問題社員96 他責傾向が強い。

動画解説

 

1. 他責傾向が強い社員が職場にもたらす深刻な影響

 問題行動を指摘すると、「会社が悪い」「上司が悪い」「同僚が悪い」と周囲のせいにばかりする社員が職場にいる場合、会社経営者としては大きな負担を感じることになります。注意しても改善が見られず、指導そのものが億劫になってしまうからです。

 しかし、このような社員を放置した場合に生じる影響は、想像以上に深刻です。まず、職場の雰囲気が確実に悪化します。他責的な発言が繰り返されることで、周囲の社員は不快感や不公平感を覚え、「なぜあの人だけ許されているのか」という不満を抱くようになります。

 その結果、職場全体の生産性が下がります。業務上のミスやトラブルが起きても、原因を冷静に振り返る文化が育たず、責任の押し付け合いが起こりやすくなるからです。これは、会社にとって非常に危険な状態です。

 さらに問題なのは、真面目に働いている社員ほどダメージを受けやすいという点です。「この職場で働き続ける意味があるのだろうか」「もっと雰囲気の良い会社に転職した方がいいのではないか」と考え、優秀な人材が離れてしまう可能性もあります。

 他責傾向が強い社員の問題は、本人一人の問題にとどまりません。周囲の社員、アルバイト、パートを含めた職場全体を巻き込み、会社の基盤を徐々に弱らせていきます。

 だからこそ、会社経営者としては「注意しても直らないから仕方がない」と諦めるのではなく、職場を守るための経営判断として、この問題に向き合う必要があります。放置は最も悪い選択肢であり、対応すること自体が会社を守る行為なのです。

2. 「性格を直させよう」と考えてはいけない理由

 他責傾向が強い社員に直面したとき、会社経営者がつい考えてしまうのが、「この考え方を改めさせなければならない」「性格を直させないといけない」という発想です。しかし、この方向で対応を進めることは、実務的にはほとんど成果につながりません。

 そもそも、労働契約は「給料を支払い、業務に従事してもらう契約」です。社員の価値観や物の考え方、性格そのものを会社が変更させることは、労働契約上も現実的ではありません。どのような考え方を持つかは、原則として本人の自由です。

 他責傾向が強い社員の多くは、意識的に人のせいにしているわけではありません。本人の中では、半ば自動的にそのような受け答えが出てしまっているケースが大半です。いわば「自動運転モード」のような状態で、深く考えずに発言していることも少なくありません。

 このような状態に対して、「考え方を変えろ」「反省しろ」と迫っても、本人にはなぜ指摘されているのかが理解できず、防御的な反応を強めるだけになりがちです。その結果、指導する側の負担が増し、関係性も悪化します。

 会社経営者として重要なのは、「性格を直すこと」を目的にしないことです。目指すべきは、職場の秩序を乱さず、業務に支障が出ない形で働いてもらうことです。思想や内面ではなく、あくまで外に表れる具体的な行動が問題になります。

 たとえ内心で他責的な考えを持っていたとしても、職場での言動が適切であれば、会社として大きな問題にはなりません。逆に言えば、問題視すべきなのは「人のせいにする考え方」ではなく、「職場で不適切な言動を取っている」という事実です。

 この整理ができていないと、対応は必ず行き詰まります。会社経営者は、変えられないものにエネルギーを使うのではなく、変えられるもの、つまり具体的な行動に焦点を当てて対応していく必要があります。

3. 会社経営者が最初にフォーカスすべき視点

 他責傾向が強い社員に対応する際、会社経営者が最初にフォーカスすべきなのは、「その社員の考え方をどう変えるか」ではありません。最優先すべき視点は、「職場の秩序を乱さずに働いてもらうこと」です。

 この視点を誤ると、対応は必ず迷走します。「なぜ分かってくれないのか」「なぜ反省しないのか」と、本人の内面に踏み込もうとすればするほど、対立が深まり、改善から遠ざかってしまいます。

 会社経営者の立場から見れば、労働契約の本質は明確です。会社は賃金を支払い、社員には職場のルールを守り、業務を円滑に遂行してもらう。この枠を超えて、考え方や価値観そのものにまで踏み込む必要はありませんし、踏み込むべきでもありません。

 他責傾向は、あくまで問題行動の「原因」にすぎません。会社として直接是正を求めることができるのは、「結果として現れている具体的な行動」です。例えば、不適切な発言、周囲の士気を下げる言動、業務を停滞させる態度などがこれに当たります。

 ここでフォーカスすべきなのは、「その行動が職場にどのような悪影響を与えているのか」「どの行動をどのように変えてほしいのか」という点です。抽象的な人格評価や性格批判は、一切不要です。

