労働審判の基礎知識(入門)

 

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労働審判について知りたい場合に、
経営者が最初に見るべき情報源を、
使い分けの観点で整理します。

労働審判の書類が会社に届いた、あるいは将来的に労働審判を申し立てられる可能性を感じている、といった場面で、「労働審判とは何か、どこで情報を得ればよいのか」と迷われる経営者は少なくありません。労働審判について最も客観的で正確な情報源は、裁判所のWebサイトです。ただし、裁判所の情報は制度の解説に徹した中立的な記述であり、「経営者として何を準備し、どう判断すべきか」という実務的な観点は含まれません。そこで、客観的な制度理解は裁判所Webサイトで、経営者視点の実務的判断は会社側専門弁護士の解説で、という二つの情報源の使い分けが、経営者にとって最も効率的な学び方です。本ページでは、労働審判制度の客観的な概要、裁判所Webサイト・リーフレットの活用方法、経営者が最初に押さえるべき基礎知識を、会社側専門の弁護士が会社経営者向けに整理いたします。

VIDEO

本ページの基となる解説動画

 

本ページの解説内容は、藤田進太郎弁護士による解説動画「労働審判について知りたい場合は何を見ればいいのか」を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。

CHAPTER 01

情報源の選び方という出発点

 

労働審判の書類が裁判所から届いた、あるいは将来的に労働審判を申し立てられる可能性を感じている、労働組合や弁護士から労働審判の話が出てきている——このような局面で、「まず労働審判とは何かを調べたい」と思われる経営者は少なくありません。

ところが、インターネットで「労働審判」と検索すると、膨大な数の記事・ブログ・解説ページが表示されます。弁護士事務所のホームページ、社会保険労務士のブログ、個人のまとめサイト、法律事務所の求人サイト、ニュース解説、判例紹介など、種類も質もバラバラです。どこから読めばいいのか、どの情報が正確で、どの情報が偏っているのか、経営者として最初に迷うのは当然です。

情報源の質を見極めるには、その情報源の立場を意識する必要があります。労働者側の立場から書かれた情報は、労働者側の権利主張を強調する傾向があります。会社側の立場から書かれた情報は、経営者としての対応策に重心を置きます。中立的な立場から書かれた情報は、制度の客観的な解説に徹する代わりに、「経営者として何をすべきか」という実務的助言は含みません。

本ページで最初にお伝えしたい結論はこうです。労働審判について学ぶ際には、「客観的で正確な制度の理解」と「経営者視点での実務的判断」は、異なる情報源から得るのが合理的です。制度の客観的な概要は裁判所のWebサイトで押さえ、経営者として何を判断すべきかは会社側専門の弁護士の解説で補う。この二段階の情報収集が、最も効率的で、かつ偏りのない学び方となります。

以下、本ページでは、裁判所Webサイト・リーフレットの活用方法労働審判制度の客観的な概要経営者視点での情報源の使い分け経営者が最初に押さえるべきポイントを、順を追って整理します。労働審判の書類がまだ届いていない方にとっては予防的な制度理解として、既に届いた方にとっては対応の全体像を掴むための導入として、お役立てください。

CHAPTER 02

裁判所Webサイトが最も正確である理由

 

労働審判について客観的で正確な情報を得たいのであれば、最高裁判所のWebサイトが最もおすすめの情報源です。「労働審判」というキーワードでGoogleやYahooで検索すると、多くの場合、裁判所Webサイト内の「労働審判手続」というページが検索結果の上位に表示されます。

なぜ裁判所Webサイトが最も正確なのか

裁判所Webサイトが他の情報源より優れている理由は、情報の性質に根ざした本質的なものです。

第一に、情報発信の主体が制度の運営者であることです。労働審判は裁判所が主宰する手続きであり、制度の運用実態を最もよく知っているのは裁判所自身です。制度設計の趣旨、運営の実情、手続きの細部まで、一次情報として発信されています。

第二に、立場の偏りがないことです。裁判所は労働者側でも会社側でもなく、中立的な判断機関です。労働審判に関する裁判所の発信は、特定の立場を有利に見せるための誇張や省略がありません。「労働者が有利」「会社が不利」といった方向に印象操作されることがなく、事実ベースで制度が説明されています。

