問題社員200 能力が極端に低い社員の人事評価・賃金の問題についての注意点

動画解説

この記事の要点

人事評価は「ありのまま」に行うことが鉄則。能力が低くても高めにつけることは、後で会社の首を絞める

「能力低い」と言いながらずっと普通評価で来て、やめさせたいときだけ急に低評価にするのは、評価そのものの信頼性を失わせる

雇われの管理職は「実際より高く評価したがる」傾向がある。社長はこれを把握して管理職をマネジメントする必要がある

低い評価をつけると部下から文句を言われるため、管理職がなし崩し的に高評価をつけてしまうことが多い

給与を実力以上に払うと、やめてもらうのが逆に難しくなる。高い給与はやめてもらいにくさに直結する

「よくしてあげたんだからやめてほしい時は理解してほしい」という心理は通じない。高い給与はやめない動機になる

給与の減額は非常に難しい。弁護士と相談した上でしか行ってはならない

同意書にサインさせても「自由な意思による同意ではなかった」と裁判所に判断されることがある

「ありのままの人事評価+能力に見合った賃金」が、会社全体の公平性・信頼性を守り、将来の対応もしやすくする

適正な評価・賃金は、頑張っている他の社員への公平性確保にもつながる。会社の信頼を守る基盤となる

1. 人事評価は「ありのまま」に——高めにつける誘惑に負けない

(1) 「高くつけた方が気分がいい」という罠

能力が極端に低い社員を当面雇い続けるという場面で、多くの会社が陥りがちな問題があります。それが人事評価を実際より高くつけてしまうことです。

「能力が低い」と言いながら、人事評価はずっと普通(C評価など)のままにしている会社が非常に多くあります。その心理的な理由は単純です——実際より高く評価することは、気分がいいからです。「よくしてあげた」という満足感があります。低くつければ文句を言われます。だから高めにつけてしまう。

⚠ これが後で「詰み」の状況を作る

ずっとC評価で来ておいて、やめさせたい時だけ急にE評価にする——これは本人から「やめさせる目的で操作した」と見られます。また、人事評価制度そのものの信頼性が低下します。「気分でつけている評価」として見られ、退職勧奨の場面でも裁判の場面でも説得力を失います。

(2) 管理職が高く評価したがる構造的な問題

この問題は社長だけに起きるのではありません。むしろ雇われの管理職の方が、実際より高く評価しやすい傾向があります。なぜなら、低い評価をつけると部下から「なぜこんなに低いのか」と突き上げを受けるからです。その面倒を避けるために、実態より高めにつけてしまう管理職は非常に多いです。

「あの人は使えない」と人事部に文句を言いに来ておいて、人事評価では普通の評価をつけているというケースが実際に多くあります。社長は、管理職がこうした傾向を持つことを把握した上で、評価制度の運用をしっかりマネジメントする必要があります。

なお、実際より高い評価が続くと、「この会社は適当に働いていても高い評価がもらえる」と見られ、真面目に頑張っている他の社員への公平性も損なわれます。

2. 給与を高く払うと「やめてもらいにくくなる」という逆説

賃金についても、人事評価と同じ問題が起きています。能力が低いと思いながらも、昇給幅をあまり下げず、賞与もそれなりに払ってきた——こういった状況の会社が非常に多くあります。

そしてその状況で、藤田弁護士のところに相談に来る経営者の多くが言うのがこの言葉です。「業界水準より高いお金を払っているんだから、やめてもらうのは当然ではないですか?」

⚠ 逆です——高い給与はやめてもらいにくさに直結する

給与が高いほど、転職したら給与が下がる可能性が高くなります。給与が高ければ高いほど、その社員は「やめたくない」と思います。「よくしてあげたんだから、やめてほしいときは協力してほしい」という経営者側の心理は、全く通じません。逆に、給与が低い会社の方が退職勧奨に応じてもらいやすいのが現実です。

高い給与を払い続けた後にやめてもらおうとすると、相手は「それなりの解決金を積んでくれなければやめない」という交渉になります。よくしてあげたことが、かえって自分の首を絞める結果になるのです。

だからこそ、能力に見合った賃金を払うことが、長期的に会社を守るのです。採用時に高い給与を提示せざるを得なかった場合は、後述するように減額は非常に難しいため、少なくとも昇給・賞与については能力に見合った水準に抑えることが重要です。

