本記事の結論

  • 解雇が無効とされると、法律上契約は継続しており、解雇期間中の賃金(バックペイ)支払義務が生じます。
  • ● 他社での就労による「中間収入」がある場合、例外的に控除が可能ですが、賃金額の40%が上限です。
  • ● 控除の適用には、発生期間の時期的な対応関係が必要であり、機械的な全額控除は認められません。
  • ● 解雇紛争は長期化しやすく、時間の経過がそのまま巨額のバックペイリスクに直結するため、早期の法的精査が不可欠です。

1. 解雇無効の場合の基本原則

 解雇が無効と判断された場合、会社経営者がまず理解すべきなのは、原則として解雇期間中の賃金を支払う義務が生じるという点です。

 解雇が無効であるということは、法律上、労働契約は解消されていなかったことを意味します。したがって、労働者は引き続き在籍していたものと扱われます。

 解雇期間中に労働者が実際には就労していなかったとしても、それは無効な解雇を行った会社側の責任によるものと評価されます。そのため、会社は当該期間の賃金、いわゆる**バックペイ(遡及賃金)**を支払う必要があります。

 会社経営者にとって重要なのは、解雇判断が誤った場合、その影響は将来に向かっての復職問題だけではなく、過去に遡って巨額 of 賃金支払義務を負う可能性があるという点です。解雇は常に賃金リスクを伴う重大な経営判断であることを認識しなければなりません。

2. 働いていなくても賃金支払義務はあるか

 解雇が無効とされた場合、労働者が実際に会社で就労していなかったとしても、原則として賃金支払義務は免れません。

 これは、無効な解雇によって労働者が就労できなかった以上、その責任は会社側にあると評価されるためです。法律上は労働契約が継続していたことになりますから、労働者は「働く意思と能力があったにもかかわらず、会社の都合で就労できなかった状態」と整理されます。

 この場合、会社は労務の提供を受けていなくても、賃金を支払う義務を負います。いわゆる使用者の受領拒否の場面と同様に扱われるためです。

 会社経営者としては、「実際に働いていないのだから賃金は不要」という直感的な理解は通用しないことを強く認識する必要があります。解雇無効と判断されれば、解雇日から復職日までの賃金が累積し、紛争が長期化すればその金額は相当額に及びます。

 解雇の有効性が争われている段階であっても、この潜在的なバックペイリスクを常に念頭に置いて経営判断を行うことが不可欠です。

3. 中間収入とは何か

 解雇が無効となった場合でも、解雇期間中に労働者が他社で就労し、収入を得ていた場合があります。このような収入を、実務上中間収入といいます。

 中間収入が問題となるのは、無効な解雇による損害をどのように評価するかという観点です。労働者が他社で一定の収入を得ていたのであれば、その分まで会社が全額負担するのは公平を欠くという調整の発想が背景にあります。

 もっとも、中間収入があれば当然に全額控除できるわけではありません。法律上は、解雇期間中の賃金支払義務が原則であり、中間収入の控除は例外的な調整措置にすぎません。

 また、対象となるのは「他社での就労による収入」であり、失業給付や一時的な見舞金などが直ちに同様に扱われるわけではありません。何が控除対象となるかは、個別具体的事情により判断されます。

 会社経営者としては、中間収入の有無や内容を正確に把握し、どの範囲まで控除可能かを法的に整理することが重要です。安易な全額控除は、後に紛争を拡大させる原因となります。

4. 中間収入の40%控除の考え方

 解雇が無効となった場合でも、解雇期間中に労働者が他社で就労し収入を得ていたときは、一定の範囲で控除が認められます。実務上は、支払うべき賃金額の40%を上限として控除できると整理されています。

 例えば、当社における月例賃金が30万円であれば、その40%である12万円が控除の上限となります。仮に他社での月収が20万円であっても、20万円全額を控除できるわけではなく、あくまで12万円が限度です。

 この40%という制限は、労働者の生活保障という賃金の性質を踏まえた調整です。無効な解雇による不利益は本来会社が負担すべきであるとの原則を維持しつつ、過度な二重取得を防止する趣旨に基づきます。

 会社経営者として注意すべきなのは、「中間収入があればその分差し引ける」という単純な理解は誤りであるという点です。控除には上限があることを前提に、金額を計算しなければなりません。

 また、控除できるかどうかは、次に述べるように賃金支払対象期間との時時期対応関係も重要となります。単に収入があったという事実だけでは足りません。

5. 控除が認められる期間的対応関係

 中間収入の控除が認められるためには、単に他社で収入を得ていたという事実だけでは足りません。その収入の発生期間が、当社が賃金を支払うべき期間と時期的に対応していることが必要です。

 例えば、解雇日以降の期間について当社がバックペイを支払う義務を負う場合、その同一期間中に他社で得た収入のみが控除の対象となります。解雇前の収入や、復職後に得た収入は、原則として控除対象にはなりません。

 また、期間が部分的に重なっている場合には、対応する期間ごとに分けて計算する必要があります。月単位で支払う賃金であれば、月ごとに対応関係を整理することになります。

 会社経営者としては、解雇期間の始期・終期を正確に特定し、その期間と他社就労期間を照合する作業が不可欠です。期間の対応関係を誤ると、過大控除として違法と判断されるおそれがあります。

