問題社員224 有効な懲戒解雇をした場合における退職金の不支給・減額

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この記事の要点

懲戒解雇が有効になっても退職金を全額不支給にできるとは限らない——3〜5割の支払いを命じる判決が裁判例では多い

退職金には「給与の後払い的性格」「生活保障的性格」があるとされており、懲戒解雇有効でも全額不支給は認められないケースが多い

不支給・減額が認められる基準は「当該退職者の在職中の功績を抹消または減衰させるほどの著しい背信行為があるかどうか」——高いハードル

懲戒解雇が有効になるほど重大な行為でも、退職金の全額不支給とはなかなか認められないのが実態

「多めに払っておけばいい」という安易な発想は取れない——他の社員への公平感・モラルハザード防止の観点からも適正な処理が必要

問題社員に余分なお金を払うなら他の真面目な社員の給料を上げる方が会社にとって正しい。モラルハザード防止のために適正な金額を判断すべき

退職金の不支給・減額の判断は複数の事情を総合考慮した高度な実質判断——個別の事案について弁護士に相談することが不可欠

功績の度合・行為の内容・程度・諸般の事情を総合的に考慮する必要がある。マニュアル的な判断はできない

1. 「懲戒解雇が有効なら退職金は全額不支給」は間違い

退職金制度がある会社の規定には、「懲戒解雇の場合は退職金を不支給または減額する」という定めが多く見られます。そのため「懲戒解雇が有効になれば、当然ルール通りに全額不支給にしてよい」と思っている経営者が多いですが、実際はそうとは限りません。

過去の裁判例を見ると、懲戒解雇が有効になったとしても退職金の3〜5割の支払いを命じる判決が多く存在します。つまり懲戒解雇が認められてもなお退職金の一部を支払わなければならない可能性があるのです。

2. なぜ裁判所は全額不支給を認めないのか——退職金の3つの性格

裁判所がこのような判断をするのは、退職金には以下の3つの性格があると理解されているからです。

▶ 退職金の3つの性格

① 功労報償的性格:長年の勤続に対する報賞という性格

② 給与の後払い的性格:本来月々の給料に組み込まれるべきだったものが退職時にまとめて支払われるという性格。「今さら取り上げるのはおかしい」という発想につながる

③ 生活保障的性格:退職後の生活を支えるためのものという性格。全額不支給にすると退職後の生活が危うくなる

この3つの性格を踏まえると、懲戒解雇が有効になったとしても、退職金全額を不支給にするためには非常に高いハードルを乗り越える必要があります。

3. 不支給・減額が認められる基準——「著しい背信行為」ハードル

裁判所が示している基準を端的に言うと、「当該退職者の在職中の功績を抹消または減衰させるに足りる著しい背信行為が認められる場合」でなければ退職金の全額不支給・大幅な減額は認められないということです。

この判断には「功績の度合い・行為の内容・程度・諸般の事情を総合的に考慮する」とされており、非常に多角的な判断が必要です。「懲戒解雇が有効だから不支給」というシンプルな論理は成り立ちません。

4. 「多めに払っておけばいい」という安易な発想も取れない理由

「裁判リスクがあるなら多めに払っておけば問題ない」という発想をする経営者もいますが、これも適切ではありません。

退職金は懲戒解雇になった社員一人だけの問題ではありません。問題を起こした社員に相場以上の退職金を払うことは、真面目に働いている他の社員への不公平であり、モラルハザードにつながります。「あんな問題を起こした人でも退職金をもらえるなら、真面目にやるのが馬鹿らしい」と感じる社員が出てくることは当然です。

ルール通りに適正な処理をすることが、会社全体の秩序維持のために必要です。

5. 経営者がすべきことと弁護士に任せるべきこと

退職金の不支給・減額の判断は総合的で高度な実質判断が必要であり、経営者が自分で判断するには限界があります。経営者がすべきことは、次の2点を理解することです。

▶ 経営者が理解すべき2つのこと

① 懲戒解雇が有効でもルール通りに全額不支給にできるとは限らないことを知っておく
② 「多めに払っておけばいい」という安易な発想は取れないことを知っておく

その上で個別の事案の具体的な判断——どの程度の不支給・減額が認められるか——については、労働問題を日常的に扱っている弁護士に相談しながら決めることをお勧めします。

6. まとめ

① 懲戒解雇有効≠退職金全額不支給

裁判では懲戒解雇が有効でも3〜5割の支払いを命じるケースが多い。退職金には給与の後払い的性格・生活保障的性格があるため。

② 「著しい背信行為」がなければ全額不支給は難しい

在職中の功績を抹消するほどの著しい背信行為がなければ全額不支給は認められない。功績・行為・諸般の事情の総合判断が必要。

③ 適正な判断のために弁護士に相談する

「多めに払っとけばいい」でも「全部払わなくていい」でもなく、適正な金額を判断するために弁護士と相談しながら決めることが必要です。

よくある質問(FAQ)

Q 横領した社員を懲戒解雇しました。就業規則に「懲戒解雇の場合退職金不支給」と書いてあります。退職金は払わなくていいですか?
A

就業規則の「不支給」規定があっても、裁判では全額不支給が認められないケースが多くあります。横領の内容・金額・在職中の功績・諸般の事情によって判断が変わります。一概に「払わなくてよい」とも「払わなければならない」とも言えませんので、個別事情を踏まえて弁護士に相談した上で判断してください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/16