問題社員222 横領・手当の不正受給を行った社員が自主退職を申し出てきた

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この記事の要点

自主退職の申し出が出ても「勝負あり」ではない——安心した瞬間に懲戒解雇など重い処分を誤ると多額の損失につながる

横領などが発覚した状況では神妙にしている社員も、退職後に冷静になって弁護士に相談し訴訟を起こすケースが実際に多い

判断の軸は「①お金の回収、②示しをつけること(懲戒解雇の必要性)、③裁判リスク」の3つのバランス

本当に重大な案件は懲戒解雇が必要。ほどほどの案件では自主退職を受け入れてお金を返してもらう方が合理的なケースも多い

自主退職を受け入れる場合は退職届または退職合意書を必ず取得する。口頭の約束だけでは撤回されるリスクがある

退職届が出たら権限のある者が速やかに承諾の意思を伝え、記録に残す。これを怠ると「やっぱりやめません」と言われてしまう

懲戒解雇を選択する場合も、事実を確定した上で所定の手続きを踏むことが必要。訴えられることを想定した上で覚悟を持って進める

しっかり準備して懲戒解雇を行っても裁判2年以上・弁護士費用・担当者の時間的負担などが生じる。それを承知の上で判断する

1. 自主退職の申し出が出ても「勝負あり」ではない

横領・手当の不正受給などをした社員が自主退職を申し出てきた——このとき「本人がやめると言っているなら一件落着」と安心してしまう経営者が多いですが、それは危険です。

横領などが発覚した状況では、在職中の社員は神妙にして素直に受け答えします。ところが退職して出社しなくなり冷静になってくると、「あれは本当に懲戒解雇が必要なほどのことだったのか」「自主退職ではなく懲戒解雇にされたのはひどいのではないか」と感じて弁護士に相談するケースが実際にたくさんあります。

⚠ 感情任せの判断が1000万円超の損失を招くことも

「示しをつけなければ」という気持ちで懲戒解雇を決め、弁護士によく確認しないまま進めてしまった結果、裁判で敗訴して1000万円近い賠償金を支払ったケースがあります。問題を起こした社員が自主退職を申し出てきた場合も、気を緩めずにしっかりとした対応が必要です。

2. 判断の軸——懲戒解雇すべきか、自主退職を受け入れるべきか

横領・不正受給社員から自主退職の申し出が出たとき、最初に考えるべきことは次の3点です。

▶ 判断の3つの軸

① お金の回収(最優先)
横領・不正受給された金額をしっかり確定して返還の合意を取ることが最優先です。金額を確定せずに退職させると、後から取り返しにくくなります。

② 示しをつけること(懲戒解雇の必要性)
行為が重大で他の社員への示しとして懲戒解雇が必要なケースはあります。ただし「懲戒解雇しなければならない」と感じる場合でも、実際に有効に懲戒解雇できるかどうかは別問題です。横領は有効になりやすく、手当の不正受給は慎重な判断が必要です。

③ 裁判リスク
懲戒解雇すれば結構な確率で裁判で争われます。準備万全で全面勝訴しても2年以上の時間と弁護士費用がかかります。この負担に見合うかどうかを現実的に考える必要があります。

以上3点を踏まえた上で、本当に重大で勝てる案件なら懲戒解雇で戦う覚悟を決める。ほどほどの案件で金額も回収できて相手もやめるなら、自主退職を受け入れて手打ちにする——この判断を個別事情に応じて行うことが求められます。

「自主退職でやめてもらい、お金も返してもらった」という状況でも、周囲の社員には「問題を起こしたからやめた」という事実が伝わります。必ずしも懲戒解雇でなくても、責任を取った形として見てもらえるケースは多いです。

3. 自主退職を受け入れる場合の手続き——退職届の取得と承諾の明示

自主退職を受け入れると決めたら、スムーズかつ確実にやめてもらうことが最優先です。ここで注意が必要です。

退職届(または退職合意書)を必ず書面で取得してください。口頭でやめると言っていても、会社が承諾を明示するまでは退職の申し出を撤回できます。退職届が出ても、それを放置していると「やっぱりやめません」と言われる可能性があります。

▶ 退職を確実にするための手順

① 退職届を書面で提出してもらう(または退職合意書を取り交わす)
② 権限のある者(社長等)が速やかに承諾の意思を示す
③ 承諾したことをメール等で記録に残す(「〇月〇日付のご退職届、承諾しましたので〇月〇日退職となります」等)
④ 返却物・引継ぎ等の手続きを案内する書面も合わせて交付する

横領・不正受給をした社員は基本的に信頼できません。退職合意書を取り交わすまでは気を緩めないことが重要です。

4. 懲戒解雇を選択する場合の注意点

本当に重大な事案で懲戒解雇が必要だと判断した場合は、次の点を守ってください。

⚠ 自主退職申し出の後に懲戒解雇する場合の注意

自主退職の申し出を受けつつも懲戒解雇を選択する場合、事実の確定・弁解の機会の付与・懲戒処分通知書の書面交付という所定の手続きが必要です。「どうせやめると言っているから手続きを省いていい」という考えは誤りです。手続きを省くと後の裁判で問題になります。
訴えられることを想定した上で覚悟を決めて進めてください。弁護士に相談した上で手続きを進めることが不可欠です。

5. まとめ

① 自主退職の申し出に気を緩めない——退職後に訴えてくることは珍しくない

在職中は神妙でも、退職後に冷静になって弁護士に相談し訴訟を起こすケースが多くあります。

② お金の回収・示しの必要性・裁判リスクを総合して判断する

重大事案は懲戒解雇で戦う。ほどほどの事案は自主退職を受け入れて手打ちにする選択肢もあります。

③ 自主退職を受け入れる場合は退職届取得+承諾の明示を必ず行う

書面での退職届と会社の承諾明示が確実な退職の条件です。これを怠ると撤回・紛争のリスクがあります。

よくある質問(FAQ)

Q 横領した社員が「やめます」と言っています。そのまま自主退職させてよいですか?
A

横領の金額・悪質性・これまでの経緯を踏まえて判断が必要です。自主退職を受け入れる選択肢もありますが、横領の金額を確定して返還の合意を取ること、退職届を書面で取得して承諾を明示することが必須です。重大な事案で示しをつける必要がある場合は懲戒解雇を選択することもあります。いずれの場合も弁護士に相談してから対応方針を決めてください。

Q 退職届を口頭でもらいました。書面は不要ですか?
A

必ず書面(退職届または退職合意書)で取得してください。口頭の退職申し出は会社の承諾前であれば撤回が可能です。横領・不正受給をした社員は信頼できませんので、書面の取得と会社による承諾の明示を記録に残すことが不可欠です。

横領・不正受給社員の退職対応でお困りの方はご相談ください

懲戒解雇すべきか・自主退職を受け入れるべきかの判断から、退職合意書の作成まで会社側弁護士が具体的にアドバイスします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/16