3. 給与の減額は非常に難しい——弁護士相談なしには行わない

「採用時に高い給与を提示してしまったが、後から下げたい」という相談も多く受けますが、賃金の減額は法的に非常にハードルが高いです。

一方的に下げることは原則できません。本人の同意が必要ですが、その同意についても「自由な意思による同意かどうか」が裁判所に問われます。同意書にサインをもらっていても、「強制的に署名させられた」「不利益が大きすぎて真意の同意とはいえない」と判断されることがあります。

▶ 賃金減額に関するポイント

・能力低下を理由とした一方的な減額は原則できない
・本人の同意を得るにも「自由な意思による同意」が必要であり、やり方を誤ると裁判所に無効と判断される
・人事評価制度に基づいて昇給を抑制したり賞与を減らすことは比較的やりやすい
・いずれにせよ、弁護士への相談なしに実施してはならない

現実的な対応としては、採用時の基本給の減額はハードルが非常に高いため、まず昇給幅の圧縮・賞与の適正化から始めることが多いです。これらについては人事評価制度の運用として実施しやすい面があります。ただしこの場合も、制度の設計と運用の整合性が問われるため、弁護士・社会保険労務士と相談した上で進めることをお勧めします。

4. ありのままの評価が会社全体の公平性と信頼を守る

人事評価を実際より高くつけることの問題は、能力が低い社員だけの話ではありません。真面目に頑張っている他の社員への公平性も損なわれるのです。

「あの人は全然仕事していないのに、なぜ同じくらいの評価・賃金なのか」という不満は、優秀な社員のモチベーション低下・離職につながります。また、「この会社は適当にやっても高評価になる」という認識が広がれば、会社全体の生産性が下がります。

▶ ありのままの評価がもたらす効果

・評価制度への信頼性が上がる
・頑張っている社員への公平性が保たれる
・問題社員への退職勧奨の際に評価の一貫性を示せる
・「この会社はしっかり見てくれている」という社員全体の安心感につながる

実際より低い評価をして本人に文句を言われたとしても、具体的な事実に基づいて説明できれば対応できます。しかし実際より高い評価を続けて、後からそれを覆そうとすることははるかに難しくなります。

ありのままに・事実に基づいて・一貫して評価する——これが、会社を守るための人事評価の原則です。

5. まとめ

能力が極端に低い社員の人事評価・賃金については、「よくしてあげたい」という気持ちが逆効果を招くことを理解してください。

① 人事評価は「ありのまま」に——高めにつける誘惑に勝つ

能力低いと言いながら評価を高めにつけることは、後の退職勧奨・解雇の際に評価の信頼性を失わせます。気分や文句を避けるためではなく、事実に基づいた評価を一貫して行ってください。管理職も同じ傾向があることを把握し、評価制度の運用をマネジメントしてください。

② 給与は高すぎると「やめてもらいにくくなる」

高い給与は退職しない動機になります。「よくしてあげた」はやめてもらう交渉では通じません。昇給・賞与については能力に見合った水準を維持し、過剰に払わないことが将来の対応を楽にします。

③ 給与の減額は弁護士相談なしには行わない

賃金の減額は法的に非常に困難です。同意書のサインを取っても無効と判断されることがあります。実施する場合は必ず弁護士と相談の上、制度的な整備を含めて丁寧に進めてください。

よくある質問(FAQ)

Q 能力が低い社員の評価を今まで高めにつけてきました。今から正しい評価に変えてもいいですか?
A

変えること自体は問題ありませんが、急激に変えると「やめさせる目的の操作」と見られるリスクがあります。具体的な事実に基づいた評価の根拠を整えながら、段階的に適正な評価に移行することが現実的です。

また、評価を変える際は本人への説明をしっかり行うことが重要です。「この出来事があったから、この点がこう評価された」と具体的に説明できる準備をしてから進めてください。弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。

Q 採用時に高い給与を提示してしまいました。能力が低かったので下げたいのですが可能ですか?
A

基本給の減額は法的に非常に困難です。本人の自由な意思による同意が必要であり、その同意を取るための手続きも厳格に行わなければ無効とされる可能性があります。同意書のサインだけでは不十分な場合があります。必ず弁護士に相談した上で進めてください。まず昇給の抑制・賞与の見直しから取り組む方が現実的です。

Q 能力が低い評価をつけたら、本人から「おかしい、差別だ」と言われました。どう対応しますか?
A

具体的な事実に基づいて評価の根拠を説明することが対応の基本です。「何月何日のこの出来事から、この評価になった」と事実ベースで説明できれば、「差別だ」という主張への反論になります。逆に、事実ベースの説明ができない場合は評価制度や記録の整備が不十分である可能性があります。早めに弁護士・社会保険労務士に相談されることをお勧めします。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者 弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

 

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14