本ページの基となる解説動画
本ページの解説内容は、藤田進太郎弁護士による解説動画「欠勤・遅刻・早退を繰り返す問題社員の対処法」及び「遅刻や無断欠勤が多い問題社員の対処法」を素材として、当事務所が文章化しているものです。本ページの記載と動画の内容に齟齬がある場合や、より詳しい解説をご覧になりたい場合は、動画を直接ご視聴ください。
欠勤・遅刻・早退は、労働契約で予定された労務提供の不履行に該当する事象であり、対応の出発点はタイムカード等による客観的勤怠管理と、原因が体調不良かルール違反かの見極めです。ルール違反事案では、「証拠作り」ではなく「改善目的」の注意指導を徹底し、事情聴取を経て書面による厳重注意、段階的懲戒処分へと進めます。解雇を視野に入れる場合も、懲戒処分の積み重ねを経た上で、普通解雇(予告解雇)により雇用契約を整理するのが実務上の標準です。各段階で弁護士と並走しながら、個別事案に即した対応を設計することをお勧めいたします。
「欠勤・遅刻・早退」の契約論的位置づけ
欠勤・遅刻・早退への対応を検討するにあたり、まず出発点として整理しておくべきが、これらの事象の契約論上の位置づけです。労働契約は、使用者が賃金を支払い、労働者が労務を提供することを本質とする契約であり、正当な理由のない欠勤・遅刻・早退は、労働者側の債務不履行として評価される事象にあたります。
欠勤・遅刻・早退の定義
欠勤とは、所定労働日において労務提供が行われない状態をいいます。労働義務があるにもかかわらず労務提供がなされていない点で、年次有給休暇の取得や傷病休暇の利用とは法的性質を異にし、ノーワーク・ノーペイの原則により賃金支払義務は発生しないのが原則です。
遅刻とは、所定の始業時刻に遅れて労務提供を開始する状態をいい、早退とは、所定の終業時刻より前に労務提供を終了する状態をいいます。いずれも、契約で予定された労働時間の一部について労務提供がなされない事象であり、遅刻・早退した時間分について賃金控除を行う運用(欠勤控除)が通常です。
無断欠勤は、会社への事前連絡なく欠勤する状態であり、連絡義務の違反という側面も伴うため、単純な欠勤よりも重い債務不履行として評価される場合が多くあります。
「正当な理由」の有無による整理
欠勤・遅刻・早退の評価において決定的に重要なのが、「正当な理由」の有無です。体調不良による欠勤、年次有給休暇の取得、慶弔事情等、社会通念上相当な理由に基づく欠勤等については、債務不履行として責任を追及する対象ではありません。他方、単なる寝坊、ルール軽視、怠慢、娯楽優先等の正当な理由のない欠勤・遅刻・早退は、労働契約上の義務違反として、注意指導、懲戒処分、場合によっては解雇の対象となります。
この区別は、後に詳述する原因調査の実務的意義に直結します。原因が体調不良であれば、安全配慮義務の観点から医師への受診勧奨、休職命令、傷病手当金申請等の通常の対応を行うこととなります。原因が単なるルール違反であれば、問題社員に対する通常の注意指導・懲戒処分の手順で進めることとなります。
問題が生じる実務上の典型類型
会社経営者からのご相談で頻出する類型としては、次のようなものがあります。毎日1時間から2時間程度遅刻して出社し、注意してもその場で口論となるばかりで改善が見られない事案。月のうち5日以上欠勤する状態が続いており、勤務成績評価も勤務姿勢も周囲と著しく異なる事案。体調不良を口実とする欠勤・遅刻・早退を繰り返しているものの、医師の診断書の提出がなく、本当に体調不良であるかが判然としない事案。毎年付与される年次有給休暇を全て消化した上で、さらに欠勤を繰り返す事案。無断欠勤により数日ないし1週間以上、会社との連絡が取れない状態が生じる事案。いずれも、本ページで取り扱う典型的な実務課題です。
勤怠管理の徹底──客観的証拠による記録化
欠勤・遅刻・早退を繰り返す社員への対応において、何よりも先に整備すべきが、客観的証拠による勤怠管理です。対応の各段階──注意指導、書面による厳重注意、懲戒処分、退職勧奨、解雇──のいずれにおいても、その前提として「何月何日にどのような勤怠違反があったのか」を客観的証拠によって立証できる状態でなければ、手続の適法性を基礎づけることが困難となります。
遅刻・早退時間の管理
