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解雇が無効なら、解雇期間中の賃金(バックペイ)の支払義務が生じる 解雇が無効とされると、法律上、労働契約は継続していたことになり、解雇期間中の賃金(バックペイ)を支払う義務が生じます。 |
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他社での「中間収入」は控除できるが、賃金額の40%が上限 解雇期間中に他社で就労して得た中間収入がある場合、控除が認められますが、控除できるのは支払うべき賃金額の40%が上限です。 |
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控除には期間的な対応関係が必要で、機械的な全額控除は認められない 控除には、中間収入の発生期間と賃金支払対象期間との時期的な対応関係が必要です。紛争は長期化しやすく、時間の経過がバックペイの増大に直結します。 |
目次
01解雇無効の場合の基本原則(バックペイ)
解雇が無効と判断された場合、会社経営者がまず理解すべきなのは、原則として解雇期間中の賃金を支払う義務が生じるという点です。
解雇が無効であるということは、法律上、労働契約は解消されていなかったことを意味します。したがって、労働者は引き続き在籍していたものとして扱われます。解雇期間中に労働者が実際には就労していなかったとしても、それは無効な解雇を行った会社側の責任によるものと評価されます。そのため、会社は当該期間の賃金、いわゆるバックペイ(遡及して支払う賃金)を支払う必要があります。
労働者が実際に就労していなくても賃金支払義務を免れないのは、無効な解雇によって労働者が就労できなかった以上、その責任は会社側にあると評価されるためです。法律上は労働契約が継続していたことになりますので、労働者は「働く意思と能力があったにもかかわらず、会社の都合で就労できなかった状態」と整理されます。これは、使用者の責めに帰すべき事由による就労不能の場面(民法536条2項)と同様に扱われるものです。「実際に働いていないのだから賃金は不要」という理解は通用しません。解雇判断が誤っていた場合、その影響は将来の復職問題だけでなく、過去に遡って多額の賃金支払義務を負う可能性があるという点を、強く認識する必要があります。
02中間収入とは何か
解雇が無効となった場合でも、解雇期間中に労働者が他社で就労し、収入を得ていた場合があります。このような収入を、実務上「中間収入」(中間利益)といいます。
中間収入が問題となるのは、無効な解雇による損害をどのように評価するかという観点です。労働者が他社で一定の収入を得ていたのであれば、その分まで会社が全額負担するのは公平を欠くという調整の発想が背景にあります。もっとも、中間収入があれば当然に全額を控除できるわけではありません。法律上は、解雇期間中の賃金支払義務が原則であり、中間収入の控除は例外的な調整措置にすぎません。
また、控除の対象となるのは「他社での就労による収入」であり、雇用保険の失業給付や一時的な見舞金などが直ちに同様に扱われるわけではありません。何が控除の対象となるかは、個別具体的な事情により判断されます。会社としては、中間収入の有無や内容を正確に把握し、どの範囲まで控除可能かを法的に整理することが重要です。安易な全額控除は、後に紛争を拡大させる原因となります。
03中間収入の40%控除と期間的対応関係
解雇が無効となった場合でも、解雇期間中に労働者が他社で就労し収入を得ていたときは、一定の範囲で控除が認められます。実務上は、支払うべき賃金額の40%を上限として控除できると整理されています。これは、労働基準法26条が、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に平均賃金の60%以上の休業手当の支払を保障していることから、少なくとも平均賃金の60%にあたる部分は中間収入があっても控除できず、それを超える部分(40%の範囲)でのみ控除が認められる、という考え方によるものです。
控除には2つの制約がある
① 金額の上限(40%)
例えば、当社における月例賃金が30万円であれば、その40%である12万円が控除の上限です。他社での月収が20万円であっても、20万円全額を控除できるわけではなく、あくまで12万円が限度となります。
② 期間的な対応関係
控除が認められるのは、中間収入の発生期間が、当社が賃金を支払うべき期間と時期的に対応している場合に限られます。解雇前の収入や復職後に得た収入は、原則として控除の対象になりません。
この40%という制限は、賃金が労働者の生活を保障するものであるという性質を踏まえた調整です。無効な解雇による不利益は本来会社が負担すべきであるという原則を維持しつつ、過度な二重取得を防止する趣旨に基づきます。「中間収入があればその分を差し引ける」という単純な理解は誤りで、控除には上限があることを前提に金額を計算しなければなりません。また、期間が部分的に重なっている場合には、対応する期間ごとに分けて計算する必要があります。月単位で支払う賃金であれば、月ごとに対応関係を整理することになります。
