問題社員207 能力が極端に低い社員の対応で最初に考えなければならないこと

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この記事の要点

「能力不足」とは絶対的な能力の低さではなく、雇用契約で予定された能力と現実のギャップのことをいう

IQや一般的な能力の話ではなく、その雇用契約で求められている能力水準を下回っているかどうかで判断する

新卒・若手・未経験者歓迎の採用は「育てることが予定された契約」と解釈されやすい

そのような採用形態では、能力不足として主張するハードルが高くなり、「教育してもダメだった」という事実が必要になる

配置転換権限がある・実態として何でもやらせている会社では「どの仕事の能力不足か」が曖昧になりやすい

担当業務が明確でない職場環境では、「別の仕事なら問題ない」と反論されるリスクがある

高給・上位職での中途採用は「高い能力が予定されている」と評価されやすく、能力不足を主張しやすい

月給100万円の部長職など、給与水準と役職から高い能力が契約上予定されていると推測できるケースは対応しやすい

採用時に「何ができなければならないか」を書面で明確にしておくと、後の能力不足主張がしやすくなる

採用段階でのすり合わせと書面化が、いざというときの最大の備えになる

1. 「能力不足」の正確な意味とは何か

極端に能力が低い社員への対応を考える前に、まず「能力不足」という言葉の意味を正確に押さえておく必要があります。これを誤解したまま進めると、対応そのものが間違った方向に向かいます。

雇用の場面における「能力不足」とは、絶対的に仕事ができないこと、あるいはIQや一般的な能力が低いことを指すのではありません。

▶ 能力不足の正しい定義

「雇用契約・労働契約で予定されている能力」と「実際の能力」のギャップ——これが能力不足の意味です。仕事以外のことが全くできなくても問題はなく、あくまで「その契約で求められている仕事ができているかどうか」が問われます。

例えば、時給1,100円のアルバイトがその給与水準に見合った仕事をこなせているなら、絶対的な能力が低くても「能力不足」とは言えません。一方、月給100万円で採用した部長職が、アルバイトレベルの仕事しかできなければ、明らかに能力不足といえます。

「能力不足なのに解雇できないのはおかしい」とおっしゃる経営者の方も多いですが、その「能力不足」が法的な意味での能力不足にあたるかどうかをまず確認することが、対応の出発点です。

2. 採用形態によって「予定された能力」は変わる

(1) 新卒・若手・未経験者採用の場合

新卒で採用した社員や、社会経験の少ない若手、「未経験者歓迎」で採用した社員については、最初から高い即戦力を期待しているとはいえません。こうした採用は、「教育しながら育てていくことが最初から予定されている契約」と解釈されるのが普通です。

日本企業の多くは新卒一括採用や未経験者の育成を前提にした雇用をしています。その場合、「ポテンシャルがあれば採用する」という発想で雇っているわけですが、求人票にそのポテンシャルの具体的な内容が書かれているケースはほとんどありません。

⚠ 「育てる採用」では能力不足主張のハードルが高い

育成を前提にした雇い方では、「最初は仕事ができないのは想定内だったはず」と見られます。能力不足として主張するためには、「丁寧に教育しても全く身につかなかった」という具体的な事実の積み上げが必要になります。

(2) 高給・上位職での中途採用の場合

一方、40代以上の経験豊富な人材を部長職で月給100万円で採用するような場合は、話が異なります。給与水準と役職から、高い能力が契約上当然予定されていると解釈されます。

このような採用では、「その部長として割り当てられた仕事ができない」という事実が明確であれば、試用期間中の本採用拒否や、退職勧奨が認められやすい傾向にあります。

ただしこの場合も、「何ができなければならないのか」を採用時点でできる限り具体化しておくと、後の対応がよりスムーズになります。

3. 配置転換・多能工運用が「能力不足」の主張を難しくする

日本企業では、就業規則上に配置転換権限が定められていることが多く、実態として「人手が足りなければ他の人の仕事もフォローする」という多能工的な運用をしている会社が少なくありません。

こうした職場環境では、「どの仕事の能力不足なのか」が曖昧になります。ある担当業務の出来が悪くても、「別の仕事ならできる」「配置転換していないだけで、他の業務なら問題ない」という見方をされやすくなるのです。

⚠ 「なんでもやらせている」職場での注意点

実態として担当業務の垣根がなく何でもやらせているような運用をしていると、「一体どの仕事の能力不足なのか」という問いに答えるのが難しくなります。能力不足を主張するためには、「担当しうる仕事の範囲全体においてできない」ことを説明しなければならなくなるケースもあります。