第三に、更新の信頼性が高いことです。制度の運用改定、手続き規則の変更、新しい実務指針の公表など、制度に変更があった際には、裁判所Webサイトが最も早く正確に更新されます。民間の解説記事は更新が遅れることがありますが、裁判所Webサイトは一次情報として常に最新状態を反映します。

第四に、客観的な統計データが掲載されていることです。平均審理期間、事件数の推移、解決類型の割合、調停成立率など、制度の実情を示す統計データが、正式な集計結果として公開されています。これらの数字は、他の情報源では正確には把握できません。

裁判所Webサイトへのアクセス方法

裁判所Webサイトの労働審判に関するページには、次の手順でアクセスできます。

一つ目は、検索エンジンで「労働審判」と検索する方法です。多くの場合、検索結果の1位または上位に裁判所Webサイトの「労働審判手続」のページが表示されます。URLは`courts.go.jp`ドメインのものを選んでください。

二つ目は、裁判所のトップページ(`www.courts.go.jp`)にアクセスし、メニューから「手続を利用する方へ」や「裁判手続の案内」のカテゴリーに進み、「労働審判手続」の項目を探す方法です。

サイトのデザインや階層は随時更新されるため、最新の構成は裁判所Webサイト上で直接確認してください。

裁判所Webサイトで得られる情報の範囲

裁判所Webサイトで得られる情報は、制度の概要、手続きの流れ、平均審理期間の統計、申立書の様式、申立て手数料、裁判所の所在地などです。これらは労働審判について最初に知るべき基礎情報として極めて有用です。

他方、裁判所Webサイトでは、次のような情報は基本的に扱われません。会社側として何を準備すべきか、答弁書をどう書くべきか、調停案にどう応じるべきか、異議申立ての判断軸はどうあるべきか、弁護士の選び方、事案類型別の具体的な対応戦略、などです。これらは制度の解説を超えた実務的助言の領域であり、会社側専門弁護士などが提供する実務解説で補う必要があります。

CHAPTER 03

労働審判制度の概要

 

裁判所Webサイトを含む各情報源で解説されている労働審判制度の客観的な概要を、経営者の視点で整理します。本章は制度理解の土台となる基礎的事項ですので、既にご存じの方は次章以降に進んでいただいて構いません。

個別労働紛争のための専門手続き

労働審判は、個別労働関係民事紛争、すなわち労働者と事業主との間の労働関係に関する紛争を、迅速かつ柔軟に解決することを目的とした裁判所の手続きです。労働審判法に基づいて運用されており、平成18年4月に施行された比較的新しい制度です。

典型的に労働審判の対象となる事件類型は、次のとおりです。解雇無効の確認請求と賃金請求(バックペイ請求)、未払残業代請求、退職金請求、懲戒処分無効確認請求、配転命令無効確認請求、降格無効確認請求、賃金未払請求、ハラスメント慰謝料請求、労働契約上の地位確認請求、などです。

これらは、一般に「個別労働事件」と呼ばれる類型の紛争で、一人の労働者と会社との間で発生する紛争です。労働組合と会社との間の集団的労使関係紛争(団体交渉拒否、不当労働行為など)は、労働委員会の管轄となるため、労働審判の対象ではありません。

制度の三つの主要特徴

労働審判の主要な特徴は、以下の三点です。

迅速性:原則3回以内の期日で結論に至るよう制度設計されており、平均審理期間は約80日、すなわち3ヶ月を切る短期間で終局に至ります。長期化しがちな民事訴訟に比べて、解決スピードが飛躍的に速いのが最大の特徴です。

専門性:裁判官である労働審判官に加えて、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名(使用者側の実務経験者と労働者側の実務経験者が各1名)が審理に参加します。純粋な法律論だけでなく、労使実務の感覚を踏まえた判断が示される、という設計です。

柔軟性:権利義務を踏まえた判断を軸としつつ、事案の実情に応じた柔軟な解決を図ることができます。訴訟のような「勝った/負けた」の二分法ではなく、双方が受容可能な中間的解決案の提示が、運用の中心となっています。