 また、この視点を明確にしておくことで、会社経営者自身の心理的負担も軽くなります。「この人を変えなければならない」と考えると途方に暮れますが、「この行動を是正する」と考えれば、対応は現実的になります。

 他責傾向が強い社員への対応は、感情論ではなく、秩序維持のための経営判断です。まずは「職場の秩序を守る」という一点に軸足を置き、そこから具体的な対応を積み上げていくことが、問題解決への最短ルートとなります。

4. 他責傾向と労働契約上の整理

 他責傾向が強い社員への対応を考えるうえで、会社経営者が必ず押さえておくべきなのが、「労働契約上、会社が何を求めることができるのか」という整理です。この整理が曖昧なまま対応すると、指導が感情論に流れやすくなります。

 労働契約は、会社が賃金を支払い、社員が労務を提供するという契約です。したがって、会社は社員に対して「職場の秩序を守って働くこと」「業務を円滑に遂行すること」を求めることができます。

 一方で、社員の思想信条や価値観、物事の捉え方そのものを変えるよう求めることは、労働契約の範囲を超えます。「もっと前向きに考えろ」「人のせいにする考え方をやめろ」といった要求は、法的にも実務的にも不安定です。

 ここで重要なのは、「他責傾向そのもの」は直接の指導対象ではない、という点です。他責傾向は、あくまで内面の傾向であり、それ自体を理由に是正を求めることはできません。

 会社が問題にできるのは、その傾向が外に表れた「具体的な言動」です。例えば、会議で上司や同僚を非難する発言を繰り返す、注意を受けた際に職場の秩序を乱すような発言をする、といった行動です。

 これらは、「職場の秩序を乱す行為」「業務遂行上不適切な言動」として、労働契約上の問題として整理することができます。この整理ができていれば、指導の軸が明確になります。

 逆に、「性格が悪い」「考え方が問題だ」といった評価を前面に出してしまうと、指導は感情的になり、本人の反発を招くだけでなく、後々トラブルに発展するリスクも高まります。

 会社経営者としては、「変えられない内面」と「是正を求められる行動」をきちんと切り分けることが不可欠です。この切り分けができていれば、他責傾向が強い社員への対応は、法的にも実務的にも安定したものになります。

5. 抽象論ではなく「具体的な言動」を指導する重要性

 他責傾向が強い社員への対応で、会社経営者が最もやってはいけないのが、抽象的な注意で終わらせてしまうことです。「すぐ人のせいにするのはやめた方がいい」「考え方を改めた方がいい」といった指導は、一見もっともらしく聞こえますが、実務上ほとんど効果がありません。

 なぜなら、このような抽象論は、本人にとって「何をどう変えればいいのか」が全く分からないからです。その結果、「ただ否定された」「嫌われている」と受け取られ、反発や防御的な態度を強めることになりがちです。

 会社経営者として行うべきなのは、「具体的な言動」に焦点を当てた指導です。いつ、どこで、誰に対して、どのような発言や行動をしたのかを明確にし、その行動が職場にどのような影響を与えたのかを説明してください。

 例えば、「先日の会議で、業務の遅れについて『〇〇さんが悪い』と発言した点について話します」といった形で、事実を特定します。そして、「その発言により、会議の目的が逸れ、他の社員が発言しづらくなった」と、問題点を具体的に伝えます。

 そのうえで、「今後は、原因や改善策を事実ベースで整理して発言してください」「誰かを非難する言い方は控えてください」と、求める行動を具体的に示します。ここまで落とし込んで初めて、指導として意味を持ちます。

 「自分の頭で考えてください」という言い方も、初期段階ではあまり効果がありません。これまでの行動パターンで問題が起きている以上、最初は会社側が「どうすればよいのか」を具体的に示す必要があります。

 抽象論を避け、具体的な言動を一つ一つ取り上げて是正していくことは、確かに手間がかかります。しかし、このプロセスを省略すると、問題行動はほぼ確実に繰り返されます。

 他責傾向が強い社員への指導では、「人格」や「性格」ではなく、「事実としての言動」を扱う。この姿勢を徹底することが、職場の秩序を守り、無用な対立を避けるための最も実務的な方法です。

6. 5W1Hで行う注意指導の実務ポイント

 他責傾向が強い社員への注意指導を実効性のあるものにするためには、「5W1H」を意識した指導が不可欠です。感覚的・抽象的な指摘ではなく、事実を軸にした対話に切り替えることが重要になります。

