問題社員99 毎日2時間近く遅刻して出社し、注意しても口論になるだけで改善しない。

動画解説

 

1.問題は「定年」ではなく「今のマネジメント」にある

 毎日2時間近く遅刻し、注意しても口論になるだけで改善しない社員がいる場合、多くの会社経営者は「もうすぐ定年だから」「定年後は再雇用しなければいい」と考えがちです。しかし、この発想自体が問題の本質を見誤っています。

 問題の核心は、定年の有無ではなく、現在進行形で問題行動が放置されているマネジメント不全にあります。遅刻を繰り返し、自己申告で勤務時間を偽り、注意されても改めない行動は、すでに重大な職場秩序違反です。それにもかかわらず、十分な注意・指導や処分が行われていないのであれば、会社として「黙認している」と評価されかねません。

 定年まで我慢するという対応は、一時的に問題を先送りしているだけで、職場全体の規律を崩し、他の社員の士気を下げる結果を招きます。さらに、後になって再雇用を拒否しようとしても、「なぜ今まで問題にしなかったのか」と問われ、法的にも不利な立場に置かれるリスクがあります。

 会社経営者に求められるのは、「定年で何とかする」ことではなく、「今、この時点で適切なマネジメントを行う」ことです。問題社員への対応は、将来の再雇用問題ではなく、現在の経営課題として正面から向き合う必要があります。

2.毎日2時間近く遅刻する社員を放置する法的リスク

 毎日2時間近く遅刻して出社する社員を放置している状態は、単なる「困った社員がいる」というレベルの問題ではありません。会社経営者の立場から見ると、法的リスクを自ら拡大させている状態だと認識する必要があります。

 まず、遅刻という明確な規律違反を把握しながら是正しない場合、後になって注意や懲戒処分を行おうとしても、「これまで黙認していたではないか」と反論される可能性があります。会社が問題行動を認識しながら放置していた事実は、処分の正当性を弱める要因になりかねません。

 また、遅刻を繰り返しているにもかかわらず、通常どおり勤務しているかのような自己申告を受け入れ、賃金を満額支払っている場合、会社の管理体制そのものが問われます。実態と異なる労働時間申告を知りながら是正しないのであれば、会社として不適切な賃金管理を行っていると評価されるリスクもあります。

 さらに深刻なのは、こうした放置が「前例」になることです。一人の社員の遅刻を許容すれば、「あの人が許されているなら自分もいいだろう」という空気が生まれ、職場全体の規律が崩れていきます。これは単なる人事問題ではなく、経営上の統制問題です。

 会社経営者として重要なのは、「面倒だから」「もうすぐ定年だから」と問題を先送りしないことです。放置すればするほど、是正は難しくなり、後から取れる手段は確実に狭まっていきます。遅刻を繰り返す社員への対応は、早期に着手すべき経営判断の一つだと言えます。

3.注意しても口論になる社員に対し会社経営者が取るべき基本姿勢

 注意すると口論になる社員に対しては、「これ以上言っても無駄だ」「また揉めるだけだ」と対応を避けてしまいがちです。しかし、この姿勢こそが問題を深刻化させます。感情的に反発してくるかどうかは関係なく、会社経営者として取るべき対応は一貫しています

 まず重要なのは、「改善を求めること自体は正当であり、会社の権限である」という認識を持つことです。遅刻は明確な規律違反であり、注意されて当然の行為です。相手が感情的になろうと、口論を仕掛けてこようと、それによって注意や指導を控える理由にはなりません。

 ポイントは、感情論に引きずられず、事実とルールに基づいて淡々と対応することです。「何時に出社すべきか」「実際は何時に出社しているか」「それが会社のルールに反している」という事実関係を整理し、改善を求める。この基本を崩してはいけません。

 また、口論になることを恐れて注意を曖昧にすると、本人は「強く出れば会社は引く」と学習してしまいます。その結果、遅刻だけでなく、他の問題行動もエスカレートする可能性があります。

 会社経営者に求められるのは、「言い返してくる社員だから特別扱いする」のではなく、「問題行動がある社員には、誰であっても同じ基準で対応する」という姿勢です。この一貫性こそが、後の懲戒処分や再雇用判断を正当化する土台になります。