解決類型の全体像

労働審判手続きの解決類型は、次のパターンに分かれます。

一つ目は、調停成立による解決です。労働審判委員会の仲介のもとで双方が合意に至り、調停調書が作成されます。裁判上の和解と同様の効力を持ち、事件は終局します。労働審判で終局に至る事件の約7割が、この調停成立によって解決しています。

二つ目は、労働審判の確定による解決です。調停が不成立の場合、委員会は労働審判(解決案)を示します。双方とも異議を申し立てなければ、労働審判は確定判決と同様の効力を持ち、事件は終局します。

三つ目は、訴訟移行による継続です。労働審判に対し2週間以内にどちらか一方でも異議を申し立てると、労働審判は失効し、事件は自動的に訴訟へ移行します。以降は通常の民事訴訟として、地方裁判所で審理されます。

四つ目は、申立ての取下げによる終了です。申立人が手続きの途中で申立てを取り下げれば、事件は終局します。取下げは申立人の判断で行われ、会社側の同意は要求されないのが原則です。

五つ目は、24条終了と呼ばれる、労働審判を行うことが相当でないとして委員会が手続きを終了させる類型です。事案が複雑すぎて労働審判の枠組みでは解決が困難な場合などに、この終了がなされます。

CHAPTER 04

労働審判委員会の構成と審理の特徴

 

労働審判の審理主体である労働審判委員会の構成は、この制度の独自性を象徴する部分です。通常の民事訴訟と異なり、裁判官だけが審理を担うのではなく、労使の実務経験者が加わる点が特徴です。

労働審判官1名+労働審判員2名

労働審判委員会は、次の3名で構成されます。

労働審判官1名:裁判官が務めます。労働事件を担当する裁判官が指定されることが多く、通常は法律論の最終判断を担います。調停の主宰や審判内容の最終決定の中心的な役割を果たします。

労働審判員2名:労使それぞれの実務経験者が各1名、合計2名で構成されます。使用者側労働審判員は、企業の人事労務部門の経験者や経営者団体の推薦を受けた人材から選ばれるのが通常です。労働者側労働審判員は、労働組合の専従役員経験者などから選ばれます。両者が対称的に配置されることで、審理のバランスが担保されます。

労働審判員が審理に加わることの意義

労働審判員が審理に加わることは、制度の根幹を成す特徴です。労使双方の実務経験者が現実の職場感覚を持ち込むことで、次のような効果が生まれます。

一つは、法律論を超えた実務感覚での判断が可能になることです。法律の解釈としては成り立つが、職場の実情を考えるとそぐわない解決、というパターンを避けやすくなります。例えば、「解雇有効だけれども、職場復帰は現実的でないので解決金で清算する」といった、実務的な柔軟解決が図られやすい構造です。

もう一つは、労使双方の心理・実情への配慮が働くことです。使用者側労働審判員は、経営者の立場から見た困難や現場の運用感覚を理解しています。労働者側労働審判員は、労働者の立場から見た働きかたの実情や困難を理解しています。双方の代表が対称的に配置されることで、一方に偏らない審理が担保されます。

非公開での審理

労働審判の審理は、非公開で行われます。民事訴訟が原則公開の法廷で行われるのと対照的です。当事者とその代理人、労働審判委員会のみが参加する会議室形式の審理となります。

非公開であることには、双方にとってメリットがあります。会社側から見れば、事件の内容が公に晒されないため、レピュテーションへの影響を抑えられます。労働者側から見れば、個人のプライバシーや職場での処遇の実情を、公開の場で議論されずに済みます。結果として、より率直な議論が可能になり、柔軟な解決が図られやすくなります。

期日当日の運営の特徴

労働審判の期日当日は、訴訟とは異なる運営がなされます。典型的には、以下のような流れです。

期日の開始時、委員会が事前に読み込んだ申立書と答弁書を踏まえ、当事者双方に対して質疑応答を行います。「ここの記載はどういう意味か」「この経緯の詳細を説明してほしい」といった質問が、委員会から双方に投げかけられます。当事者本人の発言が重視され、代理人弁護士だけでなく、経営者本人や申立人本人が自分の言葉で経緯を説明する機会が設けられます。