 まず、「いつ(When)」「どこで(Where)」という時間と場所を特定してください。例えば、「先週の朝礼で」「〇月〇日の打ち合わせの場で」といった形です。これにより、話が曖昧になるのを防げます。

 次に、「誰に(Who)」「何を(What)」「どのように(How)」です。「〇〇さんに対して」「『〇〇が悪い』という発言をした」「強い口調で責任を押し付ける言い方をした」など、具体的な言動をそのまま取り上げます。

 そして最も重要なのが、「なぜ問題なのか(Why)」を会社の視点で説明することです。「その発言により、話し合いが前に進まなかった」「周囲が発言しづらくなった」「職場の雰囲気が悪くなった」といった、業務や秩序への影響を説明します。

 このとき注意すべきなのは、「あなたの性格が悪いから」「考え方がおかしいから」といった評価を一切入れないことです。あくまで、会社として困っているのは“行動の結果”である、という整理を崩さないようにしてください。

 最後に、「どう改善してほしいのか」を具体的に示します。「原因と改善策を事実ベースで説明する」「他人を非難する言い方はしない」「自分ができる対応を先に述べる」といったように、次に取るべき行動を明確に伝えます。

 5W1Hを使った注意指導は、準備が必要で、最初は負担に感じるかもしれません。しかし、このプロセスを踏むことで、指導内容がブレなくなり、本人も「何を求められているのか」を理解しやすくなります。

 他責傾向が強い社員ほど、抽象論では反発し、具体論では反論しづらくなります。だからこそ、感情ではなく、事実と行動を軸にした5W1Hの指導が、最も実務的で効果的な方法なのです。

7. 注意指導を行う場所・方法の選び方

 他責傾向が強い社員への注意指導では、「何を言うか」と同じくらい、「どこで、どのように言うか」が重要になります。場所や方法を誤ると、内容が正しく伝わらず、かえって反発を強めてしまうことがあります。

 原則として、通常の注意で改善しない場合は、会議室などの個室で面談形式を取ることをお勧めします。周囲に他の社員がいる環境では、本人が防御的になりやすく、建設的な話し合いになりにくいからです。

 軽微な指摘で済む場合であれば、自席付近で短く伝えることも考えられます。しかし、他責的な言動が繰り返されている場合や、これまでの指導で改善が見られない場合には、改まった場を設けるべきです。

 遠隔地勤務や支店勤務の場合には、TeamsやZoomなどのオンライン会議ツールを活用するのも有効です。その際は、必ず双方が顔出しで行うようにしてください。顔が見えることで情報量が増え、相手の反応を確認しながら話を進めることができます。

 電話のみでの指導は、できる限り避けた方がよいでしょう。表情や態度が分からないため、言葉がきつく受け取られたり、逆にこちらの意図が軽く受け止められたりするリスクがあります。

 また、「調子が悪いから顔を出せない」と言われた場合でも、常態化させるべきではありません。重要な注意指導の場面では、顔を出して話をすることを原則とし、例外は慎重に判断してください。

 対面での面談が可能であれば、それが最も確実です。移動の手間や時間はかかりますが、問題が長期化するリスクを考えれば、十分に検討する価値があります。会社経営者自身が直接対応する場面も、決して珍しいことではありません。

 注意指導は、単なる注意ではなく、職場の秩序を守るための重要なマネジメント行為です。内容だけでなく、場所と方法にも意識を向けることで、指導の実効性は大きく変わります。

8. 誰が対応すべきかという担当者選定の考え方

 他責傾向が強い社員への対応では、「何を言うか」と同時に、「誰が言うか」が結果を大きく左右します。対応する担当者の選定を誤ると、正しい内容を伝えても全く響かない、という事態になりがちです。

 まず前提として理解していただきたいのは、この種の対応には一定の対人スキルと言語能力が求められるという点です。具体的な言動を整理し、冷静に説明し、相手の反発にも感情的にならずに対応する必要があります。

 そのため、「肩書が上司だから」「形式上の直属だから」という理由だけで担当者を決めるのは危険です。普段のマネジメントが苦手な上司に無理に任せると、指導が曖昧になったり、途中で対応が止まったりするケースが少なくありません。

 もし社内に、人の話を整理して伝えるのが得意な管理職や、人事対応に慣れている担当者がいるのであれば、その人物が前面に出ることを検討すべきです。形式よりも実効性を優先することが重要です。

 支店や遠隔地の社員で、人事担当者が直接対応できない場合でも、TeamsやZoomなどを使えば、顔を合わせた注意指導は十分可能です。場所の問題を理由に、対応の質を落とす必要はありません。