4.「過去に注意しても改善しなかった」は理由にならない

 会社経営者の方からよく聞くのが、「過去に上司が注意したが、口論になるだけで改善しなかった」という説明です。しかし、この事情は現在対応しない理由にはなりません。むしろ、適切なマネジメントが行われてこなかったことを示しているにすぎません。

 過去に改善しなかったという事実は、「その社員が指導に応じない人物である」ことを直ちに意味するものではありません。注意の仕方が曖昧だった、記録が残っていなかった、注意する側が途中で引いてしまったなど、会社側の対応に問題があった可能性も十分に考えられます。

 重要なのは、「誰が」「どの立場で」「どのような手順で」対応したのかです。現場の上司が適切な指導能力を持っていなかった場合、改善しなかったのは当然とも言えます。その場合でも、「だから仕方がない」と放置するのではなく、対応できる立場・能力のある者が改めて対応する必要があります。

 会社経営者として押さえておくべき点は、「過去に失敗した対応」と「これから行う適切な対応」は別物だということです。これまで是正できなかったからといって、今後も是正できないと決めつける必要はありません。

 むしろ、これまでの対応が不十分だったのであれば、今からでも正式な注意・指導を行い、記録を残し、段階的に対応を進めるべきです。過去を理由に何もしないことこそが、会社経営者にとって最もリスクの高い選択だと言えるでしょう。

5.管理職が機能していない場合の会社経営者の責任と対応

 このような遅刻問題が長期間放置されているケースでは、問題社員本人だけでなく、管理職が本来の役割を果たしていない可能性を直視する必要があります。注意しても改善しない、口論になるから放置しているという状況は、マネジメントが機能していない状態です。

 確かに、日常的な労務管理や指導は管理職の役割です。しかし、その管理職が適切に対応できていないのであれば、「管理職の責任だから」と切り離して考えることはできません。なぜなら、その管理職をその地位に置き、権限を与えているのは会社経営者だからです。

 管理職が問題社員に対して必要な注意・指導を行わず、結果として職場秩序が乱れているのであれば、会社経営者として対応すべき段階に入っています。具体的には、管理職に対して指導方法や対応方針を明確に指示する、場合によっては対応できる別の人物に役割を担わせるといった判断が求められます。

 「管理職に任せているのに動かない」という状況は、任せ方そのものを見直す必要があるサインです。任せた以上は放置するのではなく、きちんと機能しているかを確認し、機能していなければ是正する。これも会社経営者の重要な仕事です。

 問題社員への対応が進まない背景に管理職の機能不全がある場合、そこに手を入れない限り状況は改善しません。社員だけでなく、管理職も含めてマネジメント体制を立て直すことが、根本的な解決につながります。

6.遅刻を黙認し賃金を満額支払うことの問題点

 毎日2時間近く遅刻しているにもかかわらず、自己申告に基づいて賃金を満額支払っている状態は、会社経営者として極めて注意すべき状況です。これは単なる「運用の甘さ」ではなく、賃金管理と労務管理の根幹に関わる問題だからです。

 まず確認すべきは、会社のルールです。遅刻しても時間控除をしない制度を正式に定め、その内容を会社経営者自身が納得した上で運用しているのであれば、それ自体は経営判断として成立します。しかし、遅刻した場合は時間控除するというルールが存在するにもかかわらず、実際には控除していないのであれば、それは明確なマネジメント不全です。

 特に問題なのは、実際の出社時刻と異なる自己申告を把握しながら、それを是正していないケースです。現実には遅刻していることを認識していながら、申告どおりの賃金を支払っていれば、「黙認していた」と評価される可能性が高くなります。後になって賃金控除や懲戒処分を行おうとしても、正当性が弱まる原因になります。

 「企業風土だから」「今さら厳しくできない」という理由で放置することは、経営判断として極めて危険です。どういう会社にしたいのか、遅刻に対してどこまで許容するのかを、会社経営者自身が明確に決め、その判断に沿った運用を行う必要があります。

 賃金の支払い方は、社員へのメッセージそのものです。遅刻しても満額支払われる状態を続ける限り、規律を求める姿勢は伝わりません。問題社員への対応以前に、会社経営者として自社のルールと運用が一致しているかを、今一度見直すことが不可欠です。