質疑応答の後、委員会が心証を形成し、双方を別室に呼んで調停の打診を行うのが通常です。「これくらいの金額・条件で解決できないか」という案を、委員会側から示されます。双方の意見を聴取しながら、合意可能な着地点を探っていくのです。

この運営方式は、訴訟のような厳格な主張立証の応酬ではなく、対話的な解決志向の審理です。経営者にとっては、自分の言葉で事情を説明できる機会である反面、発言が心証に直結するため、事前のリハーサルと準備が欠かせません。

CHAPTER 05

手続きの流れと統計で見る実情

 

労働審判手続きの流れを時系列で追いながら、統計データで実情を確認します。統計の数字は裁判所公表のものに準拠する概数です。最新の正確な数値は裁判所Webサイトでご確認ください。

ステップ1:申立て・呼出し

労働者が労働審判の申立書を地方裁判所に提出することで、手続きが開始されます。裁判所は申立書を受理すると、第1回期日を指定して双方に通知します。この時点で、会社側には申立書の副本と呼出状が送達されます。会社経営者が「労働審判の書類が届いた」と認識するのは、このタイミングです。

ステップ2:答弁書提出と第1回期日

第1回期日は、原則として申立てから40日以内に指定されます。会社側は、第1回期日の1週間から10日前に設定された期限までに、答弁書を提出します。そして第1回期日において、審理が実質的に開始されます。

第1回期日は、その事件の事実上の勝負の場となります。委員会は事前に書面を読み込んだ上で、当日の質疑応答を経て心証を固めます。その心証に基づき、調停案の提示に移るのが通常の流れです。

ステップ3:調停・労働審判

調停案が双方に提示され、合意可能な条件を探る段階に入ります。第1回期日で合意に至らない場合、第2回、第3回と期日を重ねて調整を続けることもあります。次回期日は通常2週間後程度に指定されるため、会社側としては時間的に休む暇がありません。

調停が成立しない場合、委員会は労働審判(解決案)を示します。これに対して双方とも異議を申し立てなければ、労働審判は確定し、事件は終局します。異議申立てがあれば、訴訟へ自動移行します。

統計が示す労働審判の実情

裁判所公表の統計から、労働審判の実情を見ると次のような数字が浮かび上がります(数値は裁判所公表の概数で、年度により若干変動します)。

平均審理期間:約80日。申立てから終局までの平均が3ヶ月を切ります。訴訟の平均審理期間(1年以上)と比較すると、圧倒的な迅速さです。

調停成立率:約7割。労働審判手続きで終局に至る事件のうち、約7割が調停成立により解決しています。制度の設計思想どおり、調停による柔軟な解決が主たる終局類型となっています。

3回以内で終局する事件の割合:約8割。労働審判法は「原則3回以内の期日」を規定していますが、実際の運用でも約8割の事件が3回以内で終局しており、迅速解決の実態を裏付けています。

労働審判後の異議申立て率:一定割合で発生。労働審判が出された事件の中で、異議申立てがなされ訴訟移行する事件は一定割合存在します。異議申立ての判断には、訴訟での見込み、コスト、時間などの総合考慮が必要となります。

事件類型別の傾向:解雇関係の事件が全体のうち多くの割合を占め、次いで未払賃金・残業代請求、ハラスメント等が続きます。会社側としては、これらの紛争類型への日常的な予防が、労働審判対応の基盤となります。

これらの統計が示唆するのは、「労働審判は、3ヶ月以内の短期間で、多くは調停で柔軟に解決する手続き」という実像です。訴訟のような長期戦にはならない代わりに、会社側としては短期決戦に耐える準備体制を整える必要がある、という構造が見えてきます。

CHAPTER 06

裁判所リーフレットの活用

 

裁判所Webサイトと並んでおすすめしたい情報源が、裁判所発行のリーフレット「労働審判制度」です。このリーフレットは、労働審判について図解を交えて整理したパンフレット形式の資料で、制度の全体像を短時間で掴むのに適しています。

