問題社員70 担当業務の変更に応じない。

動画解説

 

1. 担当業務の変更に応じない社員が増えている背景

 担当業務の変更を打診したところ、社員から強く拒否された、あるいは露骨に不満を示されたという相談は、近年、会社経営者から非常に多く寄せられています。人手不足が深刻化する中で、業務の組み替えや役割変更は避けられないにもかかわらず、社員が柔軟に応じなくなっていると感じている経営者は少なくありません。

 この背景には、単なるわがままや反抗心だけでなく、労働環境や働き方の変化があります。社員側の意識として、「採用時に聞いていた仕事内容と違う」「それは自分の仕事ではない」という考え方が以前よりも強くなっています。特に、職務内容を重視する採用や転職が一般化したことで、担当業務に対する境界意識が明確になっている傾向があります。

 また、過去に業務変更によって不利益を被った経験がある社員ほど、変更に対して慎重になります。業務量が増えただけで評価や処遇は変わらなかった、責任だけが重くなった、といった記憶があると、「また同じことになるのではないか」という不信感が先に立ちます。この不信感が、業務変更そのものへの拒否反応につながるケースもあります。

 会社経営者として注意すべきなのは、こうした背景を理解しないまま、「会社の命令なのだから従うのが当然だ」と対応してしまうことです。確かに、会社には一定の業務命令権がありますが、現実には、命令すれば円滑に業務が回る時代ではなくなっているのが実情です。形式的には命じられても、意欲を失った状態では、期待する成果は得られません。

 さらに、担当業務の変更を巡る問題は、一人の社員だけの問題にとどまりません。特定の変更をきっかけに職場の不満が広がったり、「次は自分かもしれない」という不安が蔓延したりすることもあります。このような状況では、組織全体の士気や生産性にも影響が及びます。

 担当業務の変更に応じない社員が増えているという現象は、単なる個人の問題ではなく、人手不足下での組織運営の難しさが表面化しているサインでもあります。このサインをどう受け止め、どう対応するかが、経営判断として問われています。

2. 人手不足でも「命令すればいい」で解決しない理由

 担当業務の変更に社員が応じない場面に直面すると、「人手不足なのだから、会社の命令としてやらせるしかない」と考える会社経営者も少なくありません。確かに、会社には業務命令権があり、形式的には命令によって業務変更を行うことは可能です。しかし、実務上は「命令すれば解決する」という発想が通用しにくくなっているのが現実です。

 まず押さえておくべきなのは、業務命令は「出せば終わり」ではないという点です。命令によって一時的に業務を担当させることができたとしても、本人が強い不満や不信感を抱いたままでは、業務の質や効率は大きく低下します。形だけ従っている状態では、戦力として期待する成果は得られません。

 また、「命令だから従え」という対応は、本人だけでなく、周囲の社員にも影響を与えます。「納得しなくてもやらされる」「断る余地はない」という空気が広がると、職場全体の士気が下がり、将来的な離職リスクを高めることにもつながります。人手不足を理由に強硬な対応を取った結果、さらに人が減るという悪循環に陥るケースも珍しくありません。

 会社経営者として注意すべきなのは、「法的に可能か」と「経営として合理的か」を混同してしまうことです。業務命令として成立するかどうかと、それが組織運営として適切かどうかは別の問題です。形式的に命令が通っても、現場が疲弊し、対立が深まれば、経営上の損失は大きくなります。

 さらに、業務変更に対する拒否が強い社員ほど、「なぜ自分がやらなければならないのか」「今後どうなるのか」という説明が不足しているケースが多く見られます。この状態で命令を出すと、「説明もなく一方的に押し付けられた」という認識が残り、後々までしこりが残ります。

3. 担当業務の変更は法的にどこまで命じられるのか

 担当業務の変更に社員が応じない場合、会社経営者として気になるのが、「これは業務命令として命じられるのか」「拒否されたら違法になるのではないか」という点です。この問題を整理するには、法的に可能かどうかと実務的に妥当かどうかを分けて考える必要があります。

 一般論として、会社には業務命令権があり、労働契約の範囲内であれば、担当業務の変更を命じることは可能です。ただし、その前提となるのは、雇用契約や就業規則において、業務内容が一定程度幅をもって定められていることです。採用時に「特定の業務に限定する」と明確に合意している場合には、変更の自由度は小さくなります。

 また、業務命令が有効と評価されるためには、業務上の必要性があることが重要です。人手不足への対応、業務量の偏りの正、事業運営上の合理的な理由があるかどうかが問われます。単に「忙しいから」「言うことを聞かせたいから」といった理由では、正当性は弱くなります。

 さらに見落とされがちなのが、業務変更によって社員に生じる不利益の程度です。業務内容が大きく変わることにより、専門性が失われる、過度な負担が生じる、将来のキャリアに悪影響が出るといった事情がある場合、命令としての妥当性は慎重に判断されます。形式的には命じられても、実務上は紛争の火種になりやすい領域です。

4. 配転命令があっても「戦力にならない」現実

 担当業務の変更について、法的には業務命令として成立し得る場合であっても、会社経営者として直視しなければならないのが、命令したからといって、その社員が戦力になるとは限らないという現実です。この点を軽視すると、業務変更そのものが失敗に終わります。