遅刻及び早退の時間管理は、タイムカード、勤怠管理システム、日報等により、通常の労働時間管理として行います。タイムカード及び勤怠管理システムについては、労働基準法及び労働安全衛生法の下で使用者に課される労働時間の適正把握義務を履行する基本的な仕組みとして、客観性の高い記録を残すことが可能です。日報については、本人記入のものに加えて、管理職によるチェック・承認を経ることで、より客観性が高まります。
実務上、「何時何分に出社したか」「何時何分に退社したか」を日付単位で正確に記録することが、後の遅刻時間の合計・頻度の立証の基礎となります。自己申告のみに依存した管理は、労働時間の適正把握の観点からも不十分であり、客観的記録との併用が必須です。
欠勤日数の管理
欠勤日数の管理は、タイムカードの打刻が存在しないこと及び日報の提出がないことを確認しつつ、本人からの欠勤届の提出を徹底させることで行います。欠勤届に欠勤理由と期間を記載させ、これを管理職が確認した上で承認する運用が、実務上の標準です。
欠勤届が提出されない状態での欠勤は、無断欠勤として別途記録化します。無断欠勤は、単なる欠勤よりも重い債務不履行として評価されるため、後の懲戒処分の検討において重要な要素となります。無断欠勤の記録化にあたっては、会社からの連絡努力(電話、メール等)の事実も併せて記録することが重要です。
ルーズな勤怠管理をしていた職場の課題
実務上問題となるのが、従来ルーズな勤怠管理をしていた職場において、遅刻・欠勤を注意指導しようとしたところ、「これまで容認されていた程度の遅刻・欠勤を今更問題視されても困る」との反論や、場合によっては「パワーハラスメントだ」との主張がなされる事案です。
遅刻・欠勤を行わないこと自体は労働者として当然の義務ですが、ルーズな勤怠管理を放置してきた会社にも一定の落ち度が認められる場合、直ちに懲戒処分等の厳しい対応に踏み切ることはお勧めできません。まずは今後は正当な理由のない遅刻・欠勤を許容しない旨を明確に伝達し、就業規則の該当規定の再周知、勤怠管理の運用見直しを行った上で、粘り強く注意指導を重ね、それでも改善が見られないときに懲戒処分等の検討に進むのが実務上相当です。
実務上の留意点 勤怠管理システムの導入は、単なる業務効率化ではなく、労働時間の適正把握義務の履行及び後日の紛争における証拠確保という観点からも極めて重要な経営判断です。未整備の会社は、優先的に整備を検討することをお勧めいたします。
原因の調査──体調不良かルール違反か
勤怠管理により欠勤・遅刻・早退の事実を客観的に把握した次の段階として、原因の調査が必要となります。欠勤・遅刻・早退が頻発する原因は、大きく二つの類型に分かれ、いずれに該当するかにより対応方針が根本的に異なるためです。
二つの原因類型
第一の類型は、体調不良によるものです。身体疾患、メンタル不調等により、ルールを守りたいと本人が望んでも守れない状況に陥っている場合がこれにあたります。この場合、使用者の安全配慮義務(労働契約法第5条)との関係が前面に出るため、医師への受診勧奨、産業医面談、残業の抑制、休職命令の検討、傷病手当金の申請勧奨といった体調不良社員に対する通常の対応を行う必要があります。
第二の類型は、ルールを守る意識が低いことによるものです。体調に特段の問題はないものの、単なる怠慢、寝坊、ルール軽視等により欠勤・遅刻・早退を繰り返す類型です。この場合は、問題社員に対する通常の対応(注意指導、事情聴取、書面による厳重注意、懲戒処分、退職勧奨、解雇)の手順で進めます。
原因特定のための事情聴取
原因の特定は、本人からの事情聴取から始めます。具体的な勤怠違反の事実(何月何日に何時遅刻、何日欠勤といった事実)を提示した上で、「どうして遅刻・欠勤が多くなっているのか」「体調に問題があるのか」「何か事情があるのか」を率直に確認します。
体調不良が疑われる場合には、医師の受診を促し、必要に応じて診断書の提出を求めます。就業規則に「連続3日以上の欠勤について診断書の提出を求めることができる」旨の規定がある会社では、当該規定を根拠に提出を求めることが可能です。実質的な理由としても、月5日以上の欠勤や遅刻・早退が継続するような状態であれば、診断書の提出を求めることは社会通念上相当と評価されます。
