問題社員250 何でも「パワハラだ」と言う。
動画解説
この記事の要点
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パワハラと言われたからといってひるまない——必要な業務指示・注意指導は継続する 注意指導は本人の成長だけでなく、周囲の社員・パート・アルバイトを守るため、仕事を円滑に進めるためにも必要。会社を守る責任としてひるまず継続する |
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パワハラの判断は難しい——定義は抽象的で、同じ事案でも地裁と高裁で結論が分かれることがある 厚労省指針の定義は抽象的で、パンフレットの具体例も事実認定で争いになる。膨大な裁判例を読み込むことは社長には現実的でなく、微妙な事案は白黒つけきれない領域がある |
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白黒の二択ではなく「点数」で考える——赤点ギリギリではなく80〜90点の効果的な指導を目指す 「パワハラでない」だけで終わる45点は危険。効果の高い注意指導・業務指示は滅多にパワハラにならない。事実を伝え、どう改めるかを指示する方法で80〜90点を狙う |
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効果的な指導には練習が必要——仲間内のロールプレイや弁護士を相手にした練習が有効 本やセミナーで知識を得るだけでは上達しない。スポーツや楽器と同じで練習が必要。問題社員役を仲間や弁護士に演じてもらい、受け答えの練習を重ねると本番で効果を発揮する |
目次
1. 何でも「パワハラだ」と言う社員の実態——ひるんではいけない理由
会社経営者の皆様、こんにちは。弁護士法人四谷麹町法律事務所の代表弁護士、藤田進太郎です。
本日は、何でも「パワハラだ」と言う社員への対処法についてお話しします。
皆さんの会社に、何か注意したり気に食わないことがあると「それってパワハラですよ」と言い返してくる社員はいませんか。全体としてそう多いタイプではありませんが、確かにいるのです。人間関係が悪くなったり問題がこじれたりすると特に現れやすく、人によっては入社から間もない試用期間のうちから言い出すこともあります。
もちろん、こちらに問題があれば素直に認めて改める必要があります。しかし、そんなにおかしなことを言ったかな・やったかなと思えるような場面でも、パワハラだと騒がれるケースが存在します。
注意指導を怠ってはいけない理由
まず再確認です。パワハラと言われたからといって、ひるんでやるべき注意指導を怠ってはいけません。
注意指導を行う理由
- 本人の成長のため——行動を改めてもらうため
- 周囲の社員・パート・アルバイトを守るため——彼らが嫌な思いをしないように
- 仕事を円滑に進めるため——必要な業務指示は出さなければ仕事が回らない
注意指導や業務指示は、社長のプライドの問題ではなく、会社を守ること、一緒に働く周囲の人たちを守ること、根本的には仕事を円滑に行うことのためにあります。大した理由もないのに「パワハラだ」と言われてひるみ、何もできなくなってしまってはいけません。
2. パワハラかどうかの判断は難しい——定義の抽象性と判例の揺れ
ただ、パワハラかどうかの判断は、実は非常に難しいのが実情です。
日常用語としての「パワハラ」には定義がなく、非常に曖昧です。では厚労省の定義はどうかというと、パワハラ指針では「職場において行われる、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」(3要素すべてを満たすもの)と整理されています。
総論としては誰もが納得しそうな内容ですが、問題はこの抽象的な基準で個別事案を判断できるかどうかです。もちろん、いろいろな場面に当てはめる基準である以上、抽象的な定義にならざるを得ないのはやむを得ません。しかし、実際の事案でこの指針をそのまま適用して結論を出すのは、なかなか難しい作業になります。
パンフレットの具体例でも争いになりやすい
厚労省のパンフレットやリーフレットには具体例も記載されています。殴る・蹴るといった身体的な攻撃、暴言などの精神的な攻撃、必要がないのに長時間拘束する——こうした例を見れば「これはパワハラだろう」と誰もが納得する内容です。
しかし、実際の事案では、そもそもその事例に当てはまるかどうか自体が争いになるケースが多く見られます。「必要がないのにこういうことをやらせた」と書かれていても、必要があったかどうかで大体争いになります。具体例を読んだだけでは結論は出ず、事実を確定して評価していく作業が必要となります。
