問題社員67 すぐに辞める。
目次
動画解説
1. すぐに辞める社員が増えている現実をどう受け止めるか
すぐに辞める社員が多いという相談は、近年、会社経営者から非常に多く寄せられています。せっかく採用し、時間とコストをかけて教育したにもかかわらず、短期間で退職されてしまう。この状況は、単なる人事上の悩みではなく、経営そのものに直結する深刻な問題です。
人手不足が進む中で、採用活動そのものが難しくなっている業界も少なくありません。そのような状況で、採用と教育を繰り返す負担は、会社にとって極めて重いものになります。経営者としては、「なぜここまで辞めてしまうのか」「どこに問題があるのか」と、強い焦りや疑問を感じるのも無理はありません。
この問題に直面したとき、多くの会社経営者は、まず賃金や労働条件に目を向けがちです。確かに、待遇の改善が一定の効果を持つ場面はあります。しかし、実務上は、条件を改善しても早期退職が止まらないケースが数多く存在します。その場合、会社の負担だけが増え、根本的な解決には至りません。
すぐに辞める社員の問題を正しく受け止めるためには、「本人が根性不足だから」「最近の若者は我慢が足りない」といった感情的な評価から一度距離を置く必要があります。早期退職が繰り返される場合、それは個々の社員の問題ではなく、会社側の体制や環境に共通する原因が存在している可能性が高いからです。
特に重要なのは、「辞めた理由」を表面的に捉えないことです。「人間関係が合わなかった」「仕事がきつかった」といった理由の背後には、管理職や先輩社員の関わり方、業務設計、適性配置といった、経営判断の結果が反映されていることが少なくありません。
会社経営者として求められるのは、「なぜこの会社では、すぐに辞める社員が続くのか」という問いを、経営課題として真正面から捉える姿勢です。偶然や個人の問題として片付けてしまうと、同じことが何度も繰り返されます。
すぐに辞める社員が増えているという現実は、会社のどこかに改善すべき構造的な問題があるというサインでもあります。このサインをどう受け止め、どう分析するかが、その後の対処の成否を大きく左右します。ここを出発点として、次に「賃金や条件だけでは解決しない理由」を整理していく必要があります。
2. 賃金や労働条件を上げても解決しない理由
すぐに辞める社員が続くと、多くの会社経営者が真っ先に考えるのが、賃金や労働条件の問題です。「給料が低いから辞めるのではないか」「条件を良くすれば定着するのではないか」と考えるのは、ごく自然な発想と言えます。
しかし、実務の現場で多くの会社を見てきた立場から言うと、賃金や労働条件を上げても、早期退職が止まらないケースは非常に多いのが現実です。条件改善を行ったにもかかわらず、数か月、あるいは1年も経たないうちに辞めてしまう社員が後を絶たない、という相談は珍しくありません。
その理由は、早期退職の多くが「条件の問題」ではなく、職場での人間関係や仕事の進め方に起因しているからです。賃金や休日は入社前からある程度想定できる要素であり、「知らなかった」「聞いていた話と全く違った」というケースは、実はそれほど多くありません。
一方で、入社後に初めて直面するのが、上司や先輩社員との関係性、指導のされ方、職場の雰囲気です。ここで強いストレスを感じた場合、いくら条件が良くても、「この環境では続けられない」と判断されてしまいます。条件面の不満は我慢できても、人間関係のストレスは我慢しにくい、というのが実情です。
また、賃金や労働条件を上げる対応には、別のリスクもあります。条件を上げることで、問題の本質から目を背けてしまうことです。本来は管理体制や指導方法を見直すべき場面で、条件だけを改善してしまうと、同じ問題が形を変えて繰り返されます。その結果、コストだけが増え、定着率は改善しないという悪循環に陥りかねません。
会社経営者として注意すべきなのは、「条件を上げたのだから、辞めるのは本人の問題だ」と考えてしまうことです。この発想に立つと、職場内で起きている問題が見えなくなり、結果として早期退職が常態化します。条件改善はあくまで一つの手段であって、万能な解決策ではありません。
すぐに辞める社員の問題に向き合う際には、まず「条件の問題なのか、それとも別の要因なのか」を冷静に切り分ける必要があります。多くの場合、真の原因は賃金や休日ではなく、人の関わり方やマネジメントの問題にあります。
この点を見誤らずに整理できるかどうかが、その後の対応の成否を大きく左右します。次に、退職理由として最も影響が大きいとされる「人間関係」の問題について、具体的に見ていく必要があります。
3. 退職理由として最も影響が大きい「人間関係」の問題
