問題社員69 挨拶ができない。
目次
動画解説
1. 挨拶ができない社員は経営上どのような問題か
挨拶ができない社員の問題は、単なるマナーや礼儀の話として軽く扱われがちですが、会社経営者の視点から見ると、組織運営や対外的評価に直結する経営上の問題です。「挨拶くらいで大げさではないか」と感じる場合こそ、注意が必要です。
まず、社内において挨拶ができない社員が存在すると、職場の空気が悪くなります。声をかけても返事がない、目を合わせない、といった行動が続くと、周囲の社員は「関わりにくい」「何を考えているのか分からない」と感じるようになります。その結果、情報共有が滞り、報連相が減り、業務効率の低下につながります。
さらに問題なのは、挨拶ができない社員が職場の基準を下げてしまう点です。「あの人が挨拶しなくても何も言われないなら、自分もしなくていいのではないか」という空気が広がると、組織全体の規律が緩みます。これは一人の問題に見えて、実際には組織全体に影響を及ぼします。
対外的な影響も見逃せません。来客対応や取引先とのやり取りの場面で、社員が挨拶をしない、あるいは極端に素っ気ない態度を取れば、「この会社は社員教育ができていない」「社内の雰囲気が悪そうだ」という印象を与えかねません。これは、会社の信用やブランドに直接関わる問題です。
会社経営者として注意すべきなのは、挨拶の問題を「本人の性格だから」「内向的なタイプだから」と個人の問題として処理してしまうことです。挨拶は、個人の好みや感情の問題ではなく、職場で求められる基本的な行動として整理すべきものです。
また、挨拶ができない社員が放置されている状態は、「会社として何を求めているのかが曖昧である」というメッセージにもなります。行動基準が示されていなければ、社員は「やらなくても問題にならない」と学習してしまいます。これは経営者の意思が十分に伝わっていない状態とも言えます。
挨拶ができない社員の問題は、感情論で叱るべき話ではありません。会社としてどのような行動を求め、それをどう管理するかという、経営判断の問題です。この認識を持たなければ、注意や指導をしても一時的な効果にとどまり、根本的な改善にはつながりません。
この点を踏まえたうえで、次に考えるべきなのは、「挨拶は常識だから分かっているはず」という前提が、なぜ危険なのかという問題です。
2. 「常識だから」で片付けてはいけない理由
挨拶ができない社員に対して、多くの会社経営者が無意識のうちに前提としているのが、「挨拶は社会人の常識だ」という考え方です。この前提自体は間違いではありませんが、経営上の対応としては非常に危うい発想でもあります。
なぜなら、「常識だから分かっているはず」「言わなくてもできて当然」という考え方は、会社としての指示や基準を示していない状態を正当化してしまうからです。結果として、挨拶をしない社員に対しても、「本当は注意すべきだが、言うほどのことではない」と対応が曖昧になり、問題が放置されがちになります。
実務上、挨拶ができない社員の多くは、「挨拶が重要だと理解していない」か、「どの程度・どの場面で求められているのか分かっていない」状態にあります。本人にとっては、無視しているつもりはなく、「業務に直接関係ない」「自分なりには問題ない」と認識しているケースも少なくありません。
ここで「常識だろう」と感情的に注意してしまうと、社員は「人格を否定された」「価値観を押し付けられた」と受け止めやすくなります。その結果、反発や萎縮を招き、かえって職場の雰囲気が悪化することもあります。これは、改善を目的とした対応とは言えません。
会社経営者として重要なのは、「常識だから」ではなく、**「会社として求める行動だから」**という整理をすることです。挨拶が必要なのは、礼儀の問題ではなく、職場の円滑なコミュニケーションや対外的な信用を維持するためであり、業務運営上の必要性があるからです。
この整理ができていないと、「注意する人」「見て見ぬふりをする人」が職場内に混在し、対応にばらつきが生じます。その結果、社員は「結局、やらなくても問題にならない」と学習してしまい、挨拶の習慣は定着しません。
また、「常識」という言葉で片付けてしまうと、後から指導や評価に反映させる際の根拠も弱くなります。会社として明確に求めていない行動について、「できていない」と評価することは、トラブルの原因にもなりかねません。