こうした問題が生じやすい背景には、人手不足から誰でも何でもこなす運用が常態化していることがあります。経営者としては、この点を理解した上で対応を組み立てる必要があります。

4. 採用時の書面化が後の主張を支える

高給・上位職での採用であっても、育成型の採用であっても、共通して有効な備えが一つあります。それは、採用時に「何ができなければならないのか」を書面に残しておくことです。

「この給料でこの部署を任せるのだから、当然これくらいできるはずだ」という感覚は経営者として当然ですが、それが書面化されていなければ、後から法的に主張するのが難しくなります。

▶ 採用時に書面化しておくべき内容

・担当する業務の具体的な内容
・いつまでにどのレベルの仕事ができることを期待しているか
・試用期間中に確認する能力・成果の基準
・職務限定がある場合はその旨

こうした内容を労働契約書や職務要件書として残しておくことで、「契約で予定されていた能力」を具体的に示せるようになります。これが後に能力不足を主張する際の最大の根拠になります。

5. 雇い方を変えることも一つの選択肢

能力不足への対応が難しい根本的な原因の一つは、「育てることを前提にした雇い方」「何でもやらせる多能工運用」にあります。こうした雇い方はイメージが良く、採用でも好まれますが、いざ能力不足の問題が起きたときに対応しにくくなるという側面があります。

もし能力不足の社員にすっきりやめてもらえる体制を整えたいなら、雇い方自体を見直すことも選択肢の一つです。

▶ 対応しやすい雇い方の特徴

・担当業務を明確にした職務限定契約
・「この仕事ができることを前提に採用する」と明示した上での即戦力採用
・試用期間中の評価基準を書面で明確にした上での雇用

こうした雇い方にすれば、能力不足の主張がしやすくなる反面、採用の間口が狭くなったり、求人の印象が変わるリスクもあります。どちらを優先するかは経営判断ですが、「育てる雇い方をした以上、やめてもらうハードルが高くなるのは当然の帰結」という認識を持っておくことが重要です。

いずれにせよ、極端に能力が低い社員が出てきた場合、周囲のスタッフが負担を強いられます。経営者として現場の疲弊に目を向け、何らかの手を打つことは欠かせません。

6. まとめ

極端に能力が低い社員への対応を考える前に、まず「能力不足」の法的な意味を正確に理解することが出発点です。契約で予定された能力と現実のギャップ——これが全ての判断基準になります。

育てる採用をした場合

能力不足の主張ハードルが高い。「教育してもダメだった」という具体的事実の積み上げが必要

高給・上位職採用の場合

高い能力が予定されていると評価されやすく、能力不足を主張しやすい傾向にある

いずれの場合も

採用時に何ができなければならないかを書面化しておくことが、後の主張を大きく支える

対応に迷ったら、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

よくある質問(FAQ)

Q 新卒で採用した社員が全く仕事を覚えません。能力不足として解雇できますか?
A

新卒採用は「育てることが予定された契約」と解釈されるため、入社直後に仕事ができないこと自体は能力不足の根拠になりません。「丁寧に教育を繰り返しても一切身につかない」という具体的な事実を積み上げた上で判断することが必要です。

試用期間中に判断・対応することが最善です。早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

Q 就業規則に配置転換の規定がありますが、能力不足の社員をやめさせることはできますか?
A

配置転換権限がある場合、「現在の担当業務の能力不足」だけでは不十分になることがあります。「配置転換しうる業務の範囲全体でも能力が足りない」ことを示す必要が生じるケースもあります。実態として他の業務もやらせている場合はさらに複雑になります。個別の事情を踏まえた弁護士への相談をお勧めします。

Q 採用時に「何ができなければならないか」を書面に残すには、具体的にどうすればよいですか?
A

労働契約書に担当業務・職務要件・試用期間中の評価基準を記載する方法が有効です。即戦力採用であれば「○○の業務経験を前提に採用する」と明示することも考えられます。書面化の具体的な方法については、弁護士や社会保険労務士にご相談ください。

Q 能力が低い社員の対応で、周囲の社員が疲弊しています。経営者として何をすべきですか?
A

周囲の社員の疲弊を放置することは、職場全体のモチベーション低下や離職につながります。経営者として現場の負担を軽視しないことが重要です。

育成を継続するか、退職勧奨に向けて動くかを判断するためにも、早めに弁護士に現状を相談し、取りうる選択肢を整理することをお勧めします。

能力不足社員の対応でお困りの方はご相談ください

採用形態の見直し・書面化のサポート・退職勧奨の進め方など、会社側の立場に特化した弁護士が具体的にアドバイスします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14