものが揺らぐことになります。

 このような場合には、事実関係を十分に確認した上で、就業規則や法令に基づき、粛々と懲戒処分を検討・実施することが必要です。もっとも、その判断や手続には高度な慎重さが求められるため、法的観点からの検証を踏まえた対応が不可欠となります。

 すなわち、在職中の労働審判対応における実務の核心は、必要な対応をためらわず行う一方で、その方法とタイミングを誤らない「匙加減」にあります。このバランスを適切に維持できるかが、会社のリスク管理を大きく左右します。

5. 労働審判を「自社の弱み」を解消する機会に変える

手続きを通じた自社の弱点の把握

 労働審判は単なる紛争対応の場にとどまらず、会社にとって自社の弱点を可視化する機会でもあります。審判の中で争点となる事項は、裏を返せば将来的に同様の紛争を引き起こす可能性を内包したリスク領域です。

 したがって、相手方の主張や審判手続における指摘を単なる「攻撃」と捉えるのではなく、自社のどこに改善余地があるのかを見極める材料として冷静に分析する視点が重要となります。

労務管理の抜本的な改善:再発防止と組織強化

 指摘された問題点の中に合理的な要素がある場合、それを放置するのではなく、積極的に是正していくことが求められます。就業規則の整備、指導方法の見直し、評価制度の改善など、具体的な対応を講じることで、法的リスクの低減と組織運営の安定化を同時に実現することが可能です。

 このような改善を通じて、会社は単に紛争を乗り越えるだけでなく、より強固で持続可能な組織へと進化する契機を得ることになります。

解決への真摯な姿勢:最善の着地点を見極める

 労働審判手続においては、裁判官および審判員からの評価も踏まえながら、事案の適切な解決を模索していくことになります。その際、会社として重要なのは、感情的な対立に終始するのではなく、事実と法的根拠に基づいて誠実に反論しつつ、現実的な解決を見据える姿勢です。

 結果として、こうした対応が、審判手続における適切な判断を引き出し、会社にとって最も合理的な着地点へとつながります。労働審判を単なる防戦の場とするのではなく、将来の経営リスクを低減するための戦略的な機会として活用する視点が、会社経営者には求められます。

6. まとめ:経営者を紛争のストレスから解放するために

「日本語の受け答え」まで含めた実務対応の重要性

 在職中の労働審判対応では、法的な判断だけでなく、日々の現場におけるコミュニケーションが極めて重要になります。どのような言葉で注意するのか、どこまで踏み込んで説明するのか、あるいはどの発言を受け流すべきか――こうした「日本語の受け答え」一つで、法的評価が大きく左右される場面も少なくありません。

 したがって、単なる知識としての対応ではなく、実際の現場を想定した具体的かつ実践的なコミュニケーション設計が不可欠となります。

経営の孤立を防ぐ:会社経営者が本来の役割に集中するために

 労働審判への対応をすべて会社経営者自身で抱え込むと、精神的負担が増大し、経営判断そのものにも悪影響を及ぼします。本来、会社経営者が注力すべきは、事業の成長と組織の維持・発展です。

 そのため、紛争対応については弁護士に委ねることで、会社経営者は過度なストレスから解放され、本来の経営判断に集中できる環境を確保することが重要です。これは単なる負担軽減ではなく、結果として会社全体の安定につながります。

当事務所のサポート:会社の秩序と未来を守るために

 当事務所では、労働問題に特化した知見と実務経験をもとに、会社経営者が直面する複雑な局面に対して、法的側面と現場対応の双方から支援を行っています。

 感情に左右されがちな局面においても、法的リスクを最小限に抑えつつ、組織秩序を維持するための最適な対応策をご提案いたします。在職中の労働審判でお悩みの際は、ぜひ一度ご相談ください。会社の未来を見据えた最善の解決に向けて、全力でサポートいたします。

弁護士 藤田 進太郎

監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

 

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最終更新日 2026/03/25


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