問題社員359 最小限の業務しか行わず周囲の反感を買っている。
動画解説
この記事の要点
|
✓
|
本人が主体的に動いてくれるのを待つのではなく、会社側が主体的に動く どんな仕事をどうやってもらうかを決める権限も責任も、会社にある |
|
✓
|
明確に「これをやりなさい」と指示し、従わなければ業務命令違反として対応する 「はい」と返事だけして実行しないケースは、能力不足の対応に準じる |
|
✓
|
マイクロマネジメントが大変なら、適性のある仕事に配置する 向いた仕事なら、本人も気持ちよく働け、才能を発揮しやすい |
|
✓
|
管理職の適性は特殊技能。向かない人に管理を強いていないか確認する 逆に、管理に向いた人を役職定年で外し、やる気をそいでいないかも要チェック |
目次
1. 最小限の業務しか行わず反感を買う社員という悩み
自分から仕事を探そうとしない、周りの人が困っていても手伝わない。担当業務が完全に分業されていれば別ですが、そうでない会社では、最小限の業務しか行わない方は、どうしても周囲の反感を買ってしまいがちです。反感を買うだけでなく、仕事全体がうまく回らなくなることも多くあります。「静かなる退職」という言葉も最近よく耳にするようになりました。本記事では、最小限の業務しか行わず周囲の反感を買っている社員への対処法を、会社側の視点から解説します。
2. まず会社側が主体的に動く
放置していても、最小限の業務しか行わない方が、もっと広く業務を行うようにはなりません。できない場合もあれば、そもそもやる気がない場合もあります。それを対応せず「なんとかならないかな」「いい方向に行くといいな」と他力本願でいても、なかなか改善しません。程度がひどい場合には、しっかり自分から動いて対応しましょう。
何をやらせるか決める権限は、会社にある
理論的にも、働いてもらっている方に何をしてもらうのかを決める権限は会社にあります。社長がその権限を持ち、社長からその権限を委任された管理職が、労働契約で定められた業務の範囲内で持っています。職種限定のなされていない日本型の雇用では、大抵の仕事は会社の命令でやらせることができますから、社長はその権限を持っている以上、何をやらせるかを決める責任も社長にあります。社長、あるいは管理職が主体的に動いて、どのような仕事をどのようにさせるかをしっかり対応しなければなりません。自分の頭で考えて動いてほしいと思うのは自然なことですが、最小限の業務しか行わない方は、やる能力がないか、やる気がないかのどちらかです。「本当はやる気があるが、やろうとしてもできない」という方が、思いの外多いのです。「どうせ頑張っても報われないから、最小限の仕事だけやって最小限の給料をもらおう」と決断している方もいます。放置しても状況は改善しませんから、会社側が主体的に動いて対応していく必要があります。
3. 明確に指示し、従わなければ業務命令違反として対応する
具体的な対応としては、明確に指示することが大事です。いちいち細かく指示していたら自分の頭で考えなくなってしまう、という考え方もありますが、最小限の仕事以外やる能力がない方、あるいは最小限の仕事だけやろうと決断した方には、それは期待できません。放っておいてもやるわけがないのですから、どんな仕事をやってもらうのか、しっかり指示を出して「これをやりなさい」と言ってやらせてください。少なくとも、やらせる仕事の中身自体は明確に指示する必要があります。場合によっては、やり方まで一つひとつ指示しなければならないこともあります。手間はかかりますが、最低限の仕事以外やる能力がない、あるいはやらないと決意した方であれば、そこまで指示しなければ動いてもらえません。
従わなければ、厳重注意・懲戒処分へ
「これをやりなさい」と言っても従わない方については、業務命令違反です。厳重注意や懲戒処分を検討することになります。業務命令の内容をしっかり紙やメールで伝えるケースもありますし、最初は口頭で伝え、指示に従わなかった際に厳重注意書で「何月何日の何時ごろ、こういった仕事をやるように指示しましたが、あなたはこう従いませんでした。これはあなたのやるべき仕事ですので、指示に従って仕事をしてください」と具体的な事実を記載して渡すのもよい方法です。それでも改善しなければ、けん責などの懲戒処分を、悪質さの程度に応じて行うべきです。この段階では対立関係になりますので、さじ加減は弁護士に相談しながら進めることをおすすめします。厳重注意書や処分の記載内容も、抽象的な記載にとどめず、具体的な事実を書いたほうが、教育効果も、後に裁判になった場合の証拠としての価値も高くなります。