 中間収入控除は例外的な調整措置です。金額だけでなく、期間的な整合性を厳密に確認したうえで主張することが、紛争を拡大させないための重要な実務対応となります。

6. 具体例でみる計算方法

 具体例で整理します。労働者Yが当社で月収30万円で勤務していたところ、1月1日に解雇されたとします。その後、3月1日から10月1日まで他社で月収20万円を得ていたケースを想定します。10月1日に当社の解雇が撤回され、解雇が無効であったことが確定したとします。

 まず、1月1日から3月1日までの期間については、Yは他社で収入を得ていません。この期間については、月額30万円全額を支払う必要があります。

 次に、3月1日から10月1日までの期間については、Yは他社で月20万円の収入を得ています。しかし、控除できるのは当社賃金30万円の40%、すなわち12万円が上限です。したがって、この期間については、30万円から12万円を差し引いた18万円を支払うことになります。

 他社での収入が20万円であっても、20万円全額を差し引くことはできません。あくまで上限は当社賃金の40%です。

 会社経営者としては、単純な差額計算ではなく、①期間の区分、②月例賃金額、③40%上限の適用という三段階で整理することが重要です。計算を誤れば、紛争の長期化や追加請求のリスクを招きます。

7. 控除が制限される場合

 中間収入がある場合でも、常に40%控除が認められるわけではありません。まず前提として、中間収入の発生時期と賃金支払対象期間が対応していることが必要です。これを欠く場合には、控除は認められません。

 また、他社での就労が一時的・断続的である場合や、収入額の立証が不十分な場合にも、会社側の控除主張が制限されることがあります。中間収入の存在や金額は、原則として会社側が具体的に主張立証しなければなりません。

 さらに、労働者の再就職努力を不当に妨げる事情があった場合など、特段の事情があるときには、機械的な控除が否定される可能性もあります。40%という数値はあくまで上限であり、常に自動的に認められるものではありません。

 会社経営者としては、「他社で働いていた」という情報だけで安易に控除を前提とするのではなく、法的に控除が認められる条件を満たしているかを精査することが重要です。過大控除は、追加請求や遅延損害金の問題を招き、結果として負担を増大させます。

8. 紛争長期化による経営リスク

 解雇無効を巡る紛争は、解決までに相当の期間を要することがあります。その間、バックペイは累積し続けます。月例賃金が高額であればあるほど、時間の経過そのものが企業リスクとなります。

 さらに、遅延損害金や社会保険料負担の問題も加わります。場合によっては、賞与相当額の取扱いも争点となります。

 会社経営者としては、解雇の適法性に疑義がある場合、訴訟の帰趨だけでなく、解決までの期間と累積賃金額を試算し、経営判断を行う必要があります。法的正当性と同時に、金銭的リスク管理の視点が不可欠です。

 解雇は企業統治上の重要な決断ですが、無効と判断された場合の経済的影響は極めて大きいものとなります。事前に法的評価を十分に行うことが、最も効果的なリスク回避策といえます。

9. 実務対応上の重要ポイント

 解雇が争われている場合には、まず解雇理由の法的有効性を客観的に再検討することが出発点です。同時に、解雇期間が長期化した場合 feathered バックペイ総額を試算し、リスクの全体像を把握する必要があります。

 また、中間収入の有無や金額、期間を確認し、控除可能額を適法に算定する準備も重要です。資料の収集や主張整理を怠ると、結果として過大な支払を余儀なくされることがあります。

 解雇判断は、単なる人事問題ではなく、将来にわたる金銭債務を伴う重大な経営判断です。紛争が顕在化している場合や解雇を検討している段階であっても、労働問題に精通した弁護士へ相談し、法的リスクと金銭的影響を可視化したうえで判断することが、企業防衛の観点から不可欠です。

10. まとめ:解雇判断は賃金リスクを前提に行う

 解雇が無効と判断された場合、労働者が実際に働いていなくても、原則として解雇期間中の賃金を支払う義務が生じます。他社での中間収入がある場合でも、控除できるのは賃金の40%が上限であり、期間的対応関係など厳格な要件があります。

 会社経営者としては、解雇の有効性だけでなく、無効となった場合のバックペイ総額と控除可能額を事前に想定することが重要です。

 解雇を巡る判断は、法的妥当性と経済的合理性の双方を踏まえて行わなければなりません。重大な意思決定を行う前には、労働問題に精通した弁護士へ相談し、リスクを定量的に把握したうえで戦略的に対応することが、安定した企業経営を守る鍵となります。

弁護士 藤田 進太郎
監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

更新日2026/3/9

解雇無効時の賃金に関するよくある質問

Q1. 解雇が無効になったら、働いていない期間の給料も払わなければいけませんか?

A. はい、原則として支払う必要があります。法律上は解雇が無効であれば労働契約が継続していたとみなされるため、会社側が就労を拒んだ責任を負うことになり、解雇から解決(復職等)までの賃金(バックペイ)が発生します。

Q2. 労働者がアルバイトをして稼いでいた場合、その分を差し引くことはできますか?

A. 一定の範囲で差し引く(控除する)ことが可能です。ただし、全額を差し引くことはできず、労働基準法上の休業手当の規定を考慮し、平均賃金の40%相当額(賃金の60%を超える部分)までが控除の限界とされています。

Q3. 失業保険(失業給付)を受給していた場合、その金額を賃金から引けますか?

A. 判例上、失業給付は「他社での就労による収入」には当たらないため、会社が支払うバックペイから差し引くことはできないとされています。労働者がバックペイを受け取った後、本人とハローワークの間で清算手続きが行われることになります。

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