出向することにより、労務遂行に関する指揮命令権が出向元から出向先に変更になり、法的には、出向元が労働者に対して有する権利を一部譲渡することになると考えられますので、労働者の個別の合意があれば、使用者は出向を命ずることができます。
 労働者の合意がない場合については、出向させることで労働者の地位が不安定になる場合や、労働条件に不利益が生じる可能性があることから、たとえ就業規則に出向を命ずることができる旨の一般的な規定があったとしても、それのみをもって出向を命ずることはできないと考えます。
 労働者の個別の合意を得ずに出向を命ずるためには、就業規則や労働協約において、出向を命ずることができる旨の一般的な規定のみではなく、出向期間中の労働条件、出向期間、勤続年数の取扱い等について具体的な規定を設けるようにしましょう。
 裁判例では、就業規則及び労働協約に業務上の必要性に応じて出向させることがある旨の規定があり、労働協約には、出向の定義、出向期間、出向中の社員の地位や賃金等、出向労働者の利益に配慮した詳細な規定があるという事情から、個別の合意なしに出向を命ずることができると判断したものがあります(新日本製鐵事件最高裁第二小法廷平成15年4月18日判決)。

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