産業医がいる職場では、産業医面談を勧めます。産業医は業務内容と医学の両面を踏まえた意見を述べられる唯一の立場にある医師であり、体調不良の真偽及び就労可能性の評価において重要な情報源となります。
「仮病」と決めつけない姿勢
体調不良の訴えが続くものの、会社から見て真偽が判然としない事案において、十分な根拠なく「仮病」と決めつけることは厳に避ける必要があります。仮病と決めつけて処遇を行えば、後日体調不良であったことが判明した場合、ハラスメント、不当処分として責任を問われる可能性が生じます。
疑わしい事情がある場合は、疑わしいと評価できる事実関係を具体的にリストアップし、面談を通じて本人から事情を聴取します。「今月は7日欠勤、遅刻3回、早退2回ありますが、体調の具合を教えていただけますか」といった形で、具体的事実を示した上で丁寧に事情を聞く運用が相当です。多くの場合、この対話を通じて、体調不良の程度、必要な配慮等について一定の理解が得られます。
本当に体調不良である場合には、むしろ「休養勧奨」「休職制度への誘導」「傷病手当金申請の案内」といった方向に切り替えるのが実務の筋です。仮に本当に仮病であった場合でも、丁寧な面談を重ねる中で本人側から自発的に出社しなくなる、退職するといった展開となるケースが少なくありません。詳細は、関連ページ「仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応」で解説しております。
注意指導の目的と進め方
原因調査の結果、ルール違反型の欠勤・遅刻・早退であると整理された事案については、注意指導の段階に進みます。注意指導の設計を誤ると、以後の懲戒処分、退職勧奨、解雇のいずれもが正当性を失う結果となるため、この段階の組み立てが決定的に重要です。
注意指導の二つの目的
注意指導には、二つの目的があります。第一に、正当な理由のない欠勤・遅刻・早退をなくすこと。第二に、注意指導を行った事実についての証拠の確保です。
このうち重要なポイントは、第一の目的こそが本来の目的であり、第二の目的はあくまで副次的なものであるという整理です。証拠確保を第一の目的にして注意指導を行うと、注意指導そのものが「形式的な証拠作り」に堕してしまい、問題社員の勤怠改善という本来の効果が上がりません。
「証拠作り」が透けて見えると何が起きるか
注意指導が単なる証拠作りであることが本人や周囲に透けて見えると、改善効果が上がらないばかりか、後日の労働審判・訴訟において会社側の対応が不利に評価される結果となります。「改善を真に期待して注意指導していたわけではなく、退職させるための外堀埋めに過ぎなかったのではないか」との判断がなされれば、懲戒処分や解雇の前提として行うべき注意指導として評価されず、懲戒処分・解雇の有効性が否定されるリスクが高まります。
勤怠違反を繰り返す問題社員の態度が悪く、改善意欲が見られない場面では、注意指導を担当する上司がさじを投げてしまい、「もう改善は期待できないから、辞めてもらうための証拠を作ろう」という発想に流れがちです。しかし、この発想こそが、退職という目的の達成を困難にする根本原因となります。
「見切り思考」の危険性
実務上よく見られる失敗パターンが、「見切り思考」です。ある時点で「この社員はもう改善しない。辞めてもらうしかない」と見切りをつけ、以後の注意指導を形骸化させてしまう対応です。見切りをつけるタイミングは、法的にはまだ解雇が認められない段階、つまり注意指導と懲戒処分を十分に積み重ねる必要がある段階であることが多く、見切ったからといって解雇できるわけではない点が問題です。
見切り思考に陥った会社の典型的な質問は「懲戒処分を何回行えば解雇できますか」「どういう手順を踏めば辞めさせられますか」というものです。しかし、そうした発想で組み立てられた注意指導・懲戒処分は、本人にも裁判官にも見抜かれ、結局のところ解雇の有効性を基礎づけることができない結果となります。
正しい姿勢は、「まだ改善するかもしれない。ただし、状況が悪ければ辞めてもらうかもしれない。未定である」という中立の立場で、改善を目的とした注意指導と懲戒処分を誠実に積み重ねることです。この誠実な積み重ねこそが、結果として改善又は合意退職につながり、仮に解雇という結論に至った場合にも有効性を基礎づける経過として機能します。