7.企業風土とルール運用を会社経営者がどう判断すべきか

 遅刻を繰り返す社員への対応について、「うちは昔から細かいことを言わない企業風土だから」「厳しくすると雰囲気が悪くなる」という理由で、明確な対応を避けている会社も少なくありません。しかし、企業風土とルール運用をどうするかを決めるのは、会社経営者自身の責任です。

 企業風土とは、自然にできあがるものではなく、経営判断と日々の運用の積み重ねによって形成されます。遅刻を事実上容認し、賃金も満額支払う運用を続けていれば、「時間にルーズでも問題にならない会社」という風土が作られていくのは当然です。これは偶然ではなく、会社経営者の選択の結果です。

 一方で、「ルールはあるが、運用していない」という状態は最も危険です。表向きは遅刻を認めない規程がありながら、実際には注意も処分もせず、賃金もそのまま支払っている場合、社員からすれば「守らなくてもいいルール」になります。この状態では、いざ問題社員に厳しい対応を取ろうとしても、説得力を欠いてしまいます。

 会社経営者として重要なのは、「どういう職場を作りたいのか」を明確にし、その方針に合ったルールと運用を一致させることです。遅刻をある程度許容する会社にしたいのであれば、それを前提とした制度設計をすべきですし、規律を重視するのであれば、例外なく運用する覚悟が必要です。

 企業風土を理由に対応を先送りするのではなく、企業風土そのものをどう作り直すのかという視点で判断することが、問題社員対応を進める上で欠かせないポイントになります。

8.段階的な注意・指導・懲戒処分の進め方

 毎日2時間近く遅刻している社員に対し、いきなり重い懲戒処分を行うことは現実的ではありません。特に、これまで明確な指導や処分を行ってこなかった場合には、段階的な対応を踏むことが不可欠です。

 まず行うべきは、正式な場での注意・指導です。口頭での軽い注意ではなく、会議室などで事実関係を整理した上で、「遅刻は会社のルールに反しており、改善を求める」という点を明確に伝えます。この段階では、感情論を排し、日時・回数・ルール違反の内容を具体的に示すことが重要です。

 それでも改善が見られない場合には、書面による注意や警告に進みます。注意書や指導書を交付し、「今後も同様の行為が続いた場合は、懲戒処分の対象になる」ことを明示します。ここで初めて、将来の処分とのつながりを本人に理解させることができます。

 さらに是正されない場合には、戒告、減給、出勤停止など、就業規則に基づいた懲戒処分を段階的に検討していくことになります。この際に重要なのは、「突然厳しくなった」と言われないよう、これまでの注意・指導の経過が整理され、記録として残っていることです。

 会社経営者として意識すべきなのは、処分そのものが目的ではないという点です。本来の目的は問題行動を改善し、職場秩序を回復することにあります。そのためにも、段階を踏んだ対応を行い、「会社は本気で是正を求めている」というメッセージを明確に伝えることが重要です。

9.いきなり重い処分が難しい場合の現実的な対応策

 これまで遅刻が黙認されてきたケースでは、「本来は懲戒処分に相当する行為であっても、いきなり重い処分は難しい」という場面が多く見られます。この点を理解せずに拙速な対応を取ると、後になってトラブルが拡大するおそれがあります。

 過去の運用に問題があった場合、まず必要なのは「これまでの扱いを改める」という宣言です。会社経営者として、「今後は遅刻を許容しない」「これからはルールどおり対応する」という方針を明確に伝え、本人にも認識させる必要があります。ここを曖昧にしたまま処分に進むのは危険です。

 現実的な対応としては、最初に警告的な注意を行い、「これ以上は認められない」というラインをはっきり示すことが重要です。その上で、改善が見られなければ、段階的に処分を重くしていく流れを作ります。これにより、「突然厳しくなった」「納得できない」といった反発を抑えることができます。

 また、この段階では必ず記録を残すことが欠かせません。注意した日時、内容、本人の反応を整理しておくことで、後の懲戒処分や再雇用判断の根拠になります。記録のない対応は、後からなかったことにされかねません。