挨拶の問題を適切に扱うためには、「常識」という曖昧な言葉を使うのではなく、会社としてのルールや期待値として言語化することが不可欠です。この視点を持つことで、次に整理すべき「挨拶は労働契約上の義務と言えるのか」という問題にも、冷静に向き合うことができます。
3. 挨拶は労働契約上の義務と言えるのか
挨拶ができない社員への対応を検討する際、会社経営者として一度は整理しておくべきなのが、挨拶は労働契約上の義務と言えるのかという点です。この整理が曖昧なままでは、注意や指導の根拠が弱くなり、対応に迷いが生じます。
結論から言えば、挨拶そのものが、直ちに法律で明確に定められた義務というわけではありません。しかし、だからといって、会社が社員に挨拶を求めることができないわけではありません。挨拶は、業務を円滑に進めるための基本的な行動であり、職場秩序を維持するための行為として、労務管理の対象になり得るものです。
労働契約では、社員は業務命令に従う義務を負います。そして、業務命令には、直接的な作業指示だけでなく、業務遂行に必要な行動や態度に関する指示も含まれます。挨拶が、社内の円滑なコミュニケーションや対外的な信用維持に必要である以上、会社が一定の範囲で挨拶を求めることには合理性があります。
特に、来客対応や顧客対応を伴う職場では、挨拶は業務の一部として評価されやすくなります。この場合、「挨拶ができない」という問題は、単なる私的な性格の問題ではなく、業務遂行上の問題として整理される余地があります。
一方で、注意すべきなのは、「挨拶は義務だから従え」と一方的に押し付ける姿勢です。会社として挨拶を求めるのであれば、どの場面で、どの程度の挨拶を求めているのかを明確にしなければなりません。基準が曖昧なままでは、「できていない」と評価すること自体が難しくなります。
また、労働契約上の義務として扱うためには、就業規則や社内ルールとの整合性も重要です。挨拶に関する考え方が全く示されていない状態で、突然強く注意をすると、「聞いていなかった」「そんなルールは知らなかった」という反発を招くことがあります。これは、会社側にとってもリスクのある対応です。
会社経営者として重要なのは、「挨拶は人として当然だ」という感覚論ではなく、業務運営上、どのような意味を持つ行動なのかという整理を行うことです。この整理ができていれば、注意や指導も感情論ではなく、業務上の必要性に基づいたものとして説明できます。
挨拶を労働契約上の義務として位置づけるかどうかは、会社の業種や業務内容によっても異なります。しかし、少なくとも「求めるのであれば、その根拠と基準を示す必要がある」という点は共通しています。この前提を押さえたうえで、次に考えるべきなのが、顧客対応と社内での挨拶をどう区別して考えるかという問題です。
4. 顧客対応における挨拶と社内での挨拶の違い
挨拶の問題を整理する際、会社経営者として切り分けて考えるべきなのが、顧客対応における挨拶と、社内での挨拶の違いです。この二つを混同したまま指導を行うと、対応が過剰になったり、逆に甘くなったりする原因になります。
顧客対応における挨拶は、会社の外部評価や信用に直結します。来客時や取引先とのやり取りで挨拶ができない場合、「社員教育が行き届いていない」「この会社は大丈夫だろうか」という印象を与えかねません。この場面では、挨拶はマナーの問題にとどまらず、業務上の必要行為として評価されやすくなります。
そのため、顧客対応を含む職務において挨拶ができない場合は、業務遂行上の問題として指導や評価の対象にしやすいと言えます。特に、営業職や受付対応、現場で顧客と接する業務では、挨拶は業務の一部として位置づけやすく、会社として求める合理性も明確です。
一方で、社内での挨拶については、顧客対応ほど明確に業務と結びつかない場面もあります。たとえば、すれ違いざまの軽い挨拶や、始業時・終業時の声かけなどは、職場の雰囲気や円滑なコミュニケーションを目的とする要素が強くなります。そのため、顧客対応と同じ水準で厳格に扱うと、「過剰な干渉」「人格への介入」と受け取られるリスクもあります。
会社経営者として重要なのは、すべての挨拶を同じレベルで求めないことです。どの場面の挨拶が業務上必須で、どの場面は職場環境を整えるための行動なのかを整理し、それぞれに応じた対応を取る必要があります。