事情聴取と書面による注意指導
注意指導の実施にあたっては、事情聴取を経て、必要に応じて書面による注意指導へと段階を踏んで進めます。本章では、各段階の具体的手続と、記録化の粒度について整理いたします。
事情聴取の実施と記録化
注意指導の起点となる事情聴取では、遅刻・欠勤の事実を本人に提示した上で、理由を聴取します。具体的な日付、時間、頻度を踏まえて、「何月何日の何時に遅刻」「何月何日に欠勤」「今月は合計何日の欠勤、何回の遅刻」といった事実を示しつつ、その理由及び今後の改善見込みを問います。
聴取の結果は、上司への報告書又は電子メールの形で記録化します。「上司への報告書」という書面形式が大げさに感じられる場合には、担当者から上司宛てのメールでの報告でも差し支えありません。会社経営者本人が対応しており、社内で報告する相手がいない場合には、顧問弁護士宛てにメールで報告する運用も有効です。
記録する事項は、5W1Hを意識した客観的事実です。「何月何日の何時頃、どこで、誰が、誰に対して、何をどのように述べた(又は実行した)のか」のレベルの粒度で整理します。「遅刻が多い」「反省の色が見られない」といった評価的表現や、「次に遅刻したらいかなる処分を受けても異存ありません」といった反省の気持ちの表明の記録のみが中心となった場合、遅刻・無断欠勤の具体的事情が明らかにならず、証拠価値が低くなります。
書面による注意指導(注意書・厳重注意書)
口頭での注意指導を重ねても改善が見られない場合、「注意書」又は「厳重注意書」等の書面を交付して注意指導を行います。書面交付は、本人の改善をより強く促すとともに、注意指導を行った事実の客観的証拠として機能します。
書面には、5W1Hを意識した具体的事実を記載します。「令和〇年〇月〇日午前9時始業のところ、同日午前10時30分に出社」「令和〇年〇月〇日及び同月〇日に正当な理由のない欠勤」といった粒度で、違反事実を特定します。「最近遅刻が多い」「勤務態度が悪い」といった抽象的記載では、証拠価値が低くなります。
書面は、押印済みのものをPDF化して会社側で保管し、その上で本人に交付します。交付時には、何月何日何時頃、どこで、誰が交付したのか、交付時のやり取りはどうであったかを記録し、上司又は顧問弁護士にメールで報告する運用が実務的に十分です。
交付の証拠化と郵送の要否
「注意書」「厳重注意書」の書面を交付したにもかかわらず、後日「受け取っていない」との主張がなされるのではないかとのご懸念をいただくことがあります。実際の事案では、書面を交付したにもかかわらず受領否認されるケースは、それほど多くありません。多くの場合、「厳重注意書は確かに受け取りましたが、内容が事実と異なります」といった主張となります。
したがって、ほとんどの事案では、押印済み書面のPDF保管と、交付時のやり取りの記録で足ります。極端な虚言癖のある社員等、特に必要性が高い事案に限り、PDFのメール送信、書留郵便、レターパック送付等を併用する形が合理的です。
口頭と書面の併用が原則
書面による注意指導を行う場合でも、口頭での注意指導は必須です。口頭での注意指導を怠り書面のみで完結させる運用は、本人の反発を招きやすく、「単に証拠作りをしているだけ」と評価されるリスクが高まります。
電子メールでの注意指導も同様で、口頭での注意指導とセットで行うのが原則です。メールのみに依存すると、文字情報のやり取りで誤解が生じやすく、「パワーハラスメントだ」との反発を招くリスクが高まります。実際に会って話すことができない状況であっても、せめて電話で話す、可能であればZoom等のテレビ電話で顔を見ながら話す、といった対応を組み合わせる運用が相当です。
録音についても、録音されている意識により率直な対話が困難となる面があるため、必要性をよく検討した上で判断することとなります。録音記録を証拠として使用するには反訳(文字起こし)が必要であり、手間を要する点も考慮する必要があります。
懲戒処分の段階的運用と人事院指針
