問題社員197 能力が極端に低いことを立証する方法

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この記事の要点

「能力が低い」「仕事ができない」は評価であり事実ではない。立証に必要なのは具体的な事実(いつ・どこで・何を・どのようにしたか)

社長がそう思う・みんながそう言っているという評価だけでは、裁判でも退職勧奨でも説得力を持てない

証人・証言だけでは証拠価値が低い。当時作成された業務記録・日報・フィードバックの記録が最も有効な証拠になる

「会社側の人間が有利に証言する」と受け取られやすいため、当時の客観的な記録こそが決め手になる

具体的な事実を踏まえた教育指導は、立証のためだけでなく教育効果そのものも高い

「具体的に伝える→やって見せる→フィードバックする」というサイクルが、能力不足の社員への教育で最も効果的

試用期間中は特に手間をかけて記録を残すことが重要。日報への本人記載+上司コメントが最も実践しやすい方法

試用期間中は本採用拒否のハードルもやや低く、そのための記録確保と教育指導を同時に行える最適な時期

相手をよく見ることが、立証の土台であり、誠実なマネジメントの基本でもある

よく見てくれている人に言われることは納得感が生まれやすい。事実に基づく評価は、本人の成長にも、やめてもらう話にも、どちらにも活きる

1. 「能力が低い」は評価であり事実ではない——なぜ立証が難しいのか

能力不足が問題になっている社員について、弁護士に相談する経営者の多くが苦労するのが「証明」の部分です。「どんな出来事があったのか、いつのことなのかを準備している方が少ない」というのが、藤田弁護士が実際の相談で感じていることです。

その根本的な原因は、「能力が低い」「仕事ができない」を事実だと思っているケースが多いことにあります。しかしこれは評価です。事実ではありません。

⚠ 評価と事実の違い

「出来が悪い」「仕事ができない」→ これは評価
「何月何日の何時頃、〇〇さんが△△の指示を受けたにもかかわらず□□をしなかった」→ これが事実

評価だけを本人に伝えても、「嫌いだから言っている」「パワハラだ」「同じくらいのミスをしている他の人には言わないのに自分ばかり」と受け取られやすくなります。また、周囲の社員がみんなそう思っているという情報も、相手の立場からすれば「みんながおかしなことを言っている」と感じるだけです。

裁判官が見るのも事実です。「能力が低い」という評価の裏に、どのような具体的な出来事があるのかを確認します。事実に基づいてその評価が正当かどうかを判断するのです。

2. 立証に必要なのは「具体的な事実」——評価から事実へ

能力不足を立証するために必要なのは、いつ・どこで・誰が・どのように何をしたか(しなかったか)という具体的なエピソード・事実の積み上げです。

▶ 立証に使える事実の例

・何月何日の何時頃、どのような指示をどのように出したか
・その指示に対して、何をした(しなかった)か
・その結果、どのような問題が生じたか
・どのように指導したか(説明した・やって見せた)
・その後改善が見られたか・見られなかったか
・何回繰り返しても同じミスをしたか

こうした具体的な事実を積み上げることで、「能力が低い」という評価が裏付けられます。逆に言えば、事実の積み上げなしに評価だけを主張しても、退職勧奨の交渉でも裁判でも相手を説得することはできません。

また、証人(周囲の社員の証言)については、「会社側の人間が有利なことを言っている」と受け取られやすく、証拠価値が必ずしも高くありません。何より重要なのは、当時リアルタイムで作成された客観的な記録です。

3. 具体的な事実を積み上げると教育指導の効果も上がる

「裁判のための証拠集め」と聞くと、なんとなく後ろ向きな作業に感じるかもしれません。しかし実は、具体的な事実を踏まえた指導は教育効果そのものを高めるという重要な側面があります。

能力が低い社員に対して抽象的な指示を出しても、伝わりません。「報連相をしっかり」「もっと工夫して」という抽象的な言葉を理解して行動できるなら、そもそも能力不足にはなっていないのです。

▶ 能力不足の社員に効果的な指導の流れ

① 具体的に説明する(「こういった連絡が来たら、〇〇さんに、この手順でこうする」)
② 実際にやって見せる(言葉だけでは伝わらない場合に特に有効)
③ やらせてみて、フィードバックする(何がどう問題だったか具体的に伝える)
④ 記録に残す(いつ・何を・どう指導して・どうなったかを書いておく)

この流れを実践すると、自然に「いつ・何を・どう指導して・どうなったか」という事実の記録が生まれます。教育指導として誠実に取り組むことが、そのまま立証のための証拠作りにもなるのです。

