問題社員322 入社時に同意した労働条件なのに求人詐欺と抗議する。

動画解説

この記事の要点

求人条件と違う(より低い)条件での採用は、原則として避ける

本人が「パートでもいいから」と言っても安易に応じない。原則は一旦不採用にし、新たな募集に応募してもらう

どうしても採用するなら、書面で立証できる形にする

口頭の「いいですよ」では足りない。労働契約書や労働条件通知書で、求人と違う部分をはっきりさせる

提示のタイミングが最も重要。入社日より前に、余裕をもって

初出勤日や前日ギリギリの提示は、本人が自由に選べず「騙された」となりやすい。他社と選べる状態で示す

「よかれと思って」のときこそ、会社はガードを固める

いいことをしていると思うと詰めが甘くなる。隙だらけの採用は、思わぬ大きな損害を招く

1. 「求人詐欺」と抗議されるという問題

人を採用するとき、求人広告を出し、応募してきた人の中から採用することが多いものです。できるだけ応募してもらいたいので、いかに魅力的な会社かをアピールします。しかし、その求人の情報・条件が、実際の労働条件と異なるのは、やはりまずいのです。本記事では、入社時に同意した労働条件であるにもかかわらず「求人詐欺だ」と抗議してくる社員への対処法について解説します。

2. 求人条件と違う採用は、原則として避ける

はじめから、求人で出している労働条件と異なる、より低い労働条件で採用する予定で求人を出してしまうと、職業安定法違反の問題が生じます。そこまでではないとしても、誤解を招くような記載は直していかなければなりません。

それとは別に、この条件で採用しようと思って求人を出し、応募してきた人と面接をする中で、こんな場面があります。この人は採用は難しいかな、と思っていたら、本人から「正社員募集だけれども、パート・アルバイトでもいいから、ぜひ働かせてほしい」と言われる。ここで注意が必要です

安易に低い条件で採用すると「求人詐欺」と非難される

うっかり軽い気持ちで、求人に出している条件よりも低い条件で採用してしまうと、後に「求人詐欺だ」という非難を浴びることにつながります。これは個別の紛争にとどまりません。騙されたとSNSで書かれて拡散されれば、その後の求人がとてもやりにくくなります。ですので、求人と違う条件でもいいから雇ってほしいという人が出てきても、簡単に応じてはいけません。原則としては、一旦不採用にした上で、有期やパートでよいというのであれば、あらためてその条件での募集を出し、その募集に応募してもらう形で採用を検討するのが、最も問題が起きにくいやり方です。

3. どうしても採用するなら、書面で立証できる形に

そんな周りくどいやり方はやっていられない、本人がパートでもいいと言っているのに、という声もあるでしょう。リスクを管理した上で雇う方法がないわけではありませんが、一定のリスクが残ることを覚悟の上で、丁寧に対応することになります。

大事なのは、しっかり丁寧に説明し、書面など後に残る形で、説明した内容を立証できるようにしておくことです。実際に求人の内容と違う採用になるわけですから、元々リスキーで、あまりやりたくないことです。どうしても必要な場合であっても、本人が納得したと言っても、口頭で話しただけ、「いいですよ」と聞こえたというだけでは足りません。しっかり書面の形で残しておかなければなりません。できるだけ早い段階でこちらから条件を示し、それでよいというサインを取っておくことが大切です。労働契約書(雇用契約書)を取り交わす、労働条件通知書を渡すなどして、とくに求人と違う部分をはっきりさせることが重要です。

4. 提示のタイミングが最も重要

変更後の労働条件をはっきりさせるタイミングも、非常に重要です。想像してみてください。入社が決まって初出勤に出てきたら、その段階で「あなたの条件はこうです」と労働条件通知書を渡される。本当に納得しているならよいのですが、そうでないと、「あれ、なんだこれは、騙されたのではないか」と思うことがあります。面接では話を合わせていた人でも、実際に条件を見せられると途端に嫌な気分になり、気が変わることはよくあります。その場ではサインしても、後で紛争になる確率が非常に高いのです。

入社日より前に、しかし前日ギリギリでもなく

最低限、入社日(労働契約のスタート日)より前のタイミングで労働条件通知書を渡す必要があります。入社後に働き始めてから渡したのでは、労働条件の変更だと言われかねません。求人の情報だけが客観的に存在し、そのまま働き始めたとなると、原則として求人の内容で採用された、と見られやすいからです。もっとも、前日などギリギリに見せられても、本人は検討できません。翌日が初出勤で採用が事実上決まっていれば、他社への応募はキャンセルしてしまっているでしょうから、やはり「騙された」となります。時間的に余裕をもって、他社で働くのか当社で働くのかを本人が自由に選べる状態で提示することが大切です。

5. 寮入居後の後出しは特に危険

とくに注意が必要なのが、会社の寮に入ってもらうような場合です。寮に入るのが決まって入居してもらった後で、変更後の労働条件を示したとしましょう。すると、「話が違う、求人と情報が違う、求人詐欺だ」と言われる可能性が高くなります。本人からすれば、寮に入ってしまっているので引っ越しは大変ですし、その段階では他社を諦めて就職活動をやめているでしょうから、納得がいかなくてもサインせざるを得ないという状況になってしまうからです。