この整理ができていないと、「顧客の前では問題になるが、社内では放置される」「人によって注意されたりされなかったりする」といった対応のばらつきが生じます。その結果、社員は「結局、会社として何を求めているのか分からない」と感じ、挨拶の定着は難しくなります。
挨拶を巡る問題は、厳しさの問題ではなく、整理の問題です。顧客対応における挨拶と、社内での挨拶を区別して考えることで、指導の根拠や説明も明確になり、無用な反発や誤解を避けることができます。
この区別を踏まえたうえで、次に考えるべきなのが、「挨拶を求めるなら、会社としてどのように指示し、ルール化すべきか」という問題です。
5. 挨拶を求めるなら指示とルールを明確にする
挨拶ができない社員の問題に対して、会社経営者として取るべき実務的な対応は、「もっとちゃんと挨拶しろ」と感情的に注意することではありません。挨拶を求めるのであれば、その内容を指示とルールとして明確にすることが不可欠です。
実務上よくある失敗は、「挨拶は当たり前」「言わなくても分かるだろう」という前提で、具体的な指示を出していないケースです。この状態では、社員ごとに挨拶の基準が異なり、「自分なりにはやっている」「そこまで求められているとは思わなかった」という認識のズレが生じます。その結果、注意しても改善につながりません。
会社経営者として重要なのは、「どの場面で」「誰に対して」「どの程度の挨拶を求めるのか」を整理することです。たとえば、来客時や取引先とすれ違う場面では必ず声を出して挨拶する、社内では始業時と退勤時には挨拶をする、といったように、求める行動を具体化する必要があります。
また、指示は一度伝えれば足りるというものではありません。特に、これまで曖昧に運用されてきた場合、「会社として今後はこうする」という形で、改めて周知することが重要です。口頭だけでなく、社内文書やミーティングの場で共有することで、「知らなかった」「聞いていない」という反論を防ぐことができます。
ルールを明確にする際に注意すべきなのは、過度に細かくしすぎないことです。挨拶はあくまで業務を円滑に進めるための手段であり、形式を守ること自体が目的ではありません。細かすぎるルールは、現場に負担をかけ、反発を招くおそれがあります。最低限、会社として譲れないラインを示すことがポイントです。
指示やルールが明確になっていれば、注意や指導も感情論ではなくなります。「あなたの態度が気に入らない」ではなく、「会社のルールとして定めている行動ができていない」という整理が可能になります。これは、社員にとっても受け入れやすい指導につながります。
挨拶の問題は、社員の性格を変える話ではありません。会社として求める行動を明確にし、それを業務の一部として管理するかどうかの問題です。この視点を持たなければ、注意と放置を繰り返すだけで、根本的な改善は期待できません。
指示とルールを明確にしたうえで、次に検討すべきなのが、より実務的な対応としての「マニュアル化・ルール化」という方法です。
6. マニュアル化・ルール化という現実的な方法
挨拶ができない社員の問題に対して、注意や指導を繰り返しても改善が見られない場合、会社経営者として検討すべきなのが、挨拶をマニュアル化・ルール化するという現実的な対応です。感覚や雰囲気に任せた対応には限界があります。
挨拶は「気づいた人がやるもの」「自然に身につくもの」と考えられがちですが、職場によって求められる水準は大きく異なります。そのため、暗黙の了解に依存していると、「自分はやっているつもりだった」「そこまで求められているとは思わなかった」という認識のズレが生じます。マニュアル化は、このズレを埋めるための手段です。
マニュアルといっても、大げさなものを作る必要はありません。たとえば、「来客時は必ず立ち止まって挨拶する」「始業時・終業時は周囲に挨拶する」といったように、具体的な行動を簡潔に示すだけでも十分です。ポイントは、「何をすれば合格なのか」を明確にすることです。
また、マニュアル化には、指導を属人化させない効果もあります。上司によって注意されたりされなかったりする状態は、社員に不公平感を与えます。ルールとして明文化されていれば、「誰が言うか」ではなく「会社としてどう定めているか」が基準になります。これは、不要な対立を防ぐうえでも有効です。