すぐに辞める社員の退職理由を確認すると、「人間関係が合わなかった」という説明に行き着くことが非常に多くあります。この理由を聞いて、「どの会社にも多少の人間関係の問題はある」「本人の相性の問題ではないか」と受け止めてしまう会社経営者も少なくありません。
しかし実務上、人間関係の問題は、単なる相性の良し悪しではなく、会社の管理体制や放置の結果として生じているケースが大半です。特定の上司や先輩社員の言動、職場の空気、指導方法などが原因となり、新入社員や若手社員が強いストレスを感じている場合があります。
特に注意すべきなのは、本人が直接「人間関係が原因です」とはっきり言わないケースです。「仕事が合わなかった」「思っていた職場と違った」といった表現の裏に、実際には上司との関係や職場内の雰囲気への不満が隠れていることは珍しくありません。表面的な理由だけを受け取っていると、問題の本質を見誤ります。
人間関係の問題が深刻なのは、社員が相談しにくいテーマであるという点です。業務内容や労働時間と違い、「人が怖い」「雰囲気がつらい」といった感覚的な問題は、声に出しにくく、我慢されがちです。その結果、会社側が気づいたときには、すでに退職という選択しか残っていない状態になっていることもあります。
また、人間関係の問題は、一人の社員だけの問題にとどまりません。同じ上司や先輩のもとで、短期間に複数の社員が辞めている場合、それは偶然ではなく、構造的な問題が存在しているサインと捉えるべきです。それにもかかわらず、「最近の若手は弱い」「続かない」と片付けてしまうと、同じ状況が繰り返されます。
会社経営者として重要なのは、「人間関係の問題は個人の問題だ」と切り離さないことです。職場の人間関係は、経営者が直接作り出しているわけではなくても、放置している限り、経営責任の一部として評価される問題になります。
すぐに辞める社員が続いている場合、人間関係の問題は最優先で点検すべき要素です。この点に目を向けなければ、いくら採用を繰り返しても、同じことが続くだけです。
次に、この人間関係の問題と深く結びついている、管理職や先輩社員のマネジメント能力について整理する必要があります。
4. 管理職・先輩社員のマネジメント能力を軽視してはいけない
すぐに辞める社員が続く会社では、ほぼ例外なく、管理職や先輩社員の関わり方に何らかの問題が潜んでいます。それにもかかわらず、この点を「個人の性格の問題」「忙しいから仕方ない」として軽視してしまうと、早期退職は止まりません。
実務上よく見られるのが、業務はできるが人を育てる意識が乏しい管理職や先輩社員です。自分が若い頃は厳しい環境でも耐えてきた、という成功体験があると、「これくらい普通だ」「甘えるな」という姿勢になりがちです。しかし、その価値観をそのまま押し付けると、新入社員は早い段階で心が折れてしまいます。
特に問題なのは、指導と感情的な叱責の区別ができていないケースです。ミスに対して必要以上に強い言葉を使う、人格を否定するような言動を繰り返す、質問をしづらい雰囲気を作る。このような行為が積み重なると、社員は「この人の下では働けない」と感じ、退職を選択します。
会社経営者として注意すべきなのは、「管理職に任せているから大丈夫だろう」と現場を見なくなることです。管理職や先輩社員のマネジメント能力は、肩書きや年数だけで自動的に身につくものではありません。放置すれば、独自の価値観ややり方が固定化し、問題が表面化しにくくなります。
また、同じ部署・同じ上司のもとで、短期間に複数の社員が辞めている場合、それは偶然ではありません。その状況で「本人たちの忍耐力の問題」と片付けてしまうと、経営者として重要なサインを見逃すことになります。辞める社員が続く場所には、必ず理由があります。
マネジメント能力の問題は、本人に悪意がなくても起こります。忙しさから十分なフォローができていない、教え方が体系化されていない、叱ることと指導することの整理ができていない、といったケースも多く見受けられます。その意味で、これは個人攻撃の問題ではなく、経営としての管理の問題です。
会社経営者として重要なのは、「誰に新人を任せるのか」「どのような関わり方を求めるのか」を明確にし、必要に応じて是正する姿勢を持つことです。管理職や先輩社員の言動をチェックしないままでは、新入社員を守ることはできません。
すぐに辞める社員の問題は、本人の弱さだけで説明できるものではありません。人を預ける側の力量が問われている問題でもあります。この点を直視しなければ、次に述べる「嫌がらせや不適切な指導」の問題にも適切に向き合うことはできません。
5. 嫌がらせ・不適切な指導を放置する経営リスク