具体的に指導したのに改善が見られなかった——その事実の積み重ねが、最終的に「十分な教育をしたにもかかわらず能力が足りなかった」という主張を支えます。

4. 証拠として有効な記録の作り方——日報+上司コメントが基本

(1) 試用期間中に集中して記録を残す

ずっと詳細な記録を続けることは現実的には大変です。そこで藤田弁護士がお勧めしているのは、少なくとも試用期間中(3ヶ月または6ヶ月)だけは手間をかけて記録を残すという方法です。

試用期間中は本採用拒否のハードルがやや低く、この時期に記録が揃っていれば最も活用できます。また採用後すぐという時期は、「お互いを確認している段階」という認識があるため、退職勧奨でも納得感を得やすい時期です。

具体的には、毎日1枚(簡単なメモ程度でも可)の日報を本人に記載させ、直属の上司や先輩がコメントを加える形がお勧めです。

(2) 記録に書くべき内容と注意点

▶ 効果的な日報・記録の内容

・本人の業務遂行状況(何をしたか・しなかったか、具体的な出来事)
・本人自身の感想・振り返り(本人記載欄)
・上司・先輩のコメント(良かった点・改善すべき点を具体的に)
・教育指導の内容(いつ・どのように・何を指導したか)

⚠ 記録でやってはいけないこと

できていないのに褒める・できていることのように書く——これは後でトラブルになります。改善すべき点があれば率直に、礼儀正しく記録に残してください。「褒めておけば無難」という考え方が、後の対応を難しくする最大の原因です。

上司コメントは抽象的な評価だけでなく、「何の出来事があったから、どう評価したか」を具体的に書くことが重要です。「よく頑張っています」だけでは証拠にならず、「〇〇の作業を指示したが、手順の△△部分ができていなかった。翌日もう一度説明したところ、改善された」という記述が証拠としての価値を持ちます。

5. 相手をよく見ることが立証とマネジメントの両方を支える

具体的な事実を記録するためには、当然ながら相手のことをよく観察していなければなりません。これは単に立証のためだけでなく、誠実なマネジメントの基本でもあります。

よく見てくれている人に言われることは、相手に納得感が生まれやすいものです。見てもいない人から「あなたは能力が低い」と言われても、「直感で言っているだけだ」と受け取られます。逆に、普段から自分の言動をしっかり見てくれていると感じている相手から評価を受ければ、たとえ厳しい評価でも受け取りやすくなります。

能力不足の社員がいる場合、よく見てあげること、具体的な事実を踏まえてフィードバックすること——この2つを誠実に続けることで、相手が成長することもありますし、最終的にやめてもらう話になった場合でも「この人は自分のことをしっかり見た上で言っている」という納得感につながります。

6. まとめ

能力が極端に低いことを立証するために必要な考え方と実践を整理します。

① 評価ではなく事実を積み上げる

「能力が低い」という評価ではなく、「いつ・どこで・何をした(しなかった)か」という具体的な事実を積み上げることが立証の基本です。証人証言より当時の客観的記録が有効です。

② 具体的な指導が教育効果と記録の両方を生む

「具体的に説明する→やって見せる→フィードバックする→記録に残す」このサイクルが、教育効果を高めると同時に証拠の積み上げにもなります。

③ 試用期間中に集中して日報+コメントで記録する

試用期間中(3〜6ヶ月)は特に手間をかけて記録を残す価値があります。本人記載+上司コメントの日報が最も実践しやすい方法です。コメントは具体的な出来事ベースで率直に書いてください。

よくある質問(FAQ)

Q 「みんながダメだと言っている」という証言を集めれば十分ではないですか?
A

残念ながら、証人証言だけでは証拠価値が高くありません。会社側の人間が会社に有利な証言をする可能性があると見られるからです。また、裁判後に作成された陳述書より、当時リアルタイムで作成された記録の方がはるかに証拠価値が高いです。「みんながそう言っている」という評価ではなく、具体的な出来事・事実の記録が必要です。

Q 本採用後の社員について、今から記録を集めることはできますか?
A

今からでも記録を始めることはできます。ただし「裁判になってから急に証拠を集め始めた」という見方をされる可能性があるため、当時の記録ほど証拠価値は高くなりません。今から始めるにしても、具体的な事実ベースで丁寧に記録することが重要です。今後の指導記録を積み上げることで、「合理的な教育をしたが改善しなかった」という事実を作っていくことができます。

Q 日報を毎日書かせるのは現実的に大変です。何か簡略化できますか?
A

1枚の簡単なメモ程度でも構いません。少なくとも試用期間中だけでも集中して取り組むことをお勧めします。全期間を通じて続けることが難しければ、特に問題が起きた日・指導を行った日を中心に記録を残すという方法も現実的です。重要なのは量より質——具体的な出来事ベースで書くことです。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14