4. 「はい」と言うだけで実行しない場合
従わないケースより難易度が高いのが、「はい、分かりました」と何でも従ってくれる返事はするのに、実際にはできない、やらない、というケースです。日本の会社の労働契約は、社長に逆らうと重い処分ができたり、最終的には解雇できたりすることが結構ありますが、日本型雇用では、言うことは素直に聞くのに実際はやっていない、それらしいことはやっているがクオリティが極めて低い、というケースは、重い処分がやりにくくなります。「管理職になりたくない、今のように最小限の業務をこなして最低限の給料をもらい、自分の時間を大事にできればいい」と考えている方もいます。
この場合は、能力不足なのか、本当はやる気がないだけなのか、事実の確認が重要になり、ケースバイケースの対応が必要です。多くのケースは能力不足であることが多いため、能力不足の方への通常の対応(教育指導、あまりにひどければ退職勧奨など)を行うことになります。本人が辞めてくれないのに解雇できるケースはそれほど多くなく、多くは試用期間中の本採用拒否のほうが現実的です。試用期間経過後だと、こういった方への対応は非常に難しくなります。本当はできるのにやっていないことがはっきりしているなら、従わないケースと同様に注意指導から懲戒処分に持っていくことができます。
5. 適性のある仕事に配置する
社長や管理職がいちいち細かく見て指示していくのは大変です。一時的なら我慢できても、いつまでも改善しない場合、他の方法として考えるべきなのが、適性のある仕事に配置することです。むしろ最初に考えてもよいくらいです。
定型業務への配置と、賃金制度の整合性
最小限の業務しか行わない方ですから、あまり難しいことができず、やる気もないかもしれません。定型の業務だけをやる担当として配置するのは一つの方法です。ただし、正社員として一定以上の給料を払っている場合、パートやアルバイトと同じような仕事をさせるのでは、給料が高すぎるという問題が生じかねません。担当業務によって給料が変わる制度をあらかじめ整えておければよいのですが、日本の会社は人に値段をつけるような賃金制度になっていることが多く、なかなか難しい面があります。もし移す場合は、あらかじめルールとして「こういった職務であればこういった給与水準になる」ということを明確に定めておき、その職務への異動が濫用にならないことを説明できるようにしておく必要があります。賃金制度自体を大きくいじらない場合でも、賞与の評価や昇給幅などで適正に評価し、考慮していくことが最低限求められます。
6. 管理職の適性は特殊技能である
もう一つよく考えていただきたいのが、そもそも向いていない仕事をやらせていないか、ということです。
プレイヤーとして優秀でも、管理は苦手という人は多い
たとえば、命令で管理職になってもらったが、実作業はプレイヤーとして得意でも、人の管理は苦手、という方はたくさんいます。人の管理は特殊技能であり、営業や実務作業とはまったく違うスキルが要求されます。職種が違うと言ってもよいくらいです。日本では、昇格を重ねると自然に管理職になるというイメージがありますが、本来、管理の仕事はそれ自体別枠の職種であってもよいくらいのものです。当然、管理の仕事に向いていない人もいます。エース級のプレイヤーに管理職を主にやらせてしまうと、本人にとって苦痛でしかないはずです。管理に向いていないのであれば、プレイヤーとして働いていただき、できればプレイヤーであっても、パフォーマンスがよい方には管理職と同等かそれ以上の給料がもらえる賃金制度を用意しておくとよいでしょう。「できのよい方だから管理職に」という発想だけで配置していると、管理の仕事が全然できず、本人もくすぶって、最小限の仕事だけやって終わり、ということになりかねません。