すぐに辞める社員が続く会社で、特に深刻な問題となりやすいのが、嫌がらせや不適切な指導が放置されているケースです。経営者としては、「そこまで大げさな話ではない」「本人同士の問題だろう」と受け止めてしまいがちですが、この判断は大きなリスクを伴います。
嫌がらせや不適切な指導は、必ずしも露骨な暴言や行為として表に出るとは限りません。執拗な叱責、他の社員の前での恥をかかせる言動、質問をした際の強い拒絶反応、無視や過度な放置など、日常的な関わり方の積み重ねとして現れることが多くあります。本人に悪意がない場合でも、受け取る側にとっては大きな精神的負担になります。
問題なのは、この種の行為が起きていても、新入社員や若手社員ほど声を上げにくいという点です。「波風を立てたくない」「辞めたいと思われるのが怖い」と感じ、我慢を続けた結果、ある日突然退職を選ぶというケースは少なくありません。会社側が気づいたときには、すでに手遅れになっていることもあります。
会社経営者として特に注意すべきなのは、嫌がらせや不適切な指導を事実上黙認してしまうことです。明確に禁止していなくても、問題が起きているのに対応しない状態が続けば、「この会社では許されている」というメッセージが職場に広がります。その結果、同様の行為が繰り返され、退職者が後を絶たなくなります。
さらに、この問題は単なる人材流出にとどまりません。嫌がらせや不適切な指導を放置していた場合、後にトラブルが表面化すると、会社の管理責任が厳しく問われる可能性があります。早期退職という形で収まっていた問題が、労務トラブルや紛争に発展するリスクも否定できません。
経営者として重要なのは、「厳しい指導」と「不適切な指導」を明確に区別することです。業務上必要な注意や指導まで否定する必要はありませんが、人格を否定する言動や、恐怖や萎縮を生む関わり方は、指導とは言えません。この線引きを曖昧にしたままでは、現場任せの運用になり、問題は改善しません。
嫌がらせや不適切な指導を防ぐためには、「起きたら対処する」では不十分です。経営者自身が、この問題を許容しないという姿勢を明確に示すことが不可欠です。その姿勢がなければ、新入社員を守ることはできず、結果として早期退職は止まりません。
次に考えるべきなのは、こうした環境の中で働く新入社員を、会社としてどう守るのかという視点です。すぐに辞める社員の問題は、放置ではなく、「見殺しにしない」体制を作れるかどうかにかかっています。
6. 新入社員を「見殺しにしない」という経営者の責任
すぐに辞める社員が続く会社では、新入社員が問題のある職場環境に放り込まれたまま、誰にも助けられずに離職しているケースが少なくありません。この状態は、本人の選択というよりも、会社として「見殺しにしてしまっている」状況だと捉える必要があります。
新入社員は、職場の人間関係やルール、暗黙の了解が分からない立場にあります。上司や先輩の言動に違和感を覚えても、「自分が悪いのではないか」「社会人とはこういうものなのか」と思い込み、問題を抱え込んでしまいがちです。その結果、相談できないまま限界を迎え、退職という形でしか状況を変えられなくなります。
会社経営者として注意すべきなのは、「何も言ってこなかったから問題はなかった」と考えてしまうことです。新入社員ほど、声を上げない傾向があります。声が上がらないことと、問題が存在しないことは全く別です。この点を取り違えると、同じことが何度も繰り返されます。
経営者の責任として重要なのは、新入社員が孤立しない仕組みを用意しているかという視点です。直属の上司以外に相談できる窓口があるか、定期的に状況を確認する機会があるか、職場での違和感を言語化できる場が用意されているか。これらがなければ、新入社員は問題を抱え込むしかありません。
また、「現場に任せている」という姿勢も見直す必要があります。現場任せにすること自体が問題なのではなく、チェックやフォローが一切ない状態が問題です。特定の上司や先輩の下で短期間に退職者が続いている場合、それは明らかな警告サインです。経営者がそこに目を向けなければ、新入社員を守ることはできません。
新入社員を守るということは、甘やかすことではありません。理不尽な扱いや不適切な指導から切り離し、必要な支援を行うという意味です。この線引きを誤ると、「厳しくすれば辞める」「弱い社員が多い」という誤った認識に陥ります。
すぐに辞める社員の問題は、採用の失敗だけで説明できるものではありません。入社後にどのような環境を用意しているかが、そのまま結果として表れます。新入社員が安心して働ける最低限の環境を整えることは、経営者の裁量ではなく、経営責任の一部です。
この視点を持たなければ、次に述べる「向いていない仕事」の問題も、本人の資質のせいとして見過ごされてしまいます。
7. 向いていない仕事が早期退職を招く仕組み