 一方で、「社内に適任者がいない」という会社も少なくないでしょう。その場合は、会社経営者自身が対応することを避けるべきではありません。社員数が少ない会社や、管理職層が薄い会社では、経営者が直接対応することは現実的であり、むしろ自然な選択です。

 「自分は対話が得意ではない」「こういう話は苦手だ」と感じる会社経営者もいらっしゃると思います。しかし、他責傾向が強い社員を放置することで生じる職場への悪影響を考えれば、ここは腹をくくって向き合う必要があります。

 どうしても不安がある場合は、弁護士など外部専門家の助言を受けながら対応するのも有効です。ただし、「問題があるか」「言ってはいけないか」だけを確認するのではなく、「どういう順序で、どういう言葉を使えば効果的か」という実践的な視点で相談することが重要です。

 担当者選定は、単なる人選の問題ではありません。会社として本気で問題に向き合う姿勢を示す行為でもあります。最も適切な人物が、最も適切な形で対応することが、改善への近道となります。

9. 一時的な指導で終わらせないマネジメントの工夫

 他責傾向が強い社員への対応で、会社経営者が陥りやすい失敗の一つが、「一度しっかり注意したから、もう大丈夫だろう」と考えてしまうことです。しかし、このタイプの問題は、一度の指導で根本的に改善することはほとんどありません。

 注意指導の場では、一時的に態度が改まったように見えることがあります。「分かりました」「気をつけます」といった言葉が出てくると、対応した側としては安心してしまいがちです。しかし、これはあくまでその場をやり過ごす反応であることも少なくありません。

 他責傾向が強い社員の場合、普段のマネジメントが元に戻ると、行動も元に戻るケースが非常に多いです。つまり、単発の注意指導だけでは不十分であり、その後のフォローが極めて重要になります。

 具体的には、注意指導で示した「求める行動」が、その後の業務の中で守られているかを継続的に確認する必要があります。問題行動が再び見られた場合には、「前回の指導内容」と結びつけて、すぐに指摘してください。

 このとき重要なのは、「また同じことをしている」「全然反省していない」といった感情的な言い方をしないことです。「前回の面談で、こういう言動は控えてほしいと伝えましたが、今回も同様の発言がありました」と、事実ベースで淡々と確認することがポイントです。

 また、普段の上司のマネジメント能力も結果に大きく影響します。注意指導を社長や人事がうまく行っても、日常的に関わる上司が適切なマネジメントをできていないと、元の状態に戻ってしまうことが少なくありません。

 そのため、必要に応じて上司の変更や、フォロー役の追加を検討することも選択肢になります。現実的に難しい場合であっても、「問題が起きたときは必ず会社として対応する」という姿勢を継続的に示すことが重要です。

 他責傾向が強い社員への対応は、短距離走ではなく長距離走です。一度の指導で終わらせず、日常のマネジメントの中で繰り返し確認・是正を行う。この積み重ねがなければ、職場の秩序は守れません。

10. 他責傾向が強い社員を放置しないための総まとめ

 他責傾向が強い社員への対応について解説してきましたが、会社経営者として最も重要なのは、「性格を直そうとしない」「放置しない」という2点です。このバランスを誤ると、問題は確実に悪化します。

 他責傾向そのものは、会社が直接コントロールできるものではありません。考え方や価値観を変えさせようとする対応は、実務的にも法的にも不安定で、結果として対立を深めることになりがちです。

 一方で、「どうせ直らないから」と放置してしまえば、職場の秩序は崩れ、周囲の社員やアルバイトに悪影響が広がります。真面目に働いている人ほど不満を抱え、最終的には会社を離れてしまう可能性もあります。

 だからこそ、会社経営者が取るべき姿勢は明確です。内面ではなく、外に表れた「具体的な言動」にフォーカスし、職場の秩序を乱す行動については、事実ベースで是正を求め続けることです。

 その際、抽象的な注意や感情的な叱責は避け、5W1Hを意識した具体的な指導を積み重ねていく必要があります。また、一度の注意で終わらせるのではなく、日常のマネジメントの中で継続的に確認・是正を行うことが欠かせません。

 対応する担当者の選定や、必要に応じた人事・社長自身の関与も、経営判断の一部です。「誰がやるべきか」「どの方法が最も実効性があるか」を冷静に考え、会社として最善の対応を選択してください。

 他責傾向が強い社員への対応は、決して楽ではありません。しかし、この問題に正面から向き合うことは、問題社員一人のためではなく、職場全体を守るための経営行為です。

 放置せず、感情論に走らず、具体的な行動改善を積み重ねる。この姿勢を貫くことができれば、職場の秩序は守られ、会社全体の健全性も維持されていきます。

 

最終更新日2026/2/10


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