同じ事案で地裁と高裁の結論が分かれることも
さらに勉強熱心な方は、裁判例まで踏み込んで勉強されます。しかしここにも使い勝手の悪さがあります。
量が膨大で全部読むのは大変ですし、同じ事案でも地裁と高裁で判断が異なることがあります。裁判官でも結論を違える判決があるのに、一般の方に判断できるかと言えば難しい。明らかにパワハラかパワハラでないかが分かる事例はいいですが、微妙な事案は「参考にはすべきだが、どちらが正しい結論とは言えない」というものが出てきます。
これをかみ砕いて実務に活かす作業は、それを専門にしている弁護士の仕事です。社長が本業と並行してやるには現実的ではありません。微妙な事案は「結論を出しきれないものだ」と割り切ってください。
3. 白黒ではなく「点数」で考える——赤点ギリギリ発想の危険性
そこで私がお勧めするのは、「パワハラか否か」の白黒ではなく、「点数」で考える発想です。
実際には白から真っ黒までグラデーションがあります。パワハラかパワハラでないかの二者択一ではなく、「この注意指導の仕方は20点かな、40点かな、75点かな、95点かな」と点数で考えてください。
赤点ギリギリクリアは危険
パワハラだと言われるのは、言ってみれば赤点を取るようなものです。仮に赤点が40点以下だとして、45点を取って「赤点じゃありませんよ、単位はもらえますよ」と言われて嬉しいでしょうか。
45点はまずいわけです。できれば80点は取りたい。学年で上位10%以内なら優秀ですが、ギリギリ赤点クリアを目指している人ほど、実は赤点を取りやすいのです。もともと80点・90点を狙っている人は、ほとんど赤点を取りません。ギリギリでクリアしようとする人は、ちょっとした勘違いだけで一気に赤点になってしまいます。
「パワハラかどうか」という発想で考えると、「パワハラじゃないと言ってもらえるか」に問題がフォーカスしてしまいます。そうすると「50点でもいいんじゃないか」という話になりがちです。しかし、もっと上手なやり方を考えれば、80点・90点を狙えるのにそこで止まってしまう——これがもったいないのです。
4. 効果的な注意指導は滅多にパワハラにならない——事実を伝える指導
誤解してほしくないのですが、「高得点を狙う」とは「弱腰になる」ことではありません。しっかり言うべきことはきっちり言って、行動を改めさせる効果がある指導をしている、それでいてパワハラでない——これが高得点の指導です。
どんなに無難でも、注意指導の効果がないものは話になりません。相手から馬鹿にされ、「社長は何も言えない人だ」と思われたら、言うことを聞いてもらえなくなります。
効果の高い注意指導はパワハラ判断の主要要素をクリアする
効果の高い注意指導や業務指示の伝え方は、滅多にパワハラになりません。
日本語の使い方が上手で、相手が「なるほど」と思うような言い方・やり方で注意指導や業務指示を出していれば、それは仕事上必要なことだという評価になります。パワハラ判断の主要な考慮要素である「業務上必要かつ相当な範囲」を自然とクリアするのです。
パワハラかどうかの考慮要素はいろいろありますが、結局のところ「仕事上必要な指示か」と「やりすぎじゃないか」の2つに集約されます。効果的な注意指導・業務指示であれば必要性は満たしますし、やりすぎの部分もよほど変なことをしない限りクリアできます。
失敗するのは「評価を伝える指導」
パワハラだと評価されやすいのは、事実ではなく評価を伝えてしまう指導です。「あなたダメだ」「出来が悪い」「みんなに嫌われてる」——こうした評価的な言葉を投げてしまうと、教育効果も低く、パワハラだと評価されるリスクも高まります。
そうではなく、事実をしっかり伝えて「どう改めればいいか」を指示する——このやり方なら、教育効果が高く、パワハラになることは極めて少なくなります。事実を伝える指導でパワハラになるのは、よほど変な言い方・やり方をしない限りありません。
5. 効果的な指導には練習が必要——ロールプレイと弁護士との実戦トレーニング
「効果的な指導を目指せと言われても、どうすればできるようになるのか分からない」——こう感じる社長もいらっしゃるでしょう。
それは当然の反応です。本を読んだりセミナーを聞いたりするだけでは、実際にはできるようになりません。ゴルフやピアノと同じで、練習しなければ上達しないのです。
練習すれば誰でもある程度できるようになる
スポーツや楽器の練習を振り返ってください。練習したらエース級の選手にはならなくても、それなりに上手になりましたよね。学年で一番にはならなくても、ピアノがそこそこ弾けるようになったり、リコーダーを吹けるようになったりしたはずです。
才能の差は「早く成長するか」「トップスターになれるか」というレベルの話であって、「そこそこしっかりできるようになる」だけなら、練習すれば大体誰でもできます。問題社員対応の受け答えも同じです。