リーフレットの特徴

裁判所リーフレットの特徴は、以下の通りです。

第一に、図解によるイメージの可視化です。文字だけの解説と異なり、手続きの流れが図で示されているため、「申立てから第1回期日まで」「調停から労働審判へ」といった時系列のイメージが直感的に掴めます。初めて労働審判を学ぶ方にとって、全体像を一目で把握できる点は大きなメリットです。

第二に、情報の正確性です。裁判所が作成している資料ですから、当然ながら情報の正確性は最高水準です。リーフレットに書かれている手続きの流れ、期日のタイミング、審理のポイントなどは、実務と一致しています。

第三に、コンパクトな記述です。裁判所Webサイトの詳細な解説を読むには一定の時間を要しますが、リーフレットは数ページ程度にまとまっており、短時間で通読できます。忙しい経営者が労働審判の概要を掴むのに適しています。

リーフレットの入手方法

リーフレットは、裁判所WebサイトからPDFファイルとしてダウンロードできます。「労働審判制度 リーフレット」「労働審判 パンフレット」といったキーワードで検索すると、ダウンロード先のページが表示されます。

ダウンロードしたPDFを社内で印刷し、人事部門や総務部門の担当者と共有しておくと、実際に労働審判が申し立てられた際の初動対応がスムーズになります。また、経営者自身がリーフレットに目を通しておくことは、予防法務の観点からも有益です。

リーフレットを読む際の留意点

リーフレットは、労働審判制度を誰にとっても中立的に解説することを目的としています。したがって、会社側としてどう動くべきか経営者として何を警戒すべきか、といった実務的助言は含まれません。

例えば、リーフレットには「答弁書を提出してください」「第1回期日には当事者本人の出席が望まれます」といった制度上の説明はあっても、「会社側の答弁書にはこういう要素を盛り込むべきだ」「経営者が期日で発言する際はこういう点に注意すべきだ」といった戦略的助言は書かれていません。

したがって、リーフレットで制度の全体像を掴んだ後は、会社側専門弁護士の解説記事や相談を通じて、経営者視点での対応戦略を別途学ぶ必要があります。これが、次章で扱う「情報源の使い分け」の話に繋がります。

CHAPTER 07

経営者視点での情報源の使い分け

 

ここまで裁判所Webサイトとリーフレットを中心に、客観的情報源の活用方法を整理してきました。次に、経営者視点での情報源の使い分けを考えていきます。

裁判所の情報と会社側弁護士の情報の違い

裁判所Webサイトとリーフレットは、労働審判の制度を解説することに徹しています。手続きの流れ、期日の指定、審理の方式、調停と審判の関係など、誰が読んでも同じ事実として受け取れる情報が中心です。

一方、会社側専門弁護士のWebサイトや書籍は、労働審判の制度を踏まえた上で、会社経営者として何をすべきかどう判断すべきかという実務的助言に重心を置きます。裁判所の情報が「What」であるのに対し、会社側弁護士の情報は「How」と「Should」に近い、と整理することもできます。

具体例を挙げると、「労働審判の第1回期日は申立てから40日以内に指定される」という事実は、裁判所Webサイトに書かれています。これに対し、「第1回期日までに答弁書を書き切り、経営者本人も期日に出席するためのリハーサルを2週目に行うべきだ」という助言は、会社側弁護士の情報源にしか書かれていません。両者は異なる性質の情報であり、どちらか一方だけでは経営者の学びとして不十分です。

会社側弁護士の情報源の特徴と留意点

会社側専門弁護士のWebサイトや書籍から得られる情報は、経営者の実務判断に直結する具体性を持っています。答弁書の書き方、証拠の整え方、期日での発言の仕方、調停案への対応、異議申立ての判断など、制度の解説を超えた実践的な助言が中心です。

ただし、会社側弁護士の情報は、立場に起因する偏りが一定程度含まれることを、経営者として理解しておく必要があります。会社側弁護士は経営者の立場に立って助言を組み立てるため、労働者側の主張の妥当性については割り引いた扱いになる、労働者側の権利主張を警戒的に描く、といった傾向が一般にあります。