会社経営者として注意すべきなのは、マニュアルを作って終わりにしてしまうことです。周知されていなければ意味がなく、運用されなければ形骸化します。導入時には、なぜ挨拶をルール化するのか、業務上どのような意味があるのかを説明し、納得感を持たせることが重要です。
さらに、マニュアル化は懲戒や評価のための道具ではなく、あくまで行動基準を共有するためのものだという位置づけを明確にする必要があります。この点を誤ると、「監視されている」「管理が厳しくなった」という反発を招きかねません。
挨拶をマニュアル化・ルール化することは、社員の人格を縛ることではありません。職場で最低限求められる行動を整理し、誰でも分かる形にすることです。この整理ができていれば、次に述べる「経営者や管理職が手本を示す」という対応も、より効果的に機能します。
7. 経営者・管理職が手本を示すことの重要性
挨拶をルール化し、マニュアルを整備しても、現場で実際に守られなければ意味がありません。その成否を大きく左右するのが、経営者や管理職自身が挨拶を実践しているかどうかです。この点を軽視すると、どれだけ立派なルールを作っても形骸化します。
社員は、会社の方針よりも、日々目にする上司や経営者の行動を見ています。経営者や管理職が挨拶をしない、返事が曖昧、忙しさを理由に無視する、といった態度を取っていれば、「挨拶は重要ではない」「やらなくても問題ない」というメッセージとして受け取られます。これは、どんな説明よりも強い影響を持ちます。
会社経営者として注意すべきなのは、「自分は立場が違うから」「忙しいから仕方ない」という意識です。立場が上であるほど、その行動は職場全体の基準になります。経営者や管理職が挨拶を省略している職場で、社員だけに挨拶を求めることは、実務上も説得力を欠きます。
また、管理職によって挨拶の姿勢に差がある場合も問題です。ある部署では挨拶が徹底され、別の部署ではほとんど行われていない。この状態では、「結局は上司次第だ」という認識が広がり、会社としてのルールは定着しません。挨拶を行動基準として定めるのであれば、管理職全体で足並みをそろえる必要があります。
ここで重要なのは、完璧な挨拶を求めることではありません。形式や声の大きさにこだわるよりも、「相手を認識し、最低限の声かけをする」という姿勢を示すことが大切です。経営者や管理職が自然に挨拶をしていれば、それ自体が最も分かりやすい教育になります。
挨拶ができない社員の中には、「周囲がやっていないから」「誰も言わないから」という理由で行動を改めない人もいます。この場合、注意や指導を強める前に、上に立つ人間の行動が整っているかを確認することが先決です。ここが崩れていると、どんな指導も効果を持ちません。
挨拶の問題は、社員教育の問題であると同時に、経営者自身の姿勢が問われる問題でもあります。自ら手本を示すことで初めて、「会社として本気で求めている行動」が社員に伝わります。
この前提を整えたうえで、次に検討すべきなのが、「挨拶しない理由」をどう切り分けるかという問題です。すべてを反抗や問題行動と決めつけるのは、適切な対応とは言えません。
8. 挨拶しない理由は「反抗」より「習慣・意識不足」が多い
挨拶ができない社員を見ると、「注意されても直らない」「言うことを聞かない」と感じ、反抗的な態度だと受け止めてしまう会社経営者も少なくありません。しかし実務上、挨拶しない理由の多くは反抗ではなく、習慣や意識の問題であることがほとんどです。
特に近年は、家庭環境や学校生活の中で、挨拶を強く求められる経験が少ないまま社会に出てくる人も増えています。そのため、本人に悪意はなく、「気づいていない」「そこまで重要だと思っていない」という状態で、挨拶を省略しているケースが多く見られます。
また、業務に集中しているときや、職場の雰囲気に慣れていない段階では、挨拶そのものが心理的な負担になる社員もいます。声を出すことに抵抗がある、人と目を合わせるのが苦手、といった特性が影響している場合もあり、これを一律に反抗と評価するのは適切ではありません。
会社経営者として注意すべきなのは、挨拶しない行動をすぐに「態度が悪い」「やる気がない」と評価してしまうことです。この評価を前提に対応すると、注意や指導が感情的になりやすく、本人はますます萎縮したり、職場から距離を取るようになります。結果として、改善どころか関係性が悪化するおそれがあります。