仲間内のロールプレイ
練習の基本は、仲間内でのロールプレイです。
誰かが問題社員役を演じ、別の人が注意指導・業務指示を出す受け答えの練習をします。問題社員役は、わざと意地悪な反応を返します。「それってパワハラですよ」「相手がパワハラだと思ったらパワハラなんでしょ」など、実際に想定される言い返しを再現して練習してください。もう1人いればフィードバック役として、客観的な視点からコメントしてもらうと効果が上がります。
弁護士を問題社員役に見立てた練習
ピアノの練習で自分だけでなく先生に習ったほうが上達が早いように、問題社員対応も弁護士を問題社員役に見立てて練習する手があります。
私も実際にこの練習付き合いをしています。問題社員対応を専門にしている弁護士は、意地悪な受け答えが非常に上手です。もしかしたら本物の問題社員よりも手強い受け答えをするかもしれません。「5分でも10分でもいいから事前に練習してから本番に臨んでください」——これを実践していただくと、本番で想定外の反応に動揺することなく、冷静に対応できるようになります。
実際にこの練習を経た後の方からは、「先生との練習のほうが意地悪でした」「本番は問題ありませんでした」という声をいただくことが多くあります。
6. まとめ
何でも「パワハラだ」と言う社員への対処法を整理します。
- パワハラと言われてもひるまない。周囲の社員を守り、仕事を円滑に進めるために必要な指導は継続する
- パワハラの判断は抽象的で難しい。微妙な事案は地裁・高裁でも結論が分かれうる領域がある
- 白黒ではなく点数で考える。赤点ギリギリではなく80〜90点の効果的な指導を目指す
- 事実を伝えどう改めるかを指示する指導は、滅多にパワハラにならない
- 効果的な指導は練習で身につく。仲間内のロールプレイや弁護士を相手にしたトレーニングを活用する
パワハラだと言われただけで業務指示や注意指導ができなくなってしまえば、周囲で働く社員・パート・アルバイトの方々を守れなくなります。正しい認識と実践的なトレーニングで、しっかり対処できる経営者・管理職になってください。判断に迷う場面では、ぜひ弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 何でも「パワハラだ」と言い返す社員に対して、最初に取るべき姿勢は何ですか。
A. ひるまないことです。注意指導は本人の成長のためだけでなく、周囲の社員・パート・アルバイトを守るため、仕事を円滑に進めるためにも必要です。もちろん、こちらに問題があれば素直に改めますが、大した理由もないのにパワハラと言われた場合は、正当な注意指導を継続してください。
Q2. 厚生労働省のパワハラ指針だけ読めば、パワハラかどうかを判断できますか。
A. 指針は判断の軸として役立ちますが、抽象的な基準であるため、個別事案への当てはめはそれだけでは難しいのが実情です。具体例が載っているパンフレットでも、事実認定の段階で争いになることが多く、「必要があったかなかったか」という評価で見解が分かれます。微妙な事案では、問題社員対応を専門とする弁護士に相談しながら判断することをお勧めします。
Q3. 「パワハラでない」ラインをギリギリ狙う発想はなぜ危険なのですか。
A. 事実認定が少し変わるだけで赤点に落ちてしまう可能性があるからです。45点の指導を「セーフ」と思っていても、事情が少し違うだけで38点と評価されれば、一気にパワハラになりかねません。効果的で適切な指導を目指して80〜90点を取りにいく発想のほうが、結果としてパワハラリスクも大幅に下がり、教育効果も高まります。
Q4. 効果的な注意指導とは具体的にどのようなものですか。
A. 評価を伝えるのではなく事実を伝え、どう改めてほしいかをセットで指示する指導です。「ダメだ」「出来が悪い」「嫌われてる」といった評価的な言葉ではなく、「何月何日の何時頃、こういう行動があった。これこれの理由で不適切なので、今後はこう改めてほしい」と具体的に伝える——この形が教育効果が高く、パワハラと評価されにくい指導です。
Q5. 本やセミナーで勉強しても、実際にはうまく注意指導できません。どうすればよいですか。
A. 知識を得ることと、実際にできることは別です。スポーツや楽器と同じで、練習しなければ上達しません。仲間内で問題社員役を演じてもらうロールプレイや、弁護士を問題社員役に見立てた練習が有効です。5〜10分の短い練習でも、本番の落ち着き方が大きく変わります。問題社員対応を専門とする弁護士にコーチ役を依頼することも検討してください。
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最終更新日:2026年4月17日