問題社員356 職場での会話を無断録音する。
動画解説
この記事の要点
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無断録音の禁止には十分な合理性がある。しっかり禁止してよい 心理的安全性の確保、企業秘密・個人情報の保護のため |
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面談で明確に禁止を伝え、それでも従わなければ厳重注意・懲戒処分へ 曖昧に本人の気づきを待つのではなく、率直にスパッと伝える |
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禁止していても、民事裁判では録音が証拠として認められやすい 証拠として排除されるのは例外的なケースにとどまる |
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SNSでの音声流出リスクを踏まえ、経営者自身の発言にはとくに気をつける 録音禁止の違反を主張しても、内容が不当なら世論の裁きは受ける |
目次
1. 職場での会話を無断録音する社員という問題
スマートフォン一つで、誰でも簡単に録音ができる時代になりました。将来、自分に不利な流れになったときの反撃の手段として、録音記録を確保しておこうとする方が少なからずいます。とくに、上司や会社との人間関係が壊れた後に、いつの間にか録音されているというケースが多いのが現状です。本記事では、職場での会話を無断録音する社員への対処法を、会社側の視点から解説します。
2. 無断録音を禁止する合理性
いつ録音されているか分からないというのは、不安なものです。周りで働いている人が、もし録音されているかもしれないと思いながら仕事をしていたら、自由に議論もできなくなってしまいます。自分の会話をいつも録音している人の隣で仕事をしたい、と思う人はいないはずです。
心理的安全性、企業秘密、個人情報を守るため
安心して働ける職場を作るためにも、無断録音は禁止してください。合理性は十分にあります。企業がどのような仕事の仕方をしているのか、他者に知られたくない情報の漏洩を防止するためにも、録音は禁止しなければなりません。さらに、個人情報や、法律上の個人情報にあたらなくてもプライバシーに関わるもの、他の人に聞かれる前提で話していない内容を保護するためにも、無断録音の禁止は様々な意味でしっかりやっていくべき問題です。会社の同意なく録音するのは禁止する、ということをしっかり進めてください。就業規則に定めるのはよいことですし、就業規則に書いていないからといって禁止できないというものでもありません。
3. 発覚したら、直ちに行動する
職場での会話を無断録音する社員がいると分かったら、直ちに行動を起こしてください。ここで行動が遅れてしまうと、社長の求心力が下がってしまいます。周りで働く人たちを不安にさせるような行動をしている人がいるのに「だめですよ」と言えないのでは、「社長は自分たちを守ってくれないのだ」と見られかねません。しっかり禁止するようにしてください。
4. 面談で明確に伝え、従わなければ段階的に対応する
禁止しても本人が無断録音をやめない場合、どのように行動すればよいでしょうか。まずは面談です。面と向かって話すのです。こちらが逃げていないこと、無断録音をしっかりやめさせたいという強い決意を伝えてください。
曖昧に遠回しにせず、率直にスパッと伝える
曖昧に遠回しに、本人の頭で「やっぱり録音はよくないよね」と気づいてほしい、といった悠長なことを言っていてはいけません。職場で無断録音をするのは、よほどの状態でない限り普通はやらないことです。普段の仕事の状況や会議の内容まで録音するのは、絶対にやらせてはいけません。丁寧な言葉で構いませんので、率直に、淡々と禁止を伝え、そこは引かない態度をしっかり取ってください。それでも指示に従わなければ、厳重注意書の交付や懲戒処分といった対応を検討していくことになります。どの程度のさじ加減で、どのタイミングで対応するかはケースバイケースですので、弁護士に相談しながら進めるとよいでしょう。頻繁に、短時間のオンライン打ち合わせを重ねながら対応していくのがおすすめです。
5. 注意点①(民事裁判では証拠として認められやすい)
基本的には無断録音は禁止でよいのですが、いくつか注意点があります。まず一つ目は、無断録音は、裁判になった場合に証拠として認められるケースが多い、ということです。一般的に無断録音を禁止しておけば、裁判になったときに録音を証拠として使えないかというと、そうとも限りません。
民事裁判の証拠は、原則として自由。排除は例外的
刑事裁判と違い、民事裁判では、証拠として使うものは基本的に自由なのが原則です。あまりにも程度のひどいもの、重大な権利を侵害するようなものについてのみ、例外的に証拠として認められない、という順序になっています。原則として何でも証拠にできるが、あまりにもひどいものはだめ、という建て付けですから、証拠として排除されるのは非常に例外的です。基本的には証拠として使われやすいと考えていただいたほうがよいでしょう。労働者の立場が弱い方が、たとえば重いパワハラを受けていた場合、その証拠として最も有力なのが録音記録です。客観的な録音記録があると戦いやすいため、証拠から排除されることは簡単には認められません。
6. 証拠として排除されうる条件
どんなものなら証拠として使われにくくなるのか、考慮要素をお話しします。たとえば、会話の内容が企業の秘密に関わるようなもので、労働者に対する不当な言動ではないもの、そして明確に録音を禁止しているのにあえて禁止を破ったという事情があれば、証拠として排除される可能性が出てきます。