すぐに辞める社員が出る背景として、見落とされがちなのが、本人に向いていない仕事を任せてしまっているという問題です。この点を「本人の努力不足」「根性の問題」と整理してしまうと、早期退職は繰り返されます。
入社直後の社員は、仕事の全体像や自分の適性を十分に理解できていません。そのため、「できません」「向いていません」と自ら声を上げることはほとんどなく、与えられた仕事を必死にこなそうとします。しかし、その仕事が本人の特性や能力と大きくズレている場合、結果が出ない状態が続き、強いストレスを抱えることになります。
この状態が続くと、「自分はこの会社では通用しない」「何をやっても怒られる」という感覚が積み重なります。ここに、厳しい指導やフォロー不足が重なると、本人は改善の余地を見出せなくなり、退職という選択に傾いていきます。これは本人の弱さではなく、配置のミスマッチが引き起こす構造的な問題です。
会社経営者として注意すべきなのは、「仕事はやってみなければ分からない」「最初は誰でも大変だ」という考え方を、そのまま放置してしまうことです。確かに、一定の負荷は必要ですが、向き不向きが明らかになってきているにもかかわらず、同じ業務を続けさせることは、成長機会ではなく消耗を強いるだけになります。
また、向いていない仕事を任せ続けると、周囲との関係も悪化しやすくなります。ミスが増え、注意や指摘が多くなり、結果として「人間関係がつらい」「職場に居場所がない」という感覚につながります。ここで退職理由として挙げられるのは人間関係ですが、根本原因は仕事のミスマッチであることも少なくありません。
会社経営者として重要なのは、「この社員は何ができないか」ではなく、「どの仕事であれば力を発揮できる可能性があるか」という視点です。早期にこの見極めを行い、業務内容を調整することで、退職を防げるケースは少なくありません。
向いていない仕事を続けさせることは、会社にとっても損失です。教育コストをかけた人材が短期間で離職するだけでなく、職場全体の雰囲気も悪化します。これは個人の問題ではなく、配置と育成をどう設計するかという経営判断の問題です。
この視点を持たずに対応を続けると、次に述べる「採用と配置の考え方」も表面的なものになってしまいます。すぐに辞める社員を減らすためには、入社後の配置を含めた全体設計を見直す必要があります。
8. 適性を踏まえた採用と配置の考え方
すぐに辞める社員の問題を減らすためには、入社後の対応だけでなく、採用と配置の段階で何を前提にしているかを見直すことが欠かせません。ここを軽視していると、どれだけ現場で努力しても、早期退職は繰り返されます。
まず会社経営者として意識すべきなのは、採用時点で「万能な人材」を求めすぎていないか、という点です。コミュニケーション能力が高く、主体性があり、即戦力で、ストレス耐性もある。こうした理想像を前提に採用を行うと、実際の配属後にギャップが生じやすくなります。そのギャップを現場の努力だけで埋めようとすると、本人も周囲も疲弊します。
実務上よく見られるのが、採用時の評価軸と、配属後に求められる能力が一致していないケースです。面接では真面目さや協調性を評価して採用したにもかかわらず、配属後は強い交渉力やスピード感を求める業務に就かせてしまう。このような配置は、本人にとっても会社にとっても不幸な結果を招きやすくなります。
会社経営者として重要なのは、「採用は入口、配置が結果を決める」という認識です。採用時点で全てを見抜くことはできませんが、入社後の早い段階で、業務の理解度、ストレスのかかり方、周囲との関わり方を観察し、適性に応じた調整を行う余地を残しておくことが重要です。
また、「せっかく採用したのだから、この仕事をやらせるべきだ」という発想にも注意が必要です。配置は、努力や根性を試す場ではありません。向いていない業務に固執することは、成長を促すどころか、早期退職を早める要因になります。これは甘やかしではなく、合理的な経営判断の問題です。
適性を踏まえた配置を行うためには、現場任せにしないことも重要です。直属の上司の評価だけでなく、複数の視点で状況を把握し、「この業務が本当に適しているのか」「別の役割で力を発揮できないか」を検討する姿勢が求められます。ここを怠ると、問題が表に出る前に社員が辞めてしまいます。
すぐに辞める社員の問題は、「採用が悪かった」で終わらせるべきではありません。採用と配置をセットで設計し直すことができれば、同じ人材でも結果は大きく変わります。この視点を持つことが、次に述べる「仕事の難易度や業務設計」の見直しにつながっていきます。
9. 工作の難易度や業務設計を見直すという発想