 実務上よく見られるのが、「とりあえず人が足りない部署に回す」という発想です。形式的には配転命令を出し、席も仕事も変えたものの、本人は不満を抱えたままで、業務に積極的に関わろうとしない。結果として、周囲がフォローに追われ、かえって現場の負担が増える、というケースは珍しくありません。

 特に問題なのは、本人が業務変更に納得していない場合です。命令に従っているだけで、主体性を持って動かない状態では、業務の質は上がりません。ミスが増えたり、周囲とのコミュニケーションがうまくいかなかったりすることで、「結局、配置換えしない方がよかった」という評価になってしまうこともあります。

5. 発想を「命令」から「説得」に切り替える必要性

 配転命令は、あくまで手段であって目的ではありません。目的は、業務を円滑に回し、会社全体の生産性を維持・向上させることです。そのためには、「法的に命じられるか」ではなく、「実際に機能する配置になるか」という視点が不可欠です。

 この現実を踏まえると、経営者が考えるべきなのは、「命令するか否か」という二択ではありません。発想を切り替え、社員をどう説得し、納得を得たうえで業務変更を進めるかという段階に進む必要があります。

6. 説得で必ず伝えるべき①業務変更の必要性

 担当業務の変更について社員を説得する際、最も重要で、かつ最初に伝えるべきなのが、なぜその業務変更が必要なのかという点です。この説明が曖昧なままでは、どれだけ丁寧に話しても、社員の納得は得られません。

 会社経営者として重要なのは、業務変更の必要性を、会社全体の状況と結びつけて具体的に説明することです。たとえば、どの部署でどの業務が滞っているのか、このままではどのような支障が出るのか、なぜ一時的な対応では足りないのか、といった点を整理して伝える必要があります。

 また、「他の選択肢を検討したうえでの判断である」ということを示すことも重要です。採用を試みたが難しかった、外注では対応できなかった、既存の配置では限界があった。そのうえで業務変更が必要になった、という説明があれば、社員は「安易に決められたわけではない」と受け止めやすくなります。

7. 説得で必ず伝えるべき②変更後の労働条件・将来像

 社員が最も不安に感じているのは、「変更後、自分はどうなるのか」という点です。給与や手当、労働時間や責任の範囲はどうなるのか、一時的な変更なのか恒常的なものなのか。この点を曖昧にしたままでは、社員に安心して協力を求めることはできません。

 また、将来像についての説明も欠かせません。今回の業務変更が、本人のキャリアにとってどのような意味を持つのか。たとえば、「今後の業務幅を広げるための位置づけ」といった見通しを示すことで、社員は単なる負担増ではなく、一定の意味を見出しやすくなります。確定的な約束ができなくても、「現時点での考え」を誠実に伝えることが重要です。

8. 給与・手当を含めた現実的な説得材料の考え方

 社員は、「負担だけが増え、評価や処遇は変わらない」と感じた瞬間に、協力する意欲を失います。業務範囲や責任が明らかに増えるのであれば、手当の支給や評価への反映を検討する余地があります。必ずしも大幅な賃上げである必要はありませんが、「何も変わらない」という状態は、説得材料としては極めて弱いと言えます。

 金銭面と評価・将来像をセットで説明することが、現実的な説得につながります。ただし、安易に「次は昇進させる」といった確約をしてしまうと、後々大きなトラブルに発展するおそれがあるため、表現には細心の注意が必要です。

9. 説得の成否を分ける「伝え方」と「場」の重要性

 業務変更という重要なテーマを、忙しい合間に立ち話で伝えたり、周囲に人がいる状態で切り出したりすることは避けるべきです。個別に時間を確保した場で、落ち着いて説明することが基本です。話す場を整えること自体が、「会社として真剣に考えている」というメッセージになります。

 伝え方の順序も、いきなり結論から入るのではなく、現状の課題を共有してから解決策としての業務変更を提示する段階的なアプローチが有効です。また、説得は一度で完結させる必要はありません。「持ち帰って考える時間を取る」といった急がせない姿勢が、結果的に円滑な業務変更につながります。

10. 形式論だけで説明することのリスク

 「就業規則に書いてある」「命令だから」といった形式論による説明は、社員に「軽視された」という印象を与え、内心での反発を招き続けます。法的にはグレーでも、実務的には退職や士気低下という甚大なリスクを負うことになります。

 就業規則や業務命令権は、あくまで最後の裏付けとして位置づけるべきものです。まずは必要性や条件、本人への配慮を説明し、それでも理解が得られない場合の補足として位置づけるのが、実務的に安全な進め方です。

11. 担当業務変更問題を経営課題としてどう整理するか

 担当業務の変更問題は、社員を従わせるかどうかの問題ではありません。会社として、変化にどう向き合い、どう説明し、どう支えるのかという経営姿勢が問われる問題です。

 人手不足の時代だからこそ、業務変更を「力で押し切る」のではなく、「納得を得ながら進める仕組み」を持てるかどうか。採用段階での説明、就業規則の整理、評価制度との連動など、事前の設計に向き合うことが、会社を守る最も確実な方法と言えるでしょう。

 

弁護士 藤田 進太郎
監修者

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 /  「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年2月28日

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