内容が重要。会社にとって不利な言動ほど排除は難しい
とくに重要なのが内容です。会社にとって非常に不利な内容、労働者の主張を裏付けるような言動が録音されているのに、証拠として排除できるかというと、よほどの事情がない限りなかなかできません。他方、会社にとって問題のない内容だが、企業の秘密情報が録音されており、単に嫌がらせのために録音しているだけではないか、というものであれば、比較的、証拠としては認められにくい方向に働きやすいといえます。明確に録音を禁止しているのに、あえてそれを破ったという悪質な事情があれば、なおさら証拠として認められにくい方向に働きます。とはいえ、こうした一定の条件が揃わない限り、民事裁判では証拠として認められることがかなりの割合に上ります。「言った・言わない」の水掛け論になるだろう、と楽観視せず、録音されていればそれが証拠として採用されてしまうリスクが非常に高いのだと考えていただく必要があります。
7. 注意点②(SNS流出リスクと経営者自身の言葉)
裁判以上に重大な問題かもしれないのが、こちらが不当な発言をしていた場合、それが大衆にさらされてしまうと、その損害の回復が難しいということです。今はインターネットやSNSで音声を流すことができる時代です。社長が非常に問題のある発言をした録音が流出してしまえば、もう戦えません。
録音禁止の違反を主張しても、内容が不当なら会社は救われない
たとえば、「残業代なんて払っていたら会社経営なんてやっていられない」といった発言を社員を集めた席でしてしまい、その録音が流出したとしましょう。実際には残業代を全額払っていても、雑談の中での発言なら程度は軽いかもしれませんが、実際に残業代不払いを起こしている状況で、素面の大勢の席でそんな発言をしてしまえば、無断録音されていたと分かったとしても、損害賠償請求で訴えるのは難しく、やれば余計に炎上する可能性が高いといえます。職場での無断録音を禁止すること自体は、周りで働く人たちのためにも一般的には正しいことです。しかし、実際には裁判で証拠として使われることも多く、何よりインターネットやSNSでばらされてしまえば、話の内容が悪ければ、録音禁止に違反したのだから大問題だと言ってみても、会社は救われません。
会社経営者というのは、局地的な正しい・間違っているという話だけでなく、会社を守り育てるために、そこで一生懸命働いてくれている社員たちを守るために、何が一番大事なのかをよく考えて手を打っていく必要があります。「録音するなと言っているのにするなんてひどい」ということにこだわるのではなく、この発言がインターネットでさらされたら会社はどうなってしまうのか、というところまでしっかり考えなければなりません。局地的にどちらが正しいかという部分だけでなく、会社にとってどちらがプラスになるのか、働いている他の社員たちにとってどういう状態にするのがよいのかまで、よく考えて対応していく必要があります。
8. まとめ
- 無断録音の禁止には十分な合理性がある。心理的安全性、企業秘密、個人情報保護のためしっかり禁止してよい
- 発覚したら直ちに行動する。放置は社長の求心力低下につながる
- 面談で明確に禁止を伝え、従わなければ厳重注意・懲戒処分へ段階的に対応する
- 禁止していても、民事裁判では録音が証拠として認められやすい。排除は例外的である
- 内容が会社にとって不利であるほど、証拠から排除されにくい
- SNSでの流出リスクを踏まえ、経営者自身の発言にはとくに気をつける
職場での無断録音の禁止は、周りで働く社員たちの安心のためにも、企業秘密の保護のためにも、しっかり進めるべきです。しかし同時に、禁止していれば証拠として使われないと安心するのは危険です。民事裁判では録音は証拠として認められやすく、内容が会社にとって不利であればなおさらです。何より、SNSでの流出リスクを踏まえれば、経営者自身が、一般の社員以上に言葉遣いに気をつける必要があります。禁止のルールを整えることと、経営者自身の言動を律することの両方が、会社を守るために欠かせません。こうした問題にお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 就業規則に定めがなくても、無断録音を禁止できますか。
A. できます。就業規則に定めるのはよいことですが、定めがないからといって禁止できないというものではありません。心理的安全性の確保、企業秘密の保護、個人情報・プライバシーの保護という観点から、十分な合理性がありますので、しっかり禁止してください。無断録音をしている社員が判明したら、直ちに行動を起こすことが、社長の求心力を保つうえでも重要です。
無断録音を禁止していれば、裁判で証拠として使われる心配はありませんか。
A. 安心はできません。民事裁判では、証拠として使えるものは原則として自由であり、重大な権利侵害を伴うような例外的な場合を除いて、証拠として排除されることはほとんどありません。禁止していたからといって、当然に証拠から排除されるわけではないのです。とくに、会社にとって不利な内容であるほど、証拠として排除されにくい傾向にあります。録音されている以上、証拠として使われるリスクがあると考えて対応することが大切です。
録音禁止に違反されて録音・拡散されたら、会社は守られますか。
A. 録音・拡散自体は問題行為ですが、拡散された内容が実際に不当なものであれば、「録音禁止に違反された」という主張だけでは会社は守られません。とくにインターネットやSNSでの流出は、内容次第で会社の評判に深刻な影響を与えます。経営者は、一般の社員以上に、日頃の発言に気をつける必要があります。録音を禁止するルール整備と、経営者自身の言動を律することの両方が重要です。
最終更新日:2026年7月19日