すぐに辞める社員が続いている場合、会社経営者として一度は立ち止まって考えるべきなのが、仕事そのものの難易度や業務設計が適切かという点です。この視点が欠けていると、どれだけ採用や配置を工夫しても、根本的な改善にはつながりません。
実務上よくあるのが、「以前は問題なく回っていた仕事だから」「これくらいはできて当然だ」という前提で、業務が設計されているケースです。しかし、その仕事を回していたのがベテラン社員であった場合、新入社員や若手社員にとっては、実際の難易度が想定以上に高いことも珍しくありません。
特に注意すべきなのは、業務の全体像が見えないまま、部分的な責任だけを任されている状態です。何のための仕事なのか、どこまで求められているのかが分からないまま成果だけを求められると、社員は常に不安を抱えます。この不安が積み重なると、「何をしても評価されない」「失敗するくらいなら辞めたい」という心理に傾いていきます。
会社経営者として見直すべきなのは、社員個人の能力ではなく、「その仕事を初めて担当する人でも理解できる設計になっているか」という点です。業務の手順が属人化していないか、暗黙のルールに依存していないか、失敗した際のフォロー体制があるか。これらが整理されていない仕事は、早期退職を招きやすくなります。
また、「忙しいから仕方ない」「今は余裕がない」という理由で、難易度の高い業務をそのまま任せてしまうケースもあります。しかし、その結果として社員が辞めてしまえば、さらに人手不足が深刻化し、悪循環に陥ります。短期的な効率を優先した判断が、長期的には大きな損失につながることも少なくありません。
仕事の難易度を見直すということは、仕事を簡単にするという意味ではありません。段階を踏ませる、責任の範囲を明確にする、失敗しても立て直せる設計にするといった工夫を行うことです。これにより、社員は「続けられる」という感覚を持ちやすくなります。
すぐに辞める社員の問題は、本人の覚悟や根性だけで説明できるものではありません。業務設計が現実に合っていなければ、誰が担当しても同じ結果になります。この点を経営課題として捉え、仕事の難易度や設計を見直すことが、早期退職を減らすための重要な一歩になります。
10. すぐに辞める社員問題を経営課題としてどう整理するか
ここまで見てきたとおり、すぐに辞める社員の問題は、単一の原因で説明できるものではありません。賃金や労働条件、人間関係、管理職のマネジメント、業務配置、仕事の設計など、複数の経営判断の積み重ねが結果として表面化している問題です。
にもかかわらず、この問題を「最近の社員は続かない」「採用がうまくいかなかった」と個別事象として処理してしまうと、同じことが繰り返されます。辞めた社員一人ひとりに理由は違って見えても、会社側に共通する構造的な要因が存在しているケースがほとんどです。
会社経営者として重要なのは、「辞めた理由」を追いかけるだけで終わらせないことです。退職理由は、あくまで結果にすぎません。本当に整理すべきなのは、なぜその理由に行き着く環境を作ってしまったのかという点です。ここに目を向けなければ、いくら採用を繰り返しても、定着率は改善しません。
また、「一部の問題社員を除けば問題はない」という整理にも注意が必要です。短期間で辞める社員が一定数出ている場合、それは個人の問題ではなく、経営としての再現性のある問題です。再現性がある以上、経営課題として向き合わなければなりません。
経営課題として整理する際には、「誰が悪いか」ではなく、「どこで歪みが生じているか」という視点が重要です。管理職に任せきりになっていないか、新入社員をフォローする仕組みは機能しているか、向いていない仕事を続けさせていないか。これらを一つずつ点検することで、初めて改善の糸口が見えてきます。
すぐに辞める社員を減らすことは、「甘い会社になる」ことではありません。むしろ、人を定着させるための設計ができている会社ほど、厳しさと合理性を両立させています。理不尽な負荷や放置をなくし、求める役割や責任を明確にすることで、結果として離職は減っていきます。
最後に強調したいのは、早期退職の問題は、時間をかければ自然に解決するものではないという点です。放置すればするほど、採用コストは増え、現場は疲弊し、経営の負担は大きくなります。だからこそ、会社経営者自身がこの問題を経営判断のテーマとして正面から整理し、手を打つことが不可欠です。
すぐに辞める社員の問題は、会社の弱点を示すサインでもあります。このサインを無視するのではなく、経営を見直す材料として活かせるかどうかが、今後の会社の安定と成長を大きく左右すると言えるでしょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年2月28日