実務上は、まず「なぜできていないのか」を冷静に切り分けることが重要です。挨拶の基準を理解していないのか、習慣として身についていないのか、心理的な抵抗があるのか。この整理を行わずに処分や強い注意を行うと、会社側の対応が過剰と評価されるリスクもあります。
習慣や意識の問題であれば、繰り返しの声かけや具体的な指示によって改善する余地は十分にあります。「ここではこうしてほしい」「この場面では必ず声をかけてほしい」と、行動レベルで伝えることで、本人の認識は少しずつ変わっていきます。
挨拶の問題は、本人の内面を変える話ではありません。職場で求められる行動をどう身につけさせるかという、管理と育成の問題です。反抗と決めつける前に、習慣・意識の問題として対応できる余地がないかを検討することが、会社経営者としての現実的な判断と言えるでしょう。
この切り分けを行ったうえで、なお改善が見られない場合には、次に検討すべきなのが「繰り返し注意・指導する際の実務上のポイント」です。
9. 繰り返し注意・指導する際の実務上のポイント
挨拶の基準を示し、ルール化やマニュアル化を行い、習慣や意識の問題としての対応も試みたにもかかわらず、なお挨拶が改善しない社員がいる場合、会社経営者としては注意・指導の進め方そのものを慎重に整理する必要があります。ここを誤ると、問題は改善しないどころか、トラブルに発展するリスクが高まります。
まず重要なのは、注意や指導を感情ではなく事実に基づいて行うことです。「感じが悪い」「態度が気に入らない」といった主観的な表現ではなく、「○月○日、来客があった際に挨拶がなかった」「始業時の挨拶を会社ルールとして定めているが守られていない」といった具体的な行動を指摘することが不可欠です。
次に、指導の内容をその場限りにしないことも重要です。口頭で注意しただけでは、「言われた・言われていない」「そんなに重要だとは思わなかった」という認識のズレが生じやすくなります。繰り返しの注意が必要な段階では、面談の記録や簡単なメモを残すなど、後から経緯を確認できる形にしておくことが望ましいと言えます。
また、注意や指導は段階的に行う必要があります。いきなり強い言葉で叱責したり、処分を示唆したりすると、社員は防御的になり、改善意欲を失いやすくなります。まずは行動の是正を求め、それでも改善が見られない場合に、評価への影響や今後の対応について説明する、という順序を踏むことが重要です。
会社経営者として注意すべきなのは、「何度言っても直らない」という苛立ちから、人格や性格に踏み込んだ指導をしてしまうことです。「社会人としておかしい」「常識がない」といった表現は、問題行動の是正ではなく、個人攻撃と受け取られる可能性があります。指導の目的はあくまで特定の行動を改善させることであり、人を否定することではありません。
さらに、同様の行動に対して、社員ごとに対応が異なることも避けるべきです。ある社員は注意され、別の社員は見逃されている状態では、公平性を欠き、指導の正当性が揺らぎます。挨拶をルールとして求めるのであれば、誰に対しても同じ基準で対応する姿勢が求められます。
繰り返し注意・指導を行う段階では、「改善の機会を与えている」という事実を積み重ねることが重要になります。これは、本人のためでもあり、会社を守るためでもあります。適切な手順を踏んでいれば、後になって対応の正当性を説明しやすくなります。
このように段階的かつ冷静な指導を行っても改善が見られない場合、次に検討すべきなのが、懲戒処分を検討する前に確認すべき点や、配置の問題として整理できないかという視点です。
10. 懲戒処分を検討する前に必ず確認すべきこと
挨拶ができない社員に対して、繰り返し注意や指導を行っても改善が見られない場合、「懲戒処分を検討すべきではないか」と考える会社経営者もいるでしょう。しかし、この段階でいきなり処分に踏み切ることは、実務上も法的にもリスクが高い判断になりやすいため、慎重な整理が必要です。
まず確認すべきなのは、会社として挨拶を明確に求めていたかという点です。挨拶に関する指示やルールが曖昧なまま、あるいは口頭注意だけで運用されていた場合、「挨拶をしないことが処分対象になる」という認識が社員側に十分に共有されていない可能性があります。この状態で懲戒処分を行うと、過剰な対応と評価されるおそれがあります。