このような偏りは、意図的な歪曲ではなく、依頼者(経営者)の利益を守る専門家としての立場から自然に生じるものです。経営者としては、会社側弁護士の情報を「経営者のための実務助言」として活用しつつ、制度の客観的な概要は別途、裁判所Webサイトで中立的に学ぶ、という使い分けをすれば、偏りを補正しながら実務判断の精度を上げることができます。

労働者側弁護士の情報源の扱い方

インターネット上には、労働者側の立場から書かれた労働審判の解説記事も多数存在します。これらを経営者が全く読まないのは勿体無い面があります。なぜなら、申立人側がどのような視点で労働審判を捉え、どのような戦略を立てているかを知ることは、会社側の準備にとって有益な情報となるからです。

例えば、労働者側弁護士の記事に「会社側はこういう反論を持ち出してくる傾向がある」「こういう証拠を揃えれば労働者に有利になりやすい」といった分析が書かれていれば、その視点を会社側の準備に裏返して活用できます。労働者側の視点を知ることで、会社側としての備えが手厚くなるのです。

ただし、労働者側の情報を会社側の立場から読むには、一定の判断力が必要です。書かれている主張をそのまま受け入れるのではなく、「これを会社側として検証するとどうか」「会社側の反論は成り立つか」という視点を持ちながら読むことが前提となります。この作業は、経験豊富な弁護士と一緒に行うのが最も安全です。

学ぶ順番の推奨

以上を踏まえて、経営者が労働審判について学ぶ推奨順序は以下の通りです。

最初に、裁判所Webサイトとリーフレットで、制度の客観的な概要を掴む。ここで「労働審判とは何か」「どういう流れで進むか」「どのような特徴を持つ手続きか」をフラットに理解します。

次に、会社側専門弁護士の解説記事や書籍で、経営者として何を警戒し、どう動くべきかを学ぶ。当事務所の関連ページ(労働審判対応の総合解説、申立書が届いた直後の初動対応、在職中申立てへの対応)も、この位置づけで作成しています。

必要に応じて、労働者側の情報源を補助的に参照し、申立人側の視点を把握する。会社側の準備を厚くするための参考資料として活用します。

そして、実際に労働審判に関わる局面では、会社側専門弁護士への相談が不可欠となります。Web上の情報だけで事案を乗り切ることは困難で、個別事案の事情に応じた具体的助言は、専門家との対話の中でしか得られません。

CHAPTER 08

経営者が最初に押さえるべき5つのポイント

 

労働審判について初めて学ぶ経営者が、制度の全体像を掴んだ上で、最初に押さえるべき5つの核心ポイントを整理します。以下の5点を頭に入れておけば、実際に労働審判に関わる場面でも、致命的な判断ミスを回避しやすくなります。

ポイント1:スピードが命である

労働審判は、とにかくスピードが求められる手続きです。申立てから第1回期日まで原則40日以内、答弁書提出までは実質3週間、3ヶ月以内の終局、という時間感覚が全ての前提です。

「あとでゆっくり対応すればよい」「ひとまず様子を見よう」という余裕は一切ありません。書類が届いたその日のうちに、弁護士への連絡と社内の情報統制を始めるのが、会社側の最低限の初動となります。

ポイント2:権利義務を踏まえた判断がなされる

労働審判は、純粋な話し合いベースの調停ではなく、労働法や労働契約法などに基づく権利義務を踏まえた判断を軸とする手続きです。「なんとなく会社が悪そうだ」「なんとなく労働者が悪そうだ」という曖昧な印象で結論が決まるわけではありません。契約上・法律上の権利義務の帰属が、結論の基盤となります。

したがって、会社側としては、法律上の主張を的確に組み立てることが最大の勝負どころとなります。感情論や「会社の苦労を分かってほしい」という情緒的訴えだけでは、有利な結論は得られません。法律の枠組みで自社の立場を説明できる状態を、申立書が届いた段階から作り上げていく必要があります。

ポイント3:第1回期日で勝負が決まる

訴訟であれば、第1回期日は争う意思を示すだけで、以後の主張立証にじっくり時間をかけられます。しかし労働審判では、第1回期日でほぼ結論が決まるというのが制度運用の実態です。