逆のパターンもあります。管理職としてそれなりに向いていたのに、役職定年などで管理職から外されると、干されたような気分になり、最小限の仕事しかしなくなる方もいます。50代くらいまでいくと、実作業よりも人の管理のほうが上手にできる人も結構いるものです。そういった方であれば、管理の仕事を続けさせたほうが本人の適性に合っていたはずなのに、外されたばかりにやる気をなくしてしまう、ということもあります。若い人を管理職につけて新陳代謝を進めるという信念があってやっているならそれでよいのですが、本当に本人の適性に合った仕事を与えられているか、本人に合わない仕事でやる気をなくさせていないか、あるいはやる気はあってもパフォーマンスを発揮できない状態になっていないかを、よくよくチェックしていただくのが大事です。
7. 雇い入れ直後なら、試用期間中に決着させる
雇い入れ直後から最小限の業務しか行わず周囲の反感を買っているような方であれば、試用期間中に決着をつけましょう。試用期間中であれば、「辞めてください」と言っても納得感を得られやすく、合意退職もしやすく、退職届も出してもらいやすいですし、本採用拒否も、試用期間経過後よりはやりやすくなります。イメージとしては、本採用後の80センチのハードルが60センチに下がる程度のものですが、60センチすら飛び越えられない場合は無効になるという点は変わりません。
8. まとめ
- 本人が主体的に動くのを待つのではなく、会社側が主体的に動く。何をやらせるかを決める権限も責任も会社にある
- 明確に「これをやりなさい」と指示し、従わなければ業務命令違反として厳重注意・懲戒処分へ
- 「はい」と言うだけで実行しない場合は、能力不足か意欲欠如かを見極め、ケースバイケースで対応する
- マイクロマネジメントが大変なら、適性のある定型業務に配置することも選択肢になる。賃金制度との整合性に注意
- 管理職の適性は特殊技能である。向かない人に管理を強いていないか、逆に向いた人を外していないか確認する
- 雇い入れ直後なら、試用期間中に決着させることで納得感を得やすい
最小限の業務しか行わず周囲の反感を買う社員への対応は、「本人が変わってくれること」を期待するのではなく、会社側が主体的に動くことから始まります。明確な指示、段階的な注意指導、そして何より本人の適性に合った仕事を見つけることが、結果として本人にも会社にもよい結果をもたらします。とくに、管理職への配置は、能力を認めた証というだけでなく、特殊技能を要する別の職種への異動であることを忘れずに、適性を見極めてください。こうした問題にお悩みの経営者の皆様は、ぜひ会社側専門の弁護士にご相談ください。
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自分で考えて動いてほしいのですが、最小限の仕事しかしません。
A. 最小限の業務しか行わない方に「自分の頭で考えて動いてほしい」と期待するのは、多くの場合うまくいきません。やる能力がないか、やる気がないかのどちらかであることが多いためです。会社側が主体的に動き、どんな仕事をどのようにやってほしいのかを明確に指示することが、まず必要な対応です。指示に従わなければ、業務命令違反として厳重注意や懲戒処分を段階的に検討してください。
「はい」と返事はするのに、実際にはやってくれません。
A. このケースは、明確に反抗しているケースよりも対応が難しい傾向があります。まず、本当はできるのにやっていないのか、能力的にできないのかを見極める必要があります。多くは能力不足であることが多く、その場合は通常の能力不足対応(教育指導、状況によっては退職勧奨など)を行うことになります。本当はできるのにやっていないことが事実として確認できれば、業務命令違反と同様に、注意指導から懲戒処分へと進めることができます。
マイクロマネジメントを続けるのが大変です。他に方法はありますか。
A. 適性のある仕事に配置することを検討してください。定型業務など、本人の能力に見合った仕事に配置すれば、指示の負担が軽くなり、本人も気持ちよく働けることが多いです。とくに管理職は特殊技能であり、プレイヤーとして優秀でも管理が苦手な方は少なくありません。向いていない管理職を続けさせるのではなく、適性を見極めて配置することが、双方にとって望ましい結果につながります。担当業務を変える場合は、賃金制度との整合性にも注意してください。
最終更新日:2026年7月19日