 会社経営者として意識すべきなのは、「過去に甘かったから今後も甘くする」必要はないという点です。過去の運用を是正すること自体は正当であり、正しい手順を踏めば、現実的かつ安全に対応を進めることができます。

10.定年後再雇用を拒否できるケースとできないケース

 問題社員について、「定年後は再雇用したくない」と考える会社経営者は少なくありません。しかし、定年後再雇用を拒否できるかどうかは、感情ではなく、それまでの対応経過によって決まります。

 定年後再雇用は、原則として会社が一方的に拒否できるものではありません。勤務態度や業務遂行能力に重大な問題があり、解雇に近いレベルの合理的理由がある場合に限り、再雇用しない判断が正当化される余地が出てきます。

 ところが、毎日2時間近く遅刻していたにもかかわらず、注意や処分をほとんど行わず、賃金も満額支払ってきた場合、「それほど問題ではなかったのではないか」と評価されるリスクがあります。この状態で突然「再雇用しない」と判断しても、正当性を確保するのは困難です。

 一方で、定年前に適切なマネジメントを行い、注意・指導・懲戒処分を段階的に実施した結果、それでも改善が見られないという経過があれば、再雇用を拒否できる可能性は高まります。重要なのは、問題行動と会社の対応が記録として積み上がっていることです。

 会社経営者として理解しておくべきなのは、再雇用問題は定年時点で突然判断するものではないという点です。再雇用を拒否できるかどうかは、定年前のマネジメントの結果であり、その成否は日々の対応にかかっています。

11.再雇用問題は「事後対応」ではなく「事前対応」で決まる

 定年が近づいてから「この社員は再雇用したくない」と考え始める会社経営者は少なくありません。しかし、再雇用できるかどうかは、その時点の判断ではなく、定年前にどのようなマネジメントを行ってきたかによって、ほぼ結論が出ていると言っても過言ではありません。

 問題社員に対して、定年前は遅刻を黙認し、注意も処分も行わず、「定年になったら何とかしよう」と考えていた場合、その姿勢自体が再雇用拒否を難しくします。なぜなら、会社自身が問題行動を重大視していなかったと評価されてしまうからです。

 一方で、定年前の段階で、注意・指導を行い、書面で警告し、必要に応じて懲戒処分を実施していれば、「それでも改善しなかった」という事実を積み上げることができます。この経過こそが、再雇用しない判断の土台になります。

 会社経営者として意識すべきなのは、「再雇用を断るために動く」のではなく、「問題行動を是正するために動く」という姿勢です。その結果として改善されれば、それは会社にとっても望ましいことですし、改善されなければ再雇用を見送る判断につながる可能性が出てきます。

 再雇用問題を定年時の一発勝負にしないことが重要です。日々のマネジメントを積み重ねることが、将来の選択肢を広げる唯一の方法だという点を、会社経営者は理解しておく必要があります。

12.定年前に適切なマネジメントを行うことの経営的意味

 問題社員への対応を定年まで先送りするという判断は、一見すると衝突を避ける穏便な選択に見えるかもしれません。しかし、経営の視点から見ると、これは組織全体に悪影響を及ぼす極めてコストの高い判断です。

 遅刻や規律違反を放置すれば、「真面目に働く社員が損をする会社」というメッセージが職場に広がります。その結果、周囲の社員のモチベーションは低下し、管理職の統制力も失われていきます。問題社員一人を守るために、組織全体の秩序と生産性を犠牲にすることになりかねません。

 また、定年前にマネジメントを行わなかった場合、再雇用問題だけでなく、解雇や処分の判断においても会社側が不利な立場に立たされます。「なぜもっと早く対応しなかったのか」という問いに、合理的な説明ができなくなるからです。

 逆に、定年前の段階で問題行動に正面から向き合い、注意・指導・処分を適切に積み重ねていけば、職場の規律は回復し、管理体制も引き締まります。結果として、再雇用するにしても、しないにしても、会社経営者が主体的に判断できる状態を作ることができます。

 問題社員への対応は、個別の人事トラブルではありません。会社経営者がどのような組織を作り、どのような価値観を共有するのかを示す経営行為そのものです。定年に頼るのではなく、今この時点で適切なマネジメントを行うことが、健全な会社経営につながります。

 

最終更新日2026/2/14


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