次に重要なのは、これまでの指導の経緯です。いつ、どのような注意を行い、どのような改善機会を与えてきたのか。感情的な叱責ではなく、具体的な行動に基づいた指導が段階的に行われていたか。この点が整理されていなければ、「突然厳しくなった」「いきなり処分された」という反発を招きやすくなります。
また、挨拶をしないことによって、実際にどのような業務上の支障が生じているのかも確認が必要です。顧客対応に支障が出ているのか、職場の秩序や業務遂行に具体的な悪影響が出ているのか。単に「印象が悪い」という理由だけでは、懲戒処分の正当性を説明することは難しくなります。
会社経営者として特に注意すべきなのは、「態度が気に入らない」「言うことを聞かない」といった感情を理由に処分を検討してしまうことです。懲戒処分は、行動に対する制裁であって、人格や性格を矯正するための手段ではありません。この線引きを誤ると、トラブルに発展するリスクが高まります。
さらに、他の社員とのバランスも確認すべきポイントです。同様に挨拶が不十分な社員がいるにもかかわらず、特定の社員だけを処分対象にする場合、公平性を欠く対応と評価される可能性があります。ルールを適用するのであれば、誰に対しても同じ基準である必要があります。
実務上は、懲戒処分を検討する前に、配置の見直しや業務内容の調整といった選択肢を検討することも重要です。挨拶が重要な業務に向いていない可能性がある場合、処分ではなく配置転換によって問題が解消するケースもあります。
挨拶ができない社員への対応は、感情的になりやすいテーマだからこそ、処分ありきで考えないことが重要です。会社としてのルール、指導の経緯、業務への影響を冷静に整理したうえで、最終手段として懲戒処分を検討する。この順序を守ることが、会社経営者にとって最も安全で合理的な対応と言えるでしょう。
11. 適性の問題として配置転換を検討すべきケース
挨拶ができない社員について、指示やルールを明確にし、繰り返し注意や指導を行っても改善が見られない場合、会社経営者として最後に検討すべき視点の一つが、適性の問題として配置転換を考えることです。これは逃げでも甘やかしでもなく、現実的な経営判断です。
挨拶は、業務内容によって重要度が大きく異なります。顧客対応や社内外の調整が多い業務では、挨拶や基本的なコミュニケーションが欠けること自体が業務遂行上の支障になります。一方で、対人対応が限定的な業務や、個人作業が中心の業務であれば、挨拶の重要度は相対的に下がる場合もあります。
会社経営者として注意すべきなのは、「挨拶ができない=問題社員」と短絡的に評価してしまうことです。挨拶が苦手であっても、別の分野で高い能力を発揮できる社員もいます。その可能性を検討せず、指導や処分だけを重ねると、結果として人材を失うことになりかねません。
配置転換を検討すべきケースとしては、挨拶を含む対人対応が業務の中核を占めており、かつ、本人の特性としてその対応が著しく負担になっている場合が挙げられます。このような場合、同じ指導を続けても改善は期待しにくく、業務と本人の適性が合っていないと整理する方が合理的です。
もちろん、配置転換は万能な解決策ではありません。業務上の必要性や人員体制との兼ね合いもありますし、本人の同意や説明も重要になります。しかし、「この仕事で挨拶ができないこと」を問題にし続けるよりも、「この社員にどの仕事を任せるのが最も合理的か」という視点に切り替えることで、職場全体の安定につながるケースは少なくありません。
会社経営者として重要なのは、配置転換を「問題からの逃避」ではなく、組織全体の最適化の一環として位置づけることです。挨拶ができない社員を無理に矯正し続けるよりも、役割を見直すことで、他の社員の不満やストレスを軽減できる場合もあります。
挨拶ができない社員への対応は、注意・指導・処分という直線的な発想だけでは不十分です。適性を踏まえた配置の見直しという選択肢を持つことで、会社としての対応の幅が広がり、不要な対立や離職を防ぐことができます。
最終的に、挨拶の問題をどう扱うかは、会社がどのような組織でありたいのかという経営判断に帰着します。人を排除するのではなく、活かすためにどう設計するか。この視点を持って向き合うことが、会社経営者にとって最も実務的な解決策と言えるでしょう。

