1. 固定給と歩合給がある場合の残業代計算の基本

 固定給と歩合給の両方を支払っている場合、残業代は一つの賃金としてまとめて計算することはできません。それぞれの賃金の性質に応じて、固定給部分と歩合給部分を分けて計算する必要があります。

 固定給は、所定労働時間内の労働に対する対価として支払われるものであり、時間外労働をした場合には、通常の労働時間の賃金に加えて割増賃金を支払う必要があります。一方、歩合給(出来高払い)は、労働時間の長短にかかわらず成果に応じて支払われる賃金であるため、時間単価に相当する部分は既に賃金に含まれていると考えられています。

 そのため、会社経営者としては、「固定給と歩合給がある場合でも残業代は同じ計算でよい」と誤解しないことが重要です。計算方法を誤ると、意図せず未払残業代が発生し、後に労務トラブルへ発展するおそれがあります。

2. 固定給部分に関する残業代の考え方

 固定給は、あらかじめ定められた所定労働時間内の労働に対する対価として支払われる賃金です。そのため、所定労働時間を超えて労働させた場合には、固定給に含まれていない時間外労働分の賃金を別途支払う必要があります。

 具体的には、まず固定給を基礎として通常の労働時間における時間単価を算出し、その時間単価に法定の割増率を乗じて、時間外労働や深夜労働、休日労働に対応する割増賃金の時間単価を求めます。時間外労働であれば通常25%、休日労働であれば35%といった割増率が適用されます。

 会社経営者として注意すべきなのは、固定給の中に時間外労働分が含まれていると安易に考えることはできない点です。いわゆる固定残業代として処理するためには、厳格な要件を満たす必要があり、単に月給制であるという理由だけで残業代の支払いを免れることはできません。

3. 歩合給(出来高払い)部分に関する残業代の考え方

 歩合給や出来高払いによって支払われる賃金は、労働時間ではなく成果に応じて支払われる性質のものです。そのため、固定給とは残業代の考え方が異なります。

 歩合給については、時間を延長して労働した結果として成果が上がっている側面があるため、通常の労働時間に相当する賃金部分は、すでに歩合給の中に含まれていると考えられています。このため、時間外労働を行った場合に会社が追加で支払うべき賃金は、通常の時間単価の全額ではなく、割増部分に相当する金額で足りるとされています。

 具体的には、時間外労働については25%、深夜労働についても25%、休日労働については35%といった割増率を、歩合給を基礎として算出した時間単価に乗じて割増賃金を計算することになります。会社経営者としては、歩合給だから残業代が不要であると誤解しないことが重要です。

4. 固定給と歩合給を分けて計算する必要性

 固定給と歩合給が併存している場合、残業代の計算において両者を一体として扱うことはできません。賃金の性質が異なる以上、それぞれに適した計算方法を採用する必要があります。

 固定給部分については、所定労働時間内の賃金にすぎず、時間外労働に対応する賃金は含まれていません。一方、歩合給部分については、成果に応じて支払われるものであり、通常の労働時間に相当する賃金はすでに含まれていると評価されます。この違いを踏まえずに計算を行うと、割増賃金の不足や過払いが生じるおそれがあります。

 会社経営者としては、計算の煩雑さを理由に一括計算を行うのではなく、固定給部分と歩合給部分を明確に区分したうえで、適切に残業代を算定することが、法的リスクを回避するうえで不可欠です。

5. 具体的な残業代計算の手順

 固定給と歩合給がある場合の残業代計算は、段階を追って整理することが重要です。まず、当月の賃金内容と労働時間の状況を正確に把握し、固定給部分と歩合給部分を明確に区分します。

 次に、固定給については、年間または月平均の所定労働時間を基礎として通常の労働時間における時間単価を算出し、その時間単価に法定の割増率を乗じて、時間外労働・深夜労働・休日労働ごとの割増賃金単価を求めます。

 一方、歩合給については、当月に支払われた歩合給の総額を当月の総労働時間で除して時間単価を算出し、その時間単価に割増率のみを乗じて割増賃金単価を算定します。固定給部分と歩合給部分で算出した割増賃金単価を合算し、各労働時間数を乗じることで、最終的な残業代額が算出されます。

 会社経営者としては、計算過程を明確にし、後から説明できる形で残しておくことが、紛争予防の観点からも重要です。

6. 計算ミスが生じやすいポイント

 固定給と歩合給を併用している場合の残業代計算は複雑になりやすく、実務上も計算ミスが多く見受けられます。会社経営者としては、誤りやすいポイントをあらかじめ把握しておくことが重要です。

 特に多いのは、歩合給について「成果に応じた賃金だから残業代は不要」と誤解してしまうケースです。歩合給であっても割増部分の支払いは必要であり、これを支払っていない場合には未払残業代が発生します。

 また、固定給部分の時間単価算出において、所定労働時間の計算を誤ったり、深夜労働や休日労働の割増率を混同したりするケースも少なくありません。計算方法を曖昧なまま運用していると、長期間にわたり未払が累積するおそれがあります。

 会社経営者としては、賃金制度や計算方法を定期的に見直し、必要に応じて専門家の確認を受けることが、リスク管理の観点から有効です。

7. 会社経営者が注意すべき実務対応

 固定給と歩合給を併用している場合の残業代計算については、計算方法そのものだけでなく、制度設計や運用の在り方が問われます。会社経営者としては、現行の賃金制度が法令に適合しているかを定期的に確認する姿勢が重要です。

 まず、固定給と歩合給の内訳や趣旨を就業規則や賃金規程上、明確に区分して定めておく必要があります。賃金の性質が不明確な場合、残業代計算の前提自体が争われるおそれがあります。

 また、勤怠管理を正確に行い、労働時間を客観的に把握できる体制を整えることも不可欠です。計算方法が正しくても、労働時間の把握が不十分であれば、未払残業代のリスクは解消されません。

 固定給と歩合給が絡む残業代計算は、会社側にとって紛争になりやすい分野です。トラブルを未然に防ぐためにも、早い段階で専門家の助言を受けながら制度設計や運用を行うことが、会社経営者にとって現実的な対応といえるでしょう。

 

最終更新日2026/2/7


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