第1回期日で形成された心証が、その事件の結論を大枠決定します。以後の期日で心証を大きく覆すのは困難です。したがって、会社側としては、第1回期日までに最大限の準備を尽くすことが、手続き全体の勝負どころとなります。

ポイント4:異議申立ては訴訟への自動移行を意味する

労働審判の結論に不満がある場合、2週間以内に異議を申し立てることができます。ただし、異議申立ては事件を終わらせる手段ではなく、訴訟への自動移行を招く行為です。民事調停のように「話がつかなければ終わり」という気楽さはありません。

訴訟に移行すれば、1年から2年、あるいはそれ以上の長期戦となります。弁護士費用、打合せ時間、社内リソースの投入が、労働審判の数倍に及びます。異議申立ての判断は、訴訟での見込みと、訴訟に投入できるリソースを総合考慮して、慎重に行う必要があります。

ポイント5:早期の弁護士相談が全てを左右する

以上のすべてのポイントに通底するのは、早期の弁護士相談が会社側の結果を左右する、という事実です。申立書が届いてから弁護士を探し始めるのでは、既に準備時間の多くが失われています。

理想的には、労働問題が顕在化した段階、つまり労働者側からの内容証明、団体交渉の申入れ、労働基準監督署からの是正勧告、あっせん手続きなどの兆候が出た段階で、既に会社側専門弁護士との接触を始めておくことです。いざ労働審判を申し立てられた際に、事案を理解している弁護士がすぐに動ける体制が、準備負担を大幅に軽減します。

仮に予防的な弁護士関与がなされていない状態で労働審判が申し立てられた場合は、申立書が届いたその日のうちに会社側専門弁護士を探し、連絡を取ることが最優先となります。1日でも早く弁護士と事案を共有できれば、それだけ答弁書作成の時間が確保されます。

CHAPTER 09

当事務所のサポート体制

 

弁護士法人四谷麹町法律事務所は、会社側(使用者側)専門の法律事務所として、労働審判対応に長く取り組んでまいりました。代表弁護士の藤田進太郎は、経営法曹会議所属で、会社側の労働事件を多数取り扱い、書籍・講演・動画配信を通じて会社側の労務管理のあり方を発信しております。

当事務所が提供しているサポートは、実際に労働審判が申し立てられた際の対応にとどまりません。労働審判に関する情報収集・予防法務の段階から、経営者のニーズに応じたサポートをご提供しています。

予防的情報提供:まだ労働審判が申し立てられていない段階でも、会社経営者が労働審判制度や会社側の対応ポイントを知っておきたい、という段階でのご相談を承っています。経営者向けの解説、管理職向けの研修、労働問題発生時の基本方針の整理など、必要に応じた情報提供を行っています。

労働問題顕在化時の相談:労働者側からの内容証明、団体交渉申入れ、退職勧奨への反発、労働基準監督署の調査など、労働問題が顕在化した段階でのご相談にも対応しています。この段階で弁護士が関与することで、その後の労働審判申立てに備えた予防的対応、あるいは申立てを回避する交渉が可能となります。

労働審判申立て後の緊急対応:申立書が会社に届いた直後のご相談には、最優先でお時間をお取りします。その日のうちまたは翌営業日に初回相談を実施し、答弁書作成、証拠収集、期日対応の全工程をサポートいたします。

解決後の予防法務:事件解決後には、同種事案の再発防止のため、就業規則の見直し、労務管理フローの改善、管理職研修の実施など、予防法務の観点からのサポートもご提供しています。事件を機に、会社の労務管理体制を一段高い水準に引き上げることを目指します。

労働審判について学ばれた経営者の皆様が、「もし今、自社で労働審判が発生したらどう動くべきか」というシミュレーションの段階で、是非一度ご相談ください。申立書が届いてからの対応よりも、予防的なご相談の方が、経営者として遥かに余裕を持った判断が可能です。ご連絡をお待ちしております。

労働審判について相談されたい会社経営者の皆様へ

制度を知っておきたい段階でも、既に書類が届いた段階でも、早期のご相談が会社にとって有利な結果を導きます。経営労働相談までご連絡ください。

経営労働相談のお問い合わせ

FAQ

よくあるご質問

 