書面による厳重注意を行っても改善が見られず、業務への支障が生じている場合には、懲戒処分の検討に進みます。本章では、段階的な懲戒処分の運用、人事院「懲戒処分の指針」の参照、就業規則の周知の重要性を整理いたします。
「懲戒処分から逃げない」という姿勢
実務上、会社経営者の中には「懲戒処分をすると職場の雰囲気が悪くなる」「うちの会社で懲戒処分なんて大げさだ」との理由から、懲戒処分を省略していきなり退職勧奨又は解雇に進もうとされる方が少なくありません。しかし、懲戒処分歴のない社員を、欠勤・遅刻・早退を理由として有効に解雇することは、勤怠違反の程度がよほど甚だしい場合でない限り、実務上困難です。
懲戒処分を行わずにいきなり退職勧奨して、本人から拒絶された場合、その後の打つ手がなくなり、かえって職場の雰囲気が悪化します。解雇しても無効となる可能性が高い状態では、解決金の相場も高額化し、強引な退職勧奨によって不法行為責任を問われるリスクまで生じます。「懲戒処分は気まずい」との理由で逃げることが、結果として会社にも本人にも不利益をもたらすという構造にあります。
また、「懲戒処分のやり方がよく分からない」との理由で懲戒処分を避ける経営者もいらっしゃいます。この場合は、弁護士に相談しながら懲戒処分通知書を作成する運用をお勧めいたします。経験豊富な弁護士が、個別事案に即した通知書の文案を整えることで、適法性と実効性を両立させた懲戒処分が可能となります。
段階的な懲戒処分の運用
欠勤・遅刻・早退を理由とする懲戒処分は、譴責、減給、出勤停止といった段階的な運用が原則です。まずは譴責又は減給といった軽い処分から開始し、それでも改善が見られない場合に、出勤停止等のより重い処分に進みます。いきなり重い処分を課した場合、懲戒権の濫用として無効と判断されるリスクがあるため、軽微な事案から重大な事案への段階的移行が実務上の標準です。
人事院「懲戒処分の指針」の参照
民間企業の社員と国家公務員との性質の違いは意識する必要があるものの、懲戒処分の種類の決定にあたっては、人事院事務総長発「懲戒処分の指針について」が参考になります。同指針は、遅刻・欠勤に関する標準的な懲戒処分として、以下のとおり規定しています。
【欠勤】
正当な理由なく10日以内の間勤務を欠いた職員は、減給又は戒告とする。
正当な理由なく11日以上20日以内の間勤務を欠いた職員は、停職又は減給とする。
正当な理由なく21日以上の間勤務を欠いた職員は、免職又は停職とする。
【遅刻・早退】
勤務時間の始め又は終わりに繰り返し勤務を欠いた職員は、戒告とする。
民間企業における懲戒処分の重さの目安として、公務員基準の水準より重い処分を科すことは抑制的であるべきとの整理が合理的です。懲戒処分の軽重を決定する際の参考情報として有用な指針となります。
就業規則の周知の必須性
有効に懲戒処分を行うための絶対的前提として、懲戒の種類と事由を記載した就業規則が適切に「周知」されている必要があります。「周知」とは、社員が見ようと思えば見られる状態に置かれていることをいいます。
中小企業において、懲戒事由該当性や懲戒権濫用該当性といった法的論点以前の問題として、就業規則が周知されていないというだけの理由で懲戒処分が無効と判断される事例は珍しくありません。本格的に懲戒処分の運用を検討する会社は、就業規則の周知状況(社員が常時アクセス可能な場所に掲示されているか、電子データで全社員が閲覧できるか等)を最優先事項として確認してください。
人事権の活用──担当業務の変更と降格
懲戒処分による制裁とは別に、「人事権」を行使した担当業務の変更や降格も、欠勤・遅刻・早退の多い社員への対応として重要な選択肢となります。処罰ではなく「適材適所の実現」という観点から、柔軟な人事異動を活用する場面です。
担当業務の変更
欠勤・遅刻・早退により業務に支障が生じる職務(顧客対応、定時の電話応対、チーム業務等)に従事している社員について、勤怠違反が改善しない場合、担当業務の変更を検討する余地があります。就業規則上、会社に配置転換権限が認められている場合には、人事権の行使として担当業務を変更することが可能です。
勤怠違反が改善しない社員を、出社時間の影響が少ない業務、在宅勤務可能な業務、裁量の大きい業務等に配置転換することで、周囲の業務への影響を最小化しつつ、本人の適性を活かせる働き方を模索するアプローチです。ただし、本人の賃金水準や労働条件の不利益変更を伴う場合には、配置転換の適法性について別途の検討が必要となります。