04具体例でみる計算方法
具体例で整理します。労働者Yが当社で月収30万円で勤務していたところ、1月1日に解雇されたとします。その後、3月1日から10月1日まで他社で月収20万円を得ていたケースを想定します。10月1日に当社の解雇が撤回され、解雇が無効であったことが確定したとします。
計算例(月収30万円・他社月収20万円の場合)
1月1日〜3月1日(他社収入なし)
Yは他社で収入を得ていないため、月額30万円の全額を支払う。
3月1日〜10月1日(他社で月20万円)
控除できるのは当社賃金30万円の40%、すなわち12万円が上限。
他社収入が20万円でも、差し引けるのは12万円まで。
→ 30万円 − 12万円 = 月18万円を支払う。
ここでのポイントは、他社での収入が20万円であっても、20万円全額を差し引くことはできず、あくまで上限は当社賃金の40%(12万円)であるという点です。会社としては、単純な差額計算ではなく、①期間の区分、②月例賃金額、③40%上限の適用、という三段階で整理することが重要です。計算を誤れば、過大控除として違法と判断され、紛争の長期化や追加請求のリスクを招きます。
05控除が制限される場合と経営リスク
中間収入がある場合でも、常に40%の控除が認められるわけではありません。まず前提として、中間収入の発生時期と賃金支払対象期間が対応していることが必要であり、これを欠く場合には控除は認められません。また、他社での就労が一時的・断続的である場合や、収入額の立証が不十分な場合にも、会社側の控除の主張が制限されることがあります。中間収入の存在や金額は、原則として会社側が具体的に主張・立証しなければなりません。
さらに、40%という数値はあくまで上限であり、常に自動的に認められるものではありません。「他社で働いていた」という情報だけで安易に控除を前提とするのではなく、法的に控除が認められる条件を満たしているかを精査することが重要です。過大な控除は、追加請求や遅延損害金の問題を招き、結果として負担を増大させます。
そして、最も注意すべきは、解雇無効を巡る紛争は解決までに相当の期間を要し、その間バックペイが累積し続けるという点です。月例賃金が高額であるほど、時間の経過そのものが大きな負担となります。さらに、遅延損害金や社会保険料の負担、賞与相当額の取扱いなどが争点に加わることもあります。解雇の適法性に疑義がある場合、訴訟の見通しだけでなく、解決までの期間と累積するバックペイの総額を試算したうえで、経営判断を行う必要があります。解雇は、無効と判断された場合の経済的影響が極めて大きいため、実施前に解雇理由の法的有効性を客観的に再検討し、リスクを定量的に把握することが、最も効果的なリスク回避策となります。解雇を検討している段階や紛争が顕在化している場合には、使用者側弁護士に相談することをお勧めします。
監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
Q&Aよくある質問
Q1. 解雇した社員が他社でフルタイムで働いて収入を得ていれば、その分は全額差し引けますか。
A. 全額は差し引けません。控除できるのは、当社が支払うべき賃金額の40%が上限です。これは、平均賃金の60%にあたる部分は労働者の生活保障の観点から控除できないとされているためです。例えば当社賃金が月30万円なら、他社収入がそれ以上あっても、控除できるのは12万円までで、残り18万円は支払う必要があります。また、控除できるのは賃金支払対象期間と対応する期間に得た収入に限られます。
Q2. 賞与(ボーナス)についても、中間収入を控除できますか。
A. 賞与相当額がバックペイの対象となるか、また中間収入をどう控除するかは、賃金(月例賃金)の場合とは扱いが異なり得る複雑な問題です。一般に、平均賃金の60%を超える部分から控除するという考え方のもとで、月例賃金で控除しきれなかった中間収入を賞与から控除できる場合があるとされていますが、計算は専門的です。賞与の取扱いは個別の事情によって判断が分かれますので、弁護士に相談することをお勧めします。
Q3. バックペイのリスクを抑えるには、どうすればよいですか。
A. 最も重要なのは、そもそも無効と判断されるおそれのある解雇を避けることです。解雇前に、解雇理由の客観的な合理性と社会通念上の相当性を十分に検討する必要があります(531番参照)。すでに解雇を争われている場合は、解雇期間が長期化するほどバックペイが累積するため、早期解決(和解を含む)も選択肢となります。解決までの期間と累積額を試算し、法的妥当性と経済的合理性の双方から判断することが重要です。早めに弁護士に相談することをお勧めします。
最終更新日:2026年3月1日