Q. 労働審判について学びたいのですが、最初にどこを見ればよいですか。

最も客観的で正確な情報源は、最高裁判所のWebサイトです。「労働審判」で検索すると、裁判所Webサイト内の「労働審判手続」のページが上位に表示されます。あわせて裁判所発行のリーフレット「労働審判制度」(PDFでダウンロード可能)を通読すると、図解付きで手続きの全体像が短時間で掴めます。その後、会社経営者としての実務的視点を補うため、会社側専門弁護士の解説記事を参照するのがおすすめです。

Q. 労働審判と民事訴訟、労働訴訟の違いは何ですか。

労働審判は、個別労働関係民事紛争を迅速・柔軟に解決する独自の手続きで、原則3回以内の期日、平均約80日で終局します。民事訴訟(労働訴訟を含む)は、通常1年から2年以上かけて主張立証を重ね、判決に至る手続きです。労働審判は調停による合意解決を主たる解決類型としており、訴訟は判決による解決を主たる解決類型としています。また、労働審判には労働審判員(労使の実務経験者)が審理に加わる特徴があり、訴訟にはありません。

Q. 労働審判の平均審理期間はどれくらいですか。

裁判所公表の統計によれば、労働審判の平均審理期間は約80日です。申立てから終局までが3ヶ月を切る迅速解決手続きとして機能しています。事件の約8割が3回以内の期日で終局しており、迅速性は制度設計通りに実現されています。最新の正確な数値は裁判所Webサイトでご確認ください。

Q. 労働審判の調停成立率はどのくらいですか。

労働審判手続きで終局に至る事件のうち、約7割が調停成立により解決しています。制度の設計思想通り、調停による柔軟な合意解決が主たる解決類型となっており、訴訟のような「勝ち/負け」の二分法ではなく、双方が受容できる中間的解決が図られる仕組みとなっています。

Q. 労働審判員とはどういう方々ですか。

労働審判員は、労働関係に関する専門的な知識経験を有する者から選任される審理参加者で、労働審判官(裁判官)1名とともに労働審判委員会を構成します。使用者側労働審判員(企業の人事労務経験者等)と労働者側労働審判員(労働組合の専従経験者等)が各1名、対称的に配置されます。労使双方の実務感覚を審理に反映することで、法律論だけでなく実情を踏まえた柔軟な解決が図られる仕組みとなっています。

Q. 労働審判の費用はいくらかかりますか。

労働審判の申立て時に裁判所へ納める手数料(印紙代・郵便切手代)は、請求額に応じて決まります。手数料の計算方法は裁判所Webサイトに掲載されています。他方、会社側が弁護士に依頼する場合の弁護士費用は、事案の難易度・請求金額・関係者の多さ等により異なり、着手金と報酬金の組合せ、タイムチャージ制など、事務所によって料金体系が異なります。初回相談の段階で具体的な見積りを確認されることをおすすめします。

Q. 会社側の情報と労働者側の情報、どちらを見ればよいですか。

会社経営者として何をすべきかを学ぶのであれば、まずは会社側専門弁護士の情報源が中心になります。ただし、申立人側がどのような視点・戦略で臨んでくるかを把握するため、労働者側の情報源も補助的に参照する価値があります。労働者側の情報は「会社側としてはこの視点にどう反論するか」という視点で読むと、会社側の準備を厚くすることに繋がります。両方の立場の情報を、それぞれの性質を理解した上で使い分けるのが、バランスの取れた学び方です。

Q. 労働審判の書類が届いていない段階でも弁護士に相談できますか。

むしろ早期のご相談をおすすめしています。労働問題が顕在化した段階(内容証明の受領、団体交渉の申入れ、労基署からの勧告、退職勧奨中のトラブルなど)で弁護士が関与することで、労働審判を回避する交渉、あるいは仮に労働審判が申し立てられた場合に迅速に動ける体制の構築が可能です。将来の紛争予防、労務管理体制の見直し、就業規則の整備なども含め、予防法務の観点からもご相談いただけます。

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