管理職の降格──懲戒処分ではなく人事権で
管理職が遅刻・無断欠勤を繰り返す事案については、部下の管理やプロジェクト運営に直接支障が及ぶため、管理職としての適格性を欠くとして、人事権を行使して管理職から外す対応が相当となる場合があります。
就業規則には、懲戒処分の一種として「降格処分」が規定されていることが多くあります。しかし、多くの事案において会社にとって最も重要なのは「適材適所」の実現であって、当該管理職を処罰することではありません。処罰目的でなければならない特殊な事情がある例外的な場面を除き、懲戒処分としての降格処分ではなく、人事権の行使として管理職から外す対応をお勧めいたします。
人事権による管理職外しは、懲戒処分に比べて手続的負担が軽く、本人との対立も最小化できる傾向にあります。懲戒処分として降格した場合、本人からは「懲戒権の濫用」として争われるリスクが高いのに対し、人事権の行使としての管理職外しは「経営判断」として尊重されやすいという差異があります。
勤務成績の適正評価
勤怠違反のある社員に対しては、勤務成績の評価も実態に合わせて適正化する必要があります。実態よりも高い評価をしていた会社は、勤務成績評価の信頼度が低く、トラブルが拡大しやすい傾向にあります。
勤務成績を実態に合わせて下げて昇給を停止したり、賞与を他の社員よりも大幅に低額にしたりする場合、評価を下げる合理的理由を説明できるよう、日頃から客観的事実に基づく評価運用を積み重ねる必要があります。従来実態より高い評価をしていた社員に対し、堪忍袋の緒が切れて評価を大幅に下げた場合、その合理性の説明は困難となりやすく、ハラスメントとして争われたり、処分等の有効性を失ったりするリスクが高まります。
「部下に好かれたい」「問題を先送りしたい」という動機から、実態より高い評価を付けがちな管理職が存在することも事実です。部下の良いところも悪いところもありのまま見て、適正に評価することの重要性を、社内で共有し徹底する必要があります。
退職勧奨と解雇の検討
懲戒処分を繰り返しても欠勤・遅刻・早退が改まらない事案については、退職勧奨、最終的には解雇の検討に進むこととなります。本章では、退職勧奨の実務、解雇の選択(普通解雇か懲戒解雇か)、必要な準備について整理いたします。
退職勧奨の実施とその順序
懲戒処分を繰り返しても欠勤・遅刻・早退が改善しない場合、退職勧奨による合意退職を目指すのが実務の原則です。退職勧奨の成否は、その前段階でどれだけ誠実に注意指導と懲戒処分を積み重ねたかに決定的に左右されます。
注意指導・懲戒処分が十分に積み重ねられている事案では、本人側も「これ以上争い続けるより、条件交渉で合意退職するのが現実的」と判断する可能性が高くなります。結果として、穏便な合意退職が実現しやすくなります。他方、懲戒処分を一切経ずに突然退職勧奨を切り出した事案では、本人側が「会社の対応は性急で、争えば有利になる」と判断し、合意退職の難易度と解決金水準が大幅に上昇します。
退職勧奨の詳細な進め方については、関連ページ「問題社員の退職勧奨」で解説しております。
解雇の選択──普通解雇(予告解雇)が標準
退職勧奨に応じない場合、最終的には解雇の検討に進みます。欠勤・遅刻・早退の多い問題社員に対する解雇の選択としては、普通解雇(多くの場合は予告解雇)が標準的な選択です。
実務上、当事務所が顧問先企業等に解雇を指導する場合、1か月以上の欠勤が継続した段階で普通解雇に踏み切るのが通常です。欠勤・遅刻・早退が多い問題社員に関しては、懲戒解雇や即時解雇にこだわる必要性のある事案はほとんど存在せず、普通解雇(予告解雇)により労働契約関係の解消という目的を達成することが可能です。
特に、遅刻・欠勤があればその時間分の賃金が支払われない欠勤控除制度のある会社においては、社会保険料の会社負担はあるにせよ、急いで解雇に踏み切る必要性は高くありません。時間をかけて注意指導・懲戒処分を積み重ねた上で、最終手段として解雇に至る手順が、有効性の観点からも本人への説明の観点からも、安全性の高い進め方です。