引っ越しや寮入居の前の、できるだけ余裕のある段階で、本人が自由にどうするかを選べる客観的状況の中で、本人が納得している変更後の労働条件があるのであれば、しっかり示すようにすることが大切です。そうすることで、いらないトラブルを防ぐことができます。

6. 丁寧な対応は、会社の利益のためでもある

このような丁寧なやり方は、会社の利益のためにも非常に大事です。騙されたと思って入ってきた人は、仕事にやる気が起きません。ひどい会社だと思えば、すぐに次の転職活動を始めますし、長くいたいとは思いません。人手不足のときであればなおさら、こんな会社にいられるかと思いながら働くので、よい仕事をしてくれるはずがありません。インターネットやSNSで会社の悪口を書かれることも出てきます。そうすると、求人がますます難しくなってしまいます。

不採用は想定内。条件変更しての採用は、不満を生みやすい

不採用は、ある意味しかたのないことです。はじめから想定されている選択肢の一つですから、応募者も覚悟しています。ところが、条件を変更しての採用は、会社として本当に難しい対応になり、不満を持たれやすいやり方です。正社員募集だが正社員としては力が足りないから、有期やパートならよいかな、と本人もその気になっているように見えても、むしろ会社の側がガードを固めなければなりません。よかれと思って、本人も望んでいるから、という気持ちで隙だらけの採用をしてしまうと、思いのほか大きな損害を会社が被ることになりかねません。

経営者が失敗するのは、いいことをしている、本人のためにもなると思って、よかれと思ってやっているときが多いものです。いいことをしていると思うと、ガードが甘くなり、やるべきことをきっちりやらなくなるのです。こちらも配慮してあげているのだから、あなたも細かいことは言わないよね、という気分になりやすい。これが失敗のもとです。相手が求人情報と違う条件での採用を望んでいたとしても、会社はリスクの高い危険なことを提案されているのだ、という意識で、しっかりガードを固めて対処していきましょう。

7. まとめ

  1. 求人条件と違う(より低い)条件での採用は、原則として避ける。職安法の問題もあり、原則は一旦不採用にする
  2. どうしても採用するなら、リスクを覚悟の上で書面で立証できる形にする。求人と違う部分をはっきりさせる
  3. 提示のタイミングが最も重要。入社日より前に、余裕をもって示す。前日ギリギリや初出勤日の提示は危険
  4. 寮入居後の後出しは特に危険。本人が自由に選べる段階で示す
  5. 丁寧な対応は会社の利益のためでもある。不満を持たれるとやる気低下・SNS・求人難につながる
  6. 「よかれと思って」のときこそガードを固める。隙だらけの採用は大きな損害を招く

求人の情報と違った採用をするのは、非常にリスキーです。原則としては避け、不採用にした方が親切ですし、会社を守ることにもなります。どうしてもそうしたやり方をするのであれば、余裕のある段階で書面などしっかりした形に残るものを提示し、はっきり示すとともに、できるだけ同意を取り、説明することが大切です。採用の場面でのトラブルを防ぎたい経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。

弁護士 藤田 進太郎

監修者弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 本人が「パートでもいいから雇ってほしい」と言っています。低い条件で採用してよいですか。

A. 安易に応じるのは避けてください。求人と違う低い条件での採用は、後から求人詐欺だと非難されやすく、SNSでの拡散など会社にとってのリスクが大きいためです。最も問題が起きにくいのは、一旦不採用にした上で、パートや有期など実際の条件で新たに募集を出し、それに応募してもらう形で採用を検討する方法です。どうしても採用するのであれば、一定のリスクが残ることを覚悟の上で、条件を書面で明示し、本人が自由に選べる段階で同意を取るなど、丁寧に対応する必要があります。

Q2. 労働条件通知書は、いつ渡せばよいですか。

A. とくに求人と条件を変える場合は、最低限、入社日(労働契約のスタート日)より前に渡す必要があります。入社後に働き始めてから渡すと、求人の内容で採用されたと見られ、通知書の交付が新たな条件変更の提案だと解釈されて、当初のプランと違う結果になりかねません。ただし、前日ギリギリの提示も、本人が検討できず不満を招きます。他社と比較して自由に選べるだけの時間的余裕をもって示すのが望ましいといえます。寮への入居や引っ越しの前に示すことも大切です。

Q3. 面接で本人が「その条件でいい」と口頭で了承しました。それで足りますか。

A. 口頭の了承だけでは足りません。後に「そんなことは言っていない」「求人詐欺だ」と争われたとき、口頭のやり取りを立証するのは困難だからです。労働契約書や労働条件通知書といった書面で、とくに求人と違う部分を分かりやすく示し、本人の同意を書面で残しておくことが重要です。求人票の記載は、特段の合意がない限り労働契約の内容と扱われやすいため、条件を変える場合は、その変更を客観的な形で明確にしておくことが会社を守ります。

最終更新日:2026年7月18日


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