解雇の前提として必要な立証資料
普通解雇又は懲戒解雇(諭旨解雇・諭旨退職)といった退職の効果を伴う処分を行う場合、職場から排除しなければならないほど遅刻・欠勤・早退の程度が甚だしく、業務に重大な支障が生じていることを、客観的証拠により立証できる状態である必要があります。
立証資料として整備しておくべきものには、以下があります。タイムカード又は勤怠管理システムによる勤怠記録(遅刻時間・欠勤日数の集計)、事情聴取記録及び注意指導の記録(メール、報告書等)、書面による注意書・厳重注意書(交付の事実と受領者情報を含む)、懲戒処分通知書とその交付記録、業務への支障を示す資料(周囲の社員の業務負担増加、顧客からの苦情等)です。これらが欠落したまま解雇に踏み切ると、後日の労働審判・訴訟において解雇無効と判断されるリスクが高まります。
諭旨退職処分の注意点
諭旨退職処分は、本人から退職願が提出された場合であっても合意退職扱いとはされず、あくまで懲戒処分として位置づけられます。後日、本人から「諭旨退職処分は懲戒権の濫用で無効」と争われた場合、処分の有効性が問題となる点には留意が必要です。実務的には、諭旨退職処分にこだわる必要性がない事案がほとんどであり、退職勧奨による合意退職又は普通解雇で事案を解決するのが、実務上の合理的選択です。
当事務所のサポート体制
弁護士法人四谷麹町法律事務所は、会社側(使用者側)の労働問題に特化した法律事務所です。欠勤・遅刻・早退を繰り返す社員への対応については、勤怠管理体制の点検・設計から、事情聴取の助言、書面による注意指導の文案作成、懲戒処分通知書の作成、退職勧奨、解雇、紛争化した場合の労働審判・訴訟対応まで、一貫してサポートいたします。
当事務所では、オンライン打合せを活用した継続的支援を多く採用しております。Zoom等を用いた30分単位のオンライン打合せを、事案の進行に応じて随時実施し、局面ごとに具体的助言を提供いたします。「弁護士に依頼する」というより「弁護士と並走する」イメージで、経営者が判断を孤立して抱え込むことがない体制を整えております。移動時間を要さず、画面共有機能により書面の共同作成も可能であり、懲戒処分通知書等の文案作成を面談と同等以上の効率で進めることができます。
具体的な支援内容
第一に、勤怠管理体制の点検と整備です。タイムカード、勤怠管理システム、欠勤届の運用、就業規則上の関連規定を点検し、必要に応じて改善提案をいたします。
第二に、注意指導・懲戒処分の文書作成です。事情聴取記録、注意書・厳重注意書、懲戒処分通知書の文案を、事案に即して作成又はレビューいたします。5W1Hを意識した事実記載により、後日の証拠として機能する書面に整えます。
第三に、退職勧奨・解雇の判断と実施です。退職勧奨の実施タイミング、解決金水準の設計、解雇の可否判断、解雇通知書の作成、必要書類の整備を、事案に即して支援いたします。
第四に、紛争化時の対応です。労働審判、訴訟、労働組合との団体交渉等が生じた場合、事案発生当初から関与してきた同じ弁護士チームが一貫して対応いたします。
関連ページ 遅刻を繰り返す社員への対応については「遅刻を繰り返す社員への対応」、仮病・体調不良が疑わしい欠勤については「仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応」、無断欠勤・年休使い切り事案については「無断欠勤・年休使い切りへの対応」もあわせてご参照ください。
よくあるご質問
Q.欠勤・遅刻を繰り返す社員について、何回の懲戒処分を経れば解雇が可能となりますか。
A.一律の回数基準はありません。欠勤・遅刻の程度、業務への支障、改善努力の有無、注意指導及び懲戒処分の内容等の総合的評価により判断されます。実務上、当事務所が顧問先企業等に解雇を指導する場合、1か月以上の欠勤継続の段階で普通解雇(予告解雇)に踏み切るのが通常です。それ以前の段階では、段階的懲戒処分(譴責→減給→出勤停止)を積み重ねた上での退職勧奨が原則となります。
Q.従来ルーズな勤怠管理をしていました。今後厳格化したいのですが、すぐに懲戒処分を行ってよいでしょうか。
A.直ちに懲戒処分を行うことはお勧めできません。ルーズな勤怠管理を放置してきた会社側にも一定の落ち度が認められる場合、「従来容認されていたものを今更問題視されても」との反論を受ける余地があります。今後は正当な理由のない遅刻・欠勤を許容しない旨を明確に伝達し、就業規則の関連規定の再周知、勤怠管理の運用見直しを行った上で、粘り強く注意指導を重ね、それでも改善しない場合に懲戒処分に進むことが実務上相当です。
Q.懲戒処分をせずに、いきなり退職勧奨や解雇に進むことは可能でしょうか。
A.遅刻・無断欠勤の程度がよほど甚だしい場合でない限り、懲戒処分歴のない社員を、欠勤・遅刻・早退を理由として有効に解雇することは実務上困難です。懲戒処分を経ない退職勧奨は、本人から拒絶されると打つ手がなくなり、強引な退職勧奨によって不法行為責任を問われるリスクもあります。「懲戒処分は気まずい」との理由で懲戒処分を避けることは、結果として会社にも本人にも不利益となる選択です。
Q.体調不良を理由とする欠勤・遅刻・早退なのか、単なる仮病なのか判断がつきません。
A.十分な根拠なく「仮病」と決めつけることは避ける必要があります。まず具体的な勤怠違反の事実(日付・時間・頻度)を示した上で面談により事情を聴取し、必要に応じて診断書の提出を求めます。産業医面談の活用も有効です。本当に体調不良であれば、休職制度の活用や傷病手当金申請等の方向に切り替えることとなります。詳細は関連ページ「仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応」をご参照ください。
Q.注意指導したところ、「パワーハラスメントだ」と主張されました。どのように対応すべきでしょうか。
A.注意指導の際に具体的事実に基づく礼儀正しい指摘がなされていれば、パワーハラスメントと評価される可能性は低いといえます。逆に、「やる気がない」「だらしない」といった評価的・人格的表現による指摘、大声や威圧的態度を伴う指摘は、パワーハラスメントと評価されるリスクが高くなります。事実ベースの指摘を徹底すること、口頭と書面を併用すること、記録を残すことが基本的な対応です。
Q.電子メールのみで注意指導を行ってもよろしいでしょうか。
A.電子メールのみでの注意指導はお勧めできません。口頭でのコミュニケーションと比較して、電子メールのみでは誤解が生じやすく、「パワハラだ」との反発を招くリスクが高まります。電子メールでの注意指導を行う場合も、必ず口頭での注意指導とセットで実施してください。対面が困難な状況であっても、せめて電話で話す、可能であればZoom等のテレビ電話を活用する運用が相当です。
Q.管理職が遅刻・無断欠勤を繰り返しています。懲戒処分として降格させるべきでしょうか。
A.特殊な事情がない限り、懲戒処分としての降格ではなく、「人事権」を行使して管理職から外す対応をお勧めいたします。多くの事案において会社にとって重要なのは「適材適所の実現」であって、当該管理職の処罰ではありません。人事権による管理職外しは、懲戒処分に比べて手続的負担が軽く、本人との対立も最小化しやすい傾向にあります。
Q.就業規則を周知していませんでした。懲戒処分はできないのでしょうか。
A.就業規則が周知されていない状態では、懲戒事由該当性等の実体的論点以前に、懲戒処分が無効と判断されるリスクがあります。急いで就業規則の周知を整備してから懲戒処分を検討することをお勧めいたします。周知の方法としては、社員が常時アクセスできる場所への掲示、全社員への電子データ配布、社内ポータルへの掲載等があります。就業規則そのものの整備状況についても、あわせて点検することが相当です。
さらに詳しく知りたい方はこちら
- >遅刻を繰り返す社員への対応
- >仮病・体調不良が疑わしい欠勤への対応
- >無断欠勤・年休使い切りへの対応
- >体調不良・メンタル不調の社員対応【柱ページ】
- >出社しなくなり連絡が取れない社員への対応
- >問題社員の懲戒処分【柱ページ】
- >問題社員の退職勧奨【柱ページ】

監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
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